ある日の文化祭②-2 高2(挿絵有り)
「このはちゃーん。ここ、こんな感じ〜??」
「うん、良いんじゃないかなー。そんな感じでどんどんやっちゃていいよー。」
「オッケ〜!」
ワイワイ、ガヤガヤと賑やかな声が教室と廊下から聞こえてくる。
ここをどういう風に作ろう?とか又はどう飾ろうかな?といった、それはそれはとても楽しそうな声で、皆で試行錯誤しながらの作業。
これは今日の朝からの光景で私達の教室は勿論の事、私達のいる校舎全体やグラウンド、中庭に正門付近といった至る所でそんな光景が見られるんだよね。
それもこれも、実は明日が私達の桜ヶ丘高校の文化祭の日だから。
その前日に当たる今日は、丸1日を使って準備をしてるという訳です。
そんな桜ヶ丘高校の文化祭。
私達2年3組の催し物は、ミニゲームに決定したんだ。
ミニゲーム?何それ??って思うかもしれないけど、要はお祭りとかショッピングモールの通路なんかで何かの宣伝がてらにやってる子供向けみたいな遊びをやろうって事になったんだ。
内容は輪投げ、ボール入れ、ダーツその他諸々で、比較的簡単に用意出来て運営もそんなに人数を必要としないから。
今回も去年と同様に皆から企画のアンケートを取って、その中から採決をとった訳なんだけども、1番のネックはやはり人数なんだよね。
私のクラスはクラスメイトが去年とほぼ一緒だからさ、どのくらいの人数が部活の方に駆り出されるのかってのがある程度目星がついてたんだ。
まぁ茜ちゃんが部活を辞めた事でフリーにはなったけど、3年生が引退したので私達2年生が部の中心になってるでしょ。
だから去年以上に部活の方に拘束される子が増えたんだよね。
そういうのもあって、去年と同様にあまり人を必要としないで運営を出来るこのミニゲームという催し物に決まったんだ。
「去年もそうだったけど、こういう準備って楽しいよね〜♪」
「そうだね。皆であれこれ考えながら用意して飾り付けして······旅行とかでもそうだけど企画を考えてたりしてる時は楽しいよね。」
楽しいよねって言われて、私もそれにそうだねと返す。
去年もそうだけど、あれこれと考えて用意してる時はそれはそれで楽しいんだよね。
勿論それに伴う苦労や大変さもあるけれど、それを差し引いても楽しいと感じるこの準備。
「今年もだけどさ、人数があまり確保出来ないって伝えてるのに相変わらず喫茶店とかお化け屋敷とか、何で人数が必要なのを提案してくるんだろうねー??」
「あーあれか〜·····。たしか似たようなのでコスプレ喫茶とかって案もあったよね。速攻で廃案にしたけど(笑)」
志保ちゃんが少しプリプリしながらそんな事を言ってくる。
「きっとあれだよ。あーいうのは、お馬鹿な男子達がおふざけでいれてるんだよ。」
「だろうねー。男子全員がって訳ではないのは知ってるけど、でも一部でああいう悪乗りするバカがいるから······。」
アハハハハ······って苦笑いしつつ、志保ちゃんと茜ちゃんの呆れと愚痴の混じった会話を聞いている私。
だってこれも、あながち間違ってないんだよ。
去年もだけどコスプレ喫茶とかって意見をくれた子も居たんだけど、当然ながら却下。
だって予算も人手も足りないし、そして飲食を伴うような物は審査が厳しいからね。
調理ってなると食中毒とかの諸々の問題とかがあって保健所とかも関係してくるらく、調理部とか一部を除けば中々審査は通らないんだよね。
逆にドリンクや市販の個包装されてる菓子とかをそのまま提供するとかだと、比較的通りやすいのだけど······。
で、そういうのを説明して募集をかけたのにあいも変わらずで······。
まぁ、楽しませようとかダメ元でやってみるかーとかって意味もあったのかもしれないけど·······。
「でもさ〜、こうして無事に決まってササッと準備に入れるのは嬉しいよね。やっぱりこのはちゃん様々だよー♪」
「ほんとほんと。私じゃ、こうもいかないよ······。」
「それにさ、他のクラスがまだ決めあぐねてる最中に私達は決定して、結構早めから構想も練れたしね。」
「そんな事ないでしょうに······。皆が協力してくれたから、サクサク進めることが出来たんだよ?」
「でもさ〜·······。」
皆が色々と言ってくれるけど、何も私だけの力じゃないんだよ。
皆が協力してくれて知恵を出してくれるからスムーズに進むのであって、私一人の力だけじゃないの。
そのお陰で今年も早い段階から決定できて、準備に十分な時間を取ることが出来たんだよね。
ミニゲームとは決まったけど、内容は何にするか?
