ちょっと先の未来の出来事⑦ (挿絵有り)
ジリリリリリ·······。
ポチッ。
「朝か······。起きなくちゃね。」
眠たい瞼を軽く擦りながら枕元で鳴り響く目覚ましを止め、ベッドから上半身を起こす私。
起きて部屋の中を見渡せばカーテンの隙間から朝日が部屋の中に入り込んていて、常夜灯しかつけていない部屋の中は意外にも結構明るかったりする。
お陰で朝の目覚めとしてはかなりいいよねと私は思う。
真冬だとこの時間はまだまだ暗くて、起きただけだとまだ夜?なんて錯覚や二度寝もしやすいからね。
起きたついでにベッドの傍の出窓のカーテンを開けて、レースだけにする。
これも冬場と真夏以外は毎朝起きたときにする私のルーティンなんだ。
こうして朝日を取り入れて浴びる事によって、身体の中の体内時計だっけ?それがリセットだか何だかされて、気持ちよく動けるんだとか。
まぁその辺りの詳しいメカニズムはよく分からないけど、朝日を浴びるのが気持ちいいのには変わりがない。
なので、それを実践しつつ毛布をどけてベッドから降りる。
そして側に置いてあるスリッパを履いてママの待つ、リビングへと降りて行く。
「あれ??」
スリッパを履いて立ち上がった所で違和感を感じた。
一瞬だけどクラッと来たような感じがして気のせいかな?とも思ったけど、何だか身体も怠いような気がしなくもないかな?
似たような症状で生理というものがあるけれど、あれはこの間終わったばかりだから流石にない。
となると······風邪?
でもなぁ·····。
いくら暖かくなったといっても、まだ夜はそこそこ冷える。
だからパジャマも毛布もきちんと着て掛けて寝てるし、お腹を出して寝るとかそういうだらしない寝方はしてないんだけど······。
学校だってごく普通に制服を着て行ってるし、風邪がクラスで流行ってるというのもないし······。
どうしたんだろ?と思いつつも、取り敢えず下に降りて洗面所へと向かう事にした。
「ママ。お爺ちゃんお婆ちゃんも、おっはよー♪」
「「おはよう。雪ちゃん。」」
「おはよう、雪ちゃん。もうご飯は出来てるから待っててね。」
「うん♪」
リビングに来てキッチンにいたママと、もう既にご飯を食べてるお爺ちゃん達に朝の挨拶をします。
お爺ちゃんは昔と変わらず、今も朝が早いの。
まぁこれは勤務地が遠いから必然的にそうなってしまうのだけど、それに合わせて一緒に食べるお婆ちゃんも優しいよねと思う。
それに2人共若い。
昔に比べれば多少は老けたけど、それでもだよ。
私のお父さんとお母さんって呼ばれても、遜色がないくらいだもんね。
そのくらい若い時に、ママが私を産んだって事なんたけどね。
そして、私のママ。
昔からその美貌が変わらず素敵で綺麗で、私のお姉ちゃんって言った方が世間一般には納得のいく······いや、そうとしか見えないそんな人。
今はルームウェアでキッチンに立ってるけど、それですら様になってるんだから凄いよね〜と、娘の立場から見てもそう思ってしまう。
私が小さい時、えーと······まだママが高校生をしてた時は私が起きるタイミングではもう制服に着替えてたかな?
それが月日が経ってお仕事に行くようになってからは、匂いの関係で朝のキッチンはルームウェアでいる事が多くなって。
まぁ、朝から香りの強い物を作るわけではないけれど、それでも匂いが付くのは避けたいと思うのは当然出し、私もそれは理解出来るから納得ではあるけれど。
「はい、雪ちゃん。朝ご飯ね。」
「ありがとう、ママ。今朝はご飯なんだね?」
「うん。昨晩のおかずが、それなりに余ってたから······。ごめんね?」
「ううん、いいのいいの。ママの作るご飯は美味しいから何だって私は歓迎だよ♪ いただきまーす。」
座卓の所に座ってママが私の隣に座り、一緒にご飯を食べ始める。
お爺ちゃん達はダイニングテーブルで食べているけど、私はこちらで食べる方が比較的多いかな?
別にダイニングテーブルで食べる事が無いわけではないんだよ?
ただ小さかった時からこっちの座卓で食べてたから、落ち着くというかそんな感じでね?
そんな訳で食べてはいるんだけど昨日の残り物とはいえ、相変わらず美味しい。
ただ温めるだけではなくて、若干だけど味に変化をつけてるような感じがするし、流石ママだなーって私は関心しきりだよ。
「ねぇ······雪ちゃん?」
「なぁに?ママ??」
「ひっとして······具合悪い??」
「えっ?!」
「美味しそうには食べてくれてるけど、箸のスピードがいつもより遅いよ。それにその表情とか声とか、無理に明るく振る舞ってるでしよ??」
私の箸が、手の動きが止まる。
驚きすぎて身体の動きすら止まって声まで出なくて······なんで分かるの!?
