ある日の林間学校①-1 20歳高2(挿絵有り)
「席に着けー。お前達〜。」
「おっ、ヤベェ·····。センセーが来たぞ!」
「戻れ戻れー!」
先程まで和気あいあいと、楽しく話したり遊んでたりしてたクラスの皆。
そんな皆が先生が入ってきた瞬間に「ヤベッ!」とした雰囲気を纏い、ワーーッとそれぞれの席へと戻っていったよね。
そしてそれは、私の所も同じで。
「じゃ、またあとでね。このはちゃん、茜。」
「ほら、行くよ。せんせー来ちゃったし。」
「あーん、待って〜。このはちゃん、茜ちゃん、またねー!」
「はい、またね。」
「うん!」
私達の席の所で集まって話をしてた女の子達も、名残惜しそうに散り散りと各々の席へと戻って行った。
「みんなもチャイム音は聞こえてるんだから、早く戻れば良かったのにね?」
「しょうがないよ、このはちゃん。皆、こうして話してるのが楽しいんだから······。」
「まぁ······それは分かるけどさ〜。」
隣に座っている茜ちゃんに小さな声でそう話せば、それは仕方ないよとの事。
まぁ、気持ちは分かるんたけどさ。
皆でこうして集まってワイワイとおしゃべりをしてるのは私も楽しいし、いい時間だなーって感じてるから。
でも、それとチャイムのお知らせとはまた違うとは思うんだよね。
普段は確かにチャイムが鳴れば席に戻るみんなだけどさ、今回は戻らなかった。
それは恐らく次の時間の担当が、私達の担任の高橋先生だからだと思う。
高橋先生はいい先生なんだよ。
明るくて面白くて楽しくさせてくれる。それでいて、私達の事をよく見ていてくれるからね。
勿論これは私個人で思ってる、感じてる事だから他の子から見た高橋先生の印象はまた違うのかもしれないけど······。
あと滅多な事では怒らないんだよね。 少なくとも私が見てる範囲で今まで怒った所は見たことがないし。
そういう高橋先生だから、この着席についてもちょろっと小言は言うけど怒りはしない。
他のクラスを担当してる先生の中には、そう言う事に細かい方もいるけれど······。
だから皆もギリギリまで粘ってるんだよね。
本来はチャイムが鳴ったら着席して待ってるべきなんだけどさ。
「おーし·····皆、席についたな?今日のこの時間は林間学校についての説明と、いくつか決める事があるからそれをやる。あと、文化祭についても決まっから、それについてもな。」
「「「おぉ〜〜!」」」
「林間か〜。どこに行くんすかー?」
「林間だってよ? 何を決めるんだろうね??」
「ねっね?このはちゃん。林間についてだってさ?何を決めるんだろうね?」
「うーん······何だろう?部屋自体はもう決まってるから·····あ、でも、男子はまだかな?」
先生が林間と口に出してから、一気に盛り上がったクラスのみんな。
やっぱりこういうのは何歳になっても、楽しみなんだね。
その証拠に何だ何だってみんなして話してるし、私も茜ちゃんに尋ねられた。
そして実際に考えるとキリがないなとも思う。
そもそも何をするのか分からないから、それ次第ではいくつも決めないといけないだろうけど······パッと思いつくのは部屋割り班とバスの席かな?
私達女子は部屋に関しては以前に先生から相談を持ちかけられてたからそれを話した結果、みんなで大部屋で寝る事に決まったんだよね。
だから決めるなら、残りの男の子の部屋割りでしょ?
あとはバス·····多分使うよね?
思いつくのはそのくらいかな?
