ある日の文化祭②-1 20歳高2(挿絵有り)
「今日のH.Rは席替えを行うが、その前にクラス委員から話があるそうだ。それが終わり次第席替えを行うから、そのつもりでな。じゃあ、鈴宮に宮野、宜しく頼むな。」
「はい。」
先生のその言葉に直ぐ前に座っている私が返事をかえします。
そして座席から立ち上がり、先生と入れ代わって私が黒板と教卓の間に立ちます。
茜ちゃんから何だろう?って顔をされたけど、「大丈夫だよ」って通じたかは分からない目線でお繰り返して。
同時に後ろの方に座っていた志保ちゃんも来てくれて、これで準備はOK。
「そうだ、鈴宮。これ、頼まれてた箱な。」
「ありがとうございます、先生。」
「相変わらず、準備がよろしいよなぁ〜······。」
そんな先生のつぶやきに、アハハハと苦笑いを返しつつ頼んでいた空箱を預かって、これで本当に準備が整ったね。
では、時間も限られてますのでサクッといきますか。
今日は今学期、最初のH.Rの時間。
この時間の時は基本的には担任の先生の裁量で、各クラス好きな事をやったりする時間なんだよね。
分かり易い例で言うと試験が近くなればその勉強に充てたり、体育祭や文化祭といった行事事があればその準備などに費やしたりとか。
後は先生の都合等で授業日数が足りなくなる教科が出れば、それをやったりもする事もあるかな?
まぁ、そういうのは稀だけどね。
で、私達の高橋先生のクラスにおいては各学期の最初のこの時間はやる事が既に決まっているんだ。
それは恒例の席替え。
学期の最初とあとは1学期及び2学期の2ヶ月が経過した頃に行う、クラスのみんなが非常に楽しみにしているイベント事。
今回もそれを行う予定だったのだけども、最初に少し時間を頂いて私達クラス委員からクラスのみんなへ、あるお知らせを伝える事にしたんだ。
「と言うわけで、席替えの前に少々私達クラス委員から皆へお知らせとお願い事があります。手短に済ませますので、お付き合い下さい。宜しくお願いします。」
クラスの中をざっと見渡して、皆がこちらを見ていてくれるのを確認する。
うん。大丈夫だ。
「今日お話するのは、11月に予定されてます毎年恒例の文化祭についてです。正式な内容等の案内はあと2週間後辺りに配布されるらしいのですが、高橋先生に確認をした所、概ね去年と同じだと言う事でした。」
「つまり去年と一緒で、部活や同好会でそれぞれ催し物をやったり、各クラスで何かをすると言う事だよ。」
「そういう訳で、内容が一緒ならもう先に今年の文化祭はクラスで何をするのか、みんなから意見を募ろうと思い、今日こうして高橋先生からお時間を少々頂きました。」
「「「おぉ~~!」」」
「早い!さっすがこのはちゃん。」
みんなに今こうして、お話をした目的を伝えました。
それは先ほど述べた様に、今年の秋にある文化祭のクラスとしての催し物の企画・アイデアを募るためなんだ。
始業式の時にみんなの課題を職員室へ運ぶ手伝いをしてたんだけど、その時に高橋先生に聞いたんだよね。
「今年の文化祭はどうなんですか?」って。
そしたら去年と同様に行う予定というのを聞いて正式な案内はまだだけど、どういった物をやりたいかの意見だけは募ろうって志保ちゃんと話して決めたんだ。
文化祭のクラス物はクラス委員が中心となって決めて準備をしてってなるから、私達が動かないといけないからね。
「それに今年は林間学習も間に入っていて、そちらの準備等もしないといけなくなるので、早めに催し物を決められたらなと思ってます。」
そう。
去年と違い、コレがあるんだよね。
こっちもこっちで準備とかがあって人員も取られれちゃうし、部活絡みの事もあるから。
「そういう訳で今年もそこの棚にこの箱を置いときますので、やりたい企画があったら、その内容も詳しく書いて頂いて入れといてくれると嬉しいです。尚、匿名で構いません。」
ここまでは去年と同じやり方。
意見を求めるのには色んなやり方があるだろうけど、私は手間はかかるけど紙に書いて貰って尚且つ匿名にする事がいいかな?と思ってる。
人によってはそういう意見を出すのが、恥ずかしいとか言い難いとか言う子もいるからね。
社会に出たら大勢の人の前で意見とかを述べないといけない場面とかもあるだろうけど今は学校だし、それに今は兎に角沢山のアイデアが欲しいからね。
匿名にする事でそういった恥ずかしいなって子達からも、出来るだけ意見を集めたいんだ。
「さてその内容ですが、今年3組に来た子もいますし、去年の事を忘れてしまった子もいるかもしれないので、改めて説明しますね。」
みんなを見渡しつつ、話を進めていきます。
