ある日の朝の出来事② 高3(挿絵あり)
「ママ〜。これでいいかな?」
「どれどれ···。うん、バッチリ!上手に出来たね♪」
「うん!頑張ったもん!」
私の目の前には大きなランドセルを背負い、ちょっとぶかぶかなヘルメットを被った雪ちゃん。
そんな雪ちゃんに出来具合を確認されて、それを確かめた私だった。
(うん、大丈夫。上手に出来てる。)
ランドセルその物は背負うだけだから問題はないけど、ヘルメットに関しては自分で紐をロック出来ないといけないから練習をしたんだよね。
その甲斐があってか1回で出来たんだ。
そんな雪ちゃんを私は褒めてあげて、いつものいい子いい子をしてあげるの。
頭はヘルメットだから場所は変えたけど、雪ちゃんもご満悦そうでなによりです。
そんな今朝は4月9日、入学式翌日して初めて自分の足で登校する最初の日なんだ。
私達の小学校は地域···いや、この場合は自治会レベルの地区で纏って登校するスタイルなんだよね。
6年生が班長さんとなって1年生から6年生まで一緒になって学校まで歩いていく。自治会によってその広さが違うから、場合によっては複数班を作る場合もあるけどね。
私もかつてはその様に登校をしたし、班長もやった経験がある。
そしてこの時期はまだ慣れない新1年生が加入するという事で、結構大変だった記憶もあるんだ。
慣れないランドセルを背負いヘルメットを被り歩くのがイヤだとか、お母さんと離れるのがイヤとか駄々をこねたりとか色々とね···。
見かねて途中まで一緒に歩くお母さんもいたりと様々だったけど、その中で車にも気を付けて下級生を連れて行かなくちゃいけない責任もあった。
だからこの4月は特に大変なんだよね、班長さんは······。
そんな思い出のある学校登校に、今日から雪ちゃんも参加です。
母親として心配な部分もあるけれど、無事に行ってほしいなって思うの。
まぁ、学校そのものは大変楽しみにしてるみたいだから、慣れさえすれば大丈夫かな?とは感じてるんだけどね。
「ばばぁ〜、行ってくるね〜!」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けて行くのよ。」
「うん!」
我が家の玄関にて雪ちゃんから見るとお祖母ちゃんになる、私のお母さんに行ってきますの挨拶をする雪ちゃん。
そしてその雪ちゃんにニコニコと笑顔で手を振り挨拶を返す、うちのお母さん。
そんなやり取りがこれからは日常の一コマになるんだなって、実感させられるよね。
だって今までは私の方が先に家を出ていたから私の方が見送られる側だったのだけど、今日からは雪ちゃんの方が先に家を出るの。
だから私が雪ちゃんを見送る事になるんだけど、それが出来る事に嬉しさも感じてる。
「じゃあ、行こうか。雪ちゃん。」
「うん!」
雪ちゃんに声を掛けつつ手を差し出して、その手を握り返す雪ちゃん。
私の手もそんなに大きくはないけれど、その私の手より小さくてすべすべで柔らかい。
そんな小さな手も着実に大きくなってるねって、握っていて実感させられる。
「ランドセル重くない?」
「大丈夫だよ、ママ。」
「そっか。なら良かった。」
そんななんの変哲もない会話をしながら歩く私と雪ちゃんなんだけど、その歩みは雪ちゃんに合わせてるからゆっくりなんだ。
でも、その時間も当然居心地が良いの。
そんなに寒くない気温に暖かい日差し、朝のさっぱりとした空気が気持ち良くて、隣にはランドセルを背負った雪ちゃんだからね。
そんな雪ちゃんと歩く先は、自宅からほんの数分の所にある通学の集合場所なんだ。
小学校は各地区で班を作って登校する関係で、各々の場所に集合場所を設けてあるんだよね。
そこで班の皆と合流して学校まで歩いて行くという訳です。
「あ···雪ちゃん、あそこだよ。あそこが集合場所だね。···ほら、6年生のお姉さんもいる。」
「うん。」
少し歩いて行った先の集合場所。
ここは私や葵の時もそうだった、この地区の集合場所の1つなんだ。
そんな場所に6年生で班長の女の子が待っていてくれたんだよね。