「落ち着けー、お前達。取り敢えず林間は後にして、文化祭についてのプリントを配るぞ。それぞれ取って後ろへ回してな。」
林間より前に文化祭についての方をやるみたいです。
先生からプリントを受け取って自分の分を取り、後ろへと回す。
そして確認をしてみれば、文化祭についての概要が書かれていた。
要はあれだ。
去年のこの時期に配られたプリントと一緒。
いつ頃に開催するとか内容に関しての説明や概要。
詳しく見れば去年と同じで、1日のみの開催でその当日の前後が準備や片付け。
クラスや部活動からも展示や発表を行い、その企画や内容を紙に書いて実行委員に何時までに提出するように等が書かれてる。
「皆、受け取ったな?じゃあ、上から順に説明していくが、基本は去年と同じだな。開催は11月の第2土曜日で、その前後が準備と片付けになる。クラスや部活動の方からも発表や展示なり催し物を行うと。ここまではいいか?」
「「「「「はーい。」」」」」
先生がプリントの最初の方に書かれている、日程や行うことについて説明をしてくれた。
それに対して私達は去年に一度体験をしてるから、理解するのは早かったよね。
「で、このクラスも催し物をする訳だが、そこは鈴宮と宮野が早い段階で聞いてきて、皆に案を募集してたから大丈夫だと思ってる。皆も部活の方で忙しくはなるだろうが、できる限り鈴宮達を手助けしてやってくれ。」
「「「はーい♪」」」
「「分かりましたー!」」
みんなからいい返事を貰って嬉しくなる私。
だってさ、去年もそうだったけど、こういうのってみんなの協力がないと出来ないんだよね。
何をやるかにもよるけれど、特に準備には時間もかかるし最後の1日だけでは決して終わらない。
事前にコツコツと作業をして、最終日に一気に仕上げる感じだったから。
「という訳なんだか、鈴宮達から何かあるか?」
「そうですねぇ······。」
先生から話を振られて考える素振りはしたものの、話すことは大体決まってる。
「高橋先生。少しだけ時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ。構わないぞ。」
「ありがとうございます。」
少しだけの時間と発言の許可を確認及び頂いてから、私は席を立ち上がってそのまま先生の隣、つまり教卓の前に立った。
やっぱりみんなに何かを伝える時は、ここが1番しっくり来るんだよね。教室全体が見渡せて反応がどうとかわかり易いのもあるし。
ただまぁ······、この位置がしっくり来る女子高生もそうそういないよな〜なんて、思ったり思わなかったり······。
「ちょっとだけお時間を頂いて、文化祭について私達からいくつか連絡です。まず、以前よりみんなにお願いしてたクラスでの催し物の案件ですが、正式な案内が出たので締め切りを来週のこの日のまでにしたいと思います。その後回収してホームルームの時間で開票及び催し物を決定したいなと思ってます。」
「その際にですね、去年同様にみんなも部活の方で参加があると思いますので、それを考慮して低人数で運営を行える物がベストではないかと考えです。なので部活動の方の活動時間等が分かり次第、私か志保ちゃんに教えてもらえると嬉しいです。また、こちらから文化祭が近くなり次第、尋ねる事もあるかと思いますがご協力宜しくお願いします。」
頭をペコリと下げて、みんなに協力をお願いする私。
やっている事は去年と同じやり方ではあるけれど、取り敢えずはこれがいいのかなとは思ってる。
「オッケー!このはちゃん。分かったら教えるねー。」
「了解したぜー!」
「後で詳しく聞いとくね〜。」
「ありがとう、みんな。先生もありがとうございました。」
「おう。良いってことよ。寧ろ鈴宮のおかげで事がスムーズにいくし、助かってるよ。」
私からのお願いにみんなが協力を申し出てくれてそれに感謝しつつ、時間をくれた先生にもお礼を伝えて席に戻ります。
「お疲れ様、このはちゃん。先生にいきなり振られたのに話せるなんて、さすがこのはちゃんだね。」
「そう?やり方としては去年と変わらず同じなんだけどね。」
席に戻れば茜ちゃんからねぎらいの言葉を貰ったのと同時に褒められたけど、私としてはそんな大層な事を話した訳でもなんでもないんだよね。
やり方は去年と同じ方法で、締切と決め方及び部活動の方の連絡を宜しくって伝えただけだから。
「そういう訳だから皆も大丈夫だと思うが、協力をよろしくな。続いて林間だが、それについてもまずはプリントを配るぞ。其々一部ずつ取るように。」
私の話が終わるやいなや、今度は先生がメインの林間について説明をするそうです。
まずは文化祭と同様にプリントを貰って後ろへと配り、その中身を確認します。
「みんな渡ったな? まず林間についてだが、これは来年の修学旅行を行うにあたって、一晩であるが寝泊まりを含めて集団行動に慣れようという意味もある。クラス単位または班行動で協力して行動し時間を守る。皆で食事をし、風呂に入り寝る。規律を守り助け合い、各自が何をすればよいのか考えながら行動する事が求められるからな。」
先生が話してくれた目的。
それは来年に控えている修学旅行に対しての、予行的な意味合いも含まれているとの事だった。
「それと······ないとは思うが一応男子に言っとくぞ。 くれぐれも女子の風呂を覗こうとか、部屋にお邪魔しようとか考えるなよ? その様な行動をした場合、最悪修学旅行には行けなくなるからな?」
「「「「えぇぇーー!!??」」」」
「そんな事をするわけないじゃないっすか!せんせ!!」
「そっすよ!ってか、今どき覗けるような風呂なんてないでしょーに!」
男子というカテゴリーで念を押された男の子達が、一斉に非難の声をあげた。
言わんとしてる事は分かるけど、でも······。
「先生? その様に仰る事は、以前にはいたんですか?」
私は先生に尋ねてみた。
その様に話すという事は以前にその様な事があったか、それとも単に警告的な意味合いで話したかのどちらかだと思うから。
「あー···それなぁ······。実は昔、いたらしいんだわ。その時俺は引率はしてなくて、後から報告を受けたんだけどな。」
「「「ええぇぇーー!?」」」
「「うっそーー?!!」」
「信じられない!!」
「マジっすか! 先生!?」
一斉に驚きの声があがった。主に女の子から。
かくいう私も驚いてるけどね······。
だって高校生にもなって、しかも学校行事の最中にそういう事をする人がいるとは思わないじゃん?
