ある日の文化祭②-4 高2(挿絵有り)
長い文章になりました。
ご了承ください。
ーー葵 視点 ーー
「お母さん、送ってくれてありがとね。」
「ババ、ありがとー♪」
「いいのよ。雪ちゃんもいるから歩いて行くのにはちょっと遠いだろうし、気にしないで。」
今日、私は私の姪っ子の雪ちゃんと雪ちゃんのママである、私のお姉ちゃんの通っている桜ヶ丘高校の文化祭に遊びに来たんだ。
去年お姉ちゃんに「来る?」なんて言われて私の友人である千紗と夏美を誘って遊びに来たらこれが意外と楽しくって、今年もまた遊びに来たんだ。
「じゃあ、お母さんは行くから雪ちゃんをよろしくね。それと2時にお仕事が終わるから終わり次第迎えに行くから、また連絡をいれるわ。」
「うん、分かったー。お母さんも気をつけてね。」
「ババ、頑張ってねー!」
「ありがと、葵。雪ちゃん。」
そう言いつつ手を振りながら車へ戻って行くお母さんを見送る私達。
そう、今回お母さんは残念ながらお仕事が入っていた為に、文化祭は見送ったんだ。
ただ時間的には問題なかった為、お姉ちゃんの学校まで送り迎えはして貰えたんだけどね。
私一人ならなんとでもなるけど、雪ちゃんと一緒だと自転車で行くという選択肢はとれないからね。
代わりに歩くとなると30分は絶対にかかるし、まぁ、歩いていけない距離ではないけど出来るならそれも避けたい。
だからお母さんに送り迎えして貰えたのは本当に助かったと思ってる。
「じゃ、雪ちゃん行こっか?とりあえず校門で皆と待ち合わせね。」
「うん! ねーね、いこー♪」
早速雪ちゃんと手を繋いで、千紗達と待ち合わせ場所の校門付近まで歩いていくことにした。
集合時間まではまだ少し余裕があるけれど、これは私達が車で来たからであって最寄り駅から歩いてくる千紗達はまだもう少し後なんだ。
「葵ねーね、今日はいっぱいお姉ちゃん達来るの?」
「そうだよ。前に雪ちゃんも会ったことのある千紗と夏美とあと数人、葵ねーねのお友達が来るよ。でも、皆優しいから大丈夫だよ。」
「うん。」
「それに皆来たら最初にママの所に行ってあげるから、雪ちゃんはママと一緒に居ていいからね。」
「ほんと?! わー♪やったーー!! ママ会える〜♪♪」
ママの所に最初に連れて行ってあげると伝えたら、小躍りする様な感じで嬉しさを表現する雪ちゃん。
もうホント、どんだけお姉ちゃんを好きなんだろ?って思わずにはいられないけど、私もお姉ちゃんの事は凄く好きだから雪ちゃんのその気持ちはわからなくもないんだよね。
それに雪ちゃんは子供だし、実の娘だから尚更だよねーと思う。
おまけにあんだけ素敵なママだしさー。
嬉しさ爆発してる雪ちゃんを連れて歩くと、まー目立つ目立つ。
去年私達が来た時もそうだったけど他校の制服を着た女子がいるだけでも目立つのに、そこにこれだけ可愛い雪ちゃん付きだからね。
だから桜ヶ丘高校の在校生や、ちらほら見受けられる一般の方からの色んな視線を受けたんだけど、もうこういうのは慣れっこなんだよね、私達は。
そして今は雪ちゃんの可愛さに目を奪われてる様な感じでさ、驚きと言った感情的な物もあるけれど、寧ろほのぼのとした物を見るような、そんな微笑ましい視線を感じる。
そんな視線を浴びつつ内心ではちょっぴり優越感を感じる事しばし、少し歩いて校門付近までたどり着いた。
流石にまだ来てないよねと確認しつつ、暫く待つ事にした私達。
季節的には朝もひんやりとしてきたけど、幸いにして天気も良かったので日向にいれば太陽の熱でぽかぽかと気持ち良かったりする。
これなら雪ちゃんも寒くはないから風邪をひくことも心配しなくて大丈夫そうだね。
「おーい!葵〜〜!!」
「あっ!夏美〜! こっちこっち!!」
雪ちゃんと他愛もない話をしたり言葉遊びをしたりしながら待つ事ほんの少し。
漸く皆がやってきた。
聞こえた夏美の声に応えるように手を振って、向こうからでも確認は出来てるだろうけどアピールはしておく。
「「「「おっはよー! 葵。」」」」
「おはよう、皆。それと皆、揃って来たんだね。」
