ある日の出来事⑥ 高2(挿絵有り)
ーー ある男子生徒 視点 ーー
この季節は嫌いだ。
この季節と言ってもどの季節だ?とは思うだろうが、今は9月の下旬。
いわゆる夏の終わりでもあり秋への入口でもある、そんな時期。
嫌いな理由はいくつかあるけれど、その1つが暑いからだ。
温暖化とかそういった気候変動の関係からか、5月くらいからはもうすでに暑くて、暑くなかっとしても日差しは強烈だ。
朝、家を出た瞬間から強烈な日差しが襲ってくるし、それが梅雨の時期を除いてずーーっとだもんな〜。
気温もガンガンと上がってくるし、それは9月のこの時期でもそう。
普通ならそれなりに涼しくなってもいい頃なのにならない、いわゆる残暑ってやつだ。
まぁ、朝晩は多少はマシにはなったけど、それでも暑いのには代わりはなく、暑さを苦手としている俺としては兎に角憂鬱だ······。
そしてもう1つが雨。
9月、10月となるとよく言われる台風シーズンってやつ。
台風の強さや進路で結構変わるけど、あの風と雨は堪らん!
学校に着いてしまえばどってことはないが、そこに至るまでの道中がな······。
俺はバス組だから最寄りのバス乗り場までなんとかなれば良いのだけど、たったそれだけでも足元がビショビショの時もある。
それはきっと電車組も同じなんだろう······。
駅から学校まで近いとはいえ数分は歩く。
その道中もだけど、乗ってくる駅までをどう行くのかにもよっては濡れる具合が違うし。
もっと悲惨なのは自転車組。
俺も中学時代は自転車登校だったから分かるけど、雨の中の自転車はそれはそれは辛い。
カッパを着用して自転車を漕ぐわけだけど、顔にはビシビシ雨が当たるしフードも風で脱げる。
それに身体は守られても、足元は濡れるし。
それにあまりの強い雨の時は送ってくれた親もいたみたいだけど、俺の親はそんな事はしてくれなかったからな。
それにあの当時は皆、雨カッパを着用だけど高校で雨カッパを着てる子を見たことがない。
皆、傘指し運転だよ?
傘指しが違反なのは知ってるけど、ダサくて恥ずかしいから着れないのもあるんだよね、あれ。
そういう訳だから、とりわけ強い雨の時は自転車組は悲惨であるんだ。
そしてそれはもう始まっている。
今はまだマシだけど、この後時間が経てば経つほどに雨風と······。
「なぁなぁなぁ? 話、きいてっか??」
「あぁ······ゴメンゴメン。聞いてなかったわ。」
「·····ったくよ〜。朝からボーッとしちゃって大丈夫か?しっかりしろ
よな?」
「ホントだぜ······。でな········。」
ボケっとしてたつもりはなかったが、友人からみたらしっかりとしてたらしく、散々突っ込まれてそれに返事を返して、またいつもの内容へと戻っていく俺達。
時間は朝の8時過ぎ。
教室内はまだ約半分ほどのクラスメイトしか登校していなくて、この後俺とは違う別便のバス組や電車組といった連中がやってくる予定である。
殆ど代わり映えのしなかったクラスだから、誰が何時頃来るのかまで分かってしまってる、そんなクラス。
そして皆がそれぞれ、好きな場所で好きな事をやって過ごしている。
まず女子は教室の真ん中辺で集まってる。
これは真ん中の列が丁度教卓の前になり、その辺りに鈴宮さんを始めとした6名程の女子の席で埋まってるからだ。
故に女子としては集まりやすく、近隣の席の男子は一時的に女子に椅子を奪われている。
『お願い。椅子を貸して?』
なーんて、可愛い声で頼まれてしまえば彼女のいない俺等男子からしたら、断るという判断は出来もせずあっさりと貸してしまうのだけど······。
だって仕方ないじゃないか!
うちのクラスの女子は他のクラスと比べても、可愛い子が揃ってるんだから!!
