ある日の文化祭②-3 20歳高2
「ママぁーー!!」
「いらっしゃいま·······あ、雪ちゃん! いらっしゃーい♪」
「うん♪来たよー♪」
開きっ放しにしている教室の入り口から元気な女の子の声がしたかと思ったら、私に勢いよく抱きついてきたその子は私の娘の雪ちゃんだった。
勢いがよかったのでふらつかない様にしっかりと足で踏ん張って受け止めてから頭を撫でてあげて。
そんな風にされてる雪ちゃんも私の制服越しではあるけれど、私のお腹の辺りに顔を埋めてるんだよね。
「ママの香り······いい匂い〜♪」なんて、小さな声が聞こえたりもした当たり、かなりご満悦なご様子。
「あっ!? 雪ちゃ〜ん♪よく来たねー。」
「わー♪ 雪ちゃんだー!! 相変わらず可愛いねぇ♡」
雪ちゃんのご登場で盛り上がる、この時間を私と共に担当してる茜ちゃんとみっちゃん。
茜ちゃんはもう言わずとしれた仲だからそこまで極端に反応を示す感じではないけれど、みっちゃんはやはりと言うかそうではなかったよね。
最後にあったのは林間学校での帰りの間際だし、それもほんの数分とかいう感じだったからさ。
だから今も私に抱きついてる雪ちゃんを見ながらきゃっきゃしてる。
「葵も雪ちゃん連れてきてくれてありがとね。それといらっしゃい。皆も今日は来てくれてありがとね。楽しんでいってね。」
「いいって気にしないで、お姉ちゃん。それに雪ちゃんとここまで来るのも面白かったから寧ろオッケーだよ♪」
「そうなの?それならいいだけど······。」
手をピラピラと振りながら「ねー♪」なんて、後ろにいた千紗ちゃんと夏美ちゃんに言葉を掛ければ、掛けられた2人も苦笑いしながら頷いてるんだ。
「お姉様、おはようございます。また遊びに来ました。」
「おはようございます、お姉さん。今日は大勢でお邪魔します。」
「いらっしゃい、千紗ちゃんに夏美ちゃん。それと皆も。ゆっくり楽しんでいってね。」
「「「「はい!」」」」
葵のお友達の千紗ちゃんと夏美ちゃんに挨拶とお礼を伝えて、お互いに頭をペコペコ。
そんなやり取りから分かるように、今回葵は仲良しの千紗ちゃん夏美ちゃんに加えてお友達を3人程連れてきたんだよね。
私は運営側ではないけれど、この高校の学生としてはお客様が沢山来てくれるというのは嬉しくもなる。
だってお客様が多いい方が、文化祭としても活気が上がって盛り上がるし楽しいじゃない。
だからマナーを守った上で楽しんでいって欲しいなと思うんだよね。
「じゃ、お姉ちゃん。私達行ってくるね。」
「はーい。最後は体育館で鑑賞だっけ?」
「そうそう。一通り見たら体育館に行ってると思うよ。まー、どっちの体育館にいるかは分からないから、何かあったら連絡先して?」
「了解!」
そう言うなり葵達は皆で仲良く私達の教室を後にして、文化祭を見て周りに行ったよね。
「あの子がこのはちゃんの妹さんなんだー。」
「そうだよ、みっちゃん。髪色は違うけど顔立ちとかはこのはちゃんに似てるでしょ?」
「確かに·······。目元とか顔のラインなんかは似てるよね。」
「性格は結構違うけどねー(笑)」
見た目は明らかに日本人と外国人みたいな私達だけど、目元とか顔立ちは似てるねって言われる、そんな私達姉妹。
それでも初見だと姉妹だとは思われないけど、そんな葵達とは最終的には体育館で落ち合う事にしてるんだ。
校舎側やグラウンド等の各出し物・催し物も楽しいけど、それ以上に体育館で行われるのは見ていて楽しいからね。
吹奏楽系やダンス系の催し物で部活として行っている所は、活動として大会優勝とかそういうのを目指して活動してるからね。
県大会⇒関東大会⇒全国大会。
大会によって差はあっても一般的にはそんな流れで大会は進むし、学校によっては全国大会常連っていう所もあるくらいだから。
そういう訳で部として活動してる所の催し物は本物で、また演劇部やその他の催し物だって引けを取らない実力や面白さあるの。
