ある日の林間学校①-9 20歳高2
「彩ちゃ〜ん、おいでー。」
「はぁ~い♪」
名前を呼べば待ってました!と言わんばかりの嬉しそうな返事と笑顔と共に、トコトコと歩いて洗面所までやっくる彩ちゃん。
そして私の前に座ってスタンバイ。
ブオォォォォ······。
「あぁ〜······気持ちいい♪」
「そう?それなら良かった。もし熱かったりしたら遠慮なく言ってね?」
「うん。」
髪の毛に決して近過ぎず、かといって遠すぎても駄目だから、その辺りのバランスを取りつつ髪の毛を乾かすの。
あの後、入浴が終わって着替えてからやる事の1つに髪を乾かすという工程があるのだけれど、これがまた大変なんだ。
脱衣所の洗面スペースにドライヤーが置いてはあるのだけど、圧倒的に数が足りないんだよね。
それに私達は髪を乾かすのにもその長さによって多少差があるにせよ、時間がどうしてもかかるからね。
たからどうしてもドライヤーのスペースは混雑してしまうんだよね。
で、そこで思い出したのが私達の部屋にもドライヤーがあったなって事。
それなんで部屋の方に戻ってゆっくり乾かそうって事になって、脱衣場の方のは使わずに部屋の方で乾かしてるんだ。
この部屋に入った時に一通り確認をしたんだけど、その時にお風呂があるのを確認したんだ。
このお風呂は使わないでと言うことなので入らないけど、お風呂があるのならって洗面所を調べたら、やはりドライヤーが1台常備されてたんだよね。
だから私達はこちらのドライヤーを、皆で代わる代わる使う事にした。
で、私は本来は持ってこなくても良かったドライヤーを自宅から持って来たんだ。
これは皆と比べて一際髪の長い私は、その分時間がどうしても掛かってしまうからなんだ。
いくら備品としてドライヤーがあったとしても、私の髪のせいで皆の乾かす時間が遅くなってしまうのが申し訳なくて持って来たんだよね。
結果的には大変役にたってくれた。
備品の1台と私ので2台をフル活用して乾かせば、その分早く終わるからね。
でもそうすると今度は洗面所が熱で凄く暑くなるから、そこはお風呂場の方の扉を開けて換気扇を回す事で解決したんだ。
元々お風呂を使ってないから湿気もなくて、開けといても部屋自体には何ら影響はないからね。
私の隣で備品のドライヤーを瑞穂ちゃんが使ってて、私は彩ちゃんの髪の毛を乾かしてあげてるの。
これは先程のお風呂の時の、私が茜ちゃんの髪の毛を洗ってた事に対しての皆への代わりの物なんだ。
そうすると今度は瑞穂ちゃんが自分でやってるのは何でだろ?っていうのがあるけれど、これは私が皆に選択肢を出したんだ。
膝枕がいいか、ドライヤーで髪の毛を乾かしてあげようか?とね。
「でも······彩ちゃんがドライヤーを選ぶなんて意外だったな。私、絶対に膝枕だと思ってたのに······。」
「あ、それ、私も同感だよ?一体どうしたの??」
そうなんだよね。
彩ちゃんがドライヤーを選んだのは驚きでさ、瑞穂ちゃんも言うように本当に凄く意外なの。
本人は大変ご満悦層なので、それはそれでいいのだろうけど······。
「うーん······あまり深い意味はないよ?強いて言えば今後の付き合いの中で、可能性の低い方を選んだだけだから。」
「へぇ〜。面白い所に着目したんだね。」
「だねぇ······。」
確かに着目としては面白いかも?
