ある日の夏休み⑤ 20歳高2(挿絵有り)
「おはよー。茜ちゃん。」
「うん。おはよう、このはちゃん。今日は誘ってくれてありがとね♪」
「ううん、いいんだよ。私がそうしたかっただけなんだから······。」
夏の暑さもピークになり蝉も相変わらず元気に鳴いている8月のある日、私は茜ちゃんをお迎えに茜ちゃんの家に来ていた。
「あれ?結局、制服にしたんだ?」
「うん。どうしようかなー?って悩んだんだけど、これが一番無難かなって思ってさ。······私服の方が良かったかな?」
「いや、私はいいと思うよ。別に何か指定がある訳でもないし、あくまで私達の思い出用のだからね。茜ちゃんがこれがいいって思ったのが一番だよ。」
「うん。ありがとう。」
私の問いかけに制服にしたと答える茜ちゃん。
昨日から何がいいかな?何がいいかな??って、沢山LI◯Eを送ってきては悩んでたんだよね。
私服にするか制服するか。
で、その答えを聞かないまま迎えに来てみれば、制服姿の茜ちゃんだった。
ここ暫くは私服しか見てないから、久しぶりでちょっと懐かしいなーなんて思いつつも、これはこれで良かったんじゃないかと私は思う。
後々に見返した時に、この時私は高校生だったんだーってひと目見て分かるからね。
対する私はというと、この後振り袖を着る予定だから直ぐに分かる。
成人式の写真なんだって。
こういうのってさ、『この場所はどこだっけ?』とか『何歳くらいの時だっけ??』って忘れちゃう事もあるから、そういうのだと悲しくもなるんだよね。
大事な思い出なのに思い出せないのってさ。
だから、ひと目見て時代とか分かる服装というのも私は悪くないと思うんだ。
そんなこんなで、今日は私の成人式の前撮りをする日なんです。
それで私個人で撮った後に家族写真を撮って、最後に茜ちゃんとワンショット撮ろうかなと思ってるんだよね。
それをこの前お話しして茜ちゃんに予定を確認してもらって、今日という日を迎えた。
それで茜ちゃんは服装をどうしようと悩んでいたというわけです。
「このはちゃん。雪ちゃんいないけど、どうしたの?」
車に乗り込んで栗田さんのお店に向かってる最中に、茜ちゃんから雪ちゃんが居ないと聞かれた。
「雪ちゃん?雪ちゃんはもう少し後に、お母さん達と来る予定だよ。」
「そうなんだ······。」
「着付けとかメイクに時間が少しかかるからさ、最初から居ると飽きちゃうからね。それなんで、着付けが終わる辺りで来て貰う手はずになってるんだよ。」
「そっかそっか······。私、てっきり来てるのだとばかり思ってたから『あれ?』って思っちゃってさ。」
茜ちゃんがちょっと残念そうに、そしていなかった事に対して意外そうな感じをしてた。
まぁ私の感じからいけば、最初から連れてきてると思ったんだろうけどね。
だけど私はそれをしなかった。
本当はやっぱり最初から連れてきたかったけど、準備の間に飽きちゃったりする可能性が高いじゃない?
それに普段とは違うおめかしした服装で来るから、そういうのでも疲れちゃうかもしれないし······。
だから残念だけど後から着てもらうことにしたんだ。
笑顔で写真を撮りたいからね。
「でも······それを言うと、茜ちゃんにはちょっと悪い事をしたなって感じてるよ。」
「私に?何で??」
分からないって感じで、キョトンとしてる。
そんな茜ちゃんをチラッとだけ見て、また前を見ながら話を続けます。
「さっき雪ちゃんがいない理由と同じだよ。茜ちゃんには私の準備段階からいてもらうから、その分拘束時間が増えちゃうでしょ?それに撮影は最後なんだから、本来ならその頃に来てもらっても良かったんだけど······。」
本来はそうすれば茜ちゃん的には1番良かったんだよね。
だけど茜ちゃんの家と栗田さんのお店とは同じ市内ではあるけど、行く交通の便が悪いんだ。
田舎故にバス網もないし、車移動がメインの中で自転車しかない茜ちゃんにはこの上なく不利。
だから私が迎えに行ったんだ。
「なんだ······そんな事を気にしてくれてたんだ。」
「そんな事って······。結構大事だと思うけど?」
いくら休みの長い夏休みとはいえ、1日の中で大半の時間が取られるのはキツくないのかな?