「それで、その後はどうしたんですか?」
その後がどうなったのか気になったのか、続きを促す声がでたよね。
「然るべき処置をしたらしいぞ。ちなにみこの時は学校内処分も勿論だが、警察も入れたらしいぞ。まぁ······やってる事は犯罪だからな。皆は仲が良いから大丈夫だと思ってるが、それでも他の同級生や下級生に対していじめとかそういうのはするなよ?暴力や脅しも世間では立派な犯罪だし、皆もそれが分からない歳ではないしな。それにうちの高校はそういうのには毅然とした態度で対応をするから、絶対にやらない事。あと、何かされた場合は直ぐに報告するんたぞ?いいな?」
「「「「はーい。」」」」
「「分かりました!」」
う〜〜ん······。
先生の話からいくと結構大事になったっぽいね。あくまでも予想だけど······。
でも逆にきちんと対応をしたのなら、それはそれで良いのでは?と思う。
たまにこの手の話題はニュース等でも出てくるけど、学校側として隠したり適切な対応を取らずに後手になってしまう事が多々あるからね。
そんな中で桜ヶ丘高校が警察を入れて毅然とした対応をしたのなら、きちんとんとしてるのではないかと私は思う。
先生の話した内容がどういった事なのか詳しくは分からないけど、覗きもいじめ問題にしても被害者がいる以上は世間一般でみれば犯罪だからね。
暴行罪や傷害罪、強要罪とかが訴えれば該当するだろうし······。
「おっと、話が少し反れたな·····。じゃ、1枚目から順にいくぞ?まず日時からだが10月の········。」
そして始まる高橋先生の説明&解説。
大雑把に纏めると、時期は10月の中旬の某日で一泊。
場所は隣県の某高原にある一般の方の宿泊も普通にあるホテルで、ここでは軽い登山やハイキングなども出来、またバーベキューといった催事も出来る施設もあるみたいだそうです。
なので今回はハイキングなど自然と触れ合う事や、協力して自分達のご飯を作ることをやるみたい。
流石にバーベキューはしないで定番のカレー作りらしいけど、最初の火起こしからやるらしく、その方法もきりもみ式だってさ。
これは男の子の仕事になりそうだけど、果たして大丈夫なんだろかと心配にはなるよね。
このきりもみ式火起こし、テレビでタレントさんがやってるのを見たことがあるんだけど、本当に大変そうにやってるの。
火が付く人もいればなかなか付かない人もいて、しかも手のひらは豆が出来て破けたりとか······。
それを素人の私達がやるんだから、不安にもなるよね。
因みにだけど、キャンプファイヤー的な事はやらないらしいです。
野外調理は出来ても、キャンプファイヤー的な大掛かりなのは出来ないみたいで······。
「では一通りの説明が終わった所で、まずバスの席を決めるぞ。一応男子と女子でそれぞれ固まって座って貰うつもりだ。」
プリントを見つつ黒板にバスの座席を書いていく先生。
黒板に向かって右側が運転席側で左側が後部座席みたいだね。
「一応、前側を女子で真ん中辺りから後ろを男子にしようかと思う。それで組み合わせだが、お前達は仲が良過ぎるからクジにしようかと思うがよいか?」
「「えぇーー!?」」
「マジっすか?せんせ??」
「仕方ないだろ?他にも決めないといけないのもあるから、あまり時間もかけられんしな。それに仲が良いから誰が隣になっても大丈夫だろう?」
「まぁ、そうですけど〜······。」
「確かにうちらだと、時間がかかるのは否定できないよねー?」
「うんうん。まぁでも······皆で纏まって座れるならいっか。」
先生の提案に渋々ではあったけど、納得した皆だった。
