ある日の林間学校①-10 20歳高2(挿絵有り)
林間学校2日目の朝。
私は朝早く、夜明け前に目が覚めた。
というのも起床時間はまたまだ先でまだ寝ててもいいんだけど、覚めてしまったのは仕方がないよね。
一応目覚ましアラームもセットはしといたけど役には立たず、それよりも早くに起きてしまった私。
これは私の生活スタイルが影響してて、身体に染み付いたものだから仕方ないのかなと思う。
平日は起きるのが早くて、その流れで休日も早くに目が覚めちゃうんだよね。
一応雪ちゃんの寝顔を眺めてゆっくりはしてるんたけど、やっぱりそれも限界があるし······。
それと、2度寝なんてもってのほかだもん。
起き上がろうとして、どうしたものかな?と思案した。
何故かと言うと私の両腕がしっかりと捕獲されていたから。
私の右側は茜ちゃんで左側が咲夜ちゃん。
咲夜ちゃんは私が招き入れたのもあって、私のお布団の方に入ってるの。
たから本来咲夜ちゃんが寝る筈だったお布団は空。
そしてどちらも幸せそうな寝顔をしてるよね。
咲夜ちゃんの方は······多分ここは本来誰が来ても同じ様になってたのかな?と思う。
皆が私を慕って好いてくれてるのは知ってるし、この位置を巡ってのじゃんけんの盛り上がり方も凄かったからね。
一方の茜ちゃんも久々の一緒寝というのもあって、これまた幸せそうな表情をしちゃって······。
夏休み以降、ちょくちょくお泊りに誘って来てもらってるけど、寝る時は雪ちゃんに配慮してかそこまでくっついては来ないんだよね。
だけど昨夜は雪ちゃんがいないのもあってか、その自重が外れてる。
それに咲夜ちゃんの件もあったから余計にギュ~っと私の腕を抱きしめちゃってさ······寝づらくないのかな?
そんな2人を起こさない様にそっと腕を外して起きる事にしたんだ。
茜ちゃんを愛でてもいいんだけど、それよりも見たいものがあったからね。
布団から出て隣の部屋の広縁まで行く事にしたんだけど、その時に見たみんなの寝姿に思わずクスッと笑ってしまった。
何となくだけど、寝方にも個性が表れるのかなって。
仰向け、横寝、うつぶせ寝。
色んな寝方があるけれど、茜ちゃんと咲夜ちゃんは私にくっついてたから横寝状態。
志保ちゃんと瑞穂ちゃん、美紅ちゃんは仰向け寝。
彩ちゃん。仰向け寝ではあるけれど足が布団からはみ出てて、隣の陽子ちゃんのお腹の上。
寝てる時はその都度身体の向きを変えるから一概には言えないけど、でも何となく性格的なものが寝相にも表れてるよね?って思っちゃった、そんな皆の寝姿だった。
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「このはちゃん、おはよう♪」
「おはよう、茜ちゃん。もうちょっと寝てても良かったのに······。」
「ううん、大丈夫。これだって普段よりは遅い時間なんだよ?それに······それを言ったらこのはちゃんもそうじゃない。もう、着替えまでしちゃってるんだからさ·······。」
「あはははは······。確かにそうだね。」
私が起きて暖房を付け、着替えてから10分ぐらい経った所で茜ちゃんが起きてきたんだ。
まだ時間的には早いからさ、「もうちょっと寝てれば?」と伝えてみたら、「このはちゃんもじゃん」って返されちゃったよね。
ほんと、その通りです。はい。
私もそうだけど、茜ちゃんも早起きというのが身体に染み付いてるんだよね。
家に泊まりに来てる時も自然と起きてくれたから、私としても助かったしさ。
これが葵となるとそうはいかず、あの子は休日ともなれば昼近くまで寝てるし、平日だって中々起きてこないんだよ。だから私かお母さんが毎日起こしに行ってる。
これで一人暮らしでも始めたらどうなるんだろう?って、すっっごく不安になるんだよね。
その点、茜ちゃんについては安心してる。
今日のように自分からしっかり起きられるのもあるし、家事とかそういうのも出来る子だからね。
こういう姿を葵にも見習って欲しいな〜と、お姉ちゃんは思うわけですよ。
「何見てたの?このはちゃん??」