「そうそう、そうなんだよ。駅から近いっていっても来たことあるのは私達くらいだから、なら案内がてら皆で一緒に行こうってなってね。」
「そうなの。だから駅で皆と待ち合わせしてたの。」
なるほどねーと思った。
確かにこの高校は駅から近くて迷うことはほぼない筈なんたけど、他校の制服を来て他所の学校に行くのにはよく分からない抵抗があるんだよね。
学校帰りに制服のままお店とかに寄り道をするのとは違ってさ。
たから去年私も千紗や夏美と駅で待ち合わせをして、一緒に行ったなぁって思い出した。
「で、で、葵。 その葵の隣にいる子が例の子??」
「そうだよ。お姉ちゃんの娘で私の姪っ子の雪ちゃん。」
「こ···こんにちは。ゆきです。」
「「「キャーーー♪♪」」」
「かわいいーーー!!!」
「何この子ー?! お姉さんそっくりじゃん!!」
「うわ!マジ天使みたい!! ねね、私の妹にならない?!」
思わず耳を塞ぎたくなる様な歓声があがった。
でもそれも無理はないかと毎度の事ながら思ってしまう私。
だって合流して雪ちゃんを視界にとらえてから聞きたくて聞きたくて仕方がないって、そんな感情を丸出しでソワソワしてたからねー。
そして雪ちゃんを紹介したらもうキャーキャー♪騒ぎ出しちゃって······。
「でも本当にお姉さんそっくりなんだねー。髪も目の色もそっくりよ。」
「ほんとだよね。親子って言うより双子って言われた方が納得出来るレベルだよね。」
「うんうん!」
そんなはしゃぐ皆を微笑ましく見守る千紗と夏美。
まぁ、千紗や夏美はもう知ってるから流石に騒がないけど、去年初めて会って知った時はそれはそれは大層驚いてたからね。
あの時が1年前のこの文化祭での出来事だと思うと、もうそんなに経つんだと懐かしく感じるのと早いなーとも思う。
そんな中······。
「みんなー!ちょっと落ち着いてよ!」
「ちょっと恵美?一体どうしたのよ?」
「そーよ。折角雪ちゃんと触れ合ってたのに······。」
「その気持ちは分かるけどさ、それよりももっと重要な事に気が付いちゃったのよ、私······。」
「「重要な事??」」
はしゃぐ皆の中でただ1人やや冷静だった恵美が何かに気付いたと、他のメンバーを落ち着かせようとしてたんだよね。
何を言い出すのか私も千紗も夏美も、当の雪ちゃんもキョトンとしながら成り行きを見守ってた。
「私さ、葵のお姉さんに子供がいるって聞いて、単純に赤ちゃんかそれに近い乳幼児位を想像したのね。お姉さん20歳って言ってたから、想像したと言っても精々1,2歳位だけど······。」
「確かにお姉ちゃんに子供がいるとは言ったねぇ〜。」
今回、文化祭に遊びに行くにあたって初めて参加の皆には『お姉ちゃんの子供が来るよ』とは言ってあったんだ。
その時もその時で大層驚かれたけど······。
「それが何よ······。いざ会ってみたら大きすぎない?」
「そう···言われればそうかも·········えっ?! お姉さん20歳なんだよね??」
「そうだよ。今年20歳になったねー。年明けに成人式予定だよ。」
「うわっ! マジかー。」
私のお姉ちゃん。
ピシッとした洋服を着てると20歳以上に見られる時もあれば、その逆にもう少し若く見られてしまう時もあるんだよね。
服装やその時の雰囲気でどっちでもとられるから、ある意味では不思議な魅力がある人。
だから年齢を聞いて驚く人もかなり多いいんだよね。
「ねぇ、雪ちゃん。雪ちゃんは今、いくつなのかな?? お姉さんに教えてくれる?」
雪ちゃんの前でしゃがみながら年齢を聞く恵美。
そしてその成り行きを見守る他の皆······とは言っても千紗と夏美は知ってるから、どちらかと言うと恵美達の反応を面白可笑しく楽しんでるみたいなんたけどね。
「ゆきはねー、今年6歳になったのー。」
「6歳!? じゃあ、雪ちゃんは来年小学校行くのかな?」
「うん!そうだよー。 もうランドセルもお家にあるのー♪」
「そうなんだ〜。それは良かったねー。」
「うん!」
「うわわわ······。確かに大きいとは思ったけど、まさか6歳とは······。」
「······だね···。子供がいるだけでも驚きだったのに、まさか来年小学生になるとはねぇ〜·········。」