提案の中にいくつか候補があった物も含めて新たに皆で考えて、その上での今回の内容を決めた。
教室のスペースの関係や留守番として置く生徒の人数の関係で、そこまで運営に支障が来ない物を中心にして。
そういうのを余裕を持って考えられたのは良かったんだ。
だって今年は林間学校もあったからね。
そういう忙しい中で、企画を決めて進めないといけなかったから······。
そういうのを皆に改めて説明をしたんだ。
決して私だけじゃないという事。
皆の協力があるからこそだよ、ということをね。
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そんなこんなで準備を進めてる私達だけど、部活の方に行ってる子もいる為に人数としては少ない。
少ないけれども事前に始めていたのもあるし、今居ない子も終わり次第こちらに来てくれる手筈になってるから、時間的には問題ないなかなと思う。
私達の教室を改造······いや、文化祭様に内装を変えてるのだけどね。
まず机と椅子を窓際の方に一部を残して寄せて、何も無い広い空間を作る。
ただ寄せるだけだとあまり空間は作れないから、ここは男の子の出番で机等を崩れないように重ねて貰ったんだよね。
そして全部は無理でもある程度はカーテンを掛けて外から机の山が見えないようにしたんだ。
それから内部及び廊下側を飾り付けしていくの。
チラシ等で作ったりした輪飾りや色付き画用紙を星型やハート型に切ったりして、イラストを描いたりして飾って。
あとは、おはながみと言われる紙を使って花をいっぱい作って飾りもしたし、風船なんかも膨らませてたね。
このおはながみは卒業式や入学式で、紅白で飾られてる事の多いい、あの紙の花。
定番は赤白黄色だけど、紙の色次第ではバリエーションも多く作れるのが良いところ。
そういうのを駆使して可愛くだけど決してやり過ぎず、廊下を歩いてやってくるお客様の興味を引いて、そして入って貰いたくなる様な部屋作りを心掛ける。
そしてこういうのは、女の子の方がセンスがいいよねって思う。
私と志保ちゃんは飾り付けには特に何も言わないで、皆の自由にお任せでお願いしちゃってるんだけど、「これはどうかな?」「こっちはこういう風に飾ってみない??」なんて言いながら楽しそうに、そして素敵な飾りつけをしてくれてるの。
クラスメイト全員で作業に取りかかれてる訳ではないけど、でもこういうのは体育祭や林間学校とはまた違った楽しさがあるよねって感じちゃった。
「さて、これはこんな感じでいいかな?」
「そうだね。あとは色紙とかでデコレーションすればいいんじゃないかな?その辺りは任せちゃうね?」
「おっけー! 可愛く仕上げとくよ♪」
軽快な声と共に今作っていたのはミニゲームの一つ、ボール入れ(仮名称)。
これはソフトボールくらいのゴムボールを転がして、その先にある穴に入れればクリアという物なんだ。
大きなダンボールを広げて加工して穴をいくつか開けて。
ただ転がして狙うのは簡単なので、穴の手前に反りを作ってそこでボールが一旦宙に浮くように調整したんだよね。
後は微調整を繰り返しながら、いい感じに仕上げて。
転がすスピードが弱ければ反りで失速。アウト!
強すぎれば穴のある場所を飛び越えさらに奥の場外へと落ちてアウト!
