ある日の文化祭①-10 高1(挿絵有り)
2023.10.29 加筆修正しました。
「どの辺りから見ていく?」
お母さんに訪ねます。
私としてはどこでもいいのだけど、先程スタンプを集めて持って来てくれたから、校庭は行ってる筈なんだよね。
「そうねぇ~、さっきのスタンプで外は周ってきたから校舎と体育館かしら?」
「は〜い。じゃあ、校舎見て体育館向かえばいいね。」
今、お母さんと雪ちゃんとで文化祭を見て周っています。
私も教室から見える校庭とトイレまでの間しか見てないので楽しみです。
とりあえず最上階から行こう、という事で階段を登っていきます。
「外もそうだったけど、賑やかでいいわね。」とお母さん。
「そうだね。私もここまでとは思わなかったよ。凄いよねー。」
先生も言ってたけど、本当にみんな張り切ってる。
雪ちゃんも「人がいっぱーい」って言ってるしね。
「中庭ってどうだった?先生が野菜販売とかしてるって言ってたんだけど?」
まだ見てない中庭の様子について尋ねてみます。
「ああ、やってたわよ。出店がいくつもあって地元野菜を売ってたり、焼きそばや焼き鳥、お好み焼きとかお祭りによくある出店もあったわ。他にも色々あったけど、校門に近いだけあって賑わってたわね。」
「へぇ〜。それは凄いね。生徒の調理販売は制限があったけと、こっちは業者なだけに大丈夫だったのかな。
それに地域の方と一緒に盛り上げようっていうのが、またいいよね。」
自分達の文化祭という事だけでなく、そこに地域の方をお招きし協力する事で地元活性化に貢献しようという姿勢が、伝統として受け継がれてたんだね。
こういう姿勢って凄く立派な事だよねって思うな。
「まま、あれやってみたい!」
「ん?なーに?輪投げか〜、いいね♪」
雪ちゃんが見つけたのは、輪投げとか糸を引っ張って端についてるお菓子とか玩具が貰える出し物。
よくお祭りとかで見かけるアレです。
「はい、どうぞ。5回できるから頑張ってね!」
お金を払ってダンボールで作った輪っかをもらう雪ちゃん。
「がんばれー!」と応援する私。
簡単そうで意外と難しいんだよね、こういうの。
距離感とか力加減とかが分からなくってさ。
「やったー!やったよ!まま!」
棒に輪が入って喜ぶ雪ちゃん。
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、凄く嬉しそう。
ここを担当してた上級生の女の子も、そんな雪ちゃんを見てほっこりしてる。
「よかったね〜、雪ちゃん。」
「うん!!」
結果、5本中2本を見事に入れました。おまけに1個多く貰ってご満悦です。
「ありがとうございます。」と、お礼をして教室をあとにします。
その後も見たり遊んだりしながら、ゆっくりと体育館へ向かって行きます。
ゆっくりだったのは、思いのほか雪ちゃんが楽しめそうな出し物があったから。
駄菓子屋さんみたいな店だったり、◯◯◯を作ろう!みたいな工作系だったりと色々あって楽しかったんだ。
それと、道中でクラスメイトにも会ったよ。
その時雪ちゃんは出し物をやってたり、お菓子を食べてたりで「まま」とは言わなかったから、「可愛い妹だね」って言われちゃった。
「ねぇ、お母さん。」
「ん?なあに?」
体育館まであと少しの所でそういえば······と、思ったことを聞きます。
「葵が来てるんだけど、お母さんは会ったの?」
「葵?いや、まだ会ってないわよ。来てたんだ?」
「うん。最初に私の所に来てくれたんだけどね、お友達と。」
「そっか〜。入れ違ったかな?この学校広いもんね。」
そうなんだよね。この学校広いんだよねぇ。
当然敷地も広く校舎も広いけど、体育館も何気に2箇所もあって凄いなと思うし。
「体育館行くとか言ってたから、そっちにいるかな?」
「ままー。あおいねーね、いるの?」
「うん、いるよ。会えるといいね。」
「うん!」
私と手を繋ぎながら、葵がいるの?って尋ねる雪ちゃん。
葵のことを「葵ねーね」と呼び、葵の《お姉ちゃんと呼ばせよう作戦》は今の所、概ね達成された模様です。
ただこれが、いつまで続くかは分からないです。
私としては別に構わないので雪ちゃん次第になるんだけど、もっと大きくなって気が付いた時に、叔母さんと言うのかどうなのかは······。
そしてその時、葵はどう反応するのか?
