ある日の授業⑤ 20歳高2(挿絵有り)
キーンコーンカーンコーン·······
「はーい。では、今日の授業はここまでとします。宿題として教科書の◯◯ページから◯◯ページの問題とワークの◯ページをやって下さい。」
「「「「ええぇーーー!!?」」」」
「せんせー!それは多すぎやしないですかー?」
「ですです!! せめて教科書かワークのどちらかだけとか、そういう感じにしてくださいよ〜······。」
教室のスピーカーからチャイムが鳴り、授業の終了時間を告げる。
それに合わせるように授業を行っていた井上先生も授業を終わらせてくれたんだけど、最後にお土産として宿題を残していってくれたんだよね。
まぁ、この宿題そのものは別に珍しくも何ともないの。
数学以外でも国語や英語とかでも宿題や課題として、プリントとかワークの◯◯ページをやるようにとかって出されるから。
だからみんなも渋々だけどその辺りは、まぁ······納得してる?
その筈なんだけど、今回は違った。
宿題を言い渡した井上先生に対して非難の声·····半分はじゃれ合い的な物ではあるんだけど、高々に上がったよね。
まぁ、確かに普段と比べればやや量が多いとは思わなくもないけれど、それも先生なりの考えがあっての事だとは思うけど······。
ちなみに、今回出た非難の声。
これ、先生によって違うんだよね。
意外と意見が出やすいのは、井上先生と担任である高橋先生なの。
高橋先生は担任というのもあって慣れてるのもあるし、井上先生は性格が結構フレンドリーな感じで親しみやすいからなんだ。
残る他の教科の先生はというと、先生の人柄とか雰囲気的な物が駄目らしいんだって。
冗談的な物が通じなくて言ったら最後、さらに宿題を増やされるとかそういのがあるとかなんとか······。
だからその先生方に対しては、クラスの皆はただ頷いて返事をするのみなんだよねぇ······。
「まぁまぁ、そう言わないの。その代わりって言ってはあれだけど、良いこともあるわよ?」
「ええー?? 宿題を増やしといて、よい事ってなんすかー?」
「そんなのあるの??」
先ほどもそうだけど、主に男の子達から声があがる。
いつも思うけど、女性の先生だから男の子として絡めるのは嬉しいのもあるのかな?
でもまぁ······。
私もみんなの意見にはちょっとそう思った。
宿題が増えても私は別に気にはしないんだけど、増えて良い事ってなんだろうって。
「明日、私は用事があってお休みなのよ。だから授業は自習となります。この時期だから他の授業をやるという事も恐らくないとは思うから······と、いうことは??」
なるほど······。
明日、井上先生は休みなんだね。だからその分宿題の量も多いと。
そういうのだったら宿題の量が多いいというのも、理解はできるよね。
それよりも私として気になるのは、先生が最後に何か含みを持たせるような、そんな言い方をした事。
「はい!せんせ!! このはちゃんに勉強を見てもらえます♪」
「「「「おおっ!!」」」」
「そっかそっか〜。それがあったねー!」
「うんうん。それに自習自体がかなり久しぶりだから、1時間まるっとこのはちゃんに教えてもらえるのは嬉しいかも♪」
「ナイスです! 井上先生!!」
先生に対して嬉しそうに発言をしたのは、我らが茜ちゃん。
そしてそれに対してみんなもその事に気付いた様で、嬉しそうに答えてくれてるよね。
「いや···その······ナイスって言われても、私としてはすっごく複雑な気分なんですけど······。まぁ、自習が嬉しいのは私もそうだったから、皆の気持ちとしては理解出来るんだけどねー······。」
あはははと苦笑いをしつつ、笑っている井上先生。
そんな先生を間近で見てる私も、苦笑いだよ。
だって、理由が理由だからね。
先生も言ってたけど授業が自習になって嬉しいのは、皆もどこのクラスも一緒。
だけど私のクラスの場合は、自習=私の勉強会というのがある。
それを期待してるから嬉しさが更にあって、教えてる井上先生も立場として微妙なんだと思う······。
「そういう訳なので、鈴宮さん。明日はお願いします。」
「はい。」
お願いする先生。二つ返事でそれを了承する私。
それを見届けた井上先生は、職員室へと戻って行ったんだ。
今更ではあるけれど、何なんだろうね?この光景は·····って、偶に感じるよ。
基本こういう自習が発生した時は空いてる先生がいればその教科をしたり、プリントなり問題集をやるとかっていうのが普通だけど、このクラスに限ってはそうではないからね。
『生徒が先生になる』
だからねー。(笑)
それにその先生が『よろしくお願いします』って、頼んでいくんだから。
ま、その本人である私がそれを喜んで受け入れてるし、その結果進路が決まったのもある。
また、クラスのみんなも喜んで受けて勉強してくれてるから、成績自体もかなり上がってるんだ。
つまりWin − Winの関係だからいいのだけど、端から見ればきっと不思議な光景······いや、あり得ない光景かな?