「おはよう、りっちゃん。この子が今日から一緒になる雪ちゃんです。宜しくお願いしますね。」
「鈴宮雪です。おねがいします。」
「おはようございます、鈴宮さん、雪ちゃん。私は今年、班長を担当する坂本律です。改めて宜しくお願いします。」
お互いにペコリとお辞儀をしつつ挨拶と紹介をしたのだけど、このりっちゃんは何も初対面という訳ではないんだよね。
雪ちゃんの入学に際して、りっちゃんのお家である坂本家にご挨拶に予め行ってて、その時に一度会っているんだ。
まぁ、挨拶と言っても仰々しいものではなくて「今年度小学校に上がります鈴宮雪です。宜しくお願いします。」て、一言二言話をしてきただけなんだ。
同じ地区で同じ登校班になると言う事で、その班長さんを務める坂本さん家には紹介しときたかったからね。
そういう訳で、このりっちゃんとは面識が一応あるんだ。
「それにしてもやっぱり可愛いですね、雪ちゃん。お母さんそっくり······。」
「えへへへ♪」
私にそっくりと言われて嬉しそうにする雪ちゃん。
雪ちゃんがそういう反応をしてくれるのは分かってはいるけれど、それでもやっぱり嬉しく感じてしまう私。
でも、その顔は今だけは出さないで普段の笑顔で隠しておくんだ。
家族や茜ちゃんの前ならまだしも、それ以外では素敵なママでいたいから、デレッとした顔は隠しておかないといけないから····。
「りっちゃん。集合時間はこの時間でいいのかな?」
「はい、大丈夫です。まだ全員揃ってないけど、ゆっくり歩いても10分かからないで着きますから余裕です。」
「そっか。じゃあ、毎日これくらいの時間に来るね。」
「はーい。」
りっちゃんに改めて時間の確認をして、問題ない事を確認したんだ。
学校の登校時間的にはまだまだ余裕があるのは分かっては居るけれど、小学生の···特に1年生の足ではどの位時間が掛かるか分からないからね。
私の経験的には10分あれば着いたって記憶があるけれど、大人と子供では歩みのスピードが違うからね。それに6年生と1年生でもまた違うからさ。
それを現役の6年生であるりっちゃんに確認すれば安心も出来るってものだよね。
雪ちゃんとりっちゃんと私と3人でお話をしつつ待っていれば、比較的直ぐに残りの子供達もやって来た。
私の家と同じ自治会で、尚且つ班としても同じか近い所の家の子だから知ってる子もチラホラと見受けられる。
そんな知ってる子、初めての見る子含めて改めて雪ちゃんを紹介した後に、いよいよ出発です。
ここが新1年生の親としての1つの執念場。
皆と一緒にすんなりと行けるのか。または嫌がったりぐずったりするのか···。
駄目だった場合は、親が途中まで一緒に行くって言う話も聞いていただけに、はたして······。
「行ってらっしゃ〜い。気をつけてねー!」
「「はーい♪」」
「「「いってきまーーす!」」」
雪ちゃんに、皆に声を掛けてお見送り。
そしたら皆も元気に返事を返してくれて、雪ちゃんもりっちゃんと手を繋いで歩いて行ったんだ。
その後ろ姿を私は見送る。姿の3分の1くらいはランドセルが占めてるんだけどね。
······うん、取り敢えず今日は大丈夫そうだね。
姿か゚見えなくなるまで見送ったけど、特に何事もなく無事に行ってくれた模様です。
これは帰ってきてから沢山褒めてあげなくちねって思ったよ。
出来た事を褒めてあげるのは次への自信にもなるし、やる気も出るから。
だから今日の感想を聞いて何かあればそれを一緒に考えたりして、出来た事は沢山褒めてあげよう!って、決めたんだ。
ーーそれから数日後のある日の朝ーー
「お母さ〜ん、行ってくるねー。雪ちゃんお願いします。」
「はい、行ってらっしゃい。雪ちゃんの事は任せてね。」
「行ってらっしゃい、ママ。」
「うん、雪ちゃんも···また後でね♪」
お母さんと雪ちゃんに見送られて、我が家の玄関を出た私。
外に出れば明るい日差しに少し目を細めたけど、それも直ぐに慣れてくる。
そんな朝だけど、今日はいつもと少し違うんだ。
雪ちゃんが幼稚園に通っていた時はこれが普通だったけど、小学校にあがってからは私が見送る側になった。
