ある日の始業式①-2 20歳高2(挿絵有り)
「「おっはよーー♪」」
「あー!このはちゃんに茜ちゃん!おっはよー!!」
「「「おっはよーー♪」」」
「2人共久しぶりだね〜!元気だった!?」
茜ちゃんと2人で仲良く教室の扉を開ける。
1ヶ月と少々というちょっと懐かしいその扉を開けば、その先にはこれまた久しぶりと思える光景が広がっていた。
日差しがキツくて暑いからカーテンは閉めてあって、でもエアコンが効いているから涼しい教室内。
男の子達はいくつかのグループに分かれて其々の場所で話をしてるみたいだけど、女の子達は教室の真ん中辺りで集まって話をしてたみたいだね。
これもいつもと同じで変わらない光景。
そして私達が声を掛ければ、そんなみんなが一斉に振り返って返事を返してくれて······。
(あぁ······。戻って来たな〜。)
そんな風に思ったのも一瞬、すぐにみんなに囲まれてしまったよね。
「ぐふっ······。」
挨拶もそこそこに囲まれて抱きつかれて、思わず変な声が出ちゃった······。
これは以前は、茜ちゃんが来るというパターンが多かった。
だけど今は一緒に登校するようになったからそれもなくなって久しかったけど、やはり突然くると私も力を入れて踏ん張れないから来るものがあるよね。
「このはちゃーーん······会いたかったよぉぉ〜〜。」
「本当だよ〜······。プールも一緒に行けなかったから1ヶ月会えないっていうのはホント、長すぎ。辛すぎ。」
抱きつかれてワンワンと泣かれて。
いや······実際には泣いてはいないけど、ニュアンス的にはそんな感じかな?
プールに行けなくて残念だったとか、会えなくて辛かったとかそういう気持ちが言葉と態度からひしひしと伝わってくるんだよね。
「私も一緒に遊べなくて残念だったけど、まぁ、あれは仕方ないよ······。そこまで無理して行くものでもないとは思うしさ。その代わり穴埋めはするからね?元気だそう?」
抱きついてきた麻美ちゃんと同じく側に来た、恵美ちゃんと絵里ちゃん。
他にも数名いて、この子達にそう伝えつつ頭を撫でてあげる。
こうするとうちのクラスのみんなは喜んでくれるからね。
「うは······。久々の生このはちゃん······。やっぱりいいわぁ〜♪」
「ホントねー。相変わらず癒やされるよ······。」
「うんうん、本当だね。それに相変わらずいい香りだし、やっぱりこのはちゃんだーって実感するね!」
くっついて来た皆を癒やしてあげれば喜んでくれて、そんな様子をクラスにいる皆は微笑ましく見守ってる感じ。
まー、皆も気持ちは理解出来るんだろうね。
だってちょっとでもタイミングがずれれば、あちら側に入る可能性があったのだから······。
今回の夏休みのプール遊び。
本当はクラスの女の子全員で行く予定だったのだけど、この麻美ちゃん達数人は行けなかったんだよね。
生理と被ってしまって。
10人ちょいの人数といえどもしかすると数人はそうなるかな?とは予想はしてたけど、やっぱり出てしまったんだ。
周期予測を計算すればいつ頃に来るかはある程度分かるから、その時の彼女達の落胆は、LI◯Eを通して見てるのも辛かったよ。
勿論対策が無いわけではない。
ピルを処方してもらってタイミングをずらすとか、タンポンを使うとかあるからね。
ただ1回のプールでわざわざ病院に行くのもあれかなー?とは思うし、後者も色々とあるんだよね。
まず彼女達からすればタンポンを挿れるのが怖いとか不安とか、そういうのがあるだろうし。
また多い日と少ない日、どちらかによってもまた違う。少ない日ならまだしも多い日なら不安も付きまとうし、そもそもその状態で入るのはどうなの?って意見もあると思う。
不特定多数の人がいる中で、しかも水の中。
中にはそれでも入るって言う人もいるかもしれないけれど、私だったたらさすがに遠慮するかなと思う。
それなんで無理強いを言うわけにもいかず、みんなもそれを分かってか何も言わなかったしね。
結局彼女達は行かないのを選んで、後で埋め合わせをしてあげる約束をしたんだけど。
暫くして漸く落ち着いた感じのみんな。
騒がしかったのも一段落して、私達も鞄を置くことが出来てホッとしたよね。
なんで私達もというと、茜ちゃんも囲まれてたから。仲良しである美紅ちゃんに抱きしめられて、私がするみたいに頭を撫でられてたんだよね。
さすがみんなから可愛がられてる茜ちゃんだなって感じちゃった。
そしてなすがままにしてる茜ちゃんも満更でもなさげな感じだからね。
「みんな、元気だった? ······って、ついこの間会ったばかりだけど。」
「元気元気!まぁ、この間は帰ったら直ぐに寝ちゃったけどねー。」
