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ママは女子高生♪  作者: 苺みるく


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229/231

ある日の春休み① 卒園式 高2(挿絵あり)

「卒園生、入場!」


厳かな雰囲気の中、先生の言葉と共に優しげなBGMが流れ出してそれは始まった。

ホールの出入り口から卒園生が一礼をして1人、また1人と入って来る。

その全ての子が普段の笑顔とは逆に緊張に満ちた表情をしていて、動きもどことなくぎこちない様子で。

でもそんな一人一人の子供達を万雷の拍手で迎える保護者方や先生方、そしてこの幼稚園に在籍の年中組の園生達。


そんな沢山の拍手に迎えられ、私の娘の雪ちゃんの番がやって来た。

ホールの入り口でペコリと一礼。


(うふふ。やっぱり緊張してる···)


入り口に立った雪ちゃんにビデオカメラを向けつつ、その姿を目に焼き付けてるんだけど、その表情は緊張してる感じだったんだよね。

そんな感じだったから心の中で少し笑ってしまったんだよね。

だって雪ちゃんってば、いつも笑顔で幼稚園の運動会やお遊戯会でも緊張っていう顔をした事が殆どないんだもん。

だからそんなレアな表情を見れたのは嬉しい反面、この場では何時もの雪ちゃんで居て欲しいなっていう想いもある。

だから私は小さく手を振ってみた。


一例をした雪ちゃんがこちらをチラッと見てくれて、そして目が合った。 

手を小さく振っている私に気が付いて嬉しそうな顔になったんだ。


(うん、これならもう大丈夫。)