「お!鈴宮じゃないか。楽しんでるか?」
そう聞いてきたのは担任の高橋先生です。
ばったり体育館に向かう通路で出逢いました。
「はい、楽しんでます。お母さん、こちらは担任の高橋先生だよ。」
「あ、これは挨拶が遅れて申し訳ございません。このはの母の鈴宮裕子と申します。いつも娘が大変お世話になっております。」
頭をペコペコと下げながら、挨拶をするお母さん。
そして、お母さんと先生が挨拶兼お話を始めました。
あ······でもよく思い出してみると、入学式には来てなかったんだ。
同じ日に同じタイミングで葵の入学式もあって、お母さんはそちらに行ってたんだよね。
学校が私の方より遠いのもあるから、葵を車に乗せてさ。
私は近かったのもあるし、一応子供でもないからさ「葵優先でいいよ」って伝えたんだよね。
お父さんは?と思うけど、お父さんは新年度というのもあって大変で休めなかったらしいです。
新社員が入ったり、新年度の企画?事業?
その調整だとか打ち合わせで忙しくてなー、なんて凄く珍しくぼやいてた位だから。
まぁそれに、小学校とかと違って入学式後の教室に親は来ないし、授業参観とかもないから考えてみると意外と初対面だね。
三者面談も1年生はないからさ。
「いえいえ、こちらこそ鈴宮には助けてもらってますよ。今回のクラスの出し物も急にサポートをしてあげて欲しいと頼んだのにも関わらず引き受けてくれて、しかもしっかりと皆を引っ張って今日までやってくれましたから。」
「そうなんですか?」
「ええ。それに授業態度も大変素晴らしいと他の担当教諭からも報告頂いてますので······」
「あらあら。それはそれは······」
お母さん達の話は少し長くなりそうです。
クイッ、クイッ。
ん?
「なーに?雪ちゃん?」
雪ちゃんが私の服を引っ張ってます。
どうしたのかな?話が長くて飽きたかな?
「まま、あの人だーれ?」
「あの人はママの学校の先生だよ。雪ちゃんにも幼稚園の先生がいるでしょ?それと一緒だよ。」
「うん。ゆき、せんせーいる。ままのせんせーかぁ〜」
雪ちゃんなりに分かってくれたみたい。
「ママ?···鈴宮がママ······?」
「あ······」
先生が頭に????マークを並べて固まってる。
あれ?先生は知らないんだっけ??
「先生、実は······」
先生に簡単に説明をお母さんとします。年齢も含めて。
「なるほどなー。だから他のみんなよりも、しっかりしてたのか。」
「先生は知らなかったんですか?」
てっきり知ってると思ってた。
なので、いまさらだけど尋ねてみたんだ。
「知らなかったな。俺は入試······この場合は面接と書類の方かな?それには関わってないからさ。それに中学から来る書類に子持ちなんて情報は書いてないぞ、多分。そもそもいないのが当たり前だし。だから、恐らく他の先生も全員知らない。
それに歳も生年月日は書いてあっても、わざわざ何才?なんて確認はしないな。これも基本的にみんな15歳で受験してるから。」
「なるほどー······」
それもそうかと納得です。
それにそもそも、中学校にも子供を産んだのは伏せてたしね。
たから中学の先生も知らない筈です。
お店とかで私達を見かけない限りは。
「ま、どんな事情があったにせよ、心配するな。知ったからって別に他の先生に報告することはしないし、知ったとしても鈴宮が優等生っていうのは他の先生方も分かっているから、いまさら何か言うこともないだろう。仮に何かあったら言え。助けになってやるからな。」
「先生······。」
「先生。ありがとうございます。ここまで言って頂いて······。これからも娘の事、どうぞ宜しくお願いします。」
お母さんが頭を下げてお礼をしてくれました。
「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりも文化祭を楽しんで来て下さい。長々と引き留めてしまい申し訳ないです。」
ペコリと頭を1度下げて。
「それじゃあな」って、手を振りながら去っていく先生を見送ります。
「いい先生だったわね。」とお母さん。
「うん。」とちょっと涙ぐんで返す私。
「まま、泣いてるの〜?」と顔を覗き込んでくる雪ちゃん。
「大丈夫だよ」と返します。
先生の知らない一面をまた知り、いい先生に巡り会えたなと嬉しくなる私でした。
いつも読んで頂きありがとうございます。
まだ少し文化祭が続きますが、よろしくお願いします。
またいつもの事ですが、イラストの細かい差異は気にしないで頂けると助かります。
雪ちゃんの雰囲気を感じ取ってもらえたらいいなと思っておりますので。