さっきまであれだけ騒がしかったのに驚きを通り越すと人って静かになるんだねと、思ってしまったのは内緒。
そんな中、雪ちゃんはランドセルで思い出したのか恵美に「この前小学校に行ってきたんだ」とかって、嬉しそうに話をしたりしてる。
「千紗に夏美は知ってたの?」
「え?それは知ってるよ。だって初めて会ったのは去年だからねー。」
「そうそう。その時は今の恵美達みたいに、それはそれは驚いたけどねー。今となっては懐かしいよ。」
そうそう。
その時は2人も大層驚いてた。
で、色々と質問攻めとかあったり千紗がお姉ちゃんの虜になったりだとか色々とあったけれど、今は仲良くなってる。
「ささ。立ち話も一旦お終いにして移動しよ?」
「そうだね。雪ちゃんもお姉ちゃんの所にお届けしないと行けないからさ。」
「「おっけー!」」
「はーい。」
「ママの所行く〜♪」
合流してからまだそんなに時間は経ってないけど、何時までもここで話をしてられるそんな雰囲気があったせいか、夏美が話を一旦区切ってくれた。
そして私もそれにのっかって当初の目的の1つである雪ちゃんをお姉ちゃんの届ける、その目的を遂行するんだ。
「キャ〜〜〜♪ 見てあの子ー! かわいいよー♪♪」
「うん!! それにあの髪色······鈴宮先輩にそっくりねー!?」
「ほんとほんと! あっ!? もしかして、あの子が先輩の子供何じゃない!?ほら、前に子供がいるって言ってたし。」
「うん、それ、私も聞いたー。だから間違いないよ! だってあれだけそっくり何だもん!!」
昇降口から校舎内へと入って歩けば、各クラスや廊下を歩いてる在校生から黄色い声が飛びまくってくる。
その大半は雪ちゃんの愛らしさと可愛さに対する反応なんだけど······。
「雪ちゃん凄い反応だねー。」
「そうだねー。」
「まー、私達も一目で虜になっちゃうくらい可愛いんだから、それは仕方ないよねー。」
「うんうん。それにさ、結構な人数にお姉様の子って認識されてない??」
千紗の言うようにここまですれ違う人たちの中で、結構な人達からお姉ちゃんの子って認識・思われてるなって思う。
私の記憶が確かなら、雪ちゃんがこの学校に来るのは今回で2回目の筈なんだけど······。
「まー、お姉ちゃんは雪ちゃんの事を隠してないからね。」
「そうなんだ?」
「うん。まぁ······中学卒業までは訳ありで隠してたけど、それ以降は普通に出歩いてるからね。それとテレビとかでもカミングアウトしてたし、だから余計に知って子は多いいのかも?」
そう。
産んだ時は隠してたお姉ちゃんだけど、今はごく普通に雪ちゃんを連れて歩いているからね。
だから知ってる子は知ってる筈だし、それに私もそうだけど若い子は噂話とが恋話が好きだから。
それが同じ同級生が『実は子持ちでした』って言うセンセーショナルな事なら、仮に噂話としても十分に広がる要素はあるってもんだよね。
それこそ誰と誰が付き合ってるとか、そういう恋愛話とか以上に盛り上がる内容だし。
「ねぇねぇねぇ!! そこのお姉さん達! こっちにも寄って行ってくれないかな?」
「あ、こっちでもいいよ。ソフトドリンクサービスしてあげるからさ!!」
「あ!ごめんなさーい! 先に行くとこあるんで、帰りに寄らせて貰いますねー。」
「ごめんねー。」
注目を浴びるのは雪ちゃんが大半だけど、うちらも何気に負けてはいないよ。
まぁ、全体の3〜4割くらいだけどクラスの展示に寄って行かないかい?なんて声を掛けてもらってるからね。
「ほら、私達も負けてないよ。」
「そうだけどさー·······、でも何で言うんだろ? 何か恥ずかしいと言うか、やたら注目されるよね······」
あー···分かる分かる。
去年、うちらもそうだったからねー。
「うちらも去年3人で来たけど、凄い注目されてたよ。」
「そうそう。きっと向こうからしたら見慣れない制服の女子がいるから、否が応でも見ちゃうんじゃない?」
「そういうもんなの?」
「多分ねー······。特に男子とかだと、それついでに可愛い女子を探してたりとかしてね?あははは······。」