その直後から緊張感も抜けたのか、可愛らしい笑顔で堂々と歩いて自分の席へと着席したんだよね。


3月下旬。

暖かい日差しと穏やかな天候に恵まれた今日は、雪ちゃんの幼稚園の卒園式です。






  ーーーーーーーー






朝起きて、カーテンの隙間からそっと外を覗くと多少の雲はあるものの青空の覗くいい天気だった。

昨日の天気予報でも『明日は晴れ模様』と言っていたから心配はしていなかったけど、でも実際にこうして確認出来ると嬉しく感じるんだよね。

だって今日は雪ちゃんの幼稚園の卒園式だから。


それでも私の朝のやる事は普段と変わらないの。

起きて先ずは洗濯物を回して、その後は朝ごはんの支度。

そして自ら起きてくる事もあるけど、そうでない時は雪ちゃんと葵を起こすの。

お母さんはお父さんに合わせて早い時もあるから、基本的には3人で揃って朝ごはんを食べてるよね。

まぁ今は私達は春休みになったから、葵はあえて起こさないで寝かせてあげてるんだけど······。

そういう感じで普段と特に変わらない朝の光景。



「よし、いいかな♪」


鏡の前で正面から見て、その次に横を向いたり後ろ姿を見たりして納得の声を出した私。

そこには普段の私とは少し違う、おしゃれをした私がいるの。

お化粧品は普段と同じく軽くしたくらいで済ませて、髪型も私のお気に入りのロングヘアー。

これも普段と同じだけど私の周りの皆も気に入っていてくれる、私自身も大好きな髪型なんだよね。


それで大きく違うのは、アクセサリーを身に着けている事かな。

普段は学校があるから当然身に着けないし、休日も家にいたり近場にお買い物に出掛けるくらいでは敢えて着けないからね。

だからこうしてピアスを付けて、ネックレスをするというのは結構久しぶりで嬉しかったりするんだよね。


そして服装も紺色ベースのフォーマルな装いです。

これも今後の事を考えて買ったのだけど普段は中々着ることがないから、着ただけで身が引き締まる感じがするんだよね。

なので一通り身支度が済んだ所で何処か変な所はないかと、入念に確認をしたんだ。

私一人の行事で私が恥をかくならまだしも、今日は雪ちゃんがメインの日だからその主役の雪ちゃんに恥をかかせてはいけないからね。

それにどんな時も素敵なママでいたいし、雪ちゃんにもそう思われていたいからね。


変な所がないのを確認した後に時計をみて時刻を確認したら、丁度いい時間だった。

私は洗面所を出てそのまま2階の寝室へ行き、着替える前に用意を済ませたバッグと腕時計を身に着けて雪ちゃんのいるリビンクへと向かったんだ。


「雪ちゃ〜ん。そろそ幼稚園に行くよ?準備はいい??」


「うん! いいよーママ!!おばーちゃん、行ってくるねー。」

「はい、行ってらっしゃい。最後の幼稚園、頑張ってきてね。」

「うん!」


リビングで私より先に支度をして寛いでいた雪ちゃんに声を掛けたの。

そしたら待ってました!って感じのいい返事が返ってきて、同じくリビングにいたお婆ちゃん、つまり私のお母さんにも挨拶をしたんだよね。


「ほんっっと〜に雪ちゃんは素直で良い子よね〜。このはそっくりだわ。」


「それは私の子だもん······似るでしょ?まぁでも···素直で良い子なのは私も助かってるけどねー······。」


お母さんは偶に雪ちゃんの言動を見て、こういう風に言う事があるんだよね。

当初、私達親子の特殊性で見た目は似てても性格までは予想出来なかったけど、生まれて6年という月日で私に性格も似てきた雪ちゃん。

明るく元気で素直で聞き分けも良くて、一方で子供によくあるゴネたり泣き喚いたりといった事をしない雪ちゃん。

それが幼かった私にそっくりなんだって。


そんな雪ちゃんだから、お母さんの言うように子育てにおいて私も大いに助かった部分もあったよね。

特に出先でゴネて泣いたりとかが殆どないし、聞き分けも良かったから安心して出掛けられたし。

逆に物欲とかがあまりなくて誕生日プレゼントとかどうしようかな〜?っていう悩みとは出たりもしたけど、そういうのは贅沢な悩みなのかな?


「じゃぁ、行ってくるね、お母さん。」


「はい。行ってらっしゃい。···あー······このは。写真は帰ってから撮るの?」


「うん。そうしようかなって思ってるよ。その頃なら葵も起きてると思うから、いいかなと思うんだ。」


「そうね···。流石にその時間帯なら起きてるだろうからそうしましょうか。ま、起きてこなかったら起こしとくわ。」


「うん。お願いね。」


あの子は仕方ないわね〜と、呆れ半分で言うお母さんの考えてる事は葵の事。

そしてその葵も交えてしたい事が、今日の雪ちゃんと家族写真を撮る事なんだよね。

何処かのスタジオとかで撮ろうというのではなくて、自宅の庭先や玄関前等で気軽に撮る様なものなんだけどね。

只、葵は朝があまり強くないから、私達が帰って来てからが良いんじゃないかなって思ったんだ。準備時間も取れることだしね。





「雪ちゃん、着いたよ〜。」


「うん!」


車を運転する事数分。あっという間に幼稚園に着いちゃった。

自宅から幼稚園まではそこそこ距離があるけれど、街のショッピング街とか国道を通るとかそういった車の通りの多いい地区ではないから、距離はあっても直ぐに着いちゃうんだよね。

それに田舎的な場所だから信号も少ないし。

そんな通い慣れた道のりも今日でお終いなんだなって思うと、感慨深いものが込み上げてくるよね。




「おはようございます、鈴宮さん、雪ちゃん。」


「おはようございます、先生。」

「せんせー!おはようございます!!」


「おはよう、雪ちゃん。今日も元気で先生は嬉しいわ。それと、本日は卒園おめでとうございます。」


「ありがとうございます、先生。それに···こちらこそ、3年間大変にお世話になりました。先生方のお陰で雪ちゃんも楽しい幼稚園生活を送る事が出来て、とても感謝してます。」


