ある日の検定①-2 20歳高2
「おっはよーー☆」
「おっはよー······って、葵じゃん!?」
「あ、本当だ。······あれ?? 時間早くない?」
「だよねー? 今、時計を確認したけど普段より結構早いよ。どうしたのさ??」
私が朝の教室に入れば、開口1番にそんな事を言われた。
朝の教室。
いつもの私が来る時間だとクラスの半分ほどの人数が来てるんだけど、今日はその半分も登校してないみたい。
それもその筈で、今朝はひじょーに楽な通学だったから普段より早くに学校に到着したんだよね。だから何時もの時よりも教室の人数は少ないし、おまけに体力も全然使ってはいないから元気だし、時間も大幅に短縮出来たんだよ。
その理由は私のお姉ちゃん。
お姉ちゃんが今日は朝から学校とは別の場所に出かけるから、そのついでに乗せてってあげるって言ってくれたんだよね。
当然、私はその提案を受けたよ。
だって大好きなお姉ちゃんがわざわざ送ってくれるって言ってくれてるのに、断る理由がないじゃん。
それにさ、楽を出来るのもあるんだよ。
自宅から近い学校を選んだお姉ちゃんに対して、私は行くのに少し手間のかかる場所の学校を選んだからね。
家から自転車に乗って最寄りのバス停まで行って、そこからバスに乗って学校の近くで降りる。
ちょっと···というか、結構面倒な通学をしてるなーとは自分でも思う。
でも仕方ないじゃん?
お姉ちゃんが選んだ学校という選択肢もあるにはあったけど、あそこはちょっと偏差値が高いんだもん。
それに私はお姉ちゃんと違ってあまり勉強は好きじゃないから、無理にいい所に入っても後々苦労するのが目に見えてるんだよね。
だから自宅からはやや遠くても少しランクを下げて、私の学力でも無理なく程々に頑張っていける学校を選んだんだ。
「今日はさ、学校まで送ってもらえたから早くに着いたんだよ。」
「あー······そうなんだ。それでか〜。」
「なるほどねー。葵がこんなに早く来ててビックリしたからさ、変だなーとは思ってたんだよ。」
「アハハハ······。それはそうだよね。バスの時間は決まってるから、多少は遅れても早く来る事はまずないからね。」
バスとか電車とか公共交通機関を使う場合は、遅れる場合はあっても早くにって事は少ないとは思う。
電車なら通勤時間帯で本数が多くなってるから早くに来れなくもないけど、遅刻しないように余裕をみて登校してる中でさらに1本早く来ようという子はいないよね。
それに比べて私の使ってる路線バスは本数が少ないから、普段乗ってるのを外すとアウトだし、その1本前のは極端に早過ぎるからねぇ。
「おっはよーー♪」
「おっはー!」
「「「おはよ〜〜♪」」」
皆と話してる最中でも続々と登校してくるクラスメイト達。
そんな皆に返事を返しつつ、こういう光景も新鮮でいいなーと思ってはいたんだ。
最初のうちはね······。
「あれ? 葵がいるよ·····?」
「あ·····本当だ。どしたん??」
「珍しい事もあるもんだね? ······ひょっとして明日は雨か?」
「ちょ···ちょっと、ちょっとーー!! それはいくら何でも失礼じゃないかなー??」
「いや、だって·····葵の場合は登校時間が大体決まってるでしょ?遅れる事はあっても早くにってのは無理でしょ〜に······。」
「それは······その通りなんだけどさ······。」
登校してくるクラスメイト男女問わず皆が私がいる事にまず驚くんだよね。
そして女子に至っては「何でいるの?」って言ってくるんだよ。