丁度良く落ちても、穴に入るかは運任せという仕様なんです。
このアイデアをくれたのは美紅ちゃんで、なんでも以前にディ◯ニーにいった時にやったというミニゲーム?みたいな物を参考にしてるんだってさ。
私はよくは知らないんだけど知ってる子は意外といて、「私、あれやった事あるよー」とか、「簡単そうに見えて意外と入らないんだよねー」なんて言ってる子がいたんだよ。
それで入ればそこの場所でしか貰えないぬいぐるみとかピンバッジとか、その時々で変わる限定景品が貰えるとかでかなり人気らしいんだって。
だからこれは、ミニゲームとしてのイメージは出来てるから比較的直ぐに出来た。
まぁ後は飾り付けつつをどう作り、仕上げるか。そこを試行錯誤しながら何だけどね。
ちなみに残りの輪投げとダーツはもっと早かったよ。
分かりやすいのもあったけど、輪投げはダンボールで輪を作り装飾。
輪を引っ掛ける出っ張りはラップの芯とかを使って、床から垂直タイプと角度を付けてるタイプの2種類にして難易度を設けた。
ダーツは100均からダーツ一式をそのまま購入してきちゃったんだ。
そこまで本格的な物ではないけれど、身近な所で買えて尚且つ文化祭として軽く遊ぶくらいならこのく位でも十分だよね?ってなってね。
そしてこちらは黒板に的を設置して、その周りを飾り付け。
特に黒板というのもあって、イラストが上手な子が黒板アートをしてくれたんだよね。
これは私を含めて皆が驚いたんだよ。
だってその子は去年も書いてはくれたんだけど、あの時よりもさらに上手になってるんだもの。
理由を尋ねたら、「今年も書こうと思ってて勉強してきたんだよ」って。
チョークの使い方とかそういうのがネット動画で出てたりもするし、偶にだけどテレビ番組でも黒板アートを書く企画物があったりもして、書くのに参考になるからネット動画様々だよねー♪って嬉しそうに話してくれてさ。
使い方が変わるだけでもこうも違うんだなって、皆で驚いちゃった。
そんな感じで現在作っているミニゲームその物は、ほぼ出来たんだ。
あとは綺麗に装飾してダンボール感を消せば、一先ずオッケーかな。
「このはちゃ〜ん!廊下の方はどうかな~?見てー?」
「はーい。今行くよ〜。」
廊下担当班から呼ばれて見に行くことにした私。
立ち上がってスカートに付いたホコリを、パパッと叩いて落としてから見に行きます。
だって作業をしてるこの教室は、机と椅子を片付けちゃったからね。
だから基本的には床で切ったり作ったりもなんかをしてるの。
まぁダンボールや大きい模造紙を切ったりするのには、この方が作業し易いというのもあるんだけどね。
それに作業をするに当り、一度床を皆で綺麗に掃除をしたんだよね。
だから然程ホコリとかはないのだけど、それでも多少なりとは付くからさ。
「ちょっと廊下の方に行ってくるね〜。」
「はーい。いってらっしゃ~い♪」
「こっちは任せてねー。」
教室の中で作業をしてる皆に声を掛けて、教室を出る。
「うわぁぁ······。すごっ······。」
思わずそんな声が出てしまったのも無理はなくて、そこで見た廊下はもやは見慣れた廊下ではなかったんだよね。
廊下の窓と教室側の壁の高い位置にくっつけられた飾りが、1組側の方からずら〜っと飾られていて、窓ガラスには各学年のクラスや部活動の展示や発表等の案内ポスターか貼ってあるんだ。
A4のコピー用紙にマジックや色鉛筆などで、カラフルに書かれたその案内。
今もその案内を貼っている下級生の子や先輩達がちらほらと見受けられたりして、いつもと違う空間に来たんじゃないかと錯覚するくらいの廊下の変りよう······。
「このはちゃん、どう?」
「うん、凄いよね。もうこんなにまで変わってるとは思わなかったよ······。あ! そこ、気をつけてね?無理して落ちたりしないでね。」
「おう、サンキュー!鈴宮さん。」
廊下を担当してる咲夜ちゃんに声をかけられて、それに対して廊下に出で率直に感じた事を口にした私。
それとうちのクラスの男の子が脚立を使って高い位置に飾り付けをしてくれてるのが目に入ったから、それに対しても一言声を掛けたんだよね。
去年もやったとはいっても慣れない事をしてくれてるからさ、落ちたりひっくり返ったりして怪我でもしたら楽しめなくなっちゃうもん。
皆で怪我なく元気に文化祭を満喫したいって思うのは、当然の事だから。
「ほんと、変わったよねー。私達もさ、こっちを集中してやってて、時たま廊下を振り返るとやたら変わってたりして驚くんだよ。」
「そうそう、そうなの!他のクラスも一気に仕上げてるから、ほんの何十分とかで劇的に変わるんだよねー!」
「あー······、それは分かるかも。特に向こう側は教室も続くから余計にだよね。」
