ちょっと先の未来の出来事③ (挿絵有り)
「雪ちゃん、どう?大丈夫〜?」
気になって部屋の中にいる雪ちゃんに声をかけます。
「うん、大丈夫〜。あと少しまっててー。」
「はーい。」
大丈夫とのことで、下に降りてリビングで待つことにします。
雪ちゃんは何をしてるかって?
雪ちゃんは今、着慣れない制服に着替えてる最中なんだ。
雪ちゃんを産んで早、12年。直ぐに13歳になっちゃうけど、もう中学生なっちゃたんだよね。
ほんと、早いよね···月日が経つのは。
昔、私が小学生ぐらいの時かな?
お爺ちゃんやお婆ちゃんが年をとると月日が経つのが早く感じるとか、1年があっという間だよ、なんて言ってるのを聞いたことあるんだけど、本当にそうなんだと実感してる。
小学生の時は学校の時間が長く感じたし、雪ちゃん産んだ時も毎日が長く感じた。だからって嫌な長くじゃなくて、充実した長さだったけどね。
でもそんな雪ちゃんも段々と手が掛からなくなってきて、私も学校や仕事に行くようになってくると1日があっという間。
あの時、お爺ちゃん達が言ってたのが本当だったんだと改めて感じさせてくれるよ。
月日の経過で話すと、私と雪ちゃんの部屋を分けたんだよね。
まぁこれは元々分けるつもりだったけど、今まで一緒に使ってた広い部屋を雪ちゃんに譲って、私は少し狭いし部屋に移動。
雪ちゃんは今後お友達を呼んだりするかもしれないから、広いほうが良いだろうし、私は狭くても基本寝るだけだからね。
あ、多少は仕事の残りもやったりはするか···。
それに、分けるついでにプチリホームして壁紙を張り替えたりカーテンやライトなんかも新調してあげたの。
筑20年も過ぎてれば寝室だから汚れはあまりなくても、傷んではいたからね。
ベットも雪ちゃんに好みの物を選んでもらい、私は以前のベットをそのまま再利用です。
でも分けたからって直ぐに変わる訳でもなく、まだ一緒に寝てるんだ。
それでもよくて多分あと1年とかそのくらいかな?
もう一緒に寝れなくなるのかなと思うと非常に悲しくなるんだけどね······。
リビングでお母さんと待つこと暫くして、上からトントントンと階段を降りてくる足音がします。
「お!やっと来たわね」とお母さん。
キィっと音がして、雪ちゃんがリビングの扉を開けて頭だけを覗かせて、
「入っていいかな?」
なんて、ちょっと照れたような顔をして言ってきました。
扉からひょこっと顔だけ覗かせてるのも、それはそれで可愛いくて、そんな様子もなかなか見ることもないレアな姿ではあるんだけどね。
「いいよ。おいで〜」
と、気持ちを切り替えて雪ちゃんをリビングへ招き入れます。
そして、恥ずかしそうに照れながら入ってくる雪ちゃん。
思わずお母さんと一緒に、
「「可愛いーー♡」」
と言ってしまいました。
だって本当に可愛いんだもの。
赤い色の大きいリボンに襟元や袖本、スカートは紺色でいわゆる典型的なセーラー服というものだね。
で、これがまた髪の長い雪ちゃんと大変似合ってるときたもので···。
「雪ちゃん、似合ってるよ!可愛い!!」と、私。
「ほんと、雪ちゃん可愛いわ〜♪」とお母さん。
「ママ、ほんと?」
「本当だよ。とっても似合ってるし、素敵だよ♪男の子にモテそうだね。」
「え〜〜!?それはヤだなぁ〜」
ヤだなぁ、なんて言ってるけど満更でもない様子。やっぱり女の子だね。
そんな様子を見てたお母さんが、
「雪ちゃんの制服姿、やっぱりこのはにそっくりねー。」と言ってきました。
「ママに似てるの?お婆ちゃん?」
「うん、そっくりよ〜。あ、ちょっと待っててね。」
そう言い残して、パタパタと部屋に行くお母さん。
そして、そんなに時間をかけずに戻ってきて、
「ほら、これ見て見て。」
そう言って見せてきたのは、私が中学入学の時に公園で撮った写真。
そこに写ってるのは髪の長さだけが違う私でした。
そう、なんと雪ちゃんは私と同じ中学校に入学したのです。
というか、そこしか選択肢がないと言った方が正しいのかな?
中学校は住んでいる地域でこの中学校って基本決まってて、私達の家からはここの公立中学校になるんだよね。
まぁ、私立中学校も選択肢としてなくはないけど近隣だとないんだよねぇ···。
逆に高校はそれなりに数もあって、バス送迎とかを出してる学校も多いから高校に関しては選択肢が大きいんだけどね···。
「わぁ!ママ可愛い〜」
「うわっ、懐かしいなぁ」
各々の第一印象を声に出す私達。そんな私達にお母さんが、
「ほら、ちゃんと見てみなさい。雪ちゃん、このはにそっくりだから。」
「確かにそっくりだね。分かっていた事だけども、こう一緒の制服を着ると余計に、だね。」
雪ちゃんの遺伝の事と日々の成長を見てて、そっくりなのは分かってはいたけれど、それでもこうして同じ格好をして比較するとなるとやっぱりってなるね。
「ママってこの頃は髪の毛短かったんだね?」
「そうだよ。雪ちゃんを妊娠してから伸ばし始めたからね。」
「そうなんだ。でも、ママと同じで嬉しいな♪······ママはさ、この後いつ頃私を妊娠したの?」
雪ちゃんが変わった質問をしてきたね。
どうしたのかな?