そんな催し物を去年見て喜んでくれた葵達が今年も見ない筈はない訳で、そしてそれは私達にも当てはまるんだけど······。
「どっちの催し物を見るか悩むよねー。」
「そうなんだよねー。どっちも捨て難いんだけど、両方は見れないし困ったもんだよね。」
「「うんうん。」」
そう。
この学校、体育館が2つあるから其々の体育館で催し物をしてるんだけど、どっちを見るか悩むんだよね。
プログラムは私達も来校してくれたお客様も持ってるんだけど、それをにらめっこしながら「どっちを見ようか?」と悩むんだよ。
吹奏楽系やダンス、演劇なんかは私的には見たいけど、お笑い系も意外と面白かったんだよね。
そしてそれが意外と雪ちゃんにも受けてさ。
「私はお笑いは外せないかな。雪ちゃんが去年楽しんでくれたからね。」
雪ちゃんの頭をなでなでしつつ、私は茜ちゃんとみっちゃんにそう伝えた。
「じゃ、それは必ず見るとして後は······臨機応変にいこっか?」
「そうだね。それでいいよー。」
そういう感じてお笑いライブは見ることにして、後については臨機応変で見ようって事になったんだ。
それは私達がこの後交代要員が来たら一緒に見て周ろうって約束してて、みっちゃんは途中で一旦抜けるものの用が終わり次第再合流になってるんだ。
茜ちゃんは部活を辞めて私と同様にフリー状態だから、本日は終始一緒なんだけどね。
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「おーい!交代きたよー!」
「お待たせー!!」
「あっ!来た来た♪」
雪ちゃんが来て、そここそ時間が経った頃に次の交代である男の子達が来てくれた。
「うわ!うちらのクラスに子供がいる·······。しかも馴染んでる···。」
「そんでもって、話通り鈴宮さんに超そっくりで可愛いんだけど?!」
そんな感じで驚く男の子達。
「でっしょー!? もぅ、ほんっとーに可愛いんだから!!」
「いいよね〜。私もこんな妹とか子供が欲しくなっちゃうよ!」
「うちの妹は私と歳が近いのもあって生意気だし、ここまで可愛くはないからなあ·····。」
そう交代に来た男の子に返事を返すのはみっちゃんと、たまたま手が空いてて雪ちゃんが来たと連絡を貰ってこちらにやって来た、女の子数名。
「髪もさらっさらでキレイで、本当にちっちゃいこのはちゃんって感じたよね♡」
「いいなぁ······。私も膝だっこしたいよ······。」
雪ちゃんを膝上に乗せたみっちゃんがうっとりしながら雪ちゃんの髪を撫でていて。
そんな状態のみっちゃんを羨ましがる声もあがったりしてるけど、膝上に座ってる雪ちゃんは特に気にするでもなく、大人しく撫でられてるんだよね。
「じゃ、後はお願いね。私達がやってた限りだとこれといったトラブルもなく終わったから大丈夫だとは思うんだ。」
「おう!了解。」
「あいよ!」
茜ちゃんがパパっと引き継ぎを済ませてきて。
最近の茜ちゃんはこういうやり取りなんかも出来るようになって来たから、最初の頃と比べると成長してるんだねって感じてしまうんだよね。
「さ、行こ!このはちゃん、雪ちゃん、皆!」
「「「「はぁ〜〜い。」」」」
「じゃ、行くよ。雪ちゃん。」
「うん!」
ピョン!ってみっちゃんの膝の上から降りた雪ちゃんが、早速私と手を繋いできた。
ちっちゃくてすべすべの手。
(うふふふ♪ かわいい♡)
雪ちゃんからしてみれば何てことのない、普段通りの行動なんだろうけど、私からしてみれば決して飽きることのない可愛い仕草に映るんだよね。
それに普段ではあり得ない学校という場で、雪ちゃんに会えているという特別感なんかもプラスされてるからさ。
「ああぁぁ〜〜······雪ちゃんの温もりが消えた·······。」
「まぁまぁ、それは仕方ないって。諦めなさいな。」
「そーそー。それよりも膝抱っこ出来た幸運をもっと喜ぶべきよ!」
雪ちゃんが離れて落ち込むみっちゃんに対して励ます皆。(いや······あれは励ましてると言えるのかな??)
