ある日の文化祭①-9 高1(挿絵有り)
2023.10.29 加筆修正しました。
葵達を見送った後もお客様の来店は概ね順調で、良い感じにスタンプ用紙が捌けていきます。
それと同時に3つ全部を押して持って来てくれる方も増えてきて、さらにいい感じです。
私達も説明の方と用紙の受け取りを分担してやるようにして、効率化を図りスムーズに行う様にしました。
この感じでこのままいければ、尚いいんだけどね。
今の時間はみっちゃんと彩ちゃんと、3人で楽しく対応してます。
とき通り聞こえてくるカラオケの音楽。
生徒以外にも一般の方も参加してるみたいでさ。
「これ、何の曲だろ?知ってる?」
「いや、分かんないな〜」
「あ、これは知ってる!ちょっと前に流行った曲だね!」
そんなやり取りがあったりなかったり。
スピーカーからも流れているんだけど、こちらは放送部の人かな?
ラジオ風のスタイルで話をしたり、音楽を長したりして楽しませてくれてるんだ。
だから意外と教室で番をしてるのも楽しいです。
お客様の来店が落ち着いたタイミングで「お手洗いに行ってくるね。」とちょっと席を外しました。
廊下を歩きながら周りを見てみると、どこもかしこも素敵に飾り付けがしてあって『お祭り』って言葉がとても似合う雰囲気。
普段の何気ない教室や廊下がこうも変わるのは、なかなか新鮮で凄いものがあるなと感じちゃうね。
それに、一般の方もかなり見かけるようになってきて、それはそれで嬉しくなるね。
やっぱりお祭りって、こうでなくちゃ!ってつい思っちゃうよ。
戻ってくると、教室の入口に彩ちゃんの姿が見えたんだ。
教室の中にいるはずなのに、外でキョロキョロと誰かを探してる様子。
あれ?何かトラブルでもあったかな?と思ってると、私に気づいた彩ちゃんが駆け寄って来て、こう一言。
「このはちゃーん、お母さんと妹さんが来てるよー。」
良かった······。
トラブルじゃ、なかったらしいです。一安心。
でも一瞬、妹?葵??って思ったけど、多分雪ちゃんだね。
お母さんの若さと見た目を考えると、私の妹でも十分通るから。
むしろそれが普通なんだけどねぇ。
「はーい。今行くね〜。」
と答えて教室に戻ります。
「お母さんいらっしゃい!雪ちゃんも。来てくれてありがとうね。」
中にいたお母さんと雪ちゃんに声をかけます。
「あ、このは。遊びにき「あ!ままー!」たわよ······。」
雪ちゃんがお母さんの声を遮って抱きついてきました。
やれやれ···ってポーズしてるお母さん。まあ、これもいつもの光景なんだけどね(笑)
雪ちゃんを受け止めて、抱きしめる。
「いらっしゃい、雪ちゃん。」
「まま、あのねー。お菓子もらったのー♪」
そう笑顔で嬉しそうに教えてくれる雪ちゃん。
事前に来るようなら二度手間にならないように、スタンプ用紙を渡しておいたんだよね。
小さい子を連れて歩くのは大変だからさ。
もし来れなくて、菓子が余るならそれはそれで構わないしね。
「そっかー。お菓子貰えて良かったね~♪」
「うん!」
なんて、雪ちゃんと会話のする私。
そんな私達を見てた、2人から疑問の声があがった。
「ねぇ?このはちゃん······。その子······妹さんじゃないの???」
「ママって······聞こえた気がするんだけど···幻聴かしら······??」
彩ちゃんとみっちゃんから疑問の声が。当然だよね。
だって私達、高校生だもん。
「この子は『雪』って名前で、私の子供で娘なの。よろしくね♪」
···
······
·········
············
「「ええぇぇーーー!?!?」」
本日、いや今までで一番驚かれました。
「落ち着いた?」
暫くしたのち、固まってフリーズしてた2人に問いかけます。
ちなみにお母さんは話が長くなりそうだから、ちょっと見てくるねって言って出かけてます。
「「う、うん······」」
こくこくと頷きながら答える2人。なんとか大丈夫かな?
