ある日の林間学校①-2 20歳高2
「みんな、おはよー♪」
私はクラスのみんなが集まってる場所を見つけるとそこに近寄りつつ、空いていた右手で手を振るった。
「あ!このはちゃん!おはよー。」
「おはよう〜このはちゃん!」
「「「おっはよー!」」」
そうすると私に気が付いた皆が、同じ様に手を振りつつ挨拶を返してくれて嬉しくなる私。
「みんな、朝から元気だねー。」
私は皆に囲まれながらも尋ねてみた。
秋が深まった今の季節は太陽の昇る時間が日々遅くなってるからまだ空は薄暗くて、そんな早朝に私達は外にいた。
でも私達のいるここは街灯がそこそこあるので思った程には暗くはないんだ。
それはここが学校ではなくて学校から比較的近くにある、市の施設の駐車場だったから。
だから比較的街灯の数もあって空が薄暗い割には明るかかったの。
そして、ここが今回の集合場所だった。
「そう?私は特にいつも通りって感じだけど······。」
「私はまだ眠いかな〜?昨日あまり眠れなくてさ。」
「あー······私もだよ。昔っからさ、こういう行事毎があると寝れなくなるんだよね。」
「あー、分かる分かる。こういう楽しみにしてる事があると興奮とかして寝れなくなるあれだよねー。」
「「そうそう!」」
皆と合流して挨拶を交わせば、早速いつもと変わらない挨拶が返ってきて·······いや、違うか。
元気なのは茜ちゃんを筆頭に、美紅ちゃんと志保ちゃん他数名。
で残りの皆、これは男の子も含まれているんだけど、その皆は元気は元気なんだけど、でもどこか眠そうにしてるんだよね。
まぁ、これはある程度は仕方ないのかなと思う。
だって時間を確認すれば、今は朝の6時半前だからね。
暑かった残暑も収まってきて、日中はすっかりいい気候になってきた秋の季節の某日。
今日はみんなが待ちに待った林間学校の日なんだよね。
文化祭の事や試験の事、その他諸々と並行してやらなくてはいけない事が沢山あった中で迎えた本日。
幸いにして天気も今日明日と晴天に恵まれたので、みんなの気持ちも昨日からかなり上がってはいたんだ。
ただ高いテンションとは裏腹に集合時間が早いが為に、眠そうにしてる子が多いいんだ。
普段の朝ならこの時間だともう起きてるとは思うけど、それはあくまでも家の中ではの話。
今朝はこの時間でこの場所に集合だから、ということは普段よりももっと早くに起きて準備をしないといけないことになるからね。
起きて着替えて身支度をして、ご飯を食べてくるとかもあるだろうし、家からここまで来る時間のこともあるからさ。
だから皆からすれば、かなり早起きをしたんじゃないのかな?と思ってしまう。
私?
私は大丈夫だよ。
私は普段も5時半には起きて洗濯とか諸々をやってるからね。
それが今朝はもう少し早く起きたくらいでは、大した支障はないから。
それに洗濯物も昨日の段階で済ませてしまったから、今朝のやる仕事としてはあまりなかったからね。
ただ集合時間が早くて雪ちゃんの面倒を見れないのが心残りだっだ。
起きてからのご飯や着替え諸々の事は、お母さんにお願いしてきた訳なんだけどさ。
「やっぱり皆は、眠かったんだね?」
「「「「うん。」」」」
「テンションは高いんだけどさ、何時もより1時間起きるのが早いのは結構響くよね。」
「そだね〜。」
「それにしても、やっぱりこのはちゃんは流石だね?」
「何が?」
皆の話を聞いててテンションが上がりすぎて中々寝れなかったとか、起きる時間がいつもよりかなり早くて辛いだとか、そういう話をしてる中で私が凄いね?なんて言われたよね。
「だってさ、朝早いのにいつものこのはちゃんと全然変わらない感じだよ。」
「そうそう。茜ちゃんとか志保ちゃんもあまり変わらなくて、朝に強いんだなーって思ってたんだけどさ、やっぱりこのはちゃんもだから流石だなって思っちゃった。」
「このはちゃんってほんと、弱点がないよねー?」
「えぇ〜······。そんな事はないよ?私にだって出来ない事は沢山あるし、苦手な物もあるからね。ただ······朝が強いのは昔から早くに起きて色々とやってるのがあるからさ、ある意味習慣みたいな物だよ?」
みんなが色々と私を持ち上げてくれるけど、そんなに凄い事ではないんだよ。
私にだって出来ない事、苦手な事はあるからそういう意味ではみんなと一緒だもん。
ただ一生懸命勉強したりして身につけたっていうだけでさ、例えば運動なんかで言えば私より茜ちゃんの方がよっぽど優れてるし、体育の成績も私なんかより断然良いからね。
朝の事も昔から早くに起きて色々とやるのが日課になったから、自然と起きれるようになっただけ。