私と雪ちゃんの後ろでそんな話し声が聞こえる。
でもそう言うのもあながち無くはないのかな?なんて考えたりもしてね。
だって先程から男女問わず「遊んていってくださーい」とかって声を掛けられるんだけど、一部の男の子には変な視線とかが混じってるんだもの。
内容は文化祭だからきちんとしたのだと思ってるけど、そういう男子がいるとちょっと警戒しちゃうよね。
私達だけなら兎も角、今は雪ちゃんもいるからさ。
そしてそんな注目されまくり声を掛けられまくりの中を進む事、5階のお姉ちゃんのクラスがある階までやって来た。
「雪ちゃん、あそこがママのいる教室だよ。」
「あそこ!?」
「あっ!!?」
そう伝えるなり私の手を離して、その目的の教室へと入っていく雪ちゃん。
そして中から「ママぁーー!!」って、嬉しそうな雪ちゃんの声が響いてくるのだった。
ーーーーーーーーーーー
「はぁ······。それにしても本当に賑やかねー。」
「校舎内もそうだけど、外の地元の方の販売ペースも賑わってたよねー。」
「だね。まさか文化祭で野菜とか工芸品とか売ってるとは思わなかったし、この豚汁もかなり美味しいよ♪」
今、私達は校舎内を一通り見て回った後でお昼を兼ねて小休憩をしてるんだ。
途中で買った焼きそばと豚汁でお腹を満たしながらね。
ちなみにこの焼きそばは調理部の作った物で、豚汁は地元の方々の販売ペースで作ってたのを頂いてきたんだよね。
お値段は去年もそうだったけど、よくあるお祭りの出店の値段よりはかなりリーズナブルで、それでいて結構美味しいんだ。
「でしょ! 去年来た私達も驚いたんたけどさ、お姉ちゃん曰く1日しか開催しないらしいから、皆気合いが入ってるんだって。」
「へぇ〜。確かにそれだと2日間開催するよりかは、力の入れ具合が違うかー。」
「こう楽しいのなら、私達の高校でも文化祭をやればいいのにねぇ?」
もぐもぐしながらも私達は話を続ける。
「でもお姉ちゃん曰く、こういうのって準備が凄く大変なんだって言ってたよ。」
「そうなの?」
「うん。まずクラスで何をやるのかを決めないとでしょ?やり方は色々とあるんだろうけど、お姉ちゃんはアンケートを匿名で集めて、そこからクラスの参加人数的に実行可能な物をピックアップして決めたんだって。この参加人数ってのは部活の方とかでクラスの出し物に参加出来ない人もいるから、そういう把握も大事なんだってさ。」
「うわぁ······。それは確かに大変そうだわ······。」
「うん。このプログラムを見るとさ、演劇部とか吹奏楽なんかは演目が後半だから、ほぼクラスの参加は無理だよね。」
「なるほどー。そういう意味での人数把握なのか······。」
何時だったかお姉ちゃんが文化祭の裏話的な事を話してくれたのを、私が皆に伝えてるんだけど、感心されちゃった。
「後は決めたら決めたでどのようにするのか詳細を詰めたり、教室内を装飾する為に装飾品を皆で早いうちからコツコツと作ったりするゆだってよ。だから何をするのかを早く決めて動かないと、飾り付けを含めた全ての事があっさりした物になっちゃうんだって。」
「あぁー、なるほど! それで豪華な所もあればサッパリとしたシンプルな作りのクラスもあったのか〜〜······。」
「そういう意味だとお姉様のクラスは凄かったよね。廊下側も含めて壁から天井まで綺麗で賑やかな飾り付けにしてあったしさ。」
そうなんだよねー。
そういう意味ではお姉ちゃんのクラスは私達が見てきた中では1,2位を争える位の素敵さだった。
「じゃあさ、葵。」
「ん?」
さっきまでの明るくて楽しげなトーンとは変わって、真面目で真剣そうな話し方になった恵美。
「そんな真面目でしっかりしたお姉さんに、なんであんな大きい子供がいる訳? 1,2歳ならまだ理解できるけど6歳児だなんて······計算すれば14歳位で産んだ子でしょ?? ということは、13くらいでそういう行為をしたって理解出来るわけで······とてもじゃないけど、そういう事をする様なお姉さんに見えないんだけど······。」