これは単に雪ちゃんの方が登校時間が早いからって理由なんだけど、今日は久しぶりに私の方が早いんだよね。
ま、これには理由があるのだけど···。
「おはよう、このはちゃん。」
「うん、おはよう、茜ちゃん。」
家を出た先に私の友達の茜ちゃんが、いつもの様にニコニコとして待っていてくれた。
彼女とこうして一緒に登校する様になって随分と経つけど、この瞬間が1番の笑顔を見せてくれるんだよね。
屈託のない可愛い笑顔で、見ている私も自然と笑みが溢れるの。
そんな茜ちゃんとの登校ではあるけれど、いつもと少し違うんだ。
「じゃあ、こっちだからついて来てくれる?」
「うん、オッケー。」
自転車に乗って漕ぎ出す行き先は、私達の高校がある方向とは逆方向の道。
これがいつもと違う事で、その行き先も茜ちゃんは知らないから私について来てもらってるの。
「ここだよ。···この辺りに自転車を停めとこうか。」
自転車を走らせてほんの数分でその目的地に着いたんだ。
自転車ならほんの僅かな時間だけど、歩けば5分少々は掛かるそんな場所で交通の妨げにならない所に自転車を停めて、ちょこっとだけ歩く。
「でも···本当に良かったの?茜ちゃん。遅刻する心配はないけど、家を出るのには結構早かったでしょうに······。」
「もう···このはちゃんったら、それは大丈夫って伝えたでしょ。それに今日ついて来たのは私の意思なんだから、本当に大丈夫なの。気にしないで。それに···雪ちゃんが入学して朝に会えなくなっちゃぅたから、今日これからちょこっとでも姿を見れるのを楽しみにしてたんだよ。」
「そっか。分かったよ。それと···ありがとうね。雪ちゃんもきっと喜ぶよ。」
「うん。」
学校に通う前に私がここに来ている事。
これは今から数週間前から前もって決まっていて、茜ちゃんにもその事を伝えてはいたんだよね。
それなので今日は一緒に登校できない旨を伝えたんだけど、それでも「私も一緒してもいい?」って言われちゃって、断ったんだけど何だかんだで今に至るんだよね···。
「ここの交差点なんだ···。」
「うん。ここで雪ちゃんの班を入れて4班来るから、それを見送れば終わりだよ。」
「はーい。」
茜ちゃんがここかぁ〜って感じでキョロキョロと見渡してるこの場所は、なんの変哲もないごく普通の交差点。
片側1車線の県道で手押しの信号機と横断歩道があるこの場所で、私は旗振り当番として子供達の安全を守り、登校を見送るお仕事をします。
これは其々の地区の子供達の通学路にある交差点や危ないポイントに、該当地区の保護者が交代制でするというもので、結構昔から続いてるものなんだよね。
私が小学校にあがった時もお母さんがこの交差点で見守りをしているのを覚えてるの。
そして年に3回、新学期が始まったタイミングで行われて、これを私達の地域では旗振り当番と呼んでいるんだ。
他の地区はまた違う呼び名かもしれないけどね。
で、これがあったので茜ちゃんに伝えていたんだよね。
全部の班が通過するまでは終わらないんだけど、小学校の登校時間の関係で私達が遅刻する事はないの。
だけどその分朝が早くて茜ちゃん的には負担が大きいから、今日は先に行っててと伝えたんだけど、ご覧の通り押し切られちゃった。
「「おはようございます。」」
「おはようございます。」
「おはよー!」
「おはよー! あれ?今日はお姉ちゃんだ···?」
「ほんとだね···どこのお姉ちゃんなんだろう??」
最初の班の子供達か゚やって来て、朝の挨拶を交わす私達。
これも登校を見守る、旗振りの中で大切なお仕事の一つなんだ。
「おはようございます」「こんにちは」「ありがとうございます」など、基本的な挨拶を大きな声でしましょうって学校の方でも指導してるから、私達もそれを実践してるとの事。
「うふふふ···。どこのお姉ちゃんなんだろうね?···信号押したから、もう少し待っててね?」
歩行者用の信号機のボタンを押して、青に切り替わるのを待っててもらう私。
そして青に切り替わったら安全を確認した後に、私が道の真ん中に立って黄色い旗に黒文字で『横断中』と書かれた旗を広げて、渡ってもらうという流れなんだ。
