ある日の始業式①-1 20歳高2(挿絵有り)
ピンポ〜ン♪
まだまだ暑い、8月の下旬のある日の朝の事。
リビングのとある場所に設置してあるインターフォンから来客をお知らせする音がした。
「ママ? 誰か来たよ??」
「ありがと、雪ちゃん。多分茜ちゃんだね。」
「茜お姉ちゃん?」
「そう。茜お姉ちゃんだよ。ママ達は今日から学校だから迎えに来てくれたんだよ。」
雪ちゃんが教えてくれたインターフォンに対して、確認をする前にそう答える。
まぁ実際に確認をするまでもなく、十中八九茜ちゃんだと私は思ってるんだけどね。
そのワケは、平日のこの朝方にわざわざインターフォンを押すご近所さんがいないのがその理由なんだけどね。
まぁ、ありそうな事といえば回覧板だけど、あれはポストに入れるか玄関先に置いていってくれるから、わざわざインターフォンは鳴らさないから。
あと、ありそうなのはご不幸だとかそういった緊急事になるけれど、幸いにして家のご近所さんはまだまだ元気なおじいちゃんお婆ちゃんが多いい。
そんな理由で茜ちゃんだと当たりを付けたのだけど、確認をしてみればモニターに写ったのはやはり茜ちゃんだった。
「おはよー。今いくねー。」
モニター越しに言葉を伝えて、頷いてくれたのを確認してからスイッチを切る。
そして荷物を持って雪ちゃんと一緒に玄関へと向かいます。
「お母さーん、行ってくるねー。雪ちゃんをお願いしまーす。」
「はぁ〜い。気をつけてね。」
洗濯物を回そうとしてるお母さんにも声をかけて、これで我が家の事と雪ちゃんの事はオッケーだね。
実は雪ちゃんは今日はお休みなんだよね。幼稚園の開始は9月からだからあと少し休みが続くんだ。
なので今週いっぱい平日は、お母さんに雪ちゃんの事をお願いしてあるんだ。
お母さんも久々に雪ちゃんの事をみれるというので、ウキウキで張り切ってるしさ。
靴をはいて玄関を開ければ暑い日差しが照りつけて、まだまだ夏だなーって実感させてくれる。
それと同時に早く秋にならないかな?と、思ったりもして······。
そのくらい朝からの気温もさることながら、日射しが強力だったりする。
「おはよー!このはちゃん。雪ちゃん。」
「おはよう、茜ちゃん。」
「茜お姉ちゃん、おはよー!」
「うん、おはよう。雪ちゃん。今日も元気だね!」
「うん!」
玄関を開けて外へ出てみれば、『そんな暑さなんて関係ないよ!』と言わんばかりの満面の笑顔を浮かべた茜ちゃんがいた。
(あぁ······全くこの子は、朝から元気だね。でもそれが茜ちゃんらしくっていいか。)
そう感じてしまうくらいの笑顔を、茜ちゃんは振りまいてるんだよね。
まぁ、その笑顔の源は私が言うのもあれだけど、間違いなくこの私なんだけどさ。
私が雪ちゃんを見て元気が湧いて幸せになれるのと同じで、茜ちゃんにとってはその対象が私なだけで。
私としてもそれを受け入れてるし、沈んだ顔よりも笑顔の方が良いからニコニコしてる分には全く構わないのだけど。
「じゃあ、雪ちゃん。ママは行ってくるからお婆ちゃんと一緒にいてね。」
「うん!大丈夫だよ。ママ、行ってらっしゃーい。」
「はーい。行ってきます。」
「雪ちゃん、またね〜。」
雪ちゃんを抱き締めて撫で撫でをしてから、名残惜しいけれどもお別れをする。
もうこれも学校がある日のいつものルーティーンだけど、来年からは逆になるんだよね。
それは私が家を出る時間より、雪ちゃんが家を出る時間の方が早くなるから。
雪ちゃんが小学校へ通う様になったら、私の家の地区の登校班の集合は7時半ぐらいらいしの。そこまでは一緒に行って登校を見送ってから、私の登校になるからね。
家から小学校まで近いのは良かったけど、それでも登校が早いよねーとは思う。
まぁ6年生と1年生では歩くスピードも違うから、どうしても余裕を持って行きましょう。という感じにはなるんだろうけどさ。
キコキコキコと実際にはそんな音はしてないけど、表現するならそんな感じで茜ちゃんと自転車をごぎながら学校へと向かう私達。
この夏休み、1回も自転車を乗らなかったからちょっと新鮮でもある、そんな登校。
「このはちゃんの制服姿も、凄く久しぶりな感じがするね。」
「そう?まー、夏休み中は茜ちゃんの前では1回も着てなかったからねー。でもそれを言ったら茜ちゃんだってそうだよ?1回着たのはあるけど、それしか私は見てないから随分と久しぶり感があるし。」