鈴宮さんは言わずもがな、その鈴宮さんラブ♡で有名な諸貫さんはちっちゃくて可愛いの筆頭。
しかもその背の低さとは裏腹にお胸は大きくて、正にギャップ萌えというやつだ。
宮野さんはしっかりとしたタイプでキリッとしててそれがイイという男子もいるし、中本さんは明るくて面白い。時通りおバカ発言をして自爆してるのを見かけるが、根は普通にいい子だしな。
そんなタイプもスタイルも違う女子が皆で仲良くキャッキャしてるんだから、それを毎日眺める事の出来るこのクラスは本当にイイ。
そんな中男子はと言うと、真ん中辺が占拠されているから必然的にそれ以外の所で過ごすことになる。
その時にその辺りにある女子の席の椅子を使っても文句は言われない。
これはお昼休みもそうだけど、女子が近場の男子の席を借りるから座れなくなる男子が出てしまうから。
よーするに互い様ってやつだな。
元々1年3組だった俺等から見れば普通の光景な訳だけども、今年このクラスに入った奴からすると『あり得ん光景だ!』なーんて、驚いていたが(笑)
まー、確かに女子が男子の席を借りるならまだしも、女子が男子に貸すなんて珍しいよな?とは思うけどさ。
裏を返せばそれだけ仲が良いという事なのかもしれんが······。
そしてそんな感じで集まりつつ何をやってるかと言えば、話をしてるかスマホを弄ってるかのどちらかかな?
大半はスマホを見てて何かの動画なのか分からんけど、それに対して笑ったり驚いたりと盛り上がってて、まー賑やかだよ。
あと黙々とスマホを弄ってる奴はゲームかな?
俺の周辺のダチも話をしつつも、アプリゲームをやってたり動画を見てたりと様々だし。
で、俺達はと言うとスマホを片手にくっちゃべっていた。
まー、俺はこいつ等に言わせるとぼ~っとしてたらしいが、ここにいる友人らは動画を見たり、ゲームをしつつ他愛のない事を適当に話してるいつもの光景だった。
ガラガラガラ····
「「おっはよ〜♪」」
「「「おはよう〜♪このはちゃん。茜ちゃん。」」」
教室の扉が開いてまた誰か登校してきたなと思えば、我がクラスの女神様である鈴宮さんとその女神様にラブラブな諸貫さんだった。
到着時間も相変わらず同じぐらいで、自転車なのによく毎朝同じような時間に来れるよな?と関心してしまう。
俺の場合はバスの時間というものがあるから家を出る時間は決まってくるけど、遅刻さえしなければいい自転車だったら絶対にギリギリに来る自信があるぞ?
それが鈴宮さんの場合、余裕を結構残しつつもほぼ毎日同じ時間に来るからな。
おまけに今日は雨なのに。
(······あれ???)
「あれ?このはちゃん?? 今朝は雨なのに茜と一緒に来たの?」
「そういえばそうだね? 雨の日はいつもバラバラで来てたのに······。」
やっぱり······。
俺が不思議に思った違和感を、女子達も感じたらしい。そして尋ねてた。
鈴宮さんは今は諸貫さんと一緒に登校をしてるけど、雨の日は基本バラバラで来てるんだよな。
なんでも雨の日は危ないからというのが理由らしく、しっかりした鈴宮さんらしい答えだなとは思ったけど、それがどうした事か。
外は雨、それもそこそこ良い降りをしてる中でだぞ?
その雨の中でまさか一緒に来たのか?