「しかし·····このはちゃんに子供がいるなんて、超ビックリなんだけど?!」
「ほんとほんと!ドッキリってオチはないよね?!」
「ゴメンね。隠してる訳じゃないんだけど、あえて言うのもあれだったからさ······。それにホントに本当だよ?ドッキリなんかじゃ、ないから。」
そう、別に隠してる訳じゃないんだけどね。
お迎えだって買い物だって、雪ちゃんと普通に一緒に行ってるし、あえて言うならタイミングや学校という雰囲気で話す機会がなかったからかな。
「いや、言い辛い事だろうからさ、別に構わないんだけど······にしても、雪ちゃん?可愛いね〜〜♪」
「でしょ?私の宝物だよ♪」
雪ちゃんは私の膝の上で、先程貰ったうまい棒を食べてる。
そんな雪ちゃんを見て「可愛い〜♪」って、言ってくれる彩ちゃんとみっちゃん。
「ねぇ?雪ちゃん。今何歳?」問いかける彩ちゃん。
「んーと、5歳」手をパーにして答える雪ちゃん。
「5歳······あれ?? じゃあ、このはちゃん······11歳くらいで産んだの?」
「え?ああ、違うよ。産んだのは14の時。だから今は19歳だよ。」
「「ええーー!!? まじ?!」」
また驚かれてしまった。そっか······歳も特に言ってなかったね。
高1といったら、普通は15〜16歳だもんね。
「このはちゃん、本物のお姉様だったのか·······。」
ぶつぶつと呟く彩ちゃん。
お姉様って······まあ、その通りではあるけれどね。
そんな話をしてるとお母さんが戻って来たんだ。
それで本来の目的、一緒に文化祭を見学に行きます。
一応私の番はお昼ぐらいまでの、親が来て交代という事になってるので、これで終わりです。
少し予定よりは遅いけど、天気も引き続き良いので特に問題はなさそう。
「じゃ、行ってくるね〜。教室の方、宜しくお願いしまーす。」
「うん!任せて!! いってらっしゃーい!」
「雪ちゃんまたね〜。」
「ばいば〜い。」
と、手を振るう雪ちゃんに「可愛いー♡」なんて声があがった。
そんな2人に見送られて出発です。
ーーー 彩ちゃん 視点 ーーー
「驚いた······。まさか、このはちゃんに子供がいたとは······」
「ほんとほんと。超ビックリなんですけど!?」
ねー!なんて言う私達。
私達の癒やしのこのはちゃん。
一緒にいると居心地がよくて、声を聞いてると不思議と落ち着くというか癒やされるというか、とにかくそんな感じになるの。
性格も穏やかで優しくて、だから私達女子に人気。
それに今回の文化祭。
みんなの前に立ってあれこれ私達クラスメイトを、引っ張ってくれて格好良かった。
頼りがいもあるんだと、ますますこのはちゃんを好きになっちゃったよ。
そんなこのはちゃんが、実はママだった······。
しかも今は19歳だったとは······。驚きだよ。
「雪ちゃん可愛かったねー。」
「うん。あんなにこのはちゃんそっくりだとは思わなかったよ。てっきり妹とばかり。」
うんうんと頷く私達。
このはちゃんの娘らしい雪ちゃん。
このはちゃんの膝の上に乗って、貰ったお菓子を美味しそうに食べてたのを思い出します。
白い髪の毛で赤い目、肌色とこのはちゃんに瓜二つで、すっっっごく可愛かった。
「このはちゃん、嬉しそうで幸せそうな顔してた。お母さんになるとあんな表情ができるものなのかな?」
「このはちゃんだから、じゃないかな?」
「あ〜、なんか分るかも·····」
きっとこのはちゃんの、あの優しい穏やかな性格だから成せるんじゃないかなと思う。私だったら、イライラとかしそうでムリかも。
そんな話をしながら番をしてると、ふいに
「このはちゃん、子供いるってことは結婚してるんだよね?旦那はどういう人なんだろ?13歳を妊娠させるんだよ!?」
考え出したら怒りが湧いてきた。
うちらのこのはちゃんになんて事してくれたんだ!と。
会ったら一言言ってやると息巻く私達でした。
ーーその想いが直ぐ空振りに終わることを、まだ彼女たちは知らないーー