「ねーねー、お姉ちゃんはどこのお姉ちゃんなの?」
「私?私はね、この後に来る班の新1年生のお母さんだよ。だからお姉ちゃんじゃないんだけど···ありがとうね。」
「お母さんなのに、こーこーせー?」
「うん、そうなんだ。」
信号を待つ間に好奇心旺盛な小さい子が私に聞いてくる。
お姉ちゃんと言えばお姉ちゃんではあるけれど、それが誰かの姉という認識であり、お母さんという発想はなかったみたい。
答えをあげてもやっぱり疑問顔をしてたけど、それ以上答える間もなく信号が変わっちゃった。
「はい、いいよ〜。気をつけて行ってきてね。」
「皆〜。気をつけて行くんだよー。」
「はーい!」「うん!」
「行ってきまーす!」「またねー!」
子供達皆が其々元気に返事を返してくれて、手を上げて横断歩道を渡って行った。
それを見送ってホッと一息入れた。
「このはちゃん、人気者だったねー。」
「そう?ただ見慣れない新しい人が居たから気になってただけじゃないのかな? それに、それを言ったら茜ちゃんだって人気者だったじゃない。」
「そ···そうかな??」
「そうだよ。」
茶化す様に茜ちゃんか゚言うものだから、私もお返しにと返してあげたの。
私も小さい子達に話しかけられてたけど、茜ちゃんだって話しかけられてたんだよ。それもどちらかというと上級生の子供達に「何でここに高校生のおねーさんがいるんですか?」って具合にね。
だから茜ちゃんも私のことは言えないと思うんだよね···。
「それはそうと、あと3組だね。多分そろそろ雪ちゃん達の班もやって来ると思うよ。」
最初に来た班の子供達を見送ってから数分後、時間を確認すればそろそろ雪ちゃん達が来てもおかしくはない頃合いになったんだよね。
集合場所からこの交差点までゆっくり歩いても5分って所だから、逆算するとそうなるんだけど···。
「ママぁ〜♪」
「あ、来た来た。」
「ほんとだ♪」
私達のいる場所から70メートル程離れた曲がり角から雪ちゃん達の班の姿が見えたんだ。
そして私の姿を確認した雪ちゃんから私を呼ぶ声が聞こえたんだよね。
「おはよう、皆。」
「「「「おはようございます!」」」」
すっかり顔なじみになった班の皆に挨拶をして、元気に返してくれる子供達。
そんな子供達を見て、今日も元気でよかったって思うんだよね。
「おはよう、雪ちゃん。久しぶりだね。」
「うん!···ねぇ、ママ。何で茜おねーちゃんもいるの?」
「それはね、ママ達この後このまま学校に行くから、茜ちゃんもいるんだよ。」
「そうなんだ〜。でも、茜おねーちゃんに会えたの嬉しいな♪」
「やだ〜♪雪ちゃんったら···もう本当に可愛い♪」
茜ちゃんがこの場にいる事に不思議に感じた雪ちゃんだったけど、説明してあげれば納得もしてくれたんだよね。
まぁ本当は違うんだけど、それをあえて言う必要性もないからこれでいいかなとも思うし。
そしてまた、久しぶりに朝に茜ちゃんに会えたって事で喜んでる雪ちゃんだったりもするんだよね。
茜ちゃんも茜ちゃんで、そんな雪ちゃんの言葉に喜んじゃって、ヘルメットの上からナデナデしてるし。
「あれ···?このはさんは高校生なんですか?」
「りっちゃんは知らなかったっけ? 実はそうなんだよ。色々とあって遅くはなったけど今通ってるの。」
「わぁ♪ 高校生でお母さんって凄いですね!」
私が制服姿でここにいる事に疑問に思ったりっちゃんに、その理由を教えてあげたの。
そしたら何だか分からないけど、感心されちゃった。
最初のご挨拶に伺った時やその後の集合場所まで行ってる時は私服だから、今まで知らなかったのも無理はないのだけど、お母さん経由で知ってるものだと思ってたんだよね。
「ん〜···凄いかどうかは分からないけど、雪ちゃんのママとしては頑張ってるつもりだよ···っと、青になるね。」
楽しいお話もこれでお終い。
車用の信号機が黄色になったから、もう直ぐ歩行者用信号機が青になる。
そして青になったのちに安全を確認してから、先程と同じ様に旗を広げて子供達を渡らせたの。