「私さ、今回のこのはちゃんの前撮り、かなり楽しみにしてたんだよ?ただ写真を撮るだけじゃなくて、準備段階を見れる事をね。」
茜ちゃんがゆっくりと語りだした。
「何年か前のお姉ちゃんの結婚式の時にね。私、見たかったんだよ、お姉ちゃんが仕度をしてる所を······。でも見ることは出来なくてお父さんと一緒に呼ばれたのは、ほぼ仕度が完了してドレスを着たお姉ちゃんだった時のを。だからね、今回このはちゃんが変わっていく所を最初からずっと見ていられるのが嬉しいんだよ。」
「なるほどね〜······。じゃあ、よく見ていてくれる?」
「うん!見とくよ。ずっといつまでも忘れないように、目に焼き付けとくからね!」
そう嬉しそうに語る茜ちゃん。
そんな話を聞いてて、1人くらいは見てくれててもいいかな?なんて思ってもしまった。
特に誰かに話すとかでもなくても、記憶として持っててもらうのも悪くないなーって。
それにそういうシーンを撮って貰うのも、また思い出としていいのかもしれないし。
「ねぇ、茜ちゃん。1つお願いが出来たんだけどいいかな?」
「何々!? 私に出来るならやるよ!」
「私の着付けしてる所を、写真とか動画でちょこっとだけ撮っといてくれるかな?記念に残しとこうと思ってさ。」
「任せて!! バッチリと撮っとくから♪」
「ありがとね~♪」
茜ちゃん話を聞いて、思い立った事。
でも良かったのかもしれないね。
思い出の記念がまた1つ増えるから······。
茜ちゃんの家から車を走らせること約15分少々。
栗田さんが営むお店へと私達は到着した。
「ここが私がモデルをしてるカメラマンの栗田さんが営んでる写真屋さん。ほら、そこに私の写真が飾ってあるでしょ?」
「本当だ!うわぁ!綺麗〜♪これだけ大きい写真だとやっぱりいいねー♪」
感動してる茜ちゃん。
見てるそこには私のドレス姿の写真が数点飾られていた。
お店の外を歩く人が見えるような位置に、よく写真屋さんで見かける展示方法だよね。
そんな大きな写真パネルを見て、うっとりしてる茜ちゃんを連れて店内と入ります。
「こんにちは。栗田さん新井さん。今日は、よろしくお願いします。」
「おはよう、このはちゃん。こちらこそ、今日はよろしくね。」
「このはちゃん、おはよう。早くからありがとうね。今日は可愛く撮るから宜しくねー。」
店内に入って早速、栗田さんと新井さんにご挨拶です。
2人共待ってましたと言わんばかりに元気で、それプラスちょっとだけソワソワとしてた。
「あれ?その子はどうしたの?」
「このはちゃんのお友達?」
私の後ろにいた茜ちゃんに、新井さんと栗田さんが気が付いた。
「この子は私の友達で茜ちゃんです。茜ちゃん、こちらがカメラマンで店主の栗田さん。こちらの方は新井さんでアシスタントやメイク等を担当してくれるよ。」
「あ···このはちゃんの友達をやってます、諸貫茜です。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。アシスタントとメイク、着付けをしてる新井です。」
「同じくカメラマンとここの店主の栗田です。よろしくね、諸貫さん。」
「はい。」
茜ちゃんに栗田さん達を紹介して、それからお互いに挨拶をする茜ちゃん。
緊張感はあるけれど、最初としてはこんなものでしょう。
「それでこのはちゃん。諸貫さんは今日はどうしたの?このはちゃんの事だから何かあって連れてきたんでしょうけど······?」
栗田さんから当然の疑問を尋ねられた。
普通に考えれば今日この場には、家族くらいしか来ない筈だからね。
「茜ちゃんには、私の着付けをしてる姿を少しだけ撮って欲しくてお願いしました。あとこちらがメインなんですけど、家族写真の後に茜ちゃんと1ショットか2ショット程、一緒に並んで写真を撮って欲しいんです。もちろん後ほど購入はしますので、お願いします。」
栗田さんにお願いをする。
メインである写真の方は特に問題はないと思ってる。
こちらは元々購入するつもりだったから、商売的にも問題ないしね。
逆に怪しいのはさっき思いついた、準備の時の撮影。
茜ちゃんのスマホでとなるけど、無理だったらまぁ諦めるか······くらいに考えてはいるんだけど······。
「写真の方は問題ないわよ。商売的にも何も問題はないしね。それに着付けの時の撮影ね······支障が出ないように後ろの方で撮る分ならいいわ。」
「ありがとうございす。よかった······。じゃ、許可が出たのでお願いするね?茜ちゃん。」
「うん。皆さんの迷惑にならない様に気をつけて撮るね。」
ふう······。良かった良かった。
駄目たら仕方ないかと思ってたらけど、許可がでればやっぱり嬉しかったりするよね。
そういう光景が残せるのも後々見返した時に、いい思い出になるだろうから。
「それにしても、このはちゃんがこの子と撮影ね〜···。フフフフ······。」
なにやら怪しげな笑みを浮かべてウンウンと1人納得してる栗田さん。
何を考えてるのか分からないけど、そんな変な事はないからね?