幼稚園に無事到着して入り口で雪ちゃんの担任の先生がなんと、お出迎えをしてくれたんだよね。

そして朝の挨拶の中で先生が『おめでとうございます』って言ってくれて、こういう日のありふれた会話だけどそれでも嬉しくもなるし、しみじみと感じるものがあるんだ。


「式までまだお時間がありますので、ごゆっくりしていて下さい。」


「はい、ありがとうございます。じゃあ、雪ちゃん。荷物を置いたらそこで写真を撮ろうか。」


「うん、わかった〜♪」


登園時間の早いタイミングで幼稚園に来たから式典までまだまだ余裕がある、そんな今。

私は雪ちゃんと写真を撮ろうと、雪ちゃんに荷物を置いて来るようにとお願いをしたんだよね。


靴を脱いで下駄箱にしまい、上履きを履いてから教室へ荷物を置きに行く雪ちゃんを見つめる。

本当にこういうのもサクッと出来るようになったなと、入園をした頃を懐かしく思い出しちゃうよね。


幼稚園に入園した3歳〜4歳くらいの時は、まだ個人差が大きい時期だから色んな子がいたの。

体格は元より、言葉も話せる子やあまり話せない子がいたり、その流れから手が出たり噛んじゃったりする子。

トイレが上手に出来なかったり集団行動に馴染み難い子とか、先生は大変だったんだろうなって思う。

それでも一つ一つ段々と出来るようになっていって、運動会やお遊戯会では素敵な物を見せてくれたんだよね。


そういうのを思い出すと、本当に成長したなって嬉しく感じちゃうよ。


挿絵(By みてみん)


「は〜い♪笑ってー雪ちゃん♪」


パシャ!パシャ!


幼稚園の入り口にある『卒園式』とか書かれた看板の横に雪ちゃんを立たせて写真に収める私。

満開の桜をバックに笑顔の雪ちゃんで、写真としては完璧です!!


「あー、つむぎちゃん!さくらちゃーん!!」


「ゆきちゃーん!」

「おはよー!ゆきちゃ〜ん!」


タタタタッと走って来たかと思えば雪ちゃんにくっつく小さな女の子二人組。

その様子を何処かで似たような光景を見たことあるなぁ〜と思えば、それは学校での私だなって思い出して、似たもの親子だなって思わず笑ってしまったよね。


「「おはようございます。鈴宮さん。」」


「おはようございます、高峰さん、早坂さん。」


小さな女の子二人組みの後に続いて来たのは、さくらちゃんのお母さんである高峰さんと、同じくつむぎちゃんのお母さんである早坂さん。

どちらのお母様方もピシッとした装いで普段のお迎え等で会う時とは雰囲気も違い、とても新鮮で素敵だったんだ。


「写真を撮ってたんですね。」


「はい。いい天気だし桜も満開で素敵でしたので···。お陰で皆さんが来られたのに気付かないですみませんでした。」


「お気になさらないでください。それに···これだけいい天気でこの桜ですもの。夢中になっちゃうのも分かりますよ。」


雪ちゃんを撮るのに夢中になってたら皆さんが来ていた事に気付かなかった私。

やっちゃったなぁって思って謝ったのだけど、逆に気を遣わせちゃったのかな?

