ある日の小学校①-4 高2(挿絵有り)
「ふぅ······。一先ずこれで大丈夫かな?」
私は自分のデクスの上で作業していたプリントを纏めてトントン♪とすると、一息入れた。
小学校は中・高校と比べるとプリントがかなり多いから、学年やクラス毎に纏めるのが大変なんだよね。
授業でやるテスト用紙もそうだし、帰りに児童に渡すお知らせのプリントもそう。
そもそも月初めは結構枚数もあるし、何か行事が控えてればそのお知らせを作ったりもしないといけないから、やる事は沢山なんだ·····。
「あの······竹中先生。今、少しお時間頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。どうかしました??」
一段落ついたことで息抜きがてら飲み物を淹れてこようかなと、腰を上げた所で安西という若い先生に声を掛けられた。
まぁこちらとしては用事は一段落ついたから問題はないし、飲み物は·····後でもいいか。
「実は今、体育館で来年度の入学予定児童とその保護者に身体測定と説明会を行っているのですが······。」
「あぁ、やってますね。今の時間ですと······説明会が始まる頃かな?」
チラッと時計を見て時間を確認する。
そしてそこから推測すれば大体そんなものだろう。
それに受付を担当してた安西先生がここに戻って来てるのを見れば、入学予定者のご家族も全てご来場されたのだと推測できる。
「それでですね、その保護者の中のお一人の方が竹中先生にお会いしたいと仰っしゃられてまして、お伝えに来ました。」
「······私に?」
「えぇ。何でも小学生だった頃に竹中先生にお世話になったとかで·······。鈴宮さんという方なんですけど······。」
「う〜〜〜ん······。鈴宮····鈴宮······?」
頭を捻りながら何とか思い出そうと、記憶の中を探る私。
この測定兼説明会でこういう風にお会いしたいと言われたのは初めてだから、ちょっと驚いた所も正直にいってある。
教師歴が20年程になった私。
この学校に赴任して来て大分長いこと在籍しているから来年度は異動かな?とは考えている。
そしてその中で沢山の子供達の卒業を見送ってきたし、この学校でもそれなりの数の児童を見送ってきた。
そしてその鈴宮さんという方には、パッと思いつくのは数名程心当たりがあるにはあるが······。
まず、この小学校だけでも3名は知ってる。
まず赴任して間もない頃に担当した、当時6年生だった女の子。
その後はクラスは違えど、担当した学年に鈴宮という苗字の子が2人程いた。
たけどその3人は歳を考えるとまず違う。だってまだ若すぎるから。
最初の子で恐らく19歳ないし20歳くらいかな?と思うし、その下の子に限れば中高生くらいだろう。
そうなると前の学校かな?と思うが、時間が経てば経つほどに記憶は曖昧になってしまう。
『鈴木』という苗字の子は多かったと思うが『鈴宮』は珍しいし、分かり易いと言えば分かり易いのだけどね······。
それに結婚して苗字が変わって『鈴宮』になったのだとしたら、もう誰だか分からなくなる·······。
それに私の赴任先がここという情報······。
あ!
それは毎年新聞に小中高校の先生の転任情報が載るから、それを毎年見てれば分かるね。
「心当たりとかありますか?」
考え込んでいた私に安西先生が心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫ですよ、そんなに心配そうにしなくても。心当たりは数人居ますからね。ですけど、結婚して苗字が変わってると流石にお手上げなんですけどね······。」
肩をすくめて、そう安西先生には言葉を返した。
確かに分からない事だらけだけど、話を聞けば思い出すからね。
「そうですか·····。てっきりご存知だとばかり思ってたんですけど······。あれだけ特徴的な方でしたから······。」
「んん!? 特徴的?? ·········安西先生。その方はどんな特徴をしてました??」
お手上げという線もあるよね?なんて思ってた矢先、安西先生からの『特徴的』という部分でピクッと反応してしまった私。
だって·····それが本当なら······。
「えーとですね······髪の毛が真っ白な色をしてまして、外人さんみたいな見た目の女性だったんですよ。だからつい日本語は大丈夫ですか?って失礼な事を聞いてしまったんですけど·······。」
「髪が真っ白······髪が白い·····まさか····まさか········。」
真っ先に思い出したけど年齢的にあり得ないと即座に否定した、この小学校の卒業生の3人の鈴宮さんの内の1人にして、私が担当した女の子に特徴が一致する!!