膝枕は場所さえなんとかなれば出来なくはないけど、ドライヤーに関しては今後はないとほぼ言える。
それは来年の修学旅行に私が行かないのもあるし、あと次の夏休みにまた皆とプールに行ったと仮定しても、そこではドライヤーなんて使わずに帰るからね。
だから確率だけで考えれば、ドライヤーは今後は恐らくもうない。ゼロ。
茜ちゃんはそうでもないけどね。
「はい、乾いたよ。」
「ありがと〜このはちゃん♪ いや〜·····気持ち良かったよ♪背もたれのある椅子とかに座ってやって貰ってたら絶対に寝ちゃうね!」
「あははは······。それはありがと。じゃ、次の子を呼んできてくれる?」
「オッケーイ!」
元気に洗面所を出ていく彩ちゃん。
そんな後ろ姿を瑞穂ちゃんと一緒に見送ってると、ポツリと一言聞こえたんだ。
「そんなに気持ちいいのかな·····?」
そんな呟きが隣から聞こえた······。
ーーーーーーーー
「このはちゃーん。お布団敷いといたよ〜。」
「ありがとう、みんな。」
「いいって、いいって。」
「そうそう。お安い御用だよ!」
フフンと胸を張ってドヤ顔をするみんな。
それは私が頼んだのではなく、彼女達が自主的にお布団を敷いてくれたんだよね。
それも私がドライヤーをしてあげてる間にさ。
これには私も驚いたと同時に嬉しくもあったんだ。
私が指示をすれば素直に動いてくれる皆だけど、それだけじゃ駄目だからね。
自分で次に何をするべきか考えて行動を出来るようにならないといけないからさ。
そういう意味でもこれは嬉しかった。
布団を敷いてくれたのは、二間続きの部屋の奥の部屋。
そこにもテーブルはあった筈なんだけど、それは手前の部屋に運んでくれたみたいで2台並べて置いてあるね。
「それで、私はどこで寝ればいいのかな?」
「このはちゃんは勿論、真ん中だよー。」
「そうそう!それはもう、絶対なの!!」
「反論は認めません!で、1つ隣はもう茜で決まってるから、残りの位置はこらから決めたいと思います!」
美紅ちゃんが声高々にそう宣言した。
そしてそれに対して盛り上がる皆で······。
お布団は横4☓縦3の列で敷いたみたいで、私はその真ん中の列の真ん中で決まりらしいです。
そしてその1つ隣が茜ちゃんで既に決定らしく、いつの間に決めたのやらと驚きを隠せないです。
まぁでも、皆がそれで納得しているのなら私はいいんだけどね。
仮に端っこで寝てと言われても、私は全然構わないし······。
「と言う訳で、就寝場所を決めるじゃんけんをしたいと思いまーす!」
「「「「いぇーい!!」」」」
「待ってました!!」
志保ちゃんの司会による、場所決めじゃんけんが始まった。
「決め方は皆で一斉にこのはちゃんとじゃんけんをします。このはちゃんに勝った人は、またこのはちゃんとじゃんけんをする勝ち抜き戦で行きたいと思います。その際に引き分けは負けと同じにして、最終的に勝ち抜いた1人になるまでやり、その人から順に好きな場所を選んで貰おうと思います。負けた人もその都度じゃんけんをして1人ずつ選んで貰うようにするからね。」
「しほ〜? 同順の場合はどーするの?」
「その場合もその人同士でこのはちゃんとやって貰って、白黒つけてもらうよ。という訳で、このはちゃん。少しだけお付き合いをお願いします。茜ちゃんは勝ち抜けとかの順やグループを覚えといてね?」
「はーい。」
「オッケー♪ じゃあ、皆。頑張って私に勝って、いい場所をGETしてね?」
「はい!! 私、頑張るよ!!」
「うちも!! このはちゃんの隣をゲットするんだから!」
「これは負けられないよ!!」
凄いやる気を出す皆だった。
それに対して私はエールを送る事しか出来ないけど、でもまぁ······皆が楽しそうにしてるから、これはこれでいいよね。
皆で過ごす最初で最後の夜。
後悔のないように頑張って欲しいなとは思う。
「じゃ、最初はグーはなしで始めからいくよ?いい??」
「「「「はーい!」」」」
いよいよ始まる。
みんなの一晩を掛けた戦いが······。
「「「「「「じゃんけん、ポン!!!」」」」」」
ーーーーーーーー
「このはちゃん、強すぎ······。」
「というかさ、ババを持ってるとか持ってないとか、全然分からないんだけど······?」
「えへへへ······。幸せ······♡」
「このはちゃんって、表情が全然変わらないよね?」
「そうかな?」
只今私達は、みんなでババ抜きをやってます。
これは彩ちゃんがトランプとUNOを持って来てくれてたのと、もう一人、陽子ちゃんもトランプを持って来てくれたんだよね。
それなんでデザインは違うけど枚数だけは十分にあるから、皆でババ抜きでもしようかって事になったんだ。
まぁ元々、晩ご飯の後にやるつもりだったみたいなんだけど、私が星空観察をするからお風呂上がりにしよ?って変更したんだよね。
で、みんなでテーブルを囲んでやっているババ抜き。
布団を敷いた部屋とは別の、二間続きのドアから近い部屋でテーブルを囲ってやってるんだ。
そして只今、3戦目中。
皆が私が強いとか何とかって言ってるけど、別に1位抜けしてる訳ではないんだよ?