「ん? 外の山と紅葉だよ。朝日と少しの霧がかかってるから綺麗なんだよね······。」
私が起きて見たかったのは、ここから見える景色。
夜空は残念だったけど、ここから見る山の景色は綺麗だったんだよね。
だから朝のこのゆ〜っくりした時間に、のんびりと眺めたかったんだ。
「茜ちゃん。そこの椅子をこっちに持って来て、隣に座って一緒に見よ?」
「うん!」
嬉しそうに頷いて、もうひとつ置いてある椅子を私の隣に運んで座る茜ちゃん。
この広縁にはテーブルを挟んで椅子が2脚置いてあったからね。
勿論そのまま座ってもいいんだけど、今の私達にこのテーブルは不要だからこれでいいの。
「キレイだね。」
「だよね〜。みんなでさ、賑やかに見てるのも良いんだけど、こうやって静かに見てるのもまたいいと思うんだ。」
2人で静かに景色を観る。
特に何か変化が有るわけでもなく、山の緑にオレンジ色になった紅葉が混じってる景色だけどね。
たけど、それが不思議と落ち着くんだよ。
ここに到着してからずっと賑やかで楽しかったけど、落ち着いて観るって事は出来なかったから······。
「茜ちゃん、寝起きで喉乾いてるでしょ?私の飲みかけだけどまだ温かいから、良かったら飲む?」
「あ、いいの? じゃあ、頂きます♪」
寝起きでまだ何も口に含んでない茜ちゃんに、私が飲んでたお茶を渡した。
ちなみにこのお茶は私が起きてから買ってきた物。だからまだ温かいんだ。
部屋を出て廊下を歩いた先のエレベーター前に自販機が置いてあったから、そこで購入してきたんだよね。
ただこの時に気を付けないといけないのは、ルームキーを必ず持って行くこと。
そうしないとロックが掛かり、部屋に入れなくなってしまうからね。
そして電話して部屋の誰かに開けてもらうか、もしくはフロントまで行って鍵を借りるなりしなくちゃいけなくなる······。
渡したお茶を躊躇いもなく飲む茜ちゃん。
これももう慣れたものだな〜って、思ったりもする。
以前、1学期の頃は顔を赤くして照れたり恥ずかしがってたりしてたものだけど、今では普通に口にするからね。
一般的に間接キスと言われる状態にも関わらず······。
それにこのお茶。
私は普通に渡したけど、流石に誰構わずって訳ではないからね。
茜ちゃんを除けばあとは雪ちゃんと葵だけ。
雪ちゃんは私の娘だから当然へっちゃらだし、葵も私の可愛い妹だからね。
で、雪ちゃんも葵も私が飲みかけた物とか全然気にしない。
そして茜ちゃん。
赤の他人ではあるけど、今はもう特別な子になっちゃったからね。
最初こそ『支えてあげよう』とか『護ってあげたい』って気持ちが強かった。
勿論今もそれはある。けど、今はそこに『大切で好きな女の子』って意識が強い。
そういう想いとかもあって気を許してるのもあるから、他の皆とは違ってこういう事も出来るんだよね。
そう考えると、私も変わったな〜って思う。
茜ちゃんに対する認識とかもそうだけど、私自身もね。
勿論、いい意味での事だけど。
暫く静かに外を眺めてた居心地のよい時間も、もうそろそろお終いに近付いて来た。
次の行動に移る前に、茜ちゃんには今一度伝えておかなくちゃね。
「ねぇ、茜ちゃん。」
「なーに?このはちゃん。」
何?というように私の方へ振り向いた。
「昨晩私が言った言葉、覚えてる?」
「······うん。覚えてるよ。」
深夜という時間とその時の状況的に、もしかしたらあまり覚えてないという事も想定はして尋ねてみたら、覚えていてくれた茜ちゃんだった。
ただ内容があれなだけに、声のトーンが些か落ちてるよね。
「そっか···なら良かった。私もさ、咲夜ちゃんに急に言われて驚いたけどね、それでも今までと変わらないから大丈夫だよ。手を繋いだりとかハグとか今までと同じ様な感覚でしたりされたりするだろうけど、茜ちゃんを蔑ろにするとかそう言うのは一切ないから。」
「うん。」
「······前にも伝えたけど私の中で茜ちゃんはね、特別な子なんだよ。泊まりに誘ってるのもそうだし、プレゼントをあげたのも家族以外では初めてだったからね······。そういう事をする程に大切で特別な子に私の中で茜ちゃんはなってるから、何も心配は要らない。堂々といつも通りに私の側に居てくれればいいからね。」
