ある日の茜ちゃん② 20歳高2(挿絵有り)
朝晩が多少涼しく感じる様になってきて、日中の残暑も少しだけマシになったかな?という様な季節になってきた、ある日の事。
「明日はこれといった変更はなく通常通りだから、忘れ物のない様に来るように。以上で終わりだ。」
「起立。······礼!」
「「「「「「有難うございました!」」」」」」
「おう。皆、気を付けて帰れよ〜。」
本日の最後の授業が終わり、その後の掃除タイムが終わった後の帰りのショートホームルーム。
ここで先生から明日の連絡事項等があればその話をしたり、配り物···要はプリントとかだね。そういうのがあれば配って持ち帰る、そんな時間のショートホームルーム。
で、本日は特に何もなかった。
2学期も林間とか文化祭とかがあるとは言っても、そんな毎日連絡するような事が続く訳でもないし、それは授業でも同じ。
普通に授業を進めて宿題を出されて、それにクラスの皆が不満を漏らして······。
自習とか教科変更があれば事前に連絡がある時もあれば、その日の各授業の終わり際に連絡がある時もある。
だからこの帰りのホームルームで連絡というのは、大概が学校や学年としての連絡事項が多いかな。
「終わった、終わったぁぁぁーー!」
「いやー······、授業はやっぱり長いぜー。」
先生の話が終わり、みんなで礼をして解散となる教室。
その瞬間から一気に騒がしくなるんだよね。
ザワザワと教室が賑やかになり、話をしながら荷物を纏めたりして帰りの支度をしてるんだ。
私は帰宅部だからそうなんだけど、大半のみんなは違うんだよね。
だってこれから部活や同好会の方に行くからね。
それでも2学期になってからは、ややゆとりが出来たみたいなんだよね。
なんでも上級生が引退したから私達2年生が部の中心及びトップになったでしょ?
そうすると遅刻をしても小言を言ってくるのが先生以外にはいなくなったから、気持ち的に余裕が生まれたらしくってね。
だからってあまりゆっくりしてても下級生に示しがつかないから、それなりの早さで出かけて行ったりもしてるけど。
「このはちゃんは、今日もお迎えかな?」
「そうだよ。彩ちゃん達は······大会が近いんだっけ?」
「いや·····大会自体はまだまだ先なんだけど、新体制になったからその関係の合わせが大変かな?」
「なるほどねー·····。」
私達の学校の部活、運動部や文化部でも大会や発表がある所はこの時期は調整等で忙しかったりするみたいなんだよね。
個人で競うような所は問題ないみたいだけど、集団で競技をする場合は3年生が抜けた分を1、2年生で調整して合わせていかないといけないらしくて。
「じゃ、怪我をしないように気を付けて、部活頑張ってね!」
「うん、ありがとー。このはちゃん達も気を付けて帰ってね。また明日ね〜。」
「またねー!このはちゃん。」
みんなと別れの挨拶をして教室を後にすることにします。
荷物を持って一旦自宅に帰ってから雪ちゃんのお迎え。いつもの通りの変わらない放課後にして日常。
そう、この日までは······。
「ねぇ、このはちゃん。」
「うん?どうしたの、茜ちゃん??」
バックを手に持った所で茜ちゃんに声をかけられたんだ。
見れば茜ちゃんも手にバックを持ってるから、このまま部活の方に行くんだろうなとは思うんだけど、何かあったのかな?
「あのさ······一緒に帰らない?」
「········え?·····うーんと······私はいいけど、部活はどうするの?今日は休み?」
何か用でもあったのかな?なんて思ってたら、まさかの「一緒に帰ろう」だった。
そんな事は全く考えてもなかったから、一瞬「あれ?」って思考が止まっちゃったよね。
でも、ほんと、どうしたんだろ?
別に今日は体調が悪いとかそういう話は聞いてもいなかったし、見ている分でも特段調子が悪そうといった事もなかったんだ。
だから余計に驚いてる······。
「えっとね·······部活なんだけど、その·····辞めちゃった♪」
「········ええぇー!? や、辞めた!?」
「うっそーー!!?」
「ちょっとあかねー! 辞めたって······どうしたのよ!!」
「そうよ、そうよ! 部活で何か問題でもあったの?」
私をはじめとしてまだ教室に残ってたみんなで、茜ちゃんの発言に驚いてる。
だってそのくらい衝撃的な発言だったんだもの。
当の茜ちゃんは何でもないですよ?的な感じて、ニコニコとしてるしさ。
本当に何があったんだろう??
