ある日の林間学校①-4 20歳高2(挿絵有り)
明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。
『林間学校』
それは春から秋にかけて山間部や高原などに赴き、ハイキングや登山、飯盒炊飯や自然観察、農業体験など自然や動物などと触れ合う野外活動を行い仲間との集団生活を通して心身を鍛えたり学ぶこと。
似たような活動では臨海学校という海バージョンもあるらしいのだけど、私達の住む県は海が無いからね。
それに行くとなると交通的にやや時間がかかるのと今の季節的には海に入れないから、選択肢としてはこちらになるみたいなんだ。
まぁ実際に丁度よい季節に海に行ったとしても、海より山派な私としてはこちらの方が嬉しかったりする。
というのも、私は結構自然とかは好きなんだよね。
理由は植物の緑とか見てると和むし癒やされるから。
濃い緑色の葉っぱや紅葉といった季節ものを見たり歩いたりするのも素敵だけど、特に好きなのは新緑の黄緑色の葉の色。
寒い季節を乗り越えて芽吹いた若葉。
まだ小さい葉っぱだけど、裸だった木々が一斉に黄緑色一色に染まり殺風景だった世界が緑溢れる世界になる、その瞬間が好き。
ついでに私の所は田んぼも多いから、小麦を作っている所は一気に小麦が大きくなり出すの。
そうすると、冬の時期からあった緑色の小麦の絨毯がさらにボリュームアップして、隙間のないほどの緑色の田んぼになるんだ。
そういう所も私は好き。
私の名前は『このは』。戸籍は漢字ではなく平仮名でね。
多分漢字で表すなら『木の葉』がそれなんだろうけど、お母さん達は平仮名でつけてくれたんだよね。
由来についてはここでは省くけど、『このは』というと、まず木の葉っぱをイメージするかもしれない。
だから自然が好きなの?と問われると、それは違うと私は言いたい。
お母さん達がどんな思いでつけてくれたのかは知ってるけど、それはそれであって連想こそすれど自然を好きになった理由はまた違うからね。
そんな訳でこの林間学校は私はとても楽しみにしてたし、只今絶賛して満喫をしている。
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「はぁ···はぁ·······。ちょっと、このはちゃん·····早すぎ·····。」
「というか、茜も早くない?」
「だよね·····。いや·····まぁ······運動部は分かるんだよ?日頃から運動して鍛えてるから体力があるのはさ? でも、このはちゃんは帰宅部でしょ?なんでそんなに余裕なのさ?」
みんなが·······いや、主に文系の部活をやっている子達からそんな声が上がる。
早いだの、なんでそんなに余裕なの?だのって。
そしてそれが運動部の子ならともかく、帰宅部である私がそんなんだから不思議で仕方ないらしい······。
「まぁ、確かに私は帰宅部だけどさ、一応自宅で運動はしてるからね。それに体育祭の後からは軽くではあるけど自宅の周りを走ったりもしてるよ。」
「えっ? このはちゃん、そんな事までしてたの?」
「うん。体育祭の時の高橋先生をみてたら、運動は大切だけど走ったりする方の運動も大事なんだなーって気付かされてね。短時間であるけどダーって走るようにはしてるの。」
「マジかー·····。」
「すっごいな、このはちゃんは······。」
「だからその体力なのか······納得。」
一部のみんながハァハァと息を切らしつつ行っているのは、この林間学校のメインの1つでもあるハイキング。
ハイキングというのか登山というのか、その辺りは人によって捉え方が違うのだろうけど、名目はハイキングとなってはいるんだよね。
ハイキングやトレッキング、登山は言葉としては定義や違いはないらしくその人の主観による所が大きいのだとか。
私も登山と言うとガチの山を登るイメージがあるし、ハイキングと言えばそれなりの緩やかな場所を歩くイメージなんだよね。
で、このハイキングがどちらか?と問われると、私としてはハイキングと登山の中間的な印象を抱いてる。
道は結構整えられてて歩きやすさはあるけれど、起伏は多くて登ったり下ったりしてる。
だから足元は良いけど、体力的には結構消耗するものがあるんだよね。
先生曰く、先生も含めて素人の私達が歩くわけだからそこまで高い山に登ることは無く、程々の高低のコースらしいんだってさ。
それでも堪える子には少し厳しいコースかなって気がする······。
「ほら、頑張って!あと少し行けば休憩ポイントになるからさ。」
「う····うん。」
「頑張るしかねーか······。」
息のあがってきてる子を励ましつつ、私はみんなの様子も確認していく。