「あぁ。それ私もだよ。シャワー浴びたら眠くなっちゃってさ、結構爆睡してたよ。」
あはははって笑いながらみんなと近況報告なんかをしたりして、先生が来るまでの時間を潰す私達。
で、話の中心はやっぱりこの間のプールの話になったんだ。
やっぱりみんなも何だかんだで疲れてたみたいで、帰ったあとは寝たって意見が多かった。
私も帰って雪ちゃんとお風呂に入ったけど、その後雪ちゃんは寝ちゃったんだよね。
結局翌日の朝までよく寝てたし、私も早くに就寝をした。
とは言っても洗濯物を回して干すという作業もあったからそれもやりつつ、荷物の片付け及びお母さんがご飯を用意してくれると言ってくれてたから、ありがたくそれをご馳走になってからの就寝だったけど。
「いいよねー。みんなは······。私達も行きたかったよ。」
「ほんとほんと。こういうタイミングで来るのはツイてないよねー。」
行けなかった麻美ちゃん達から愚痴もでる。
まぁ、その気持ちは分かるけどね。
「こればかりは仕方ないよ。いつ何処にしても誰かしらはなったりもするからさ······。みんながOKな日を狙うのは厳しいよ。」
志保ちゃんからそんな言葉が出る。
それもそうで10人ちょいも女子がいれば、やっぱり誰かしらがなってたりするんだよ。
普通に遊んだりして過ごすならそれでも何も問題はないけれど、こうプールや海っていうのになると調整は難しい。
おまけにこういうのは期間も限られてるし、最近ではチケットを事前購入制で当日販売はなしときてるからね。
「じゃあさ、また来年でもまた予定してみる?まー、受験勉強とかもあるからどうなるかは分からないけどさ?」
「ほんと!?」
「マジ!?」
「あ!いいねー!またみんなとプール行けるのは嬉しいかも♪」
せめてものと思い来年にまたと提案を出してみたら、みんなの食いつきも良かった。
特に行けなかった麻美ちゃんや恵美ちゃん達が特にね。
そういう訳であくまで予定として、来年の夏休みも行こー!という事になったんだ。
値段の割にはプール数も結構あって、私もみんなもかなり楽しめたって部分はあったからね。
悪くはなかったよ。
「ねーねー、このはちゃん?」
「うん?」
「その時はまた雪ちゃんを連れて来てくれる?」
彩ちゃんが雪ちゃんの事を聞いてきてくれた。
それに対しての私の意見は勿論決まってる。
「勿論だよ。夏休み中でもあるから私には雪ちゃんを連れてこないっていう選択肢はないからね。」
「「「おぉー!!」」」
「やったー♪」
彩ちゃんを始めとしたプールに行ったみんなから、嬉しそうな声があがった。
「何々?! そんなによかったの??」
「そりゃー勿論だよ! 写真でも可愛かったけど、実物の雪ちゃんはめっちゃ可愛かったんだよ!!」
「そうそう!あんな可愛い子、私の妹に欲しかったって感じ!」
「いや、そこは将来の自分の子供として、ああいう子が欲しいなーって感じじゃない!?」
「それはあるねー!」
「くぅ〜···!」
「行けなかったのがまた悔やまれる······。」
「私も会って見たかったなー······。きっとこのはちゃんの子だから、見た目以上に可愛いんだろうね?」
「そーそー! これがまた可愛くってねー······。」
みんなでまたまた盛り上がる、この話。そして雪ちゃん。
私としてもみんなに改めて紹介出来たのは良かったし、雪ちゃんもプールを満喫出来たのもあって、よかったんだよ。
「茜ちゃんなんてさ、雪ちゃんから『茜おねーちゃん』って呼ばれててさ、手まで握ってるのよ?」
「うっそー!?そんなに仲良しなの?茜ちゃん??」
「えへへへ······まぁ、毎朝?顔を合わせてるから自然と、ね?」
話を振られた茜ちゃんとも茜ちゃんで、満更でもない様子。
そんな様子を見て、また盛り上がるんだよね。
「いいわねー、茜ちゃん······。」
「それを言ったら私も『美紅おねーちゃん』って、呼んでくれたわよ?」
「あー···、私も名前で呼んでくれなぁ、雪ちゃん。」
「私もだよ!」
「うちも!あれは別の意味で幸せだったなぁ······。」
「なんだ······。結局全員、名前で呼んでもらったんじゃん!」
「「「「あはははは······。」」」」
「まー、そうとも言うね。」
雪ちゃんは最終的にはみんなを、それぞれ名前で呼んであげてたんだよね。
これは雪ちゃんが茜ちゃんを『茜おねーちゃん』と呼んでたから、それを見たみんなが私もそう呼んで欲しいってアピールしたんだよ。
で、それに応えて雪ちゃんも名前で呼んであげたって訳。
顔と名前を今でも覚えてるかは別として·····。
「でもさ······、皆はいいよ。皆は······。」
「どうしたのさ?彩ちゃん??」