「特別で大切な子······うん♪分かった!」
嬉しそうに返事をする茜ちゃん。
こういう言葉は夏休み以降、それなりに伝えてはいるのに変わらずに喜んでくれるんだよね。
まぁ、でも······こういうのは何度言われても嬉しくはなるから、どうしようもないか······。
私だって雪ちゃんから『ママ、大好き♡』って言われる度にメロメロになっちゃうからね。
態度や仕草で理解はしてても、言葉で言われると頬が緩むのを抑えられなくなっちゃうから。
「それと、咲夜ちゃんに対しても今までと同じ様に、普通に接してあげてね? まさか見られてたとは思ってもないだろうし、かと言って『嫉妬』を向けちゃうのもねぇ······。」
「そこはもう大丈夫だよ。まぁ······昨夜はパニックになってたから、このはちゃんを咲夜ちゃんに取られる!って思っちゃったけど、もう落ち着いたからへーき♪」
「そっか。なら良かった······。みんな仲良しが1番いいからね。」
表向きはそう言ったけど、内心ではパニックか〜と考えもみたりしたよ。
私が茜ちゃんと特に関わりを持つようになってから、もう10ヶ月くらいになる。
その期間の中で昨夜の出来事が1番大きなショッキングな出来事で、尚且つそれが茜ちゃんの眼の前で起きた。しかもそれが告白と来たからね。
私を横取りされるって考えても仕方ないか、と思ったりもする。
だからって、そこを責めるつもりはこれっぽっちもないけどね。
「さて·····。ではそろそろ皆を起こしますか。」
「そうだね。2人で手分けして起こそっか。」
結局時間まで誰一人として起きてこなかった、我がクラスの眠り姫達。
そんな姫様達を起こすことから、2日目の日が始まったのだった······。
ーーーーーーーー
「せんせー?! 火がなかなか付かないんですけどー??」
「えーとな······最初は細かい枝に火をつけて燃やして、それから次第に太い枝を燃やしていくんだよ····。」
「やべぇ······難し過ぎる······。」
わいわいガヤガヤと、あちらこちらで助けを求める声や苦労をしてる声がしてるこれは、本日2日目の1番のイベントである飯盒なんだ。
今日も細かい予定事をこなしつつ、最後の大きいのがコレ。
この宿泊場のバーベキューエリアを使って本日2日目の昼ご飯を自分達で作る、そんな作業。
今って結構1人キャンプとか流行ってるでしょ?
前々からそういうのはあったのかもしれないけど、芸人さんのその手の動画が受けたり、病が流行ったのもあって人を避けつつ一人の時間を楽しむみたいな。
勿論バーベキューそのものも昔から人気があったし、夏場を中心にして庭先や野外で家族や仲間大勢で楽しむのにはうってつけの物ではあったよね。
そういうのもあって、この林間学校でもこのバーベキューエリアを利用して、皆で協力して1つを作り上げるのが目的らしいのだけど、苦戦してるんだ。
まずは火付けから。
ここは男の子達が頑張ってくれてるけど、中々上手くいかないらしいです。
細かい枝から火を付けて徐々に太い枝へ。
説明は聞いてはいても、いざやるとなると難しいみたいでね······。
いくらキャンプが流行ってるとかそういうのがあっても、一高校生がそうそうそれを体験してるかといえば、そういう子はいるわけも無く。
またバーベキューとかを体験した子はいても、その時に火付けをした事があるかといわれれば、それも中々無い状況みたいで。
大概大人が一緒だろうから、子供に危険な事をさせるなら大人が火を付けるだろうしね······。
先生にヘルプを求めながら頑張って火を付ける男の子達を見つつ、私はエールを送るの。
火を付けないことにはその先が進まないからね。
(頑張って!みんな。)
因みに私は、これに関しては力にはなれない。
バーベキューとかキャンプとか、そういうのの経験はゼロだから······。
「このはちゃーん。これはどう切ったらいいの?」