茜ちゃんを始めとした運動部系の子は流石というのか、そんなに息は乱れてない。
やはり日頃から身体を動かしているというのは、こういう場面では躊躇に差が表れるものなんだなと思いさせられるよね。
「じゃあ、私が少し引っ張っていってあげるよ?ほら、手出して??」
「あ、うん·····。ありがとう。」
咲夜ちゃんの手を取って引っ張る様な形で歩き始めた私。
多少負荷はかかるけどこのくらいならまだ大丈夫。
「このはちゃん······無理、してない?本当に大丈夫??」
「うん?大丈夫だよ、茜ちゃん。引っ張ると言ってもそこまで負荷はかかってないからね。それにいざとなれば、休憩すればいいんだしさ。」
「そっか·····。このはちゃんがそう言うなら信じるけど、辛くなったら無理しちゃ駄目だからね?」
「うん、分かってる。ありがとね、茜ちゃん。」
「ごめんね〜このはちゃん。私がもう少し体力があれば······。」
「いいんだって、咲夜ちゃん。私が好きでやってるんだから気にしないで。それにキツそうなら休憩ポイントまで行かないで休んでもいいんだからね。」
申し訳無さそうにしている咲夜ちゃんを励まし、同様に疲れている子を代わり番こに手を繋いだりして引っ張ったりする私。
そのくらいこのハイキングコースは起伏が多いいんだ。
道だけはしっかり整備されてるから、歩きやすいのはあるんだけどね。
今回のハイキングもとい、林間の日程について。
今のこれも私達の学年全生徒ではないんだよね。
実は全体を半分に区切って、それぞれ1日目と2日目に行う工程を入れ替えて行ってるの。
それは予定に入っている飯盒炊飯の関係みたいでね。
これが今のキャンプブームでそれなりの規模の設備があるらしいのだけど、さすがに私達全員がやるには設備も備品も足りないらしい。
だから学年を半分にして、日程を分ける事で可能にしたんだとか。
大変だよね、先生方も······。
なので今のハイキングも1組から5組までのクラスが初日に行っていて、残りのクラスは私達が明日行う予定の事をしているんだ。
そしてこのハイキングも最終目的地点は一応設定されている。
そこで昼食を兼ねた休憩をしてホテルに戻るという予定なのだけど、そこに至るまでの休憩ポイントとかは道中にあるにはあるけど、それ以外でも各グループで個々に判断して休んでも良いらしいの。
たとえ遅れたとしても、この整備された道は一本道で分かれ道もないし、一応最後尾にも先生が付いていてくれてるから安心もあるからね。
「みんな。少し休憩しよっか?」
「「「うん!」」」
「「「「はーい。」」」」
私の合図で休憩することにした。
きちんとした座るところはないから、適当な石に好きに座って飲み物を飲んだりして身体を休める。
「みんな? 疲れてるけど気分が悪いとかそういうのはないかな?」
「気分?うん。大丈夫かな。」
「私も平気だよ。」
「私も大丈夫。」
「うちもー。」
「そっか、なら良かった。でも、あれだよ?少しでも悪くなったら我慢ぜず言ってね?先生に連絡して下山するから。」
「「「うん!」」」
「「「はーい。」」」
休憩がてらみんなの体調についても確認をしてみたの。
疲れているのは目に見えて分かるんだけど、気分が悪いとか頭痛がするだとかは気付きにくかったりするからね。
まぁ余程酷いようなら私が見ても気付いたりはするけど、症状の軽い初期だと分からなかったりもするから。
それにこのハイキングは高さ的にはそんなに登らないらしいけど、そもそもこの場所自体が標高がある場所だからね。
だからやっぱり疲れなんかも含めて体調不良になりやすいという事も考えられる訳で、みんなの事をよく良く観察しつつ動かないとねと思う。
「それにしても、このはちゃんはほんと元気だねー?私なんて結構ヘトヘトなのに······。」
「あー·····、それ、私も思ってた。ここに来た時もそうだったけど、歩き始めてからもっと元気というか活き活きしてきた?」
「あ〜······それね。それはさ······。」
私はみんなに説明をしたの。
私が自然や木々の緑とかが好きなこと。
ハイキングと言うことは当然山の木々に囲まれた所を歩くわけだから、そんな緑溢れる中を歩けば気分も良くなるよねって。
「それにさ、こう見て歩いていても紅葉が始まっているのが分かるでしょ?そういうのを眺めながら歩いてるのが、またいいんだ♪」
そう伝えて前方の方の山を、木々を見る。
まだ緑色の葉っぱが残る中に黄色やオレンジといった紅葉が始まってる木々もチラホラと見受けられて、場所によっては固まって紅葉してる箇所もあるよね。
もう少し遅いタイミングならもっと素敵な紅葉が見れたかもしれないのにな〜、なんて少し残念にも感じたりはしてるけどそこまで求めたら贅沢だよね。