お互いに制服を着るのは久しぶりなので、ちょっと慣れないような感じがするんだよね。
それに加えて私は自転車に乗るのも学校へ行くのも、1学期以来だから余計にそう感じるのかもしれない。
そう懐かしみながら自転車を漕いで行く。
「でも·····今年の夏休みは、このはちゃんのお陰で楽しかったよ。改めてありがとね。」
「いや······礼を言うのは私だよ。私だって夏休みは結構茜ちゃんと過ごせたから日中も有意義だったし、楽しかったからね。だから、私からもありがとう。」
「うん♪」
今年の春休みまでの私は、結構家にいる事が多かったんだよね。
雪ちゃんがいれば一緒にお出掛けしたり、必要に応じて買い物とかで出掛けたりはしてたけど、それ以外は家で家事をやりつつ勉強をしてたって感じで。
それが今年の夏休みは1人勉強の所に茜ちゃんが加わって勉強をしたんだよね。
基本的には集中して勉強をしてるから、最中は2人でも1人でも大して変わらない感じではあるけれど、休憩の時がやっぱり違うよねと感じた。
1人静かに休憩するのと、話し相手がいるのとではさ。
それがいい息抜きにもなったからその後も集中出来たし、また茜ちゃんが分からない所やコツといったのを教えるというのも出来たから、お互いにとってWin-Winな時間だったよ。
あとは買い物も、茜ちゃんの家の方の買い出しも込みで一緒に行ったりとか。
そういうのもあって、今年の夏は充実して楽しい夏休みだったよね。
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「「「「キャーーーーー♡」」」」
「鈴宮せんぱ〜〜〜〜い♪」
「「このはお姉様〜♪おはようございますー!」」
「「「「「おはようございます!!」」」」」
「········凄い人気だね。このはちゃん······。」
「そ、そうだね······。はい、おはよう♪みんな。」
「「「「キャ〜〜〜♪」」」」
学校に着いて自転車を停めてから昇降口へと向かって歩いていたら、近くにいた下級生達から沢山の挨拶や名前を呼ばれたんだよね。
声をかけてくれたのは主に女子生徒なんだけど、その下級生の中には男子生徒も当然ながらいて。
その声掛けに私からまた返事を返せば女の子達はキャーキャーと喜んでくれて、男の子達は声には出ないけどかなり喜んでくれてるのが分かる。
その反応の凄さに、私と茜ちゃんは若干引いてる。
以前からこういうのはあったんだよ。
何かしらの移動の時なんかに廊下で下級生と会えば、声をかけてくれたりしてくれてさ。
ただそれが普通の先輩後輩というような挨拶ではなくて、どちらかと言うと憧れや好きな有名人とか、そういう人物に会った時の様な感じではあったけどね。
だけど、今現在程ではなかったと思うんだよねー?
一体何があったんだろ??
「ねーねー、茜ちゃん。これ、いつもより何だか凄くない?」
「あー······このはちゃんもそう思う?私もそう思ってたんだよね。」
2人で並んで歩きながら今のこの様子について話し合う。
下級生からキャーキャー言われるのは1学期からあった事だけど、ここまでではなかった事を2人確認して認識を合わせて。
て、何かあったかなー?って考えてみたけど······。
「思い当たる節はないよね〜?夏休み入るまではそんなに変わらなかったし······。」
「そうだね······。私もそう思うよ?このはちゃんはモデルの撮影をやっても雑誌とかは特に出てないんでしょ?」
「そうだね。撮影自体は少しやったけど、雑誌掲載とかは特に聞いてないかな。時間的な物もあるだろうけど、今回のはネットの販売ページのだったみたいだし。」
手を振りつつ歩いて、なんだろう?って考える。
夏休みに入るまではこれといって変わったこともなかったし、茜ちゃんが言うようにモデル撮影自体は少しやったけど、それが雑誌に掲載したとか発売したとかいう話は栗田さんからは聞いてないんだよね。
たから、本当に謎。
昇降口に着いて靴から上履きに履き替えて、靴を仕舞う。
私達の使うこちらの昇降口は各学年の1組〜4組までが使う下駄箱があるんだよね。
なので当然ながらここにも下級生もいて、1年生達の教室がある3階を過ぎるまでは相変わらずキャーキャー言われて、それに対して手を振りつつ階段を登ったよ。
「うん······。やっぱり、このはちゃんは人気者だ〜♪」
「嬉しそうだね〜、茜ちゃんは······。私はちょっと疲れたよ。」