その度に送って貰えたって事を話すんだけど、それがもう面倒くさくなってきたんだよね。
驚くのは······まぁ、分からないでもないけどさー。だけど、そんなになのかな?って思うよね。
「「おはようー。」」
「「「「「おっはよー!」」」」」
「おっはー♪千紗、夏美。」
私の1番の仲良しの女子友、千紗と夏美が揃って登校してきた。
この2人は自宅の方向が同じ方面だから、行き帰りも一緒なんだよね。羨ましい······。
「············葵がいる······。」
「本当だ······。時間は······うん、あってるね?」
「ちょっとぉ〜、2人までそれはないんじゃないかなー?」
「「えっ??」」
「「「「「アハハハハハ·······!」」」」」
「面白〜い!来る子、皆が同じ事を言ってるよ!」
「ほんとほんと!」
「なんなんだろうね?このやり取りは·····。」
千紗と夏美まで私がいる事に驚いて、終いには黒板の上にある時計まで見て確認する始末だよ。
そしてそんな様子の2人を見て爆笑するクラスメイト······。
「ゴメンって、葵。だって私達が来るまでには、まだいない葵が居たからあれ?って思ったんだよ。」
「そうなの。ごめんね、葵ちゃん。」
机に荷物を置いた夏美と千紗が、手を合わせてゴメンねって謝ってくきた。
「いや、別にいいんだよ。怒ってるとかじゃないから。たださ〜·····来る子、皆が同じ反応をするから過剰に反応しただけなんだよ。」
「そっかそっか。まぁ、でも、それは仕方ないじゃないかな?葵の登校経路を考えればさ?」
「まぁね〜。」
結局皆の意見はそこになるんだよね。
それ故に驚いてるんだよ。
「で、今朝はどうしたの?いつもより早いなんて珍しい······というか、初なんじゃない??」
千紗が理由を聞いてきた。
それで思い返してみても、確かに私が普段の時間より早く来るなんて、多分初かもしれないね?
「うん、そうかもね?皆にも話したけど今朝はお姉ちゃんに送って貰えたんだよ。」
「「「「「「えっ!!?」」」」」」
「え??」
ガタッ!
ガタガタ!!
「ちょっと、ちょっとぉーー! お姉さんに送って貰ったって何!?」
「お姉ちゃんって、あのお姉さんなんでしょ?葵!?」
「お姉さんにだなんて聞いてないよ!葵!!」
一斉に音を立てて椅子から立ち上がる女子達。
そして一斉に私の席に詰め寄ってくる······。
「うわぁぁ········。」
その光景に一気にひく私。
だっていくらまだ全員が揃ってないとはいってもそこそこの人数がいて、それが一斉に私の所へとくればそれはそれはかなりの迫力だよ。
「ねぇ、葵? お姉様は学校じゃないの?今日は平日だよ??」
「あ·····。そういえばそうだね?週末とはいえ今日は平日だわ。」
「そう···だね。葵のお姉さんは今日は休みなの??」
少し冷静になった千紗がごもっとな事を聞いてきた。
そしてそれに追従するように夏美も、クラスメイトの皆も口々に聞いてくる。
千紗も夏美も私のお姉ちゃんが高校生をやってるのは当然ながら知ってるからね。
去年、お姉ちゃんの学校の文化祭に一緒に行って知り合ったという経緯から、その後に何度かうちに遊びに来たりとかもしてるから。
そしてお姉ちゃんの事はクラスの皆にもちょっと前の時に話した事があるから、覚えてる子は覚えてる。
「今日お姉ちゃんはね、英検の試験を受けるとかでその試験会場に行くついでに私を送ってくれたんだよ。」
「へぇ〜、そうなんだ。」
「なるほどね〜······。」
私は素直にお姉ちゃんが送ってくれた経緯を話したんだ。