「ん〜と、1年生の9月頃かな。だからこの写真の5ヶ月後くらいだよ?どうかした?」
私の写真を手にとり、じっ〜〜と見つめてる雪ちゃん。
暫くの沈黙のあとに、
「ママは私を妊娠したせいで、そのあとの学校を行けなかったんだよね。辛くなかった??ゴメンね、ママ···」
「雪ちゃん······」
今にも泣きそうな雪ちゃんをギュッと抱きしめて、私は優しく語ります。
「雪ちゃん、ゴメンね、なんて言わないで。確かに妊娠して辛かった事も大変だった事も沢山出来たけど、ママは嬉しかったし幸せだったよ。お腹の中の雪ちゃんと一緒に生きていきたいって思ったし、事後にはなるけど、奇跡を起こして私に会いに来てくれた雪ちゃんが堪らなく愛しかったから······。」
「だから当時、学校を休むことになって大変だったけど、とーーーっても幸せだったし、今もとっても幸せ。
だからね雪ちゃん。ゴメンねなんて言わないで。思わないで。ママの方こそ、私に会いに来てくれてありがとう!っていつも思ってるんだからね。」
「ママ···」
ギュッとしたまま、雪ちゃんの背中を優しくポンポンと。
「ほらほら。あまり泣いちゃうと可愛いお顔と制服が台無しになっちゃうよ?笑顔笑顔。ね?」
「うん」
まさか、私の写真を見て泣いちゃうとは思わなかったな。
妊娠した当時の私と同じ年齢になって、もし自分がここで妊娠したら···なんて考えたら、それが逆に私への罪悪感とかになったのかしら?
お母さんが私と雪ちゃんは性格が似てるとも言ってたし、私もそうだと思ってるから多分そうかな?とは思う。
それに雪ちゃんも、優しい性格だからね。
原因は分からなくても自分を宿らせてしまって、そのせいで私の青春を、あったかも知れない未来を奪ってしまった事への罪悪感的な物をきっと前々から抱いてたんだろうな。
それが、写真を見て出てきちゃったと······。
「落ち着いた?」
「うん。もう大丈夫。ありがとう、ママ。」
一先ずは大丈夫そうかな。
「ねぇ、お婆ちゃん。」
「なーに?雪ちゃん?」
雪ちゃんがお母さんにって、なんだろ?
珍しい···。
「この、ママの写真貰ってもいいかな?」
「え?これ?」
「うん。ダメかな??」
え?雪ちゃん···。私の中学の写真を貰ってどうするの??
もしかして···飾る?まさか〜······
「ダメな訳ないじゃない!あげるわよ。あ、でも、その古いのじゃなくて、新しく印刷してあげる。データはあるからね。ついでに他のもいる?沢山あるから後で見せてあげるから、好きなのを持っていきなさい。」
「うん!ありがとーお婆ちゃん!!」
「ちょっ······おかーさん、何言ってるのよ〜」
「いいのよ、このは。ここは私に任せなさい!」
「もぅ〜〜」
ったく、お母さんったら。でもお母さんの事だから、さっきの私と雪ちゃんのやりとりで思う所があったんだろうね。
私も沢山お母さんに助けて貰ったから、そういう所は信頼してるし頼りにもしている。
それと同時にまだまだお母さんには敵わないなって思うよ。
母は偉大なり。
本当にその通りだね。
「クスッ。 焦ってるママ、久々に見たね。」
雪ちゃんも笑ってる。も〜···。
「はいはい。このはも膨れない(笑) じゃ、お外行って写真を撮ろっか。お父さんと葵、向こうのお爺ちゃん達にも写真を送ってあげないとね。」
そういう訳で、家の外で写真を撮ります。
荷物もついでに持って行って、先に車に乗せてからね。
「うん、雪ちゃんいい笑顔だね♪」
澄んだ青空に朝日の眩しい輝き。
そんな景色を背景にパシャパシャと写真を撮ります。
家の前だからそんなにあれこれは撮れないけど、撮った後はみんなに送ります。
さて、どんな反応が返ってくるかな?
楽しみです。
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その後は学校へ行って入学式を滞りなく行い、無事に本日の予定も終わりました。
そして、その帰りの車の中で私は雪ちゃんにあるお願いをしてみることにしました。
「雪ちゃん、ちょっと公園に寄り道してもいいかな?」
「公園?」
「うん。ちゃんとした場所は忘れちゃったけど、あの私の写真と同じ場所で1枚撮っておきたいなって思ってね。いいかな?」
「うん、いいよ。そうしたらママと一緒だね。」
「ありがとう。雪ちゃん。」
雪ちゃんの許可も無事頂いて、公園に向かいます。
そんなに遠くもない場所にある公園。
程なく着いて場所を探します。
極端に広い公園ではないけれど、それでもどこも似たような景色でイマイチ場所が分からないです。
こんなことなら、あの写真を借りてくればよかったかな??
「景色が同じ過ぎて場所が特定できないから、この辺りでもいいかな?新緑もキレイだしね。」
結局場所がイマイチ分からなかったので、バランス的によさげなところで撮ることにしました。
「うん。いいと思うよ。···可愛くとってね、ママ。」
「大丈夫!雪ちゃんはもう十分に可愛いよ!私の自慢の娘だからね。」
「もう〜、ママったら······」 パシャ!
やった!!
照れたような表情の雪ちゃんを上手く撮れました。
笑顔もいいけど、こういった表情もまたいいんだよね♪
親バカを抜きにしても可愛いと思う、私の娘の雪ちゃん。
これからこの子に、どんな中学生生活が待ってるかな?
大変な事もあるだろうけど、楽しい学校生活が送れるといいね。
ママはいつでも応援してるよ。
がんば!雪ちゃん!!
雪ちゃんは、このはちゃんにそっくり瓜二つです。