でも、駐車場の方を見ればだいぶ車が増えて来てるんだよね。

今停まっているのは雪ちゃんと同じ卒園生がいるご家庭の車。

あと年中組さんの子を送迎してきた車になるけど、その保護者達は一旦帰るから車も少し停まってまた帰って行ってるの。


「あ、鈴宮さん。良かったら雪ちゃんとのツーショット撮りますよ?」


「あ、いいですか?是非、お願いしたいです。雪ちゃ〜ん。ママと写真一緒に撮ろう〜。」


「うん!」


傍で楽しそうに話をしてる雪ちゃんに声を掛けて、早坂さんのご厚意に甘える事にした私。

こういう時に私達親子2人だと親子で並んで撮るというのは難しいから、どなたかにお願いしないとって考えてたんだよね。

そこでこの早坂さんの申し出は本当にありがたかったの。

早速お礼を伝えて雪ちゃんにも声を掛けてら直ぐに来てくれた。そして立て看板の隣に雪ちゃんと並んで立つ。


パシャ、パシャ···


「あー···やっぱり鈴宮さんは絵になるわ〜。」

「ホントですねー。幼稚園の敷地なのに、そこだけ別世界みたい······。」


カメラを数回切りながら早坂さん達がうっとりしてるんだよね。

その後ろではお父さん方が私の方を見つめてる。

それでも私や雪ちゃんは動じずにサクサクっと撮って頂いたんだけどね。

私はモデルとかも経験してるから撮影に関しては慣れてるし、雪ちゃんも私と一緒ならニコニコで問題ないからね。


「どうでしょうか?確認してみてもらえますか?」


「ありがとうございました。どれどれ········はい、問題ないです。ほんと、助かりました。では今度は私が撮りますね。」


早坂さんからスマホを受け取り、撮りたての画像を確認したの。

そこには桜を背景に、私と雪ちゃんが笑顔で並んで写っていたんだ。

そしてよーく見ると、入園の時と比べて大きくなっている雪ちゃんに気がつくの。

極端に大きくなってる訳ではなくてほんの10センチくらいだけど、それでも並んで立つとその違いが分かる。

難しい言葉や動きが出来たり覚えたりして日々成長を実感するけれど、こうして数年前と比較すると確実に大きく成長してるんだなって、感謝の気持ちで胸がいっぱいになっちゃうよね。


私の写真撮影が終われば今度は早坂さんや高峰さん一家、又は他のご家族の方が写真を撮る番です。

ちょっとずつ人も増えてきて皆さん思い思いに撮影はしてるけど、この看板を入れた撮影は外せないもんね。

それで私も先程撮って頂いたので、代わりに「私が撮影しますよ」って申し出たんだよね。

私以外の方は親子3人で来てる家庭が多いけど、その全員で撮るとなるとやっぱり撮影者は必要になるから、代わり番こって感じで。


先ずは子供達それぞれ1人で撮影して、その後にご家族で撮影。

笑顔だったり緊張してる感じだったりと色々だったけど、これもまた思い出の一つになるんだよねって思う。

そして最後に···。


「最後に子供達だけで撮りましょう! ほらほら皆、そこに並んで立って頂戴。」

「そそ。もうちょっとくっついてもいいよー。ほら桜、もっと笑顔!笑顔よ!雪ちゃんに、ギュ~ってしちゃいなさい♪」


早坂さんと高峰さんのテンションが上がって、子供達で並んで撮ろうってなったの。

雪ちゃんを真ん中にして両脇にそれぞれ桜ちゃんと紬ちゃん。

桜ちゃんは少し表情が硬いけど、雪ちゃんにくっつけば直ぐに笑顔になって······。


パシャパシャ···とテンションの高いお母様方と、今度はお父様方も加わって写真撮影はあと少しだけ続いたんだ。





  ーーーーーーーー




その後、時間まではまだ少しあるけれど雪ちゃん達は教室へ戻って行ったんだ。

そしてま私達保護者は式典の会場である多目的ホールに行くことにしたの。

このホールは入園式やお遊戯会、雨の日の運動活動といったものに使われている大きめのホールなんだよね。

流石に学校の体育館程はないけど私達の教室の2個分くらいはあるから意外と大きいの。

そんなホールへ向かう道すがら、私達は見つけた。


「ほら、見て下さい。子供達の作品ですよ。」


「この写真は初めて見ますね·····。この日の為に撮ったなかな?」


「そうだと思いますよ···。でも良いですね、こういう写真。皆仲よさげで好きですね、私。」


見つけたのはホールの手前の廊下や壁に飾ってあった、子供達の作品や写真だったんだよね。

主に今年度に書いたり作ったりした作品なんだけど、中には私も知らない作品や写真なんかもあったの。


雪ちゃんとの日常会話の中で「今日は何をしたの?」と聞くと、「今日は絵を描いたの!」とか「皆と〇〇して遊んだの!」と教えてはくれるけど、事細かくまでは聞かないから知らない事もあるの。