真剣そうな話し方になったから何かな?と身構えたけど、そのことか〜って思ったよね。
まぁ確かに普通に考えれば、あの歳で子供がいたとしても2歳くらいがいいところ。
でも雪ちゃんは6歳で、14歳で産んだとなると普通じゃないよね。
「その事ね。確かにお姉ちゃんは13歳で身籠って雪ちゃんを産んだ訳だけども、何もそういう事をした訳じゃないんだよ。」
「「「えっ??」」」
「お姉ちゃんはある日突然妊娠したんだって。そしてそれに気がついた時はもう堕ろせるかどうかのギリギリのタイミングで·········。」
私は私が話せる範囲での事を皆に話した。
勿論これは私が大きくなってから、お姉ちゃんを含めた家族から聞いた話しなんだけどね。
当時の私は9歳くらいの年齢で、雪ちゃんが産まれて『妹が出来たー♪』ってただ喜んでいた、そんな子供だったから。
それが大きくなっていざ聞いてみたら、お姉ちゃんの苦悩や葛藤、不安で泣いた事を知った。
そして雪ちゃんを産むと決めて誓った事。
両親に土下座をして許しを得た事。
産んだ後の猛烈な努力。
私が能天気に楽しく遊んでいたそんな裏側で、お姉ちゃんはそんな壮絶な体験をしてたんだと知ったんだよね。
辛かっただろうに苦労しただろうに、そんな中でも当時の私には何時もと変わらぬ優しいお姉ちゃんで居てくれて、お姉ちゃんの苦労なんてこれっぽっちも気付けなかったんだ。
「·········そういう理由で、今のお姉ちゃんと雪ちゃんがいるの。」
「そんな事があるんだ······。」
「うん。まぁ私も最初はそんな事ってあるの?!って思ったけどさ、DNA検査でお姉ちゃんの遺伝子しか出なかったらしいから、それは間違いないらしいよ。」
「凄いね······。」
「······うん。まさかの父親そのものがいませんでしたとか······まぁ、事件性がなくて良かったけど、こう言うのを奇跡っていうのかなぁ??」
「まー、結果的にはそうなるんじゃない?仕組みとかを調べてるらしいけど、これと言って何かが判明したとかそう言うのは分からず仕舞いらしいし······。」
お姉ちゃんがいかに頑張って素敵なママをやってるかを話しつつも、話の根幹に近い部分も私は話ししていくの。
この手の話になると相手は?という話に必ずなるし、そこはお姉ちゃんの名誉の為にもそういう行為をしてないよ!!って事を私は強く強調するの。
それにお姉ちゃんはこの手の話も隠してもいないから、ダメとも言われてないしね。
それに検査の事も継続的に行われてるけど、どうしてその様な事が起きたのかといった事は今も変わらず謎のままになってるらしいんだ。
初期に色々と精密検査をしたらしいけど、お姉ちゃんの体の中に実は精巣がありました!なんていう事はなく、また卵子もごく普通で正常な物だったらしい。
だからどうしてその様な事が起きたのか解明は未だに成されておらず、奇跡と言う事しか言えない事に今の所はなってるらしい······。
そしてそんな奇跡で誕生した雪ちゃんも当然精密検査とか受けたけど、そこはお姉ちゃんと同じ性質をそのままそっくり受け継いだという事が判明した。
見た目の事もそうだけど、アルビノによくある視力の事とか太陽絡みの問題だとか、そういったデメリットはないですねってなって。
良かったねーってつくづく思うけど、でも今後も何が起きるか分からないから定期的に検査は受けてるんだよね。
「はぁぁ〜······。」
「ため息なんてついちゃって、どうしたのさ?」
「いやー······、葵のお姉さんやその娘さん······雪ちゃんに会えたのは凄く嬉しかったんだけどさ、怒号の内容だったなって思ってねー·····。」
「そうそう。まずあんなに大きい子供だとは思ってもなかったし、そして葵の話てくれたお姉さんの事。情報量が多すぎて頭がパンクだよー。」
「気持ちは分かるよ! うちらもそういう状態になったからねー。あはは······。」
「うんうん。でもまぁ······お姉様幸せそうだからさ、結果的にはよかったのかな?って思うんだよね。」
三者三様とでも言うのか、皆が其々異なった反応を示してくれる。