「ううん。一緒には来てないよ。たまたま駐輪場で会ってさ、一緒にきただけなんだ。」
「そうなの。このはちゃんと駐輪場でたまたま会っただけなの。流石にこの雨だと運転を気をつけるだけで精一杯だから、一緒に来る余裕はないよ。」
「そっかそっか。そうだよね。この雨だと濡れないように気をつけるだけも大変だもんね。」
女子の問いかけに応える鈴宮さんと諸貫さん。
なるほど······たまたま駐輪場で会ったということか。
それなら納得はできるわな。
2人共基本は一緒に来てて、俺とは違って時間管理もしっかりしてるんだろうから、駐輪場で会うのも理解出来るし。
「お〜い?今度は鈴宮さん見てるのか?」
「えっ?!」
「だって·····話ししてたって反応返ってこねーから見てみれば、鈴宮さん達を見てんだもん。」
「そうそう。まー、気持ちはわかるけどさ。」
··········鈴宮さん達を凝視してたから、友人たちに突かれた。
だって仕方ないだろ?俺は今、そこまで熱中できるゲームもねーし、夢中になってる動画もない。
そういう中で鈴宮さんが来たら見てしまうのは、もう仕方のない事なんだよ。
あれ程美人な子をこんな身近で見れる事なんて、そうそうないんだからさ。
それにモデルの仕事をしてるのは知ってるけど、それだけで収まってるのが俺的には不思議でならない。
もっとこうメディアに······例えばだけどタレントとして芸能界とかに入っても一級で活躍出来るだけの容姿は持ってるぞと俺は思う。
あの綺麗な髪に瞳。整ったプロポーション。
そこらの若手の女性タレントなんて、目じゃないと思うんだけどなー······。
「しょうがねーだろ。鈴宮さんが来たら目で追っちゃうのは、男なら無理だ。本能で逆らえん。」
「うん、それは分かる!」
「だな!」
「だろ?」
どうやら友人達もそこは分かるらしい。
ただタイミング的にゲームから目を離せられなかっただけで、本音としては鈴宮さんを眺めたかったらしい。
だから落ち着いた今は、皆して向こうの鈴宮さん達女子を眺めてる。
分かってはいるけれど、相変わらず仲のよろしい事で。
「俺さ、ちょい前から思ってたんだけど、諸貫さんて夏休み明けからなんかまた可愛くなった?」
「あ、お前もそう思う?実は俺もちょっとそう感じてたんだよ。」
「俺も俺も。なんて説明をしたらいいのか分かんなくて黙ってはいたけど、やっぱ皆もそう感じてたかー。」
話は鈴宮さんの隣りにいる諸貫さんの話題になった。
俺も薄々感じてはいたけど、夏休み明けから諸貫さんが可愛くなったんじゃね?的な事。
ただ皆の話の様にどこがどうというのが説明出来なくて、気のせいかな?というのもあって黙ってはいたんだよね。
「······あれか?夏休みで『大人の階段あ〜がる♪』的な?」
「「「ないないない!」」」
冗談で言ってみたが、見事に手振り首振りで揃って否定された。
「諸貫さんに限っては、流石にそれはないだろ?」
「そうそう。あれだけ鈴宮さんにぞっこんなんだから、少なくとも在学中は男関係はないな!」
すげぇ〜······、完全にないと言い切ってるよ、こいつら。
まぁ俺もそれはないと思ってるし、あくまで冗談のつもりなんだけどね。
それはあそこで仲良くしてるのを見れば分かるし、今までの行動からでも分かるというもの。
別に男子が嫌いとかそういう感じは感じられないけど、今はそれよりも鈴宮さんに夢中って感じなんだよな。
何か、えーと······スポーツでも何でもいいけど、そついった事に熱中・集中してる間は彼氏彼女に興味ありませんとか、世間のことにあまり関心がありませんみたいな人っているじゃん?
ああいう感じなんだよ。
「でもさ、実際には可愛くなってるよな?」
「だな。それはある。」
「何なんだろうな?謎だわ·····。」
可愛くなってるって感じるのに、その変化が分からない······。
この辺りが彼女なし=年齢な俺達の限界なのか?