「気を付けてねー!行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃ〜い!」
「「行ってきまーす!」」「またねー!」「バイバーイ!!」
皆を渡らせて、それを見送る私と茜ちゃん。
「雪ちゃん変わらず可愛かったな〜♪」
「それはありがとう。でも···やっぱりと言うか、驚いてたよね。」
「うん。でも、そうもなるよね。このはちゃんがここに立ってるのは知ってても、私がいるとは思わないだろうからさ。無理もないよ。」
この旗振り当番は、当然ながら数週間前から予定日は決まってたの。
だからその日の朝の送り出しはお母さんにお願いしてたし、雪ちゃんにもその理由は予めお話しておいてあったんだ。
只、茜ちゃんがついて来るとは思ってもなかったから、それだけは伝えられずにいたんだよね。
「これであと2班だね。悪いんだけどもう少し待っててくれる?そんなには掛からないとは思うんだけどさ······。」
「うん、大丈夫大丈夫!それに無理言ったのは私の方なんだから、最後まで付き合うよ!」
「ありがとう。」
雪ちゃん達の班が来たことで残りはあと2班なんだけど、何時頃来るかは分からない。
でも時間的な事を考えれば、もうそろそろ来る筈なんだけどね。
「それにしても、さっきの班長さん。しっかりした子だったね〜。」
「りっちゃんの事?」
「うん、そう。あの子、道を渡る時もきちんと確認してから旗を広げてたし、その後もきちんとお辞儀してさ、礼儀正しいなーって見てて思ったんだよね。」
「確かにそうだったね。渡った後に止まってくれた車に向けてお辞儀なんて、学校でそう指導されてるのか分からないけど、それでも中々出来る事じゃないよね。」
「だよね~。」
茜ちゃんの指摘の通り、りっちゃんは渡った後に止まってくれた車のドライバーさんに向けてお辞儀をしてくれてたんだよね。
私もボタンを押して止めたのもあってお辞儀はしたけれど、それを6年生の子がするというのは中々出来ない事だと思う。
学校でそう指導されたのかは分からないけど、少なくとも私の時にはそう言う指導とかはなかったんだよね。
だから小学校は違えど、茜ちゃんが感心するのも頷けるんだよね。
手押しの信号機だから押して渡るのは当たり前。
だけどそこに1つ何かをプラスするという事は中々出来ない事だから···。
「でもね、彼女のお陰で雪ちゃんも問題なく登校出来てるから、感謝でいっぱいなんだ。」
「面倒見がいいんだ?」
「うん。初日の時からよく話しかけてくれてさ、そのお陰で雪ちゃんも馴染んでくれたし、歩く時も手を繋いで行ってくれたんだよね。だからか雪ちゃんも特にグズったりしないで行ってくれて···ありがとうって感じなんだよね。」
「それは雪ちゃんとしても嬉しいかもね。まぁ···相性的なものもあるだろうけど、私とこのはちゃんみたいな感じかな? あっ···違うかな??」
「いや···あながち間違ってもないかもよ?ふふふ···。」
最後は照れくさそうに言う茜ちゃんだけど、雪ちゃんにとってりっちゃんは相性的にも良かったんだと私は思う。
外から見ると元気で明るくて人懐っこそうな雪ちゃんだけど、実は人を選ぶ傾向があって、それも年上の人となる程にそれは大きくなるの
。
去年皆とプールに行った時も、比較的懐いた子とそうでない子で別れた事からもそれが分かるんだ。
でもその合う合わないって感覚は私も含めて皆が持つものだから、心配は特にしてないの。
そしてその合うという感覚が、りっちゃんに見事ハマったんだと思う。
顔を合わせてからたったの2回目で手を繋いだという事実もそれを表してるからね。
ーーーーーーー
「「おはよ〜。」」
「「「おっはよー!このはちゃん!茜ちゃん!」」」
いつもの教室に2人で入れば私達より先に登校してた皆が迎えてくれる。
そしてあっという間に囲まれちゃって······。
「ねぇねぇ、このはちゃん···。今日は何時もよりちょっと早くない?」
「早いよね?普段はあと15分後くらいに登校してくるのに···何かあったの?」
「皆、よ〜く見てるねぇ···。」