ツンツン。
「どうしたの?茜ちゃん??」
「栗田さんって、どんな人なの?」
私の服をつつきなら茜ちゃんが尋ねてきた。
まぁ···あれを見ちゃうと不安にもなる??
「一言でいうといい人で楽しい人だよ。他の人だとどうかは分からないけど、テンションが上がるともう少し明るくなって面白くなるね。でも腕前は確かだから、そこは心配してないよ。」
「おお···。モデルとかの仕事も受けてるから、やっぱり腕は凄いんだね。」
「そうだね。それとよく見とくといいよ。よく見て観察して、いいなと思ったら将来ここで茜ちゃんも前撮り写真を撮って貰ってもいいんじゃないかな?」
「前撮りって······私はまだまだ先だよー?」
「そうだけどさ······でも、意外とこういう写真屋さんて来ないじゃん?いざって時にどこにしようか探して悩むなら、今きちんと見とくのは悪くないと私は思うな。」
そうなんだよねー。
こういう写真屋さんて普段は滅多に来ないんだよね。
証明写真だって無人機でさくっと撮れちゃうから。
だからこういう前撮りって時期になると、お店を探すのに苦労をするんだよね。
写真屋さん自体はあっても衣装・着付けはやってないとかさ。
栗田さんの所はそれが全部1箇所で出来るから効率なんかもいいし、なんと言っても人柄、腕前が良いから。
あと数年後。
茜ちゃんも必ず撮るようになるのだから、その時はいい所で撮って欲しいなと私は思う。
一生に一度の写真だからね。
だからこのせっかくのチャンスに見ておくのは悪くないと思うんだ。
話自体は聞けるけど、実際の撮影風景なんてそうそう見る機会もないからね。
ーーーーーーーー
「やっぱりいいわぁ♪こっちにして正解ね!」
「ママ、綺麗だよー♪」
「お姉ちゃんって、ほんと何でも似合うよねー。」
「うんうん! あー······今日誘ってもらえて幸せ♡」
私単体での撮影を見ながら絶賛してるのは、うちのお母さんです。
この柄がいいだよとかこれにして良かったとか、似合ってるだのとそんな事を結構な頻度で言ってるんだよね。
そして制服組のガール2人。
こっちもこっちで、色々と感想を言いつつ盛り上がってるし·····。
お父さんはひたすらウンウンと頷いてる。
纏めると評判は良くて賛辞を貰ってるけど、なんだかんだで雪ちゃんからの賛辞が1番嬉しいよね♪
家族や茜ちゃんが褒めてくれるのも嬉しいけどさ、やっぱり娘からの言葉が1番重みがあって、心に響く。
そして私はそれに対して応える事はなく、淡々と撮影をしてるんだけどさ。
ちなみに今回のこの振り袖。
選ぶ時に私とお母さんで意見が分かれた。それはもう見事にね。
それで話し合いの結果、お母さんの選んだ振り袖にしたんだ。
こういう場面ではお母さんは意見を曲げないのもあるけれど、今回の撮影に関してはお金を出してもらってるからね。(茜ちゃんと撮るのは私持ち)
だから、きちんとした写真として残すのはお母さんの意見を優先しました。
それで、私が選んだのは本番の式の時に着ていく事にしたんだ。
栗田さんも『それでもいいよ。』って、言ってくれたので。
ちなみにお父さんの意見は、ここには存在しない。
だって、こういった行事の場合は女の意見が強いからね······。
「続きまして家族写真となります。お父様とお母様はこのはちゃんの後ろに並んで頂いて、妹様はお母様の隣、雪ちゃんはこのはちゃんの···右側にしましょうか。」
栗田さんの指示により家族写真の撮影と移っていった。
そしていくつか姿勢を変えつつ撮っていく。
全員で立ち姿や、私が椅子に座ってみんなが背後で立って撮るなど、家族写真でよく見る構図なんだけどね。
そしてそれなりの枚数は撮ったはずなんだけども、かかった時間はそれほどでもなかったんだ。
スタッフさん······この場合は栗田さんと新井さんだけど、女性のみというのも大きかったのかな?