思ってて悲しくなってくるが、事実なのでどうしようもならんわな。
まぁ、俺の周りの連中も同じ様なのでそこはお互い様なんだけどさ。
「··········あ。」
「「ん??」」
「どうした?」
何となくだけど、少し違和感に気が付いた。
「諸貫さんって、前よりも髪長くなってね?ある程度伸びた所でカットはしてるんだろうけど、今回は長いかも?」
「そう···言われれば、長い···か?」
「いつもは長くても肩にかかるかくらいだろ?そう考えると今回は長いな······。」
「だよな?もしかして、それかな??」
気が付いたちょっとした違和感。
まだハッキリと結論が出た訳ではないけど、一応の理由としては納得は出来るかもしれない。
髪の毛を伸ばす。切る。
男でも違いは出るけど、女子のそれはかなりインパクトが変わるのは知ってる。
特に長い髪の毛を短くバッサリと切ってくると、驚くと同時にその雰囲気を含めてかなり変わるからな。
髪を切るのにも勇気はいるだろうし、だから『もしかして、失恋した?』なんてセリフが出たりもするんだろうから······。
それにさ、カットではないけどあの長い髪の毛の鈴宮さんが、ポニーテールや短く髪を纏めて来るだけでもかなりのインパクトがあって凄いからな。
最初の時なんて、女子ですら驚いてたくらいだもの。
「諸貫さん、髪、伸ばすのかな?」
「どうだろね?そろそろ切るかもしれんし、そこはもう少し様子見かな?」
「でもさ、伸ばしたら伸ばしたで更に可愛くなるかもしれないよな?」
「小さいのに巨乳で、おまけにロングヘアーってか?どんだけ属性盛りよ?」
最後の方は小さな声でぼそぼそと話す俺達。
男同士ならいざしらず、これを女子に聞かれるのはマズイと感じてるのは皆一緒。
それでもやっぱり、目は離せなくてどうしても気になってしまう。
それだけ可愛いんだよ、諸貫さん。
勿論鈴宮さんも綺麗だけど、恋愛という意味では望みがゼロだからな。
それになんだかんだと言っても、うちのクラスは可愛い女子が揃ってるし。
男女の仲も良いほうだから、いつ誰と誰が付き合いだしてもおかしくはないと思ってる。
「あ·······。」
「??」
「また何かめっけたの?」
うん、見つけた。
でもコレはヤバい······。
「見つけたには見つけたけど······これはヤバいよ·····。」
「おぉ!? なんだそれ?」
「勿体つけないで教えろよー?」
ずずずいっと身を乗り出して、教えろと言ってきた友人達。
先程の話から妙にテンションが上がってるのか、それとも俺の言い方が悪かったせいなのか、とにかく知りたがってる。
原因はやはり後者かな?
『ヤバい』なんて言えば、気になって仕方ないものな。
そしてそれを口に出してしまった事をは激しく後悔する俺。
「ほれほれほれ。で、何なんだ?」
「吐け吐け! 吐けば楽になるぞ?」
「何だよ······。その尋問みたいな言い方は······。まぁ······しゃーねーか。」
3流コントじみた事をやってる友人達に呆れつつも、俺は手招きをして皆の顔を近づけさせた。
これは、もっと女子に聞かれたらヤバいやつだ。
そして、出来るだけ他の男子にも聞かれたくない。
(いいか?絶対に大きい声を出すなよ?女子は勿論、他の男子にも聞かれたくない。)
(おぉぅ。分かった分かった。で??)
小さな声でぼそぼそと話す俺達。
旗から見たら絶対に怪しい集団だ。
(鈴宮さんと諸貫さんな。その····シャツが透けてる。薄っすらだけど、ブラが透けてんだよ······。)
「「「!!!??」」」
言った瞬間に振り返って見やがった!
アホ!バカ!! そんなんだと気づかれるだろうが!!
だから言いたくはなかったんだよー。あー····俺のバカバカ!
こっそり離れて知らんぷりをしたかったけど、それは何故か出来なかった。
(確かに透けてんな·····。)
(そうか?俺には分かんねー·····。)
(多分······黒だ。それもどっちも。)
気づいてしまった事。
それはそういう事なんだよ。
雨に直接濡れたって訳ではないのだろうけど、でもこれだけの雨だ。
多少は濡れたりとか、湿気とかそういうのもあるだろう。
幸いなのは着替えるほどではないという事かな?
見た限り向こうもそれは分かっているっぽいけど、着替える素振りはないみたいだし。
完全に透けてる訳でもないし、あの2人は最前列だからうち等からしたら背中しか見えないから。
よくは分からんけど、前が見えるよりはそこまて気にもしないのだろう······。
(お前·····いい目してんな?)
(それは····ありがとさん。お褒めの言葉として受け取っとくよ。)
そして俺達は、先生が来るまで終始眺めてるのだった。
残暑の残る中での雨。
嫌な時期ではあるけれど、こういうのがあるならそれもまた悪くはない。
そう感じた瞬間だった。