ガタッ!!
「分かりました!! 取り敢えず私は、このまま体育館の方に行ってその方に会ってきますね!!」
「あっ! ちょっ····竹中せんせぇ〜〜·······」
安西先生が何かを言っていたけど、私はそれどころではなくなった。
急いで、急いで確認をしなくては!!
只それだけの為に······。
ーーーーーーーー
テクテクテク······
私は逸る気持ちを抑えながら体育館へと歩く。決して走らない様に。
これは『廊下は走らない事。』と常に子供達に指導してる手前、先生である私がそれを破るわけにはいかないからね。
だから急ぎつつ歩きながら、先程の事を考える。
『髪の毛が真っ白な色をしてまして、外人さんみたいな見た目の女性だったんですよ。』
安西先生のそのたった一言。
その一言で可能性と消した筈のある生徒が、再び浮上してしまった。
私がこの小学校に赴任したその年に担任をした、6年生の中にいた鈴宮さん。
たしか···『鈴宮 このは』さん。
白い髪で赤い目、他の人よりも白い肌。アルビノとかという症状でその様な姿らしいのだけど、とても可愛い素敵な子だった。
外国人さん?と言われればその様にも見えるし、お人形さんと言われればそうも見える。
とにかくその見た目と相まって、子供ながらに神秘的で大人びた感じの子だった。
そしてその見た目もさることながら人柄も良く、面倒見のよさはあったんだ。
クラスでも困ってる子がいれば助けようとする。
体育は並だったけど勉強はかなり優秀な部類で、軒並み好成績。授業態度も良しで生徒の見本になる子だったなと思う。
性格も真面目でしっかり者。でも明るくて元気。
その性格と容姿からかクラスメイトは勿論の事、隣のクラスの同級生からも男女問わず人気で好かれていた。また下級生からも慕われていると聞いた覚えがある。
そんな良い子で模範的な彼女が母親??あり得ない!!!
だって今年20歳ぐらいだよ!?
百歩譲って子供がいたとしても赤ちゃん······よくて1歳だとかその位でしょうに!
それがなんの冗談で、子供が来年小学生になるのよ!!
あり得ない計算になるから、速攻で可能性として排除したのに······。
頭の中で当時の彼女を思い出しながら、でもどう考えてそういう風になるとは思えなくて混乱する私。
体育館に静か〜に入り、後ろからそっと前方をみつめる。
ステージの方を向いて座っている保護者の方と、その子供達。
その保護者の中に1人、髪の毛が白い方がいた。
歳をとったりして生えてくる白髪とは違い、髪の毛全体が全て真っ白で、だけども何故か美しいその髪の毛······。
間違いない!彼女だ!!
でも、どうして······?
今、この場に居ると言う事は中学生の時に、それもかなり早い段階で妊娠して産んだ事になる筈·····。
中学生になってまだこれからって時に、あんなに性格や人柄の良かった彼女が◯◯◯して妊娠するなんて······そんな馬鹿な真似をする子じゃない筈なのに······。
でも······実際にこの場にいる訳だから·······。
もう何が何だか訳分からず、混乱が更に増した私······。
これは絶対に理由を聞かなくては!!