1位は常に変わっていて、私は2位又は3位とかで抜けてはいるから、恐らくそこからそう言われてるみたい。
まぁ、この人数を考えればかなりいい成績ではあるのには変わらないんだろうけれど······。
私が隣の茜ちゃんからトランプを取って確認して、揃わせないからそのまま次の志保ちゃんが私の手札からトランプを抜き取って行く。
ほら、普通にババを取ってくれた♪
内心喜ぶ私。
だけど決して顔には出さないの。手元に来た時も出て行った時もね。
ただ手元にババが来た時の志保ちゃんがわかり易すぎる反応を示すから、皆にバレるんだよ〜。
「志保······、貴女、ババを引いたでしょ?」
「え?何の事かな?私、引いてないよ?」
「そう······。なら、そういう事にしといてあげる。」
志保ちゃんの隣は彩ちゃんで、彩ちゃんは志保ちゃんを揺さぶってる。というか、絶対に気が付いているよね。
わかり易すぎる志保ちゃんだから······。
「あぁぁぁ〜〜······、負けたぁー·······。」
結局あの後、ババを持ったまま志保ちゃんが負けたんだ。
「志保ちゃんさ、顔に出過ぎなんだよ。」
「そうそう。このはちゃんから取った時もだけど、抜くときに手が触れただけでピクリって反応してるからね。」
「反対側から見てても、分かるんだもんねぇ·····。」
志保ちゃん。
しっかりした子で私と一緒にクラス委員長をやってくれてる、頼もしい相棒。
そんな彼女はババ抜きに弱かった。
理由は皆の言うように顔に出るから。
「くぅ〜······残念!! もっかいリベンジだよ!」
「「「はいはい。」」」
「しょうがないねー、全く·····。」
そして意外と負けず嫌い?だった。
「というかさ、いつまでそうしてる訳?みっちゃん?!」
「え?」
「もう終わったんだから交代だよ?」
「そうそう!次は私の番なんだから、早く変わってよね。」
「うぅ······。残念·····。」
そう言って瑞穂ちゃんは、しぶしぶ私の膝から降りていったんだ。
「じゃ、また席を動いてシャッフルするよ。」
「「「「はーい。」」」」
美紅ちゃんの合図で皆が一斉に席を変える。
これも今回限りのゲームで取り入れたルールなんだ。
さっきの志保ちゃんみたいに顔に出る子もいれば、私みたいに顔に出ない子もいたりで、そうすると対照的過ぎて分かりやす過ぎちゃうとか何とかで·····。
それをやってもババが来ちゃえば同じな様な気がしなくもないけど······それは表面上の名目だね、きっと。
裏の真の理由は、私の隣に座りたいだけみたい······。
「ところで·····どうだったの?みっちゃん??」
「そうそうそう!感想を是非!」
「ん~~·····。一言でいい表すと天国!! 程よい柔らかさに温もりと、変わらずの素敵な香りにと、この世の天国だよね♪」
「「「おぉ〜!!」」」
「あーあ······ドライヤーは失敗したかなー??」
「彩はドライヤーにしたんだっけ?」
「うん。まぁ、あれはあれで気持ちよかったんだけどね。」
皆がそう話すのは、先程のドライヤーと膝枕の選択の事。
あの時に膝枕を選んだ子は、このトランプ時間を利用してその間に堪能してもらってるの。
1人ワンゲーム。