「まず去年の事をベースに考えていくと、今年も開催中はあまり人員はかけられません。それは皆が部活動の方で参加したり手伝ったりするからです。それに今年は3年生が引退して皆が主力になったというのもあります。 なので去年も意見は出たけど喫茶店とかお化け屋敷などといった、人手が沢山必要とする物は出来ないと思って下さい。」
「また後でクラスの方に参加出来るか出来ないかの調査も取るので、部活絡みの方でどういった事をやるのか詳しく聞いといてね?」
「そういう訳で、人員の事も踏まえて考えて貰えると嬉しいです。ちなにみ去年は校内スタンプラリーで、2〜3人で交代制の店番という形でした。今年も店番というか案内役的な人員を置くなら、去年と同じ様に2〜3人ぐらいで交代制になるかなと思います。 ここまでて何か質問とかはありますか〜??」
大まかな事を伝え終えて、あとはみんなから質問等があれば······と思ってたけど、これと言った質問は来なかった。
まぁまだ企画を考えて貰うだけし、それに際して人員の事が去年と同様にネックだから、みんなにはそこを意識して貰いたかったんだよね。
「では特にないようなので、これにて私達からはこれで終わりになります。ちなにみこの箱は正式な案内が出る2〜3週間くらいを目安に設置しときますので、ゆっくり考えてください。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
志保ちゃんと一緒にペコリと頭を下げて、今回の話を終わりにします。
次は正式なお知らせが来てから。
その時にこれを開封して、その中から良いアイデアを決めていきたいなと思っている。
志保ちゃんが一先ず席に戻っていく。
そして私はというと、そのまま教卓の所で立ったまま。
そんな私にみんなが「あれ??」っていう表情をしてるけど、今日はいいんだ。
まだやること事があるからね。
やる事。
冒頭の高橋先生の言葉にあったように、今日は席替えがメイン。
その席替えの進行をそのままやっていいよと、先生に言われてたんだ。
「では·····今日のメイン。席替えをこのまま進めていきたいと思います。」
「「「ええーーー!!??」」」
「ちょっ······ちょっとちょっと!このはちゃんが進行役?!」
「「「マジかーー!?」」」
「せんせーはサボりっすか?!」
私が進行をするって言ったら、先ほどとは打って変わって賑やかになるクラスの皆。
静かに聞いていてくれるのもいいけど、やっぱりこういう感じの方が皆らしくて私はいいなって感じてしまったよ。
「いや、サボりじゃないぞ? 一応これは鈴宮にも話してあるけど、鈴宮は教員を目指すらしいからな。その練習的な意味とかクラス委員として議事進行役をやってもいいんじゃないかと思っただけだ。 幸いに席替えはクジ引きで単純だから、然程難しくはないからな。」
「このはちゃんが教員を目指してるのは知ってますけど······先生も上手いことを言いますね?」
「本当だねー。楽して1時間······。」
「こらこらこら。お前達、何を人聞きの悪いことを······。」
みんなが先生を突っ突き始めちゃった。
高橋先生も先生にしては珍しく、少し押し負けしてるようにも見えてるんだよね。
でも実は私はこの話をもらった時に、二つ返事で引き受けたんだよね。
それは先ほど先生が話したように、こういうのも経験になるのと思ったのもある。
それと同時に先生の気遣いも嬉しかった。
「みんな。先生を余り責めないで欲しいな······。高橋先生も私の事を考えてこの話をくれたし、私もそれを了承してるからさ。それにこの位なら負担でもなんでもないから、大丈夫だよ。」
「このはちゃんがそういうなら、了解だよ。」
「はーい。」
「頑張ってー!このはちゃん♪」
「ありがとね、みんな。じゃ、早速始めていくよ?」
みんなから納得とついでに励ましなんかを頂いて、席替えを始める事にします。
この席替えはもう1年少しやって見てきたから、私もそして皆も分かっている。
黒板に座席表をカリカリカリと、チョークで書いていく。
その時に各席に数字を記入する事も忘れずにね。
「ではいつもの事なんですけど、私と茜ちゃんがこの教卓の前でいいですか?賛成でしたら挙手をお願いします。」
「「「はーい!」」」
「「オッケーで〜す!」」
「「「意義なーーし!!」」」
もはや定番と化した私の定位置とそれに付随した茜ちゃんの席。
嫌いな席NO.1が消える為に、誰からも反対意見が出ないというこの現状です。
まぁ······茜ちゃんの場合は別の意味合いも含まれているのだけど、それも含めてもこの席が消えるのはメリットが皆には大きいらしいです。