「ねーねー、このはちゃん? 早速だけど、明日はどうするの?」
「どうする?と、いうと?」
「ほら、お昼休みに教えてくれてる様なスタイルでやるのかな?とかそういうの。」
「あれ、いいよねー、ほんと。それぞれが分からない所を解説してくれるから、とても助かってるよ。」
「だね! 本当にこのはちゃん様々だよ。」
先生が教室を退室してから早速みんなが集まって来て、明日の自習について尋ねてきた。
お手洗いに行ったりする子もいるから全員ではないけれど、それでもこうして聞いてくる辺り、結構期待してくれてるんだなーって感じる。
「あー······、そのことね。正直に言うと、悩んでるだよね。」
「あれ?珍しいね。私てっきりお昼休みに見てくれてるのをしてくれるのかな?なんて、思ってたんだけど違うの?」
「私もそうだと思ってたよ?」
皆して、その様にやるんじゃないかと思ってたみたい······。
ま〜、確かにそれも悪くはないんだよね。
みんなそれぞれ出来る出来ない所、得意不得意って違うからさ。計算が得意な子もいれば図形やグラフ物が得意な子もいて、同様に苦手箇所も違う。
ただ授業として見ると、年間でやらないといけない範囲ってのは決まってるから、やってる箇所で躓く子がいても先にいかざるを得ないんだよね。
そういう子を出さないように宿題とかを出して自宅でも復習をさせるようにとかする訳だけど、好き好んでやるような子はそんなにはいないし。
やらなくちゃいけないから取り敢えず終わらせました的な、そんな感じてやってくる子がうちのクラスでも大半だったからね。
だから苦手な所もそのままで、先に進んでいくっていう状態だった。
で、そうなるとその先の問題が前のやつを応用するとかそういうのになると、余計に分からなくなって解けなくなるってパターンにハマっちゃうんだよね。
「みんながさ、大分理解してきたからお昼休み以上の時間を使って、同じ様なことをしなくてもいいかなって思ってるんだよね。」
「そうなの?」
「そんなに私達出来るようになってきた?まぁ·····点数はこのはちゃんのお陰でかなり取れるようにはなったけどさ?」
「うん、なってきたよ。男子も女子も少なくとも1年生の範囲はオッケーだね。まぁ、計算ミスとかそういうのは仕方ないけどさ。」
「「「「おぉ!」」」」
「凄いねー!そんなに出来る様になったんだってよ?私達。」
「信じられないよね。前はあれだけ躓いたり悩んでたりしてたのにさ。」
私の言葉にみんなして驚いて、そして喜んでる。
でもこれは決して誇張でもなんでもないんだよ。
計算ミスとかそういうのはどうしてもしてしまったりとかはあるけれど、基本的にはみんなが出来る様になったから。
みんなを個別に見て、分からない箇所を1つずつクリアしていって、その先の新しい箇所も覚えて出来るようにしていく。
私がしてた事だけど、結局は其々みんなが頑張った結果がそれな訳で。
「そういう感じだからさ、最近は英語とかを教えてって子もいるくらいだよ。1年生の範囲が出来ればあとは今の習ってる範囲ぐらいだしね。」
そうなんだよね。
勉強会で今習ってる範囲が理解できてる子の中には、他の教科を教えて?って子もいるんだ。