初めて知る恵美達はどっと疲れた様な仕草をして、もう既に知ってる千紗達はその当時の自分達を思い出したのか苦笑しつつ、3人の反応を微笑ましく見てるんだ。
「そうだね、千紗の言うように結果的には良かったって私も思うよ。見ての通りお姉ちゃんと雪ちゃんはとっても仲良しで幸せそうだし、そんな家族の私達も楽しいし幸せな毎日だからね。」
たった1人、赤ちゃんという存在が家族に加わったという事だけで、元々明るかった我が家がさらに明るく賑やかになったうちの家庭。
そしてその赤ちゃんが今日まで特に大きな病を患うという事もなく元気にいてくれる、その事がまた嬉しく感じるんだよね。
「いいよねー、葵は······。」
「そう?」
「うん!あんな素敵なお姉さんに恵まれてさ。」
「そーそー。そんでもって可愛い雪ちゃんまで出来て······メリットだらけじゃん。まぁ、比較されて辛いとかってのもありそうな気がするけどさー。」
「ん〜〜······それはないかなぁ······。私達ってそもそも姉妹にみられないからね。だから学校とかでも先生に比較とかはされないよ。逆にあのお姉ちゃんと仲良く歩いてたりするのを、羨ましそうに見られる事の方が多いいかな。」
「そ、そうなんだ。」
「うん。本当にメリットだらけだね!」
皆に言われた事だけど、この手の事は私にメリットばかりでデメリットはほぼないんだよね。
優れた兄弟姉妹を持つと比較されて辛いとかって聞くけど、さっき話したように私達は初見では姉妹に思われない。
だから小・中学校では姉妹と知ってる人は少なかったし、『鈴宮』という苗字も珍しい部類だけど、同じ苗字なんてそれこそ沢山いたからね。
私のとこだと『佐藤』『鈴木』『高橋』に『田中』。あと『中島』なんかも結構いた。
だから苗字くらいで姉妹と悟られ比較なんてされた事はないだ。
そしてメリット。これはもう沢山ある。
さっきの歩き云々もそう。雪ちゃんの事も。
でも1番大きいのはご飯だけど、兎に角美味しいんだよね。リクエストをすればそれに応えてくれるし、和洋中様々な料理を作ってくれる。
お姉ちゃんが作れない時に作ってくれるお母さんのご飯じゃ、もう物足りないんだよ······。
そんなご飯を毎日食べられるのはこれまた幸せなんだけど、今の季節だとお風呂もまたいい♪
夏場とは違って毎日お湯を張るようになって、今でもたまに雪ちゃんを含めた3人で入るんだけど、その時のお姉ちゃんの裸体を眺めるのが密かな楽しみなんだよね。
(うふふふふ·······)
「ねぇ·····葵?」
「ん? なーに??」
お姉ちゃんの事を考えてたら突然夏美に声を掛けられた。
「あんた、また顔に出てるよ? 何かお姉さんの事を考えてたでしょ?」
「う、うん。メリットとかって言われたからそれについて色々と考えたんだけど······。」
「それは別にいいんだけどさ、今の顔はちょっとヤバイよ。まだ私達だからいいものの、他の人に見せたらちょっと引かれるくらいのあれがあったから気をつけなさいよ?」
「マジかー······。気を付けてるつもりだったんだけど······気を付ける。ごめん、ありがとね。」
私ってばお姉ちゃんの事を考えると顔に出るみたいで、以前に指摘されてからは気を付ける様にしてたんだけど、また出たらしい······。
しかもちょっと危ない表情をしてたとか······。
ヤバイ、ヤバイ。
色だけ違って後の顔立ちとかはお姉ちゃんに似てるって言われてるんだから、そんなだらしない顔をしたらお姉ちゃんまで汚れちゃうよね。
ほんと気を付けなくちゃって思うけど、でもやっぱお姉ちゃんなんだよなぁー······。
「ささっ! 食べ終わったら体育館に見に行こう!午後は演劇とか吹奏楽とかあるから見ものだよ!」
「あ! 強引に話を反らした(笑)」
「だね! これは逃げたね。」
「うんうん。これ以上お姉様で墓穴を掘られたくないからっていう、そんな意図だね。」
「そこ!うるさいよ!! もう、お姉ちゃんのお話は一旦お終いね!」
「「「「あはははは♪」」」」
お姉ちゃんと雪ちゃんの事で、驚かして驚いて。
そしてそんな楽しい文化祭は、午後の部へと進んで行くのでした。