そう決意した私だった······。
ーーーーーーーー
「そうだ······。ねぇ、あなた?」
「うん?どうした?」
晩飯を食べて息子と一緒にテレビを見ながら寛いでいると、食器を洗い終わったらしい妻にふと呼ばれた。
この感じで俺に声を掛ける時は何かがある時だから、つい身構えてしまう······。
「今日たっ君と小学校に行ってきたんだけどさ······。」
「小学校?? あー······説明会とかなんちゃらってヤツだっけ?」
「なんちゃらって·····もぅ···説明会と身体測定よ。」
妻が呆れ気味に言ってくるが、何週間か前に一度話を聞いただけだから忘れちゃったんだよ。
そう責めるなと言いたいけど、忘れた自分が悪いのは理解してるので黙っておくことにした。
我が家の夫婦円満の秘訣。無用な事は言わない。
「で?それがどうかしたのか??」
俺は尋ねた。
だって『行ってきたんだけどさ·····』なんて、如何にも何かありました的なニュアンスで言ってくれば、何かあったのには違いないから······。
「そうそうそう!えーとね、来年のたっ君の同級生に外人の子が来るかもしれないわよ!?」
「外国人? 今どき珍しくもない様な気もするけど·······?」
妻が少し興奮した様子で話したのは、たっ君···うちの息子に、外国人の同級生が出来るかもしれないとの事だった。
だけどそんなに興奮でもする様な事なのかねー?
俺等のガキの頃なら珍しいとは思うが、今はそこら中で外国人の方は見かけるからな。
うちの会社だって外国人の方が働いているし、街中や観光地でも行けばそれこそ沢山見かける様にもなったし。
だから1人や2人、外国人の同級生が出来たってそんな驚くような事でもないとは思うんだ。
まぁこんな地方じゃ、珍しいのには違いないけど······。
「それはそうだけど······でも!今日見た方は凄かったわよ!! すっっっごく綺麗な方で、思わず見惚れちゃったくらいなんだからね!! あんな外国人の方なんて、本当に見たことなんてないんだから!!」
「どうどうどう····。落ち着けって·······。はい、深呼吸〜。」
「あ、うん·····。すぅ〜···はぁ〜·······。」
全く何なんだ?どこかで推しのアイドルでも見かけたかの様な興奮っぷりの妻は······。
そんなに凄いのかね??
確かに外国人さんは多いけど、うちの会社も含めてこの辺りはアジア系の方が多いい。
だけど妻が言うほどの凄さがあるかと言われれば、それはノーだ。
韓国や中国系。又はベトナムとかあの付近の方が多いけど綺麗さとなればヨーロッパ系かな?と俺、個人は思う。
洋画とか見ててもその辺り出身の方で、美しいなって思う女優はいたりもするし······。
「落ち着いた?」
「あ····うん、なんとか······。ごめんね?」
「いいって、気にしないで。で、そんなになる程なんて一体どんな方だったん?」
妻も無事落ち着いた所で、改めてその人について聞いてみることにした。
妻がそう言うレベルの容姿なら、さぞ綺麗なんだろう。
少なくとも欧米系の方なのかな??
「えーとね、まず目立つのは髪の毛ね。真っ白なんだけどそれが凄く綺麗でさ、あんな髪を見たことなんてなかったから驚いちゃった!それからね、目も赤くって素敵でそれも凄いんだけど、なんと言っても若いのよ!! どー見ても絶対にあれは20代前半くらいの若さよ!あり得ないわよね!!!」
「おっ···おう。」
やべぇ······。
妻がまた大興奮だ······。
「それにね、その人の娘さんっぽい子がこれまたそっくりでね、白い髪の毛に赤い目をしてたのよ!! 同じ幼稚園だか保育園の友達と仲良くしてたんたけど、これがまた可愛くって可愛くって·········。」
「············。」
止まらないうちの妻の話。
要約すると親子揃って、白い髪と赤い目の見た目をした外国人さんとの事。
そして母親らしき方はやたら若く見えて美しくて、お子さんはとにかく可愛いらしかったとの事で······。
でも······それだけ言うのなら、俺も俄然興味が湧いてきたな。
美人だの可愛いだのは個人よって感じ方が違うけど、親子揃ってその白い髪という容姿をみたくなった。
だって珍しいもんな。
「······ん? 白い髪······??」
「どうしたの?あなた??」
「あ···いや······ちょっとまってて······。」
『白い髪の毛』というキーワードに、何か引っかかった俺。
そんな俺に疑問を持った妻に待つようにと伝えて、スマホで検索を始めた。
そして暫くして······。
「ああ、あったあった。なぁなぁ?その今日、見たって人はもしかしてこの人じゃないか??」
「どれどれ??」
探すこと数分にしてやっと見つけたその人物を、スマホごと妻に見せる。
はてさて。妻の反応はこれいかに?