教科によっては暗記の意味合いが強いのもあるから、教えるとしたら英語の文法絡みがメインになるんだけど······。
「そうだねぇ······。1年生の範囲はみんな理解できてるから、やるなら······今習ってる範囲を復習にしよっかな。丁度新しい範囲に入ったのもあるし······。」
考える。
現時点でそこまで個別に教えていくっていうのは、以前程は必要とはしてないからね。
となると、新しいエリアに入った今習ってる箇所の解説・復習に当てた方が良いかもしれない。
少しでも今のエリアが分かるようになれば、井上先生が明後日以降先に進めても躓く可能性は低くなるから。
ーー 翌日 ーー
「皆。今日の数学は昨日話にあった様に井上先生がお休みと言う事で、自習となりました。という訳で恒例の私の勉強会なんですが、今日は昨日の箇所までの解説&復習にしたいと思います。」
私は教卓の前に立って、みんなに話しかける。
この前の時もここに立って文化祭についての簡単なやり取りをやったり、そのまま席替えの進行を任されたりとかしたんだよねー。
「鈴宮さーん。今回は個別の教えとかはしないの?」
「うん。その予定だよ。みんなは頑張ってきたから、もう1年生の範囲は理解してるし出来る様になったからね。すると後は2年生の1学期の範囲と今習ってる箇所しかないから、それなら明日以降先に進んでも大丈夫な様に昨日までの箇所を復習しようかと思ってます。」
私はみんなに説明をします。
何故そういう風にしたのかを。
みんなが頑張ったお陰でかなりの力がついた事。そして今はそこまで個別の教えが必要無くなった事。
先を見据えた事と、今後も個別の教えは行う事。
「そういう理由なんだけど、いいかな?」
「「「はーい!」」」
「勿論だよ。ここまで出来る様になったのも、このはちゃんのお陰だからね!」
「そうそう、そういう事。」
茜ちゃんは勿論、みんなが賛成をしてくれました。
こういう声を聞くと、やっぱり嬉しくは感じちゃうよね。
「そんな事はないよ。結局はみんなの頑張りなんだからね?そこは間違わないで欲しいな。」
そう。
どんなに教えが上手かろうが、結局は教わってるみんなの頑張りしだいなんだよ。
塾に通ったり家庭教師を雇ったりやり方は沢山あるけど、本人がやる気を出さなければ意味がないからね。
「じゃ、早速行きます。教科書の◯◯ページ開いてね。ここの所をやっていきたいと思います。まずは例題と応用です。」
「では、みんなもまず、この例題を解いてみましょう。」
カリカリカリと、例題とその応用の問題を黒板に書いてからみんなにも解いて貰うことにしました。
そして、みんなの手が止まったかな?ってタイミングで解答をしていく。
分かりやすく丁寧に色チョークを使い分けながら、何をどのような順で計算し解いて行くのか。
そしてこの例題を分からない子がいるのか、確認をする事も忘れない。
ここ、とっても大事。
「うん♪みんな、大丈夫だね!流石だよ。ではそのまま、この応用を解いてみよっか? ちなみにこれは、私の作った問題だよ。でも、さっきの例題通りやっていけば解けるからね。」
さて······。どうなるかな?