「辞めたって······茜ちゃんは運動が好きでしょ?なんでまた·····。」
流石にこれはスルー出来ないので帰る足を一旦止めて、茜ちゃんに真意を尋ねてみる事にした。
雪ちゃんのお迎えには時間的余裕がまだあるから問題はないからね。
それにそれはみんなも同じみたいで、部活に向かうのをストップして茜ちゃんの言葉を待ってる状態だし。
「私さ、確かに運動は好きだけど部活でやってる競技が好きって訳でもないんだよね。どちらかというと身体を動かせればいいって感じで入ったから、あまり内容は拘らないっていうか······そんな感じでさ。」
「茜って、そうだったんだ〜。」
「なるほど······。部活の活動が好きで入ったんじゃなくて、運動したいからだったのね?」
「うん。そんな感じかな。」
話を聞いてて、なるほどね〜と感じた。
茜ちゃんの場合は運動そのものは好きだけど特定の競技が好きっていうのはなくて、今入ってる部活も運動がしたいが為に入部したというものだったらしいとのこと。
「そういう訳だから別に部活をしなくても家の近所でランニングをしてもいいし、このはちゃんみたいにストレッチとかそういのをしても良いなって思って辞めたんだ。」
「そっかー······。それも立派な運動だもんね。」
「でしょ? まぁ後は、勉強をしたいなってのもあったんだけどね。」
「「「おお!」」」
「勉強って······。茜、貴女····成績は悪くないわよね? あ!もしかして······受験対策??」
「うん。一応そのつもり。何処っていうのはまだだけど、今の所進学でって考えてるんだ。だから家の近所でランニングをちょいっとやりつつ、勉強でもしようかなって思ってね。」
私も含めてみんなが驚くのも無理はなかった。
だってまさか、受験に向けて勉強もしようって理由が含まれてるとは思わなかったからね。
まぁ、それ以前に部活を辞めたって事自体に、かなり驚いたのもあったけどさ······。
でも、私はそんな茜ちゃんに嬉しく感じてしまう。
だって茜ちゃん自身が自分の将来の事を考えたうえで、決めた事だから。
早くから先を見据えて行動するというのは中々出来るとではないと思うし、ましてや部活を辞めるという決断を下した勇気もまた凄いから。
だってこの時期に部活を辞めるという決断を出すのには凄く勇気が必要にもなるし、それだけ将来の事を真剣に考えてる事でもあると私は思うから。
「勇気のいる決断をしたね、茜ちゃん。」
「うん。でもいいんだ。後悔は特にないから、辞めたら辞めたで意外とさっぱりしてるよ?」
そう言う茜ちゃんの表情は本当にスッキリしてるような、そんな表情をしていた。
そして、その話を聞いてた皆にもどこか響く物があったみたいなんだよね。
「このはちゃんに続いて茜ちゃんも進路についてしっかり考えてるんだねー······。」
「そうだね······。恥ずかしいけど、私、まだこれといってないよ?」
「私もだよ? 何をしたいとか学びたいとかってのが、見つからないんだよねー········。」
「ほんと·······。どうしよう??」
進路についてまだ方針が定まってない子には、改めて考えるキッカケにはなったみたいです。
まぁだからって直ぐに何かが決まるわけでもないけれど、それでもまた考えるキッカケになったのなら、驚きもあったけど良かったんじゃないかとは思う。
「じゃ、途中まで一緒に帰ろっか?」
「うん♪」
そういう事で、この日から私は茜ちゃんと一緒に帰る事になりました。
キコキコ♪と、文字に表すならそんな感じで自転車を漕ぎなら家に向かいます。
学校のある市街地から、次第に田園や雑木林が増えてくる静かな田舎風の地区へと入って来て。
こういう場所に来れば車の通りもかなり少なくなってくるので、比較的話しながら自転車を漕いでも安心になってくるの。
それでも周りへの安全配慮は欠かせないけどね。
「このはちゃん。皆には黙ってたけど、本当はもう1つ理由があるんだ。」
「そうなんだ······。 無理だったら別にいいのだけど、ちなみに何なの?」