ここだって普段気軽に来れる場所ではないのだから、今のこの景色だけでも十分と言うものだよ。
「じゃ、そろそろ歩きを再開しよっか?」
「「「「はぁ〜〜い。」」」」
それなりに休憩をした所でみんなに声をかけて、再び歩き始める事にした。
なんかこういうのってあまり休憩し過ぎても良くないような事を見聞きした事があったからね。
まぁ、それが本当かどうかは分からない所だけど実際問題、時間的な物も関係してるから余りゆっくりもしてられないというのが本音。
先ほどと同じ様に、みんなと手を握りつつ歩く私。
これも道が整えられてるから出来る事であって、想像する一般的な登山の山道ならまず出来なかったよね。
狭くてゴツゴツしてて起伏ありの道幅も狭くて······そんなイメージだもの。
そういう道だと私だって歩くのは大変。
それと皆に声をかけたり体調を気にしたりと、先生又は保護者みたいな事をやってるなーとも思ったりもしてる。
元から狙ってやってる訳ではなく、私の性格とかそういうのが合わさっていつの間にかそんなポジションになった私なんだけども、皆もごく普通について来てくれるのでそれはそれでいっかとも思ったり。
「それにしても、意外と登山者がいるんだねー?」
「そうだね〜。それは私も意外だよ。」
「ここってさ、そんなに有名な場所なんだっけ?」
「さぁ?どうなんだろ?全然分からないけど、時期的な物とかも関係してるんじゃないかな?ほら、もう紅葉シーズンだからね。」
そんな話をしながら歩く私達。
その私達の隣を先程からご年配の方々が、どんどん追い抜いて先に進んで行くんだよね。
そんな光景を見てて、そういう話になったの。
「うちらの方が圧倒的に若いのに、追い抜かれるってどんだけ鍛えてるんだろ······。」
「いや、寧ろ私達が遅いんじゃない?ハァハァ言って休み休み歩いてる私達に対して、あの人達は息も乱さすキレイな姿勢で歩いてるしさ。」
「本当にだ·····。何が違うんだろね?経験??」
見れば見るほど凄いなと思ってしまう、ご年配の登山者さん達。
このルートを歩き始めた時は然程いなかったのに、時間が立つにつれて登る人が増えてきてそしてどんどん抜かれて行くの。
私達が休み休み歩くのに対して、向こうはそんな事もなく力強く歩いてるから凄いなの一言だよね。
現に今そこでも一人の女の子が休憩をしてたりしてるけど、それは私達の学校の生徒さんであって、他の方はチラッとそれを見るものの休む事なく元気に歩いて行ってるからね。
そして意外と人が、観光客が多い。
先生が『一般の方も泊まってるから、迷惑はかけないように!』と厳しく言ってたのが、この場所からでも理解できるよね。
朝、ホテルに着いた時にも駐車場に車が沢山停まってたのは確認済みだけど、部屋に行った時は然程すれ違ったりはしなかったんだ。
これは恐らく時間的なタイミングも関係してたんだろうけど、でも、こうも多いとはね······。
紅葉の季節になると東京の高尾山の様子をテレビで見たりするけど、ここもあそこまでの人はいないにしてもそれなりの人の数だからね。
改めて登山人気というものを実感させられるよ。
「ほら、みんな。 私達もあの人達に負けない様にがんばろ!」
「そうだよー。私達は若いんだからさ、あまりヒーヒー言ってると情けなく見えちゃうよ。」
「ほらほらほら·····。私達も手伝って上げるから頑張るよ! ゴールまであと少しだからね?」
私はみんなを励ます。
それに答えるかの様に元気な子が疲れてる子を励ましつつ、引っ張ってあげたり後ろから押すなどサポートをしてあげてるの。
いくら体力があると言っても彼女達だってそれなりには疲れてる筈なのにそれでも仲間を、友達を気遣ってあげられる優しがあるというのは凄く素敵な事だなと感動してしまう。
「どうかしたの?このはちゃん??」
茜ちゃんが私の顔を覗き込むような感じで見て話しかけてきた。
「うん?えーとね·····疲れててもみんなが皆を気遣う優しさがあって、いい光景だなーって見てたんだ。」
それに対して感じてた事を素直に話す私。
「そうだね。でもそれは、きっとこのはちゃんの影響だよ。皆、このはちゃんが好きだし憧れてもいるからさ、いい所を真似したりしてそういう風になりたいって思ってるんじゃないかな?」
「そっか〜······。茜ちゃんも?」
「私?私はこのままでいくよ? だってこのはちゃんが、このままの私でいいって言ってくれたからね。」
頰を染めて嬉しそうに話す茜ちゃん。
全く、この状況下でそれは反則だよ······。
幸いにしてみんながこちらを向いてないから良いものの、見てたらまた茜ちゃんがあたふたする未来が見える所だったよ······。
さてさて。
ゴール地点であるポイントまではあと少し。
みんなと力を合わせて頑張るよ!!