「みんな、ありがとうね♪では、続いてこの周りの席の抽選から行きたいと思います。この箱に入ってるのは、こことここ。それとこれとそれですね。他は他の座席数と同じだけのはずれクジとなってます。当選が出なかった話は、そのクジを最後の箱の方に入れるのでそのつもりでお願いします。」
黒板に書いた席表から、先ずは私と茜ちゃんの席にバツを書いて消す。
続いて私の周りという席を指しながら、クジの説明をしていきます。
これは前回に高橋先生がやった事と、同じ仕組みを使わせて頂きました。
私達の周りを希望してる子が多いので、先生が特別に用意したクジなんだよね。
ただ他の席数と同じだけのはずれクジがあるから、確率としてはかなり低いのだけど······。
「では、希望者は1人1回まで。順番はお任せだけど時間は······そうだね······次のクジもあるから、今から5分までとしようかと思います。では、どうぞー!」
この時間の冒頭に先生から頂いた時間と、この後に控えている全体としてのくじ引き。
それがあるので、敢えて時間制限をかけて行いました。
そうしないと駆け引きなんかもあって、中々進まなくなるという事も想定されるので。
みんなが、主に女の子達なんだけど誰から行く?なんて言って、既に駆け引きが始まって来た。
当たりクジ数からいくと後半の方が有利だとは私も思うけど、でも絶対はないからねー。
現に今まででも最初の方にクジを引いて後ろの席をGETした幸運な子もいたし、そういう子が出ると一気に流れが変わったりもするんだよね。
「よーし!私から行くよ!!」
「お!?チャレンジーだね!」
「行けー!あや〜!!」
「GO! GO!!」
最初に名乗りを上げたのは彩ちゃんだった。
彩ちゃんはクジ引きにおいてみんなが様子を伺ってる中、最初に引きに来てくれるんだよね。
それで当たったということは無いんだけど、それでも変わらず来てくれるその姿勢が私は凄いなと思うし偉いなとも思う。
席から立ち上がり私の元へ歩いてくる。そして······。
「ねぇ、このはちゃん?」
「ん?」
「私に『頑張って!』って、言ってくれないかな?」
「いいよ。······彩ちゃん、がんばれ!当たりが出るといいね♪」
何かな?と思ったら、まさかの応援が欲しいとは彩ちゃんらしいというか何と言うか。
でもそのくらいならお安い御用だから、いくらでも言ってあげる。
まぁ······それで当たりが出るわけでもないけどね。
「よーし!応援も貰ったからやるよーー!」
気合を入れて、箱の中に手を入れる彩ちゃん。
そしてガサゴソと中身を掻き分けつつ、1枚クジを引き私に渡してきた。
「どうかな?」
ドキドキといった様子で結果を待つ彩ちゃん。
ちなみにこの引いたクジ、自分で確認しても勿論いいんだ。
通常はそれをしてから、先生にも確認をして貰うというのが流れなんだけどね。
カサッとクジを開いて確認する私。
なるほどね。と、それを見て頷く私と、それを祈る様に見守る彩ちゃん。
「彩ちゃん······。」
「はい······。」
「おめでとう!!私の斜め後ろだよ。やったね!」
「ほんと!? やったーーー!!」
「「「「おおー!!!」」」」
「彩、すごーーい!!」
「やるじゃん!彩!」
私からのクジを受け取って、中身を確認しつつ飛び跳ねて喜ぶ彩ちゃん。
その様子にクラスのみんなも驚いて、驚愕の声と彩ちゃんへの称賛の声が沸き起こる。
私もまさか当たりを引くとは思ってもなかったから、かなり驚いてはいるけれど、それと同時に良かったねとも思ってるよ。
「よし!次は私がいくよ!このはちゃん、応援して?」
「うん。いいよ。」
4つある当たりの中で開幕早々に1つ減ってしまったので、駆け引きも関係なしにどんどんと引きに来るようになったみんな。
そして彩ちゃんに続けと言わんばかりに、私に応援(?)を求めてくる様になったみんなだった。
「ああぁぁ〜〜〜·····、外れたぁぁー······。」
「どんまい······。」
肩をポンポンとしてあげつつ、慰める。
まぁ、私が応援したからって当たる物でもないからね。私にそんな力はないし。
彩ちゃん。あれはあくまで彩ちゃんが運が良かっただけであって、決して私の効果とかそういうのではないから。
ただ偶々、応援してあげたのと当たったのが来たからそういう風に見えただけで。
それはきっとみんなも分かってはいるんだろうけど、でも縋りたいみたいで来る子みんなが私にそれを求めて来たんだよ。
先生もその様子にちょっと呆れてたけど、それでみんなの気が済むならと私も応じてあげてたけど、そう簡単に当たるわけでもなくクジ引きは進んでいく。
果たして残り3席は出るのか、出ないのか?
みんなのワクワクとドキドキを胸に、2学期最初の席替えは進んていく。