「えっとね、実はアルバイトをしようかなって思ってて。これはお父さんにも既に了解は貰ってるんだ。」
「へぇ〜······アルバイトかー。」
もう1つ部活を辞めた理由があるって言うから尋ねてみたら、これまたまさかのアルバイトをしたいからって言うことだった。
しかももう茜ちゃんのお父さんにも、了解を貰ってると言う事で。
そうなると、少し前からそう決めてたって事になるよね。
「茜ちゃんがそうって決めたのなら私は応援するけど、でも·····随分と大きい決断をしたもんだね?」
「うん······。でも、後悔はないよ。アルバイトをしたいのも、受験用に勉強をしたいのも本当だから。だから、私は頑張る!」
「そっか······。そこまでしっかり決意してるなら、私は茜ちゃんを応援するよ。頑張ってね!」
「ありがと♪このはちゃん。」
どちらもしっかりとした想いがあって決断したみたいだね。
それなら私は、その想いにただ応援するのみです。
「じぁさ、都合の良い時は勉強を見てあげるよ。学校で見れない教科とか苦手な所とかをやっていくのも、いいかもしれないね?」
「·····いいの?」
「いいよ、いいよ。私と茜ちゃんの仲だもん。それに、それだけ早く決めたのなら上手くいって欲しいと思うじゃん? 『夢』、叶うといいね?」
「あ·······うん!!」
今日1番の素敵な声だった。
ただ残念だったのは、その時の顔がよく分からなかった事かな······。
自転車を漕いでたからね······。
「ちなみにだけどさ、アルバイトはどこにしようとか目星とかはあるの?」
「えっとねー······。」
そんなこんなで私の帰り道は、朝と同様に賑やかで楽しい時間になったのでした。
ーー また別の日 ーー
「茜〜?」
「どうしたの、美紅??」
「いや、その·······少し前から思ってたんだけどさ。茜、今回は髪の毛カットしないの??」
「あー······それ、私も思ってた!」
「私もだよ〜。」
「あ、やっぱ皆もそう思ってたよね?私もさ、いつもの茜ならそろそろカットしてもいい頃合いなのに、なかなか切らないから不思議に思ってたんだよね。」
休み時間にみんなで話をしてると、美紅が突然私の髪の事を聞いてきた。
なんでもそろそろカットしてもいい頃合いなのに全然カットしないから、不思議に感じてたとか何とか······。
そしてそれはクラスの皆も同様に感じてたみたいで、でも言いづらかったから聞かないでいたらしいみたい。
「ああ、これね。」
皆に指摘されて、私は伸びた髪の毛を指でくるくると弄りながら話し出した。
「私、髪の毛を伸ばそうかなって思ったんだ。」
「「「「伸ばす〜〜!?」」」」
皆が驚いた。
良く分からないけど、そんなに驚く事なのかな?と思う。
切るならまだ分かるけどさ······。
ちなみにこのはちゃんはこの事を知ってるから、ごく普通だよ。
まぁ·····知ってるも何も、このはちゃんがキッカケなんだけどね。
「そんなに驚く事?」
「いや·····まぁ何ていうか、茜って今まで短くでずっと来てたからそっちのイメージがね·······。」
「そうそう! このはちゃんがさ、偶にポニテとかお団子で来る時の驚きとかに近いよ。うん。」
「それがいきなり伸ばそうだからねー。何かあったの??」
聞けば理屈としては理解出来る事だった。
私=髪の毛短い、でイメージが出来上がってるらしいから、それで驚いたんだってさ。
このはちゃんを例に出せば確かに分かるんだよね。
このはちゃん=ストレートロングヘアーっていうイメージが出来上がってるから、その髪型を偶に変えてくると一瞬『あれ??』ってなるんだよね。
「理由は特にないけど、強いて言うなら前々から長い髪には興味があったの。」
「ほうほう?」
「皆は私の家の事、知ってるでしょ?」
「「「「うん。」」」」
皆が頷いてくれる。
これは以前に皆に話した事があるかるね。覚えててくれてるかは別としてさ。