「あぁーー!! そう!この人よ!! ねぇ?どういう事!? なんであなたが知ってるのよ!!?」
ガクガクブルブルと、俺の肩を掴み揺する妻。
「ま、待て待て!! 頭が······揺すりすぎだってば!!」
「あっ! あらゴメンナサイ······。私とした事が·······。」
はっとして、再び落ち着きを少し取り戻した妻。
そして俺の隣に座って、スマホの中の例の女性をまた眺めてる。
「うん······やっぱり間違いないわね。この人、今日小学校で見かけたその人よ。特徴がそっくりだし······でもやっぱり若いわよね······。この若さで6歳の娘がいるなんて、とても信じられないわ。」
「そりゃー、俺もそう思うよ。まぁ·····俺はこれしか情報を知らない訳だけどさ、でもいくら何でも若すぎるよな?」
2人して「だよねー」と言い合う。
そのくらいスマホの中に表示されている彼女は若かった。
俺等夫婦は25の時に結婚して、少し間が空いてから息子が生まれた。なので今現在はお互いに35歳なんだけど、一般的に見れば普通だとは思う。
まぁこれが、第一子かそうではないかでまた年齢にバラツキがあるだろうけど······。
たけど、彼女はなー······。
仮に保育園入園だとしても、若すぎる様な気がしなくもない······。
「これ······昔の写真とかじゃなくて?ネットだと古いのも出てくるから、その可能性も······って、そういえば何であなたがこの人を知ってるのよ!?」
「えっ?! そ、それはだな·········。」
そこから妻に短いようで長い説明をした。
この子を知ったキッカケは、職場の若い女子社員達が休憩時間に話してたのを偶々耳にしたというだけ。
その時の『白い髪の毛』というワードが、微かに残っていた事。
そしてモデルとか何かをやってて、この写真も今年に掲載された物だと言う事。
俺が結婚したにも関わらず、妻以外の女の尻を追っかけている訳ではないと言う事を、特に念を入れて話しておいた。
「なるほどねー······。じゃあ、この写真が昔のって訳じゃないんだね。」
「そういう事になるのかな? ま、モデルをやってる人が息子の同級生の親とは、これまた驚きだけどなぁ。」
結局どれだけ検索をしても、この人に関する物はモデルとしての画像以外は出てこなかった。
だからもしかすると、事務所に所属していないフリーのモデルさんなのかもしれないな。
それとそれ以外の芸能活動とかも特にやってないのかも······。
「仲良くなれるかしら??」
「大丈夫だろう? この地区だと中学も一緒になるから、仲良くなる機会なんていくらでもあるさ。」
「それもそうね。」
そう、この地域は小学校から中学までは基本的には一緒になる。
だからクラスさえ一緒になれれば、顔を合わせたり話ししたりする機会もそれなりにはあるとは思うんだ。
運動会とか授業参観だとか、そういう時にな。
あとはPTAの役員で同じ委員になるか、自治会は······多分違うな。
それはこれだけ目立つ方を、うちの自治会の活動の中で見たことがないから。
でもまぁ·····いいじゃないか。
これだけ美しくて若い母親。
一体どんな方なのか直に見てみたいと思うのは男の性故なのか·····。
「楽しみだ······。」
「なんか言った!?」
「いえ···何でもありません。」
危ない危ない······。
ついボソッと呟いたのが、妻に聞こえるところだった。
若い女性、それも人妻と思われる方に興味を持ったなんて知れたら、どんな事が起こるなんて想像もしたくもない!
気を付けないとな······。
そんな事を思いながら、息子の入学式を密かに楽しみに待ってる俺だった······。