それはきっと、ここにいる茜ちゃんも同じな筈なんだよね。
茜ちゃんも夏休みから誘って泊まりに来てくれたりしたんだけど、その時に朝に強い事を知ったんだ。
理由を聞いたら茜ちゃん自身も朝早くに起きてお家の事、つまりは朝ご飯の支度とか洗濯とかそういうのをやらなくてはいけないから、それをやってる内に朝にも強くなったんだって。
お父さんと2人きりで、お母さんとお姉さんの代わりに茜ちゃん自身がやらなくてはいけなくなってしまったからね······。
「おーい! 皆、集まれーー!! クラス毎に整列して点呼を取るぞー!」
「あ······整列だって。もうそんな時間だね。 よし、お話は一旦お終いにして皆、行くよ?」
「「「「はーい。」」」」
「「「うん!」」」
皆と話をしてる最中に向こう側から先生の集合の合図が出て、それに従う私達。
今回の林間には来年の修学旅行を見越してクラス単位での行動又は小グループでの活動、時間を守る事や仲間とのコミニュケーション等、規律を守る事そういった事を学ぶ・実践する事も大切な目的とされてるからね。
私は修学旅行は行かないけれど、修学旅行には全体での行動もあれば小グループでの自由時間もあるらしいからね。
その時に決められた時間に決められた場所に集合するって事も求められるし、又、数日間の泊まり日程でもあるからたとえ数泊とはいえ、皆と朝晩の食事や入浴を共にしたり寝る事。
人それぞれ行動とか好みとかあるけれど、そういった些細な違いで険悪なムードを作ったりとかトラブルを出す事も過去にはやはりあったらしくて、そういうのにも如何にして上手く対処するとかも大事なんだって。
だから今回のこの行事も後々にレポート書いて提出するみたいで、自分の中で色々と分析をしたりする事も必要になるらしいです。
皆と先生の前まで行って整列をする。
基本的にこういう時は体育の授業の時もそうだけど、うちの高校では名前の順なんだよね。
小学校とか通うのが短かった中学校では背の順だったけど、高校では違うんだなーって感じた事の1つだった。
まぁ、全体でこうして集まる事自体が少ないんだけどさ。
で、私は『鈴宮』だから位置的には真ん中より少し前側。
この辺りはクラスでどういった名字の子がいるとかで多少位置が変わったりはするけれど、『さ行』としては無難な位置だとは思う。
前後左右とクラスメイトと隣のクラスの子に囲まれて、荷物もあってやや窮屈ではあるけれど、そんな中で先生の話を聞きつつ出発の会は進んでいく。
学年主任である勅使河原先生の話を聞いたり、各種の諸注意事や規則についての確認とかを改めてして。
簡単に言えば、今回の行く場所は私達だけではなく一般の方もいらっしゃるから、くれぐれも羽目を外して迷惑をかけるなよ。
桜ヶ丘校生として恥ずかしくない行動をするようにって事なんだ。
こういうのは極当たり前の事ではあるけれど、これが意外と出来ない子とかがいるからね。
テンションとか雰囲気とか何が原因かは分からないけど、宿泊所の備品を壊したりとか騒いだりとか、又は外でゴミをポイ捨てしたりだとか······。
うちのクラスのみんなは大丈夫だとは思うけど、そういう所も確認しつつ何かあれば伝えたり注意したりするのも私達クラス委員としてのお仕事なんだ。
先生方もそれなりにはいるけれど、私達の人数に対してはやはり少ないからね。
そうなるとどうしても目が行き届かないなんて事もあるから······。
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「このはちゃん······。」
「うん?なーに?みっちゃん?」
「今回のこのバス席の事、本当にありがとうね。」
「ううん。いいんだよ。本当に気にしないで。」
私に話しかけてくるのは結城瑞穂ちゃん。通称、みっちゃん。
普通に『瑞穂ちゃん』でいいんじゃない?って思ってはいるんだけど、なぜか『みっちゃん』で皆が馴染んで落ち着いてしまった女の子。
ちなみになんでそこまで略した『みっちゃん』になったのかは、未だに謎なんだよね。
『瑞穂ちゃん』でも特別言い難い訳でもないし、長い訳でもないのに······。
「それでもさ、やっぱりお礼は伝えたいんだ。このはちゃんお陰で随分と気が楽になったのもあるし、その······いざという時はご迷惑と嫌な思いをさせてしまう事には違いないからね······。」
そう言う、みっちゃん。
このみっちゃんは実は車に酔いやすいというのがあるらしくて、そこを凄く気にしてたんだよね。
こういう集団での行事で出かけた先で車で酔う。
そして大抵は吐いたりするから、そうすると皆にも迷惑をかけるし本人としても気分ももガタ落ちで、その後が楽しめなかったりと悪循環が生まれたりする。