それも私が抜けた時点で終わりって感じにしたんだけど、終わった後もつい声を掛けるのを忘れちゃって、みんなが終わるまでになっちゃってるんだよね。
まぁ、私が意外と早いタイミングて抜けちゃってるから、ある意味これでいいのかもしれないけど。
「じゃ、次、私行きます。······このはちゃん、お邪魔します·····。」
「はい、どうぞ。」
次の番の咲夜ちゃんが、おずおずといった感じでやって来た。
この子は少し前の茜ちゃんと同じ様に控えめな感じの子だから、自分からは来ないんだよね。流れに任せて来るって感じで。
ポフッといった感じで収まる咲夜ちゃん。
「うわぁぁ·····。気持ちいい♡」
「いいなー·····。やはりあれにするべきだった······。」
「うん。」
「だねぇ〜······。」
素直な感想を漏らす咲夜ちゃんを、羨ましそうな眼差しで見つめるドライヤー組の子たち。
「まぁまあ。済んだ事をいつまでも言ってても、このはちゃんに悪いから、もうそれは言いっこなしだよ?」
「そうそう。何だかんだで私達はこのはちゃんの優しさに甘えてるだけなんだらさ。」
「そうだね。そうする。」
「ごめんね、このはちゃん。」
「いいよ、いいよ。大丈夫。そう思ってくれるのは、私としても嬉しいからね。さあ、次も始まるよ?」
美紅ちゃんや志保ちゃんが、彩ちゃん達をなだめてくれた。
みんなが言うほど私は気にはしてなくて、寧ろ求められるのは嬉しいんだよね。
みんなが言うように優しすぎるのも自覚はしてるけどさ、でも、それが私だからね······。
「咲夜ちゃん。そっちじゃなくて、こっちを向いた方がよいよ。」
「こっちって······お腹側?」
「そう。ついでに手が回るなら、ギュッとしても良いからね?」
「う·····うん。ありがと。」
遠慮して私の前側、つまりテーブルの方を向いて寝転がった咲夜ちゃんに、私の方を向くようにと伝えてあげた。
それにお礼を言いつつ、もそもそと向きを変える咲夜ちゃんで。
雪ちゃんもそうだけど、膝枕はこっちの方が良いらしいんだよね。
私には良くはわからないけど、身体の鼓動とか動きが伝わるとかで安心するとかなんとか。
だからか、おんぶよりは抱っこの方を雪ちゃんは好んだんだ。
寝てる時も偶に私のお腹とか胸の辺りに、頭を乗せて来ることもあるくらいだからね。
だから抱きつきを好む皆は、きっとこっちの方を好むと思ったわけです。
「さ、次行くよー。負けた志保ちゃんから行ってみよっか?」
「くぅ·····。次こそは負けないんだからね!」
「あ、折角ならジジ抜きにしてみる?あれなら何が残るか分からないから、志保ちゃんでも勝てるかもよ?」
「あっ! それいいね! それなら私でもワンチャンあるかも!?」
ババ抜きと違って手札の中からランダムに1枚抜くジジ抜きは、何が最後に残るのか誰にも分からない為、顔に出やすい志保ちゃんでも勝てる可能性があるの。
そしてそれはそれで面白くなっていいよねって事で無事に採用されて、今度はそれで戦うことになったんだ。
就寝時間までは、あと少し。
静かな外とは裏腹に、和室の中は賑やかで楽しい声が響く。
こんな時間が何時までも続けばいいのにな······なんて、皆が思いながら······。