また作品に関しては最終的には持ち帰ってくるんだけど、それまではどんな物かまでは分からなかったりもするんだよね。

普段のお迎えでは校舎内までは入らないから。


だからこの作品群を見てると、コレはあの時に作ったって言ってた物かな?っていうのが何となく分かるんだ。

そして絵だったり工作だったり色々あって、これは何だろう?っていう作品もあるけど、でもそのどれもが一生懸命作ったっていうのが分かるんだよね。

だから、これらを持って帰ってくると大切にしまっておくの。

絶対に捨てられない、大切な物だから······。


で、その中で特に気にいったのが、とある写真。

それは恐らく幼稚園のホールで撮ったと思われる物なんだけど、皆が輪を描くように仰向けで寝転がってるんだ。

丁度(まる)を書いてちょんちょんって書いた簡易太陽『☼』みたいな構図。

そして撮影者の先生?が上から覗き込む様な構図で、笑顔満開の皆の顔を写してるんだよね。


これがさ、よく分からないけど凄く心に響いたんだよね。

普通に並んで撮った集合写真とかもあって、それはそれでいいんだけど、これは何か違うの···。

本当に見た瞬間に「これ、いい!」って感じてしまったからね。


「この写真、後で頂けないかな······。先生に聞いてみよう···。」


有料でもいいから是非に欲しい。

そう思った写真だったんだ。




そして皆さんと展示物を見つつ、私達はホールへと足を踏み入れたの。

ここも式典仕様へと飾り付けがされていて、少し前に私が学校で準備した様な雰囲気の会場へと変貌していたんだよね。

先ずこちらにも演台があって、その少し離れた正面位置に小さな椅子が横一列に並べてあるの。

ここに雪ちゃん達卒園生が座るみたいで、その真後ろに大人用の椅子が2列ずつ並べられていた。

ここは保護者用の席で、案内によると自分の子の後ろに親が座るみたいなんだ。

演台に向かって座って右側には小さな椅子が並べてあって、ここは年中組の園生が、左手側の出入り口近くには先生方がそれぞれ座る構図みたいです。


私達も案内により、指定されている位置に腰掛けてその時間を待つの。

殆どのご家庭で奥様が前列、後列は旦那さんが座り、旦那さんはビデオカメラのセッティングをしたりしてる人もいて。

私は旦那さんなんていないから1人で全部しなくてはいけないけど、まぁ大丈夫!

今はビデオカメラの性能も良いし、三脚があれば手振れとかもあまり心配要らないからね。

それにお遊戯会とかでも散々撮ってきたから、まぁまぁ上手くなってるつもり···。


「鈴宮さん······お一人で大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫ですよ。心配してくださって、ありがとうございます。それよりも·····あと少しって時間になって来ましたね。」