「ん〜?? どれどれ?」
呼ばれて行く先は野菜の切り方。
まずは皮を向いて、じゃがいもの場合は芽も取って。
人参、玉ねぎも同様に皮を向いてね。
「人参はね、いちょう切りにするんだよ。分かる?」
「いちょう切りって何??」
「いちょう切りっていうのは、いちょうの葉の形に似てるからその名がついたんだけどね、人参とか大根を縦半分に切ると半月切りって言うの。これはそのまんま半月みたく見えるからだよ。それをまた縦半分、つまり丸ごとの縦4分の1に切るといちょう切りになるんだね。」
「ほうほうほう。」
「なるほどー······。」
「カレーの場合はこのいちょう切りが多いかな? 丁度口にしやすい食べごろサイズになるからね。で、切り方は······。」
知らなかった皆に切り方と共にその名称にもついて教えていった。
普段何気なく食べてはいてもこういうのって調理をしないと意識をあまりしないみたいで、切り方とかを知らないんだよね。
だから切り方にも名称があったんだーって、皆が驚いてるし。
「分かったよ、このはちゃん。ありがとね!やってみる!」
「うん。ゆっくりでいいから、指を切らないように気をつけるんだよ?」
「はーい♪」
「このはちゃーん!ジャガイモはー?」
こっちが終われば今度は隣から声が掛かって、今度はじゃがいも。
「皮と芽は取れた?」
「皮は向いたけど······、芽って何??」
「芽はね······。」
こちらもこちらで知らない事ばかりだけど、そこもまた丁寧に教えていきます。
芽の取り方。
今回は包丁で取らないといけないから危ないけどその取り方や、青く変色してる部分があったからそれについての説明と除去。
それをまた、真剣に聞いてくれる皆。
こういうのを教えてみてると、昔の私もそうだったなーって懐かしく思い出すよね。
13歳の時にお母さんから料理を教わる様になって。
今の皆と同様に何も知らなかった私に、一つ一つ丁寧に教えてくれたお母さん。
各野菜の扱い方や特徴。
切り方や名称から、調理の手順に味の付け方。
知れば知るほど楽しくて面白くて、どうやったらもっと美味しく作れるのかな?なんて考えてみたりして······。
そういうのを皆にも知って欲しいなって思いながら、丁寧に一つ一つ教えていくの。
私の反対側では茜ちゃんが私と同様に教えていて、切り方と同様に包丁の保ち方や手の置き方を教えてくれてる。
頼もしいな〜って思うのと同時に、ありがとうって気持ちもまた大きい。
今回のこちら、私達の調理班については私と茜ちゃん以外に料理を出来る子がいなかったから正直なところ、私だけだったらかなり大変だったかもしれないからね。
いや、実際には無理だったかも······。
特に包丁を使う場面では危ない時は直ぐに指示を出せるように、常に見ていないと危険だからね。
そういう時に他の事を教えるというのも、それはそれで不安にもなるからさ。
そういった懸念もある中で、茜ちゃんが料理を出来るっていうのはもの凄くありがたいの。
見れば茜ちゃんも茜ちゃんで、嬉しそうに教えているんだよね。
多分これは、いつも皆からよくしてもらってるから(私の隣にいる事)、その恩返し的な事が出来るのが嬉しいのかな?と私は思ってる······。
そんなこんなで皆に教えていたら、向こうの男の子達の方では火が上手く付いたらしいです。
これもクラスによってはまだな所もあるけれど、少なくとも私達のクラスについては大丈夫みたい。
後はご飯を担当する男の子が上手く炊けるのか?というのがあるけれど、失敗してもそれはそれで別に構わないと思ってる。
焦げたりとかしても、それもまた野外炊飯の醍醐味だと思うからね。
そちらはもう任せる事にして、私達は野菜切りを終わらせて鍋に入れて火にかけるまでだね。
水加減、火加減を上手く調整して果たして上手く作れるのか?
結果は分からないけど、皆がワイワイと楽しく調理してるからそれで十分。
失敗しても「失敗しちゃったー」って、笑って思い出に出来そうな雰囲気があるからね。
さあ!残りあと僅か。
頑張ろっか!!