そんなやり取りもありつつも、教室を出ようとした所で······。
「あの、鈴宮さん。」
「ん?どうしたの?」
次の代わりで来た男の子2人のうちの1人、井口君から控えめに声を掛けられて振り返った私。
「えーと······俺もその······鈴宮さんの娘さん、雪ちゃんを撫でてもいいかな?可愛くってさ········。」
普段とは違った控えめな声でもじもじとそう話す井口君はかなり珍しく、私達も驚いてる。
「あー·····それはも「ヤッ!!」···という訳で、申し訳ないんだけど遠慮してもらえるかな。」
「そっか···そうだよね。ごめん!」
井口君の申し出に私が断ろうとした所で、私の声を遮って雪ちゃんからの拒否の声が上がった。
そして私の制服をつ掴みつつ後ろに隠れるという仕草までしてるんだ。
「井口君。雪ちゃんが可愛いのは分かるけど、いきなり撫でたいとかは言っちゃダメなんだよ!」
「そーそー。いくら小さいって言っても女の子なんだから、そんな子にそんな事をしたら案件になっちゃうんだからね!」
「それにうちらだってそこまで親しくなれてないのに、井口が出来る訳無いでしょー。」
「お······おぅ······。」
皆からもちょっとしたお怒りのお言葉が飛んで、すっかり消沈してしまった井口君。
決して悪気とかがあって言ったわけではないのは、今までのクラスメイトとして付き合ってきた中での経験で分かってはいるんだけどね。
でもやはり母親として、特に異性の男性からのそう言ったのは許容はできないんだ。
だから断ろうとしたんたけど、先に雪ちゃんから拒否の声が上がっちゃった。
「ごめんね、井口君。私も井口君が純粋にそうしたいと思って言ってくれたのは分かってるんだけど、母親として男の子からその手の申し出の許可はちょっと出せないんだ。本当にごめんね。」
「あぁ! いや、大丈夫大丈夫! それより俺の方こそごめん!! 変なこといっちゃってさ。それで鈴宮さんを不快にしてしまって申し訳ない!」
私より先に雪ちゃんから声が出たけど改めて私から井口君に謝って、その井口君もペコペコと頭を下げてくれて。
そんなやり取りをやってから私達は教室を後にしたんだ。
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「もう大丈夫だよ、雪ちゃん。」
「うん。」
廊下に出て少し進んだ所で私の制服を握りしめてた雪ちゃんに優しく声をかけた。
そして雪ちゃんの返事と共に改めて制服から手と手に繋ぎ直して仕切り直し。
「それにしても、何で井口はああ言う事を言うかねー?! ほっっんとーに信じられない!」
「まぁまぁまぁ、落ち着いてよ、さっちゃん。このはちゃんもああ言ってたんだから、とりあえずは完結だよ。」
まだ少しプリプリで怒ってるご様子のさっちゃんを茜ちゃんやみっちゃん達が宥めたりしてるの。
「そうだね。私としてもこの件は一先ずお終いだから、さっちゃんもそんなに気にしないで。でも、気に掛けてくれてありがとね。」
「う、うん。」
「さてさて、じゃあ、知り直して文化祭を見て楽しもう!」
「「「おーー♪」」」
私からもさっちゃんへ気持ちを伝えて、この件はお終いという事で落ち着いてもらうことにしたんだ。
私としても別に何かされた訳ではないから、お互いに納得が出来てればそれでいいとも思ってはいるからさ。
そして文化祭を楽しむ事にする。
それが本来の楽しみだからね。
「でもさでもさ。実際の所、皆はどんな感じなわけ?さっきみっちゃんが膝上に乗せてたけど、それって出来てるの?」
「いや? 出来てないけど······。」
「同じく。だって雪ちゃんに会うのはこれで3回目だよ。流石に無理っしょ?」
「私だってなんで雪ちゃんが乗ってくれたのかは謎だよ?たまたま試しに言ってみたら来てくれたってだけで······。なんでかなー?このはちゃん??」
「さあ?それは私も分からないかな······。」
話はちょっぴりだけ変わって雪ちゃんの膝上話になったんだけど、正直なんで雪ちゃんがみっちゃんの膝上に行ったのかは私には分からない。
会った回数的には茜ちゃんを除く他の皆と変わらないから、そこの差ではないんだよね、きっと。
だから雪ちゃんなりのみっちゃんへの雰囲気とかそういうのを感じ取って乗ったのかなー?なんて、考えては居るんだけども。
「ねぇ、雪ちゃん。何でさっき、みっちゃんお姉ちゃんの所に乗ったの?」
「ん〜〜〜·····分かんない??」
「そっか。分からないか〜。じゃあ、仕方ないね。」
聞いてみてはしたものの、なんとなく予想した通り分からないと言われちゃって。
そうなるとやはり雰囲気とかそういうので何となく乗っちゃったっていう線なのかな??