「そうですね····楽しみでもあるんですけど心配とか寂しさとか、そういう気持ちもあって結構複雑な気分ですね······。」


残り時間、隣の席の方とお話をしながらその時を待つ私。

暫くして先生に連れられて年中組さん達がやって来て、その後に残りの先生方も着席して、いよいよ始まる時間です。


少しだけざわついてたホールが静まりかえり、視線がホールの出入り口に集中する。



「卒園生、入場!」



いよいよ始まった。

雪ちゃんの卒園式が。

男女混合の名前の順で一人ずつ名前を呼ばれての入場。

暫くして雪ちゃんの番になって緊張気味の雪ちゃんだったのだけど、私を見つけて視線があった瞬間に緊張も抜けたみたいで、笑顔になったよね。

そして無事に席へ着席して、他の子が入場を終えるまで待ってるの。

それを後ろから見つめてる私だけど、本当にしっかり出来たねって心の中で賛辞を送ってるんだ。




「卒園証書、授与。」


卒園生全員の入場が終わり園長先生の開会の言葉の後に、メインである卒園証書の授与が早速やって来たの。

これも頂いたプログラムに順が記載されているから来るのは知っていたけれど、果たしてどの様に行われるのか楽しみではあるんだよね。

私の小・中学校時代は一人一人がスーデジに上がり校長先生から証書を受け取ったの。

この幼稚園も卒園生自体はそこまで多い人数ではないから、一人ずつ受け取る可能性も高いけど、果たして······。


「井上遥さん。」


「はい!」


名前の順で一人目の子が呼ばれていい返事を返した。

この子は雪ちゃんより少し背が大きい女の子なのだけど、住んでる地区が違うから小学校は別になるんだよね。

だからお別れが辛いって、遥ちゃんママが言ってたのをよく覚えてるの。


そんな遥ちゃんが立ち上がって園長先生の前に歩いて行ったんだ。

そして園長先生が証書を読み上げてそれを受け取って一礼。

どうやら一人すつ証書を受け取るスタイルだったみたいです。

そして遥ちゃんがまた何かを受け取りそれから座っていた席の反対側、つまり名前の順で最後の子の方に歩き、そこから保護者の前を歩いて席に戻るというやり方みたいです。

また自分の親の所に来た時に証書ともう一つの受け取り物、あれは恐らく証書入れかな?を渡してたんだよね。


それはきっとプログラム上に記載されている、この後に行う予定の歌や踊りといった催し物の時に折っちゃったり汚したりするのを防ぐ意味もあるのかもしれないね。



「鈴宮雪さん。」


「はい!」


厳かな雰囲気の中、順調に進んでいき、とうとう雪ちゃんの番です。

ビデオカメラを雪ちゃんに合わせつつ、その姿を目に焼き付けるの。


「卒園証書、鈴宮雪···卒園おめでとうございます。」


先生から名前を呼ばれて前に立ち、以下同文で省略はされてるけど「おめでとう」と言って渡してくれて、それを受け取る雪ちゃん。

そして他の皆と同じく歩いて来て、私の前で証書と証書入れを渡してくれたんだ。


「雪ちゃん、おめでとう♪ 立派だったよ。」


「うん!」


立ち姿もお辞儀も歩く姿もしっかりと出来ていて、それを一言伝えてあげたんだ。

きっときっと、ここまで出来るまでに沢山練習をしたんだろうと思うし、その努力を褒めてあげたかったんだよね。

嬉しそうに戻って行く雪ちゃんを見つめながら、私は先程受け取った証書と筒を見た。


証書は広げる訳にはいかないから自宅でじっくりと見ることにして、筒の方だけど······これは中々面白い物だったんだ。

私が学校で貰った物は表面も加工されていてしっかりした物だったけど、幼稚園のは()()()()()()()の物みたいで、表面に加工も装飾も何もされてなくて、代わりに園児が其々の物に装飾をしたみたいなんだ。

折り紙を貼ったり色を塗ったり、または絵を描いたりと皆それぞれ個性が出てて、雪ちゃんのも折り紙を貼り付けてカラフルにしてあって、そこにお花の絵が描いてあるの。

とっても可愛い、世界で1つだけの物。

大切に保管しなくちゃね♪


そして式典も順調に進んでいったんだ。

沢山の拍手と共に全員が証書を受け取って、その後に園長先生の祝辞とお世話になった先生方から一言を頂いて。

あとは卒園生のみの歌や踊りといった物の披露や、年中組さんと一緒に歌ったりと、とにかく明るくて楽しいっていう雰囲気の式だったんだよね。

感動してうるっと来ることはあっても、寂しさから来る涙というのは一切なかったから······。



3年間無事に通えて卒園出来た、その集大成。

雪ちゃんをこんなにも大きく逞しく、立派に面倒を見てくれた先生方にとても感謝いっぱいです。


先生。本当にありがとうございました。

そして···卒園おめでとう。雪ちゃん♪

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