で、席ぎめの時に一番前を希望してそれは叶ったんだけど、相方がいなかった。
養護の先生はこのバスには乗らなくて他のバスに乗車してるから高橋先生しかいない状況で、それだと大変というのもあって私が隣に座る事にしたんだ。
私は雪ちゃんの子育てを通してそういうのに慣れてるからさ、吐かれたくらいではどってことはないから、いざという時は介助はしてあげられるからね。
そんな思いで私が隣に座って、それに対してみっちゃんから沢山お礼を言われてるの。
「ねぇ、このはちゃん。手、握ってもいいかな?」
「手?うん、いいよ。」
「ありがとう······。うふふふ······。何だかこれだけでも落ち着くな〜。」
「そう?それなら良かった。こういうのって気分的な部分も結構影響してるから、落ち着くならバスの中はずっと繋いでてもいいよ。」
「······本当? それは嬉しいな。ありがとう。」
私の手を握っていい?なんて聞く、みっちゃん。
いつも茜ちゃんを筆頭に皆が私の手を求めてやって来てて、それは勿論みっちゃんも例外ではないの。
みっちゃんともそれなりに手を繋いだりはしてるけど、今日は一段と嬉しそうにしてるんだよね。
それはきっと『酔う』という事に対して感じてる、不安とか恐怖から
逃れたくて自然と求めて来てるんだと私は思うんだけどね。
こういうのって精神的な面も大きいと私は思うんだ。
酔い止め薬で抑えられるのもあるけれど、それを服用することでの精神的な安心感。
薬を飲んだことによるもう酔わないって思う気持ちが凄く大切だとは思う。
『病は気から』って諺があるけれど、精神や心が落ち込んでしまえばよくなるものも良くならないと私も思うからね。
だからって心を強く持っても大変な病気に患ったりすることもあるけど、それでも心の持ちようは大切だと私は思うから·····。
だから私と一緒にいて、こうして手を繋いでみっちゃんが落ち着くならそれはそれで良いなと思ってるんだ。
目的地のホテルまで進むバス。
当初はお喋りだとかそういうので結構賑やかなになるのかな?なんて思ってたけど、いざ乗ってみたらそんな事はなくてかなり静かだったよね。
あれ?って思って頭を通路に出してチラッと後ろを確認したら、結構な数の皆が寝てたんだ。
男の子も女の子も皆が気持ち良さげに寝てて、私に気がついた美紅ちゃんがピラピラと手を振ってくれたりもしてるけど。
まぁ朝がかなり早かったし、きちんと寝れなかった子もいたみたいだから仕方ないのかなとは思う。
それに今日明日と体力を使う催し事もあるから、休めるうちに休むのも大切だよねとも思うし。
ちなみに今回のこのバス席は最終的には先生が決めたんだ。
誰と乗るかは私達で決められたのだけど位置までは決められなくて、みかねた先生が調整して決めてくれてね。
私はみっちゃんに合わせて1番前だけど、それに合わせるようにして女の子組はみんなで前の方に集まる形になって。
だから最初のうちは賑やかだったけど、次第に静かになってきて今に至るの。
(みんな、眠かったんだね〜。)
そんな風に思いながら隣のみっちゃんを見てみれば、そのみっちゃんも寝てるの。
しっかりと私の手を握ったままね。
寝てるからかそこまで手に力が入って無くて、振り解こうと思えば出来るけど私はそのままでいる事にしたんだ。
みっちゃん曰くこうしてる方が落ち着くらしく、それで酔わないで行けるならそれに越した事はないからね。
「鈴宮、ありがとな。」
「いきなりなんですか?先生?」
寝に入ったみっちゃんを見つめてたら、通路を挟んで隣側に座ってた高橋先生からそんな言葉をかけられた。
「いやな······今回の結城の件の事もそうだけどさ、いつも鈴宮に助けられてるから俺としても非常に感謝をしてるんだよ。」
「いえいえ······。まぁ、今回のみっちゃんの件もそうですけど、私がそうしたいからしてる訳でして、別に負担とかそういうのは感じてないから大丈夫ですよ。」
「まぁ、鈴宮ならそう言うだろうとは思ってはいたけどさ、それでも感謝は伝えたいんだよ。」
「相変わらず律儀ですねー、先生は······。」
事ある毎に感謝の言葉を伝えてくる先生。
今回のみっちゃんの件でも最初に席の話が出た時にも同様に感謝をされたけど、高橋先生は本当に律儀なんだよね。
何かあれば必ずお礼とか感謝とかを伝えてくれるんだけどさ、何もそこまで言わなくてもいいよって思ったりする事もあるんだ。
まぁ、そこが先生のいい所の1つであるのは間違いないんだけどね。