「私が小さい時は髪の毛洗いとかドライヤーとか、全部お姉ちゃんにお願いしてたから、手間の掛からないようにって短くしてたんだよ。その流れで自分で出来る様になった今も短くはしてたんだけど、長いのには憧れはあったの。特にこのはちゃんと出会ってからは余計にね。」
「ああ!それ、分かるわ〜。」
「うん!確かにそれはある!」
「このはちゃんのロングヘアーを見ちゃうと、私も伸ばそうかな?って思うよね。」
「でしょ〜? で、部活を辞めようって考えもあったから、だったら伸ばしてみようかな?って思って切らないでずっといたの。」
「なるほどね。それでかー。」
「そう。オッケイ?美紅?」
「うん。大丈夫大丈夫。十分理解したよ。」
美紅も皆もあっさりと理解してくれたので、私はホッとしてる。
それは何故かと言うと、全部を話してはいないから······。
皆に話した、お姉ちゃんの件やロングヘアーに対する想いとかはその通りなんだけど、実はあと1つあるんだよね。
『髪の毛伸ばしてみない?』
『伸びたら私とおそろの髪型にも出来るし、私が髪型も作ってあげるよ?』
夏休みのあの日、私の家のお風呂にこのはちゃんと一緒に入った時に言われた言葉。
目を潰れはあの時の光景を鮮明に思い出せる、私にとってとっても大切で大事な思い出。
そして『魔法の言葉』。
あの出来事があったから、私は伸ばそうと決意したんだよね。
逆に言うとあれがなかったら、憧れは持ってたけど伸ばそうとはしなかった。だって伸ばそうと思えば1年生の時から伸ばせたからね。
元々の憧れは以前からあって、そしてこの高校でのこのはちゃんとの出会いだからね。
出来るタイミングはいくらでもあったのに、結局その出来事まではしなかった訳だから、このはちゃんの『魔法の言葉』は私の中でとても大きいの。
「茜の髪は癖がないから、結構いい感じになるんじゃない?」
「そっかなー?」
「うん、そうだよ。私もそう思うよ?」
「だね。今の段階でも綺麗に伸びてるし、かなりいい感じになるんじゃない?」
皆がいい感じになるんじゃない?って、お世辞だとしても言ってくれてる。
それに対しての謙遜はしてみたけど、内心ではもの凄く喜んでるよ!
だってこれも、このはちゃんにそう言われた事だから。
ただあの時はそうは言われても、実感としては全くなかったんだ。
憧れたロングヘアー。
でもあれは、このはちゃんだから素敵で似合ってるのに私が伸ばした所で·······って思いがあってさ。
でも今はそこそこ伸びて、確かに曲もなく綺麗に伸びてる実感はしてるの。
そこに皆の言葉。
お世辞が入ってるにしても、やはり嬉しくはなっちゃうよね♪
ポンポン。
撫で撫で、さわさわ。
「······なーに?このはちゃん??」
急にこのはちゃんが私の頭に手をおいて、髪をさわさわと撫でてくれた。
「うん?いやね······、みんなの言う様に曲もなく綺麗だなーって思ってね······。」
「······ありがとう、このはちゃん♪」
このはちゃんに改めてそう言って貰えて、私はまた嬉しくなる。
しかもこのはちゃんは自分が言った言葉がキッカケなのは知ってるのに、敢えてみんなの言葉に合わせて言ってくれたんだよね。
その心遣いがまた嬉しく感じるの。
私の秘めた想いや関係を皆には悟らせない様にして、その上で私の話に合わせてくれるから······。
「茜ちゃんはさー、どの辺りまで伸ばす予定なの?」
「んーとね、取り敢えず目標は、このはちゃんと同じくらいまでかな!」
「「「「おぉ〜〜!」」」」
「それはまた、随分と思い切って伸ばすね〜!」
「さすが、このはちゃんラブだね!」
「でも····頑張ってね。茜なら、きっとそこまでは伸ばせるだろうからさ。」
「うん!ありがと。」
私の目標。
それは、このはちゃんと同じくらいまで伸ばす事。
そこまで伸ばすのはまだまだ時間がかかるけど、ゆっくりと頑張るつもりです。
今でもそこそこ伸びてるから、このはちゃんに髪型を作って貰うことも可能だからね。
楽しみながらのんびりと、私は伸ばして行きます。