実際に仲が良いのには違いはないから、私も誰が隣でも問題はないしね。
それに先生の言うように私達で決めると、恐らくなかなか決まらないと思う。主にみんなが······。
そして、その原因が私なんだよね。きっと······。
「じゃ、そういう訳で早速決める「先生!」······ん?なんだ、結城?」
「あの······私、車酔いし易いので前がいいんですけど·····。」
手を上げて先生の話の途中で発言したのは、結城瑞穂ちゃん。
私も知らなかったけど、どうやら乗り物に弱いみたい。
「あぁ、すまんすまん。そういうのがあったな。それなら前でいいぞ。それで大丈夫か?」
「はい。まぁ·····気休めですけどね······。」
「他にも乗り物に苦手なのはいるか?いるなら考慮はするぞ?」
瑞穂ちゃん、通称みっちゃんの申告を受けて他にも似たような子がいるのか確認を取る先生。
で結果は意外にもいなくて、みっちゃん1人だけだったんだよね。
チラッとみっちゃんを見る。
みんなが楽しそうにしてる雰囲気の中、ちょっと沈んでる様な雰囲気で1人辛そうにしてた。
車に弱いのは体質?それとも精神的な物??
どちらにしても、楽しそうな行事事の最初から気分が悪くなれば気持ちも滅入っちゃうよね······。
ーー その後 ーー
「ねぇ、このはちゃん。本当にいいの?よかったの??」
「うん、大丈夫だよ。私こういうのは慣れてるし、それに楽しくしてれば意外と何ともなかったりするんだよ。」
あの後、諸々の事を決めてホームルームの時間が終わった休み時間に、皆でまた先程の件で話をしてたんだよね。
そしてみっちゃんからバスの座席の件で、改めて質問されちゃってるの。
「もしもの時は私が対応をしてあげるから、何も心配しなくてもいいよ。だから、気楽に楽しく過ごそうね?」
「!! うん!ありがとう、このはちゃん·······。凄い嬉しいし、気持ちが楽に感じるよ。」
「やっぱり優しいね〜、このはちゃんは。」
「本当だね。こういうのって対処はなかなか難しいと思うよね。それこそ保健の先生でもない限りはさ。」
「だよねー······。私もこのはちゃんに介護されたいかも······。」
「······寝る前なら膝枕くらいとか、やってあげよっか?」
「「「「「 !!!?? 」」」」」
「「ほんと!?」」
「やったー!質言とったーー♪」
そんないつものノリでみんなとやり取りを展開しつつ、みっちゃんからもお礼を言われた。
そう。
実はあの後、先生にお願いしてみっちゃんの隣にしてもらったんだよね。
理由は乗り物に弱いというみっちゃんの隣についていてあげたいのと、万が一の時の対処の為にね。
実際に乗り物酔いは薬である程度は抑えることが出来るから、あとは気分的な影響が大きいかなと私は思うの。
バスの中はきっと楽しいだろうけど、それプラス私といればもっと楽しく居られるかもしれないから。
そうすれば、もしかして酔わないで済むかもしれない。
それでも駄目で万が一の時は、その対処も必要だしね。
養護の先生も引率には来るけれど、このバスには乗らないみたいだし、高橋先生や保健委員さんでは流石に荷が重いと思う。
その点私なら雪ちゃんの子育てを通じてこういう事態には慣れてるし免疫もあるから、仮に吐かれても大丈夫だからさ。
その点を先生に説明して了承をしてもらったんだ。
高橋先生にもかなり喜んで貰えて、『鈴宮がいて、本当に助かるよ』って言われたよ。
「そういう訳だから本当に気にしなくていいからね、みっちゃん。気楽に楽しく行こう♪」
「うん!」
さてさて、どうなるんだろう林間学校。
みんなのワクワクと共にもう暫く待ちましょう。