「彩ちゃんだって呼んでもらったんでしょ?」
みんなが笑ってる中で彩ちゃんが1人、沈んだ面持ちでボソッと呟いたんだよね。
それが聞こえた恵美ちゃんと絵里ちゃんが、彩ちゃんに問いかける。
「うん······まぁ、最終的には呼んでくれたんだけどさ、私ちょっと雪ちゃんに嫌われたっぽいんだよね······。」
「「「えぇー!??」」」
「ちょっと、彩ちゃん?! 一体何をしたのさ?」
理由が分からないのは、プールに行けなかった麻美ちゃん達。
対して私達は「アレかー。」と、察しがついたんだけど。
「実はね、プールの開園待ちをしてる時に起きた事なんだけど·········。」
彩ちゃんに代わって志保ちゃんが事の経緯を説明してくれた。
その話の最中に「あぁぁあ·······。」なんて、彩ちゃんのやらかした~みたいな気持ちの籠もった嘆きが聞こえたりして、それを宥めてる様子も垣間見えたりしてたんだよね。
「というわけで、雪ちゃんのいる前ではこのはちゃんに抱着いたり撫でて貰うといった甘える行為は、避けた方が良いという結論になりました。」
「「「「なるほど、なるほど。」」」」
うんうんと頷くみんな。
これにはプールに行ったみんなも頷いている。
「まぁ······これは、私も驚いたんだけどね。」
「そうなの?」
「うん。確かに雪ちゃんの前でああいう事をしたことはなかったけど、まさか嫉妬っていうのかな? そういう感情を表すとは思わなかったんだよね。だから驚いたけど嬉しくも思ったよ。彩ちゃんにはちょっと悪いなって思ってるけど、そういう感情を見せるって事は成長してるっていう事でもあるからさ。」
私はあの時感じた事をみんなに伝えた。
親として驚いたけど、それ以上に嬉しかった事。
「それにね、多分雪ちゃんは彩ちゃんの事を嫌ってはないと思うよ。最初は確かに警戒をしてたけど段々とそれも無くなってきてたし、後半はもう普通だったからね。名前呼びが最後になったのは、本当に偶々だと思うな。」
「うぅ······このはちゃーん·····。」
「良かったねー彩。雪ちゃん気にしてないってさ。」
感極まる彩ちゃんに志保ちゃんが、背中をポンポンとしてあげてる。
この2人はこんな感じではあるけれど、結構仲が良いんだよね。
それは偶に漫才みたいな事を彩ちゃんがやって、志保ちゃんの突っ込み(?)みたいな事をするのからも分かる事なんだけど。
「雪ちゃんか〜。私、いつ会えるんだろう?」
「確かに······。まだ写真でしか見てないからねー。」
「ねぇ?このはちゃん。雪ちゃんとは今度いつ会えるのかな?」
真剣な表情で雪ちゃんに会いたいなというみんなに対して、私は考える。
出来るなら会わしては見たいとは思うけど······。
「ん〜······。みんなとは住んでる街が違うから中々難しいよね。この辺りならスーパーとかでも会えるかなとは思ってたけどさ。確実とはいかないけど、可能性としては今年の文化祭かな?」
「「「文化祭?!」」」
「マジ!? 去年みたく、また来てくれるの?」
「あ、いや、それは分からないよ?でも、遊びにくる可能性は高いかなとは思うよ。」
まだ先の事で実際は分からないけど、曜日としては土曜日に実施だから雪ちゃんは幼稚園はお休み。
だから来るとするならば、お母さん次第になるんだよね。
「そっかそっか。文化祭かー。それならそれで楽しみだね!」
「そだね。あれも思ってた以上に楽しかったし、雪ちゃんが来たって連絡を貰えば会いにいけるしね!」
去年は文化祭まで雪ちゃんの事を秘密にしてたから、みんなを驚かせてしまった文化祭。
色んな思い出があったけど、今年は今年でまた違った感じになりそうなそんな予感がしてきた。
それはみんなの盛り上がりというか、そういうのを見てしまえばそう感じるんだよね。
ガラガラガラ······
「おーい! お前達〜、席につけー。」
「あっ!先生が来たよーー!」
「ざんねーん! このはちゃん、また後でね〜♪」
「急げ〜!」
1ヶ月少々ぶりの高橋先生がやって来て、ピューっと席に散っていくみんな。
こういう所もまた変わらないなーって思いながら、でも、そういう所もまた嬉しく思えてついクスクスと笑ってしまう。
「このはちゃん、楽しそうだね?」
隣に座る茜ちゃんが、小声でそう言ってきた。
「そうだね。楽しいよ。いつもと変わらないみんながいて先生がいて。夏休みも楽しかったけど、これはこれでいいなって思えるんだ。」
新しい学期のスタート。
行事的には去年と変わらない文化祭が待ち構えているけれど、2年生になった今年は去年はなかったとある行事もあるんだよね。
さてさて、どんな生活になるのやら······。
2学期はこれから始まったばかりです。