私自身ですら何か変だな〜くらいにしか、感じてなかったのに······。
指摘された食事のスピードだって、声のトーン?感じ??普通にしてたつもりどけど······そんなに悪かった??
「ママ······。なんで分かったの??」
「何でって······私は雪ちゃんのお母さんだよ?雪ちゃんの事を誰よりも良く見てるし知ってるつもり。だから少しの違いでも気が付いたんだよ。」
「相変わらず凄いわね、このはは······。私、全然気付かなかったわよ?」
「俺もだよ······。」
演技をしてた訳ではないけれど、お婆ちゃん達は全くわからなかったみたい。
それはそうだよね。
私自身でも微妙だったのに、それを見抜くママってどれだけの観察眼を持ってるんだろ?
もうホント、凄いを通り越して呆れるというか何と言うか······。
でも、逆に考えるとそれだけ私のことを観てくれてるって事だよね?
大切にしてくれて小さな事にも気にかけてくれて、愛してくれて······。
小さい時から分かってはいたけど、でも、まだまだママの事は分からないことがだらけ······。
「取り敢えず、体温を測ってみましょっか?」
そう言ってご飯を途中で止めて、体温計を取りに行くママ。
何でもテキパキとこなすけど、私の事となると更に行動が早くなるんだよね。
そしてものの数十秒で体温計を持ってきたママ。
·······ほんと、早すぎだよ······。
「はい。雪ちゃん。体温計を測るよ?脇に挟んで?」
「うん······。」
ママに言われるがまま、体温計を脇に挟んで測りだします。
家の体温計は昔からあるらしい、脇に挟んで計測するタイプなの。
理由はよく知らないけど、少なくてもこれなら誰が使っても問題がないから、らしいです。
まぁ、確かにそうだねとは思うけど。
少なくとも口にいれるタイプは、ママ以外とは共有したくないとは思う。
別にお婆ちゃんや葵お姉ちゃんを嫌いとかではないけど、そういうのではママとは違うんだよね。
ピピピピ♪ ピピピピ♪ ピピピピ♪
もう測り終わった。
測りたかそのものは従来のやり方だけど、性能が良いのか計測にかかる時間は早いよね。
「はい、ママ。終わったよ。」
脇から抜いてそのまま、ママに渡した。
私が確認してもいいんだけど結局はママが確認するし、声に出して教えてくれるからこの場合は私は確認をしないんだ。
「えーと······37.9℃か······。ちょっとあるわね······。よし、雪ちゃん。今日は念の為学校を休みなさい。」
「えっ!? 休み?? ······大丈夫だよ、ママ。そんな言うほど辛くはないし、せめて体育を休むくらいで行けるって。」
まさかまさかの学校お休み発言。
微熱というにはちょっと高いかなー?とは思うけど、けどそんなに辛くはないんだよ?
だから私はママに食らいついた。学校に行けるよって。
「だーめ!雪ちゃん。 今はまだそこまで高くなくても、学校に行ってから熱が上がって保健室とか早退とかってパターンが結構あるのよ?」
「それは······そういうのもあるかもしれないけどさ······。」
私はそこまで体調を崩すとかがあまりないから、ママの発言は私を指した物ではないのは分かる。
するとそれは、ママのこれまでの学生生活や仕事をしてる上で見て経験してきた光景なんだろうって推測できた。
「でも、このは。 私は今日は5時まで仕事で早上がりとか出来ないから、日中は雪ちゃんを見てあげられないわよ?お父さんはもっと無理だし、仮に大丈夫でもこの場合は力にならないからね。」
「それはそうなんだが······それを言われると辛いな······。」
お婆ちゃんがお爺ちゃんをさりげなくディスってる。
ちょっと可哀そうだな〜とは思うけど、その通りではあるんだよね。
そしてそれをお爺ちゃんも理解はしてるから反論はしない。
「多分大丈夫だよ。 私がお昼で早上がりさせてもらえるか交渉してみるけど、恐らくいけると思う。」
「そうなのか?」
「うん。今の所、授業は順調だし各クラスの理解度もかなりいいから、ちょっとくらいなら問題ないよ。それに今はこういう事に寛大だし、上の先生方も理解力があるからさ。」
「このはがそう言うならいいか·····。まぁ、判断するのは向こうの人だし、そこに部外者がどうのこうのは言うものではないしな。」
よく分からない会話。
一部は分かるけど、コンプラとかそういう関係の事なのかな?