女性の多い我が家だから男性のカメラマンさんよりは緊張しないってのもあるしね。
そして雪ちゃんが終始ニコニコとしてて、NGを余り出さなかったのも尚更良かったみたい。
余談だけど、私単体での撮影も早かった。
お母さんや葵達が向こう側でアレコレと賑やかだったけど、私はそれなりの撮影をやってきた経験もあるし、笑顔の出し方をマスターしたからね!
たから結構サクサクと終わったんだ。
「いやー······緊張したよ。」
「そう?そう言う割には、これと言った事は言われてはなかったじゃん?」
「ん?まあな······。現場が違うとはいえ、父さんだって仕事で初対面の人やお偉いさんと会うこともあるからな。にこにこと笑顔でいるのは得意だぞ?勿論、顔に出さずに隠すのもな。」
お父さんがどうだ!!と言わんばかりに、胸を張ってドヤ顔をしてる。
こういう姿も珍しいなと思いつつ、それだけ嬉しいのかな?なんて思ったりもした。
少しの休憩を挟んで次は雪ちゃんとの2ショットと、その後に茜ちゃんと撮るだけになった。
先ずは雪ちゃんから。
「このはちゃん。どんな風に撮りたいとか、何か希望とかはある?」
「そう···ですねぇ〜······。」
栗田さんのそんな言葉にちょっと考えてみる。
さっきの家族写真はごく一般的にみる並んで撮った構図なんだよね。
そうすると雪ちゃんとは、仲良し親子って言う感じで撮りたいかなと思う。
そして写真というのを意識しないで、普段の可愛い笑顔の雪ちゃんと撮りたい。
「写真というのをに意識しないで自然な笑顔の雪ちゃんと撮りたいなって思うので、じゃれ合ってる様な感じ撮りたいですね。なので、姿勢とかは気にしないでただ触れ合ってるのを撮ってもらえればな、都思います。」
「オッケー!じゃあ、私の方からは余り指示せずバシバシ撮るから好きにやってみてね。」
「はい。ありがとうございます。雪ちゃ〜ん、おいでー♡」
「はーい♪」
早速、雪ちゃんを呼ぶ。
今日はあまり触れ合えずに家を出ちゃったから、雪ちゃんも寂しかったかもしれないからね。
そんな気持ちを忘れさせようとする意味でも、優しく抱きしめて頭を撫でる。
着物という生地の厚い物を着てるから、さすがに温もりとかは感じにくい。
でも気持ちというのは伝わるからね。
そんな雪ちゃんも嬉しそうに目を細めてるし、それを見る私もまた嬉しく幸せな気持ちになれる。
パシャパシャパシャ······。
シャッター音が続く。
栗田さんは何も言わないけど、これだけシャッターを切るのはきっといい絵が撮れてるんだろうと思う。
ふふふふ······と、笑いながら撫でる。
何年か先、大きくなった時に雪ちゃんがこの写真を見たら何て思うのかな??
そしてその時の雪ちゃんは、やっぱり私とそっくりなのかな?
そんな未来の事を想像しながら、撮影は続いた。
そして最後、茜ちゃんとの2ショット撮影をしてたら思わぬ事が起きた。
なんと葵も「お姉ちゃんと一緒に撮りたい!」って言い出したんだよね。
経緯はこう。
茜ちゃんと撮るにあたって、これも普通の並び写真だとつまらないかな?って思ったんだ。
だから雪ちゃんの時と同じように自然なのを茜ちゃんに意識させたかった。
だから茜ちゃんの腕を引き寄せて、腕組みをして撮ってもらった。
よくこうして歩いていたりする構図だけど、これがしっくりくるんだよね。
そして茜ちゃんのも自然と笑顔になる。
そうしてニコニコ顔の茜ちゃんと写真を撮ってもらってたら、葵が乱入してきたと。
「私もお姉ちゃんと一緒に撮りたい!!」
茜ちゃんに嫉妬したのか分からないけど、暫くぶりのお姉ちゃん子な葵が現れたんだよね。
シスコンって言うんだっけ?よく分かんないけど·····。
そんなんで急遽、葵とも2ショットを撮って写真を購入したよ。
にっこにこ笑顔の葵。
全く可愛い奴めって、懐かしくも嬉しく感じちゃった。