肉体的は疲れてはないけれど精神的にすこーしだけ疲れた私に対して、隣を歩く茜ちゃんはニコニコの笑顔で嬉しそうにしてるんだよね。
だからついつい聞いてしまったんだよね。
何でそんなに嬉しそうなのかを。
「だってさ、自分の好きな人が他人からも好かれて、人気があるって嬉しいじゃない?それに、このはちゃんなら誰かに取られるって心配もないから、安心していられるっていうのもあるかなー♡」
キャ~♡なんて、最後に呟きながら赤くなる茜ちゃん。
言ってて照れるなら言わなければいいいのにと思うけど、隠さずに言うところがこの子らしくってまたいいのだけどね。
まぁでも、そういうものなのかとも思ったよね。
茜ちゃんから見れば大好きな存在である私が他からも人気があるのは嬉しい事で、多分これは押しのアイドルや俳優さんに抱くような気持ちに近いのかもしれない。
人気が出れば出たで、近くにいる事の出来る自分としては優越感もあって嬉しいし、また人気だけど誰かに取られるという心配もない。
推しの人が引退とか結婚報告とかをするとショックを受けたりするって聞いたことはあるけど、私はそれはないってハッキリと伝えてあるからね。
だから私が誰かと仲良くしてても奪われる心配はないから、茜ちゃんとしては安心でもあるのだろうね。
まー······、雪ちゃんの嫉妬には驚いたけど。
「あ···でも······私、分かったかも?」
「お? そうなの?どんな??」
何か閃いたらしい茜ちゃん。
「多分たけど、プールに行った時のみんなと同じ感じになってるんじゃない?」
「プール? ·········あぁ!そういうことね!」
茜ちゃんの言葉に一瞬「ん?」とはなったけど、そのあと直ぐに私も気付いたよね。
「そうそう。あの時の皆はこのはちゃんに久しぶりに会えて、テンションが爆上げしてたじゃん。で、それが恐らくそれが下級生にも起きてるんじゃないかと私は思うんだ。」
「なるほど······それなら一応は納得出来るかな?モデルとしてはこれといって露出はなかったし、それにあの時のみんなと感じが似てるもんね。」
先日にみんなで行ったプールでは、茜ちゃんの言うように久しぶりに会った時のみんなのテンションはかなり高かったんだよね。
車で迎えに行った子達にもその場で抱きつかれたし、プールでもそれはあった。
ただ、車組の方は雪ちゃんから見えない位置で難を逃れたけど、プールの方では彩ちゃんが抱きついてきた所を雪ちゃんに見つかって、雪ちゃんが嫉妬、激おこプンプンになったけど。
「だからさ、もう暫くすれば皆も落ち着くと思うんだよ。まぁ、それまでが騒がしくてこのはちゃんからしたら、大変だろうけど······。」
「そう···だね。それまで茜ちゃんにも迷惑をかける事になるよね。ごめんね。」
「え?別に私は全然気にしてないから大丈夫だよー。寧ろこのはちゃんの側にいられるのが堪らなく嬉しいんだからね!」
眩しい茜ちゃんの笑顔。
ほんと、この子のこの笑顔はとてつもなく眩しくて輝いていて、そして幸せいっぱいって表情をするんだよね。
見ている私でも「ドキッ」ってするくらいだから。
「ありがとうね、茜ちゃん。なるべく早くに落ち着くように努力はするね。」
有名税。
実際にはそんな名の税がある訳ではないけれど有名人であるために、好奇の目で見られて苦痛を受けたり、プライベートで出かけた先でも気付かれれば何だかんだと騒がれたりすることを、税金にたとえていう言葉。
私も自ら有名になろうとしてる訳ではないけれど、でも、この見た目が人の目を惹くのは昔から分かってはいた。
今でこそ近所のよく行くスーパーとかではそれ程でもなくなったけど、あまり行かないようなお店や、それこそこの間のプールなんかではずっと好奇の視線に触れてたのは分かってはいた。
そしてそれは一緒にいる、雪ちゃんや茜ちゃんを始めとしたみんなにも影響を及ぼすのもね。
(休み時間はなるべく出歩くようにするかな······。)
「うん?このはちゃん、何か言った?」
「いや、何でもないよ?」
このちょっとした騒動(?)を早く沈静化させるべく、決意を新たにする私。
そして有効な手立てを見つければ今後にも活かせるかもしれないからね。
だってまだ今後も冬休みや春休み、そしてもう1回夏休みが来るからその度に今回みたいな事が起こるかもしれないから。
始まって早々賑やか学校生活だなーと、夏休みとは全く違う感じに嬉しくも可笑しくもなる私なのでした。