だってこれは別に隠すような話でもないし、寧ろ凄いって思える事だからね。
少なくとも私にはマネ出来ない事だから。
「英検ってさ、このはお姉様っていくつの級を受けるわけ?」
「あー、私もそれ気になる!」
「私も!! そんなに詳しくはないけどさ、2級あたりが高校生だと目安になるんだっけ??」
千紗を筆頭に皆がお姉ちゃんの受ける検定に興味津々だよ。
凄いよね、お姉ちゃん効果は······。
千紗の『お姉様』呼びはもう今更なので突っ込みはしないのたけど、その千紗と夏美を除いた皆がこうも食い付いてくるとは思わなかった。
それだけあの時に見せた、お姉ちゃんの写真のインパクトは凄かったらしい······。
「お姉ちゃんはね、準1級を受けるんだってよ。」
「「「準1級!?」」」
「えー!?何それ? 凄いの??」
「さぁ?どうなんだろ?私、受けた事ないから分からないよ?」
「あ、待って待って。今、調べる······。」
驚く子もいれば、キョトンとする子もいる。
まぁ私も当初は準1と言われても、全くピンとはこなかったからね。
「うわっ······凄いよ、コレ·····。」
「えー?何々??」
「どんな感じのレベルなん?」
スマホで調べてた子が調べ終わって、その難易度と凄さに驚いてるのが目に見えて分かった。
ふふふふ。
驚くがいい。そしてお姉ちゃんの凄さを改めて身に感じるといいよ。
私のお姉ちゃんは、決して見た目だけじゃないんだからね!
「準1級をって大学レベルだってよ! ちょっと過ごすぎない!?」
「マシでーー!?」
「ホント!? 大学レベルって······葵、あたなのお姉さん高校生だったよねー?」
「うん、そうだよ。私達と同じ高2だね。」
「マジか······。それで大学レベルのを受けるとか······どんだけなのよ?」
驚いてる、驚いてる·····。
英語を苦手としてる私から見れば、お姉ちゃんがやってる事はチンプンカンプンだけど、今日に至るまでにやってきた勉強の努力は1番理解してるつもりだからね。
まぁ······お姉ちゃんは勉強以外の努力も凄いんだけど、それは全部雪ちゃんの為にって理由だから、その雪ちゃんはもの凄く愛されてるなって私はいつも思うよ。
「お姉様、勉強が出来るのは知ってたけど、ここまで凄いなんて思いもしなかったなー。」
「ホントだね〜。頭も良いのに美しいとか羨まし過ぎるよ。そんなお姉さんの妹の葵はいいよねー。」
「えへへへへ。まぁね♪」
むふふふふ♡と、つい頬が緩む私。
だって仕方ないじゃない?千紗達にお姉ちゃんを褒められて嬉しくなってしまうのは······。
私はさ、自分の事を褒められるのは嬉しいけど、それ以上にお姉ちゃんの事を褒められたりするのが堪らなく嬉しいんだよね。
変わってるねって思われるかもしれないけど、本当の事なんだから仕方がないよ。
普通こういうよく出来た姉や兄を持つと自分と比較されて、惨めな気分になるとかって聞いたことがあるけど、私の場合はそれが当てはまらないの。
お姉ちゃんと同じ中学に通ったけど、まともに通えなかったお姉ちゃんは卒業はしたものの、特別何か凄いことを成し遂げたっていうのはなかったからね。
それに私とお姉ちゃんを初見で姉妹だって分かる人は、まず存在しない。
それだけ見た目がかけ離れてる証拠でもあるから、名字が同じくらいで「姉妹なんだね」って言ってくる先生もいなかったくらいだしさ。
だから私は私でお姉ちゃんと比較される事もなく気楽に過ごせてるし、仮に比較されても元々大好きだったお姉ちゃんを嫌いになるなんて事もない!