「そう言うなって。感謝してるのは本当だし、結城の今の様子を見てる分には大丈夫そうだろ?まぁこの後はどうなるかまだ分からんけど、こういうのは長い事教師をやってても苦手なものは苦手だからなぁ·······。養護の先生が一緒に同乗してれば1番なんだけど、そうも言ってられないし、かといって保健委員にお願いっていうのもあれだし·······。だから本当に感謝してる。」
「はい。確かに受け取りました。なのでもうこれ以上はいいですからね?」
念の為にと先生に釘を指しておく事にした私。だって、これ以上お礼を言われても困るからさ。
それに先生の言うように、養護の先生が一緒に同乗してれば万が一の時の対処としてはやりやすいのはあるのかもしれない。
だけどその先生も他の教科の先生方みたいに沢山配属されてる訳でもないからね。
まー、うちの高校は生徒の人数が多い分、多少は多く在籍はしてらっしゃるけど、それでも全員がこの行事に参加する訳でもないの。
学校の方を完全に留守にする訳にもいかないから。
そしてバスの数も多いから、当然同席しない車両も出てくる訳で。
担任と養護の先生、他には学年主任の勅使河原先生とかそれなりの人数の先生も同席しての今回の行事。
分散してバスに同乗してる筈なんだけど、私達のクラスには高橋先生しかいないこの不思議。
だから尋ねてみた。
「先生?なんで3組だけ他の先生が同乗しないんですか?」
「うん?ああ、それか。それは簡単な理由で、ただ単にこのクラスが他のクラスと違って非常に纏まってて問題を起こさないと思われてるからだよ。だからバス移動においては俺一人でも問題ないだろうって判断された訳だ。」
「へぇ〜······。それは凄いですね。」
「へぇ~って鈴宮、お前なぁ······。それを作った大元はお前だろうに·······。」
先生が半分呆れながら言ってくる。
いくらなんでも分かってますよ?それは······。
意図してやってる訳ではないけど、でも皆が私を慕ってくれてるのは分かってる。
だから私もそれに応えてあげてるだけなんたけど、それが結果的にいい方向にいってクラスが纏まってるんだよね。
「ま、そういう訳だから他の先生方としても安心していられるクラスって事なんだろうよ。てな事でまたお願いするのもあれだけど、一応クラスの皆の事を見てやってくれ。俺も注意して見ているつもりだけど、数が数だからどうしても見逃してしまう事もあるかもしれんしな。そういう時に鈴宮がいてくれれば少なくともうちのクラスの男子も無茶はしないだろうし、言う事も聞くだろ?それに万が一の時は先生を呼ぶまでの対処も出来るだろうし······。」
「ええ。大丈夫ですよ。程度にもよりますけど軽い怪我くらいなら応急手当ての心得もありますし、まぁ······そういう事事体が起きないのが1番なんですけど。」
「そりゃ、そうだ。違いない。」
うんうんと頷く高橋先生。
いつもそうだけど、私の事を過大評価されてる気がしなくもないんだよね。
悪い気はしないけどさ、期待され過ぎもちょっとなー······なんて思わなくもない。けど、先生に頼まれなくてもみんなの事は見てるつもりではいるよ。
実際に隣りで寝てる、みっちゃんの事もそうだしね。
それに先生に話したように、応急手当て位なら私も出来るからね。
程度によるけど先生を呼ぶ間、もしくは救急車が来るまでの間に多少の事は出来ると思う。
今回の行事だと考えられる1番は怪我かなと思うし。
擦り傷・捻挫くらいで済めばまだ良いほうで、最悪は骨折までを想定してるけど流石にそこまでは発生しないかなとは思ってる。
でも何事にも絶対はないから、想定だけでもしといて損はないから。
私達女子は生理があるから血には見慣れてるけど、それはあくまで正常なサイクルでの事だからね。
予期せぬタイミングでの出血だったりするとやはり混乱したりもする訳で、それは怪我とかによる流血でも一緒。
それが自分自身でも他人のでも予想よりも派手に流血ひてるのを見てしまえば、混乱しパニックになるのは想定が出来る。
そういう場面では落ち着いて冷静に対処する人が求められるけど、万が一、先生方が側にいない場所で起きた場合には私がって考えてる。
まぁ、そういう事が起きないのが1番なんだけどね。
隣で眠ってるみっちゃんを見る。
朝が早かったせいか、すやすやとよく寝てる。
バスの車内も多少話し声が聞こえるけどそれも思ってた程賑やかではなくどちらかと言えば静かで、こういうのもいっかなんて思ってしまう。
だって、向こうに到着すれば賑やかになるのが目に見えてるからね。
だからこのほんの数時間のバス旅を静かに楽しむことにした。
フロントガラスから見える山々や自然の景色をね。