うちの学校の教室の配置は1組から順に並んでる、シンプルな配置なんだよね。
だから私達の教室から見ると片側が1組と2組しかないのに対して、
もう片方は4組からずらっ〜って並んでるの。
間に階段を挟んでるとは言ってもそれだけの数の教室が続く訳だから、その分廊下も長くて今回の飾り付けによる劇的な変化がより分かるんだよね。
「でも······こっちも負けないくらい、とても素敵だよ。」
「そう?」
「本当!?」
私のそんな言葉にぱぁ〜って笑顔になる、咲夜ちゃん達廊下担当のみんな。
「うん。まず、この3組の出し物の案内。大きくて分かりやすく書いてあるから、一目見て理解できるでしょ?それが外から来てくれたお客様に対してもいいと思うし、それに飾り付けも派手すぎず地味すぎず、丁度よい塩梅なんじゃないかな。」
教室の2つある出入り口の扉。
その間に壁があるんだけど、そこに大きな模造紙を数枚繋げて大きな字とイラスト、飾り物等を添えて私達のクラスの演し物の案内を書いてあるんだよね。
だから当日は扉を開けっ放しにしてるんだけど、中を直接見なくても何をやっているのかをこれを見て、直ぐに把握する事が出来るの。
「イェーイ! このはちゃんに褒められた〜♪」
「やったね☆」
「やっぱり女子はセンスがいいよなー。」
「ホントだよな。俺達じゃ、こうは出来ないからなー······。」
「みんな·····何をそんな大袈裟に······。」
続きを言おうとして私はやめた。
というのも、こういうのはいつものやり取りである事だからさ······。
何でも私が皆を褒めてあげたり、又は喜んだりしてる姿が見てて嬉しくなるんだって。
私もそういう気持ちは理解できるからそれを駄目とも言えないし、またそれによってやる気が出たりもする事があるからね·····。
「そういう訳だから、このまま仕上げちゃっていいと思うよ。」
「「おっけー!」」
「りょーかいです!じゃぁ、この路線で仕上げていくね。」
私としてはこの飾り付けにこうしたら良いんじゃない?とかって言う意見はないから、見て感じた事をそのまま伝えたの。
だって、こういうのに正解はないからね。
こうが良いんじゃない?とか、ああしたらどうだろう?って意見はあるかもしれないけど、そういのは個人の好みの問題だったりもするし、そういうのも担当の皆で意見を合わせて作っていく物だと私は思ってるから。
だから私はクラス委員長として皆の意見を纏めたり指示をしたりはするけど、細かい所まではしないでそこは皆の自主性に任せてる。
「うん。お願いします。くれぐれも怪我とかには気を付けて作業してね。」
「おう!了解!」
「皆には迷惑掛けられないからな。任せとけ!!」
咲夜ちゃん達から元気な返事を貰って、念の為に今一度高い場所の作業をしてる男の子達にも声をかけて。
「······ヤバ。男子がやたら気合入ってる······。」
「まー·····、このはちゃんのから声を掛けて貰えれば嬉しいからねー。しゃーないよ。」
「あははは·······。」
そんな女の子達の男の子への呆れ半分な声を聞きつつ、教室に戻ることにした私。
「あ! おかえりー♪このはちゃん。」
「お疲れ様〜。どうだった?廊下組は??」
「ただいまー、みんな。廊下? うん、かなりいい感じに仕上がってたよ。それに他のクラスもかなり仕上げて来てるから、廊下の雰囲気がかなり祭りっぽくなってきてたよね。」
「「「おおっ!」」」
「マジか······!?」
そうなんです。その『マジか!?』なんだよね。
私も驚いたくらいだし、それだけほんの数十分の間に変わってきてるんだよ。
「もしあれだったら、一度見てくるといいよ?それたけでも楽しくなってくるからさ。」
「ほんと!?」
「じゃ、折角だからちょっとだけ見に行って来ようよ?」
「そう······だね。そうしょっか?」
「じゃあ·····このはちゃん。ちょっと見に行ってくるね?」
「うん、行ってらっしゃい。こっちは皆のお陰で順調だから安心して行って来ていいからね。」
「「「「はぁーい♪」」」」
休憩も兼ねて皆を教室から送り出し私。
だってそうでもしないと、きちんと休もうとしないんだもんね······。
真面目にやってくれるのは有り難い事なんだけどさ、それでもある程度適度に休憩を挟みつつやって欲しいなーとも思ってたんだよね。
そのお陰でかなり順調に仕上がってるのはあるんだけどさ······。
そんなこんなで、丸一日を文化祭の準備に当てた今日。
私達の教室のあるこの階でこれなんだから、他の場所はどうなってるのかな?と楽しみに思いながら準備は進んで行くのでした······。