寧ろ雪ちゃんを産んでから更にパワーアップしていくお姉ちゃんを、『自慢の姉なんです!!』って自慢したくなるくらいなんだよ。
「ねぇねぇ、千紗、夏美?」
「うん?」
「何?どしたん?」
「何で2人は、葵のお姉さんが勉強出来るのを知ってるの?」
私がお姉ちゃんの事でデレてる間に、千紗と夏美が質問攻めにあってた。
「ああ、それ?」
「それはね、私と千紗で春休みに葵の家にお邪魔した時があったのね。で、そん時に春休みの課題をやってたんだけど3人共分からなくて躓いてさ、葵がお姉さんに助けを求めたんだよ。」
「あー······あったねー。そんなこと。」
相槌を打つ私。
確かにあったね。そんな事。
もう半年も前の春休みの事だけど、あの時がこの2人が我が家に来るのが初めてだったんだよね。
ついでに言うと、お姉ちゃんと会うのも文化祭以来というのもあって千紗と夏美、特に千紗がやたらとテンションが高かったよーな気がしたんだよ。
「そうしたら、葵のお姉さんが快く教えてくれたんだけど、これがやたらめったら分かりやすくってさ、すとんって頭に入って来たんだよね!」
「そうそうそう! お姉様ったら、やたら教え上手なんで『勉強得意なんですか?』って尋ねたら、凄い成績を取ってるってのが発覚してさ!私ビックリだよ! しかもクラスメイトに勉強を見て教えてあげてるって言うしさ、もー本当に凄いよね!! 見た目も素敵なのに頭も良いだなんてさ!」
「「うわぁー·····。」」
「すっごいね!葵のお姉さん。」
「だね!夏美もだけど千紗がすっごく絶賛してるよ!」
「ほんとほんと。こんな千紗って見たことないんだけど?!」
うん。それには激しく同感だよ。
私の仲良しの千紗と夏美。
比較すると千紗はやや大人しめなタイプで、それに対して夏美は活発なタイプなんだよね。
私もどちらかと言うと夏美に近いタイプなんだけど、そんな私達は不思議と馬が合うというか居心地が良くて、仲良くなったんだよね。
そんな千紗が私の眼の前で、やたらテンション上げてお姉ちゃんの事を話してるんだよ。
勿論こんな千紗を見るのは初めてだから、私も夏美もポカーンと見てる。
「それでね〜、夏休みも葵の家に行ってね。その時はご飯をご馳走になったんだけど、そのご飯が何とお姉様の手作りだったんだよ! これがまためっちゃ美味しくってさー、葵に聞いたら随分昔からご飯を担当してるって言うじゃない? 本当にもー凄すぎるって感じだよ。勉強も出来て料理も家事も出来るって、こういうのをパーフェクトって言うんだろうね!」
「「「マジで!!?」」」
「うっそーー?!」
「何々!? 葵のお姉さん、ご飯まで作れるの!?」
「えっ!? あぁ、まぁ·····作ってくれてるよ。作り始めてかれこれ······えーと······ま、まあ、随分と長くなるかな? 栄養バランスとかも考えて作ってくれるし、私が希望した物とかも何でも作ってくれるからね。」
「「いいなぁ~······羨ましい······。」」
「だねぇ〜·····。」
「葵のお姉さん、最高じゃん。」
「ほんとほんと。私と変わってほしいくらいだよ。」
千紗がテンションノリノリで、夏休みの事も話しちゃった。
まぁこれも別に隠してるとかじゃないからいいんだけど、お陰で更に皆も盛り上がっちゃってさ。
それなんで私も一瞬、対応に遅れちゃったよね。
お姉ちゃんの事を知れば知るほど皆の興味を引いて、更に虜にしていく······。
ほんと、凄いよね。お姉ちゃんは······。
まだまだテンションの高い千紗と、それにつられたクラスの皆。
いつもより早くに登校した教室の中は、いつの間にかお姉ちゃんの話題で盛り上がりを見せて、それはまだ少しの間続いていくのでした。
いつもご愛読頂き、ありがとうございます。
今回のこのはちゃんが受ける級は個人申込みという形にしました。
またこれは試験日が主に日曜日に行ってる様ですが、都合により平日という形を取らせて頂きました。