「乗ってくれた理由が分からない······??」
「あぁ、ごめん、みっちゃん。雪ちゃんとしては嫌いとかそういうのじゃなくて、単に感情が難しくて説明が分からないだけだと思うの。」
ショックを受けてる様な感じのみっちゃんに、慌ててフォローを入れた私。
「大丈夫だいじょーぶ、このはちゃん。普通に考えれば数回会ったたけの私を好きになる事がないくらいは分かるからさ。だけど、まー、あれだね、理由は分からなくても乗ってくれた事実はあるわけだから、それだけでもOKだよ♪」
「そーそー。みっちゃんでそれなら、私達でもワンチャンスあるじゃない?」
「確かにそうだね。私達でも膝上とか乗ってくれる可能性はあるもんね!」
意外と皆の神経は丈夫だった模様で一安心?
みっちゃんがいけたなら私達でも大丈夫だよねーって盛り上がって、雪ちゃんに「こっちのおねーちゃん達にも来てもいいからね〜♪」なんて、声をかけてるくらいだからね。
全く······どんだけ膝上に乗せたいのか·········。
「そういえばさ、茜ちゃんは雪ちゃんとはどうなの?」
「私?」
「そうそう。このはちゃんと朝一緒に来る時は顔を合わせてるんでしょ?なら仲良しなのかなー?って。」
「ああ、なるほど。確かに私は雪ちゃんとは仲良しだよ。膝上乗せとかもした事あるし、手を繋いで歩いたりした事もあるからね♪うふふふふ♡」
「「「おぉ!!」」」
確かに茜ちゃんと雪ちゃんは仲が良い。
実際には先程話した事のそれ以上もあって、私の家に来た時は一緒に遊んでくれたり本を読んであげたりだとかもしてくれてるの。
だから私が晩御飯の支度をしてる時は凄く助かってるし、ありがたく感じてるだ。
ちなみにだけど3人で一緒にお風呂なんていうのも、実はやってたりはするんだ。
そんな茜ちゃんと雪ちゃんの関係性だけど、当然ながら最初の頃は違った。
朝一緒に学校に通うようになった時が始まりだけど、その頃は雪ちゃんも警戒心MAXだったからね。
そして少しずつ緊張を解いて警戒心もほぐして仲良くなっていった。
毎日少しづつ積み重ねていった結果の、今の茜ちゃんと雪ちゃんの関係性なんだ。
だからよく分からないながらも乗ってきたみっちゃん達が、雪ちゃんに好意を口に出して言ってもらえるのは、まだまだ先の事だとは私は思うんだよね。
とは言いつつも、膝に乗ったのは私も内心驚いてはいたんだけどさ。
「さすが茜ちゃんって言った所だね!」
「ほんとねー。ねぇ、雪ちゃんと仲良くなる秘訣とかないの?」
「えぇー?!秘訣ってそんな······。」
茜ちゃん達は茜ちゃん達で話が盛り上がり、雪ちゃんは私と手を繋いであっを見てはニコニコ、私を見てはニコニコと目を輝かせていて。
最終的には体育館だけど、はてさて、どういう風に見て周ろうかしら?
そんなこんなで2回目の文化祭は進んで行くのでした。