「あははは···ほんとだよね······。」
私達2人が教室に入って来た時間が普段より早い事に気が付いた皆。
それによく気が付いたねって、2人して感心しつつも時計を見れば確かに早いんだよね。
それは単に雪ちゃん達の班が通過した後の残りの2班が、普通に早く来てくれたから結果的にそうなったんだけどね。
ま、元々遅刻しないのは分かってはいたけれど、それでもここまで早いとは思わなかった。
それにそれが終わった後に家によらず、直で学校に向かったのも多少なりと関係はあるんだけどね。
「今日早く来た理由はコレなんだ。旗振り当番って言う、通学路の危ない所とかに立ち会って子供達の登校をサポートする活動があってね、それの当番だったんだよ。」
「「「旗振り〜??」」」
「あー···それ、知ってる!うちのお母さんもそう言うのやってたわ。」
「あ、私の所もそういう活動があったね。」
「あ、やっぱり皆の地域もあったんだね、その活動。」
皆の疑問に答えるべく、黄色い旗に黒文字で横断中と書かれた旗を広げて教えてあげたの。
そしたら驚きつつも自分の所でもあったよって、思い出して教えてくれた皆。
「じゃあ、このはちゃんも交差点とかそういう所で立ってたんだ?」
「そうそう、そうなんだ。私の担当地区だと雪ちゃんの班を入れて4班しか来ないから、結構早くに終わったんだよね。だから今朝は早かったの。」
「なるほどねー···。」
「このはちゃんが朝からお母さん全開だよ···。」
「小学校入学って、結構大変なんだねぇ〜······。」
皆がみんな、それぞれの感想を伝えてきてくれるけど1つ訂正しないといけない事があるの。
それは私は朝から全開なのではなくて、ずーーっと全開なんだよ。
「でもさぁ···それならそれで、なんで茜も一緒な訳? 終わってから合流も出来るだろうけど、それだと終わりの時間が読めないから普段通りの待ち合わせとかになるでしょ?」
「あぁ···それは「それはね、私がこのはちゃんに無理言って一緒させてもらったの!」」
「そ、そうなんだ···。」
「わぁ···茜ちゃんも積極的にいったねー♪」
「でも、何でなんで??」
下に妹がいてお母さんが旗振り当番とほぼ同じ活動をしてるのを見てる美紅ちゃんが、私と茜ちゃんが一緒に来た事に疑問を抱いた。
理由は美紅ちゃん自身が言ってた様に、登校班次第では終わりの時間が読めない事。
早く終わる可能性もあれば、遅くなる事も考えられる。
だから待ち合わせをするなら普段の時間ってなるけれど、それにしては登校時間が普段よりかなり早かったから可怪しいと。
それに私が答えようとしたら、茜ちゃんが私を遮って答えてくれたんだよね。
「雪ちゃんが入学してから朝は1度も会えてなかったから、会いたくなっちゃってさ。このはちゃんからは今日は予定があるから1人でって言われてたんだけど、無理言って同行させてもらったの。」
「「おぉ!」」
「朝雪ちゃん···羨ましい···。」
「だねー···。うちも家が近ければそれが出来たのに······。」
「茜がまさかこのはちゃんに無理を言うとは···ほんと、変わったね、茜。」
「えへへへ····。まぁ、それも全部このはちゃんのお陰なんだけどね♡」
茜ちゃんのその理由にそれぞれが想う事があるみたいだけど、美紅ちゃんは茜ちゃんと仲が良い事もあって、茜ちゃんの変化に特に意識が向いてるんだよね。
高校に入学した頃の茜ちゃん。
保健室での一件からの茜ちゃん。
そして今の茜ちゃんの変化。
その中で入学した頃の彼女をよく知ってる美紅ちゃんからすれば、この変化はかなり大きなものなんだと感じてるに違いないと思う。
持ってきた旗をロッカーに仕舞う私。
私たち個人の荷物置き場であるロッカーは奥行きがあるから、旗も入るなと思ってそのまま持ってきたんだけど、正解だったね。
後はこの旗と今朝の子供達の様子をノートに書いて、次の方に引き継げば今学期の旗振り活動はお終いです。
次は2学期。
その時はその時で、今より少しだけ成長した雪ちゃんを見れる事を期待して、私は再び席に着いた······。