詳しくは知らないけど、たまに◯◯ハラがどうのこうのって言うのを見たり聞いたりはするから。
「そういう訳で雪ちゃん?」
「は、はい。」
「今日は念の為、学校はお休みね? それで、お婆ちゃんがお仕事に行ってから数時間だけ1人になっちゃうけど、お部屋で寝ててくれる?お昼過ぎには帰ってこれるようにするし、辛くなったりしたら直ぐに電話をしてくれていいからね?スマホは持ってる様にしとくから。」
そしてあれよあれよと言う間に、私の欠席が決まってしまった······。
本当にママってば·····と、思う。
それでもさっきも思ったように、それだけ私の事を想ってくれてるんだと思えば、嬉しくて幸せな気持ちになっちゃうんだけどね。
ーーーーーーーー
「··········もうお昼過ぎか。結構寝ちゃってたんだなぁ〜。」
目が覚めて、1番にした事は時間の確認だった。
そうしたら時計は13時辺りを示していて、なんだかんだで私は2時間近くを寝ていた事になる。
そしてそれだけの時間を寝れるとも思ってなかったから、その事にも驚いてはいるし、何と言ってもママの言ってた事が当たってたっぽいから更に驚いた。
だって朝にママが言ってた様に、朝方と比べてかなり身体がダルくなってきてるし、身体も熱く感じる······。
気になって体温計で測ってみれば、やはりというか体温が朝よりも上がってた。
そりゃあ、ダルいわけだとここにきて漸く気付いた私。
ボフッと再び横になって寝ようとしてみたけれど、今さきほど目が覚めた影響かなかなか寝付けない。
仕方なくスマホを取り出してピコピコと弄ってはみたものの、イマイチやる気も起きなくて放りだしてしまった。
(やっぱり駄目だね······。)
今度はレースを開けて、外の景色を見る事にしてみた。
丁度、隣のお家のちょっと大きな植木が見える。
新緑の黄緑色から濃い緑色に変わってきてる葉っぱが見えて、風が若干あるのかサワサワ、サワサワと揺れていた。
(なんだか、気持ち良さげだなぁ〜。)
風で揺れてる葉っぱを見てると、なんだか癒やされる気がする。
今の時期は暑い日も時たまあるけれど、全体的には過ごしやすく快適な季節だからね。
それに葉っぱ。
葉っぱって言い方を変えると、木の葉とも書いたり読んだりするよね。
そしてそれは木の葉とも読める。
そんな風に読むのは私だけかもしれないけど、そう読んでしまうだけ私はこの新緑に溢れたこの季節の木の葉が好きだ。
新緑が芽生えてくるのもママの誕生日がある、4月だからね。
「ママ······。どうしたんだろ?早く帰ってきて欲しいな······。」
ちょっとママの事を考えてたら、急にママに会いたくなってしまった······。
朝よりも具合が悪くなってきて、余計に心ともなく淋しくなったのかもしれないけど、そこは否定しない。
だって私はママ大好き! 要はマザコンな私だからね。
自覚はあるよ。
この歳、中学生になっても相変わらずお風呂にはママと一緒に入ってるからね。
思春期になって生理が来るようになって、少しは変わるかな?とは思ってたんだけど全然そんな事はなくて、寧ろもっと一緒にいたくなっちゃったんだよね。
私の目指す目標がママというのもあるんだけどさ。
それに寝るのもそう。
中学に上る前にお部屋を作って貰ったけど、年間の2/3以上はママと一緒に寝てる気がする。
昨夜はたまたま自室で1人で寝たけれど、その結果がこの有り様で······。
別に自室で寝たから風邪を引いたとは思わないよ?
前々から引いてたのが、たまたま今朝方になって症状が現れたって頭では理解してるんだけど、心ではそう思ってなくてね。
自室で寝たから引いたんだって、思ってしまってるんだよ······。
難儀だよね。
頭では理解してるのに、心がまだまだ子供でママに甘えたがってる。
そんな私を分かってか、ママも変わらず優しくて嫌な顔を1つもせずに私を受け入れてくれる。
そしてそんなママに甘える私。
考えれば考える程、ママに会いたくなる。
私が大して気付いてない事にも気づいてくれるママ。それだけ私の事を見ていてくれて心配してくれてるという証。
そんなママは、他の友達のお母さんでもいないよ?
友達の親の愚痴を聞けば聞くほど私のママが特別なんだって、嫌でも分かるもの。
そしてその分だけ、更にママが好きになる。
私の私だけのママ······。
(ママ······。早く帰ってきて······。ママの顔を、声を、その存在を、直ぐ側で感じていたいよ······。)
私は祈る。
それは自分の回復ではなくて、ただ早くママが帰って来るようにと。
不謹慎かもしれないけど、私の特効薬はママなんだ。
パタパタパタ········。
ガチャ!
「雪ちゃん!!」
「あっ····!! マ····ママーー!!!」
願いが通じた。
私の大好きなママが帰ってきてくれた。
そして、抱きしめてくれた。
嬉しくて嬉しくて······私からもママを抱きしめ返したの。
ありがとう、神様。
私のお願いを聞いてくれて。
そしてもう大丈夫だよ。
ママがいれば、私は元気になれるからね。
でも、あと少し······。
このままでいさせて下さい······。
ママの温もりに包まれながら、私は涙する······。