予想として解ける解けないがそれぞれ6対4ぐらいになるのかな?と、考えてはいるんだけど······。
「はい。では、解答の解説と行きたいと思います。さっきもお話をしたように、やり方は基本的に同じです。まず、こことここを······。」
先程の例題と同じ様にしていって、答えをどう導くのかを解説する。
そして一通り終わった後に出来た人を訪ねたら、結構な人数がいた事に驚いたよね。
「みんな、凄いじゃん! こんなに正解する子がいるとは思わなかったよ。ご褒美をあげたいくらいだよ!」
「「「「キャ〜〜〜♪」」」」
「「「おぉぉ〜〜!」」」
「あぁー······くそぅ〜·····。外したー·······。」
正解した子は喜び、そうでない子は悔しがって······。
反応は様々だけど、そう悲観する程でもないんだな。これが。
「外した子もいるけど、大丈夫だよ。さっきやった例題は出来てたから、解き方としては理解してると思うからね。後で確認をしてまた観てあげるけど、恐らくちょっとした計算ミスかな?って思ってる。」
「それとね、実はこの問題は昨日授業をした内容より少し難しくしてます。」
「「「「ええーーー!!?」」」」
「「うっそ?!」」
「マジ!?」
「うん♪」
笑顔で頷く私。
みんなの驚きと共にネタバレをした。
私が作った問題だから、難易度もそれなりには調整可能だしね。
そしてそれには、メリットもあるし。
「そういう難易度なので外してしまった子も、そう悲観することはないよ。さっき言ったように、例題は解けてるからね。あの例題だって難易度は上げてるからさ。それが出来たみんなは、仮にこれを間違えても然程問題はありません。」
そらについても黒板に解説を書いて説明をしていく。
時通りみんなからの質問を受け取っては、それを解説・説明をして。
結局、例題と出したのも実はちょっと違ったんだよねってオチなんだけど、それはみんなが正解したから本当によかった。
「出来ると言うことは、その前の事がきちんと出来てるか証だからね。数学も算数も前に習った事が理解できないと、続く内容が理解できないし解けないからね。そういう意味ではクラスのみんなは、それが出来てるから安心して。」
「「おお♪」」
みんなの驚きと喜びと共に、自習は進んでいく。
外した子にもまたお昼休みに見るからねって、約束をしたりしながら。
みんなが真剣に取り組んでくれるから、私もまた嬉しくなる。
みんなも出来る様になって、自信もついて好循環。
勿論これが偶々上手くいってるだけかもしれないっていう、可能性もあるよ。
全部が全部そうなる訳でもないからね。
それは私も理解してる。
時には悩み落ち込み苦悩する。
それはどんな場面でも、当然この私が目指す教師というのもあるし、いずれは私も体験する日が来るだろう。
でもそれを乗り越えて、私はこの教師という職に付きたいから頑張る!
誓いを新たにした。
「ねぇ?このはちゃん先生。」
「ん?先生??」
何々?先生??
先生だなんてわざわざつけて、何を言ってくるつもりかな?
しかも、このはちゃん先生だってさ。
そんなちゃん付け先生なんて、聞いたこともないんだけど?
「そ、先生。でね、折角だからその先の授業内容も教えてくれないかな ?井上先生より先に、このはちゃんの解説を聞いてみたいなーって思ったんだけど?」
「えぇ〜?何を言い出すかな、彩ちゃんは。そっちは正式な先生である井上先生のお仕事だよ?私はあくまでみんなの分からないところを、教えてるってやつだからさ······。」
まさかの今の習ってるその先を先行して、教えて欲しいなという申し出だった。
先を学びたいと思う、その前向きな気持ちはいいと思うけど。
「ダメ〜??」
「私も聞いてみたいなー?」
「俺も!」
「私もー!」
「「このはちゃんせんせ??お願いしまーす♪」」
「仕方ないなぁ〜······。じゃあ、ちょっとだけやろっか?」
「「「「イェ〜イ♪♪」」」」
「「「やった〜!」」」
もう······。
みんなして、期待に満ちた表情をされたら断れないじゃん?
教卓の所は黒板に字を書いたりして教えるのもあるから、足元が床より1段高くしてあるんだよね。
だからここからだと、クラスのみんなの嬉しそうな顔が良く見えるんだよ。
でも、いっか。
みんなが望んでいてくれるなら、それに応えるのもまた悪くないと思うから······。
「じゃ、期待に応えられるか分からないけど、いくよー。」
「「「「おー!」」」」
「「「わ〜〜い♪」」」
パチパチパチ♪と拍手までしてくれちゃって、ノリのよい事で(笑)
ま、でも、そんな仲の良く楽しいみんなの事は好きなんだけどね。
自習時間はまだまだ続く。
そして『2年3組 このはちゃん塾』も······。




