ある日の夏休み①-9 20歳高2(挿絵有り)
ーー 茜ちゃん 視点 ーー
私は薄っすらと目を開けた。
開けた先は薄暗くって私はもう1回、2回と瞬きをした。
それでも部屋は薄暗くて、そして考えた。
あれ?私、いつの間に寝たんだろう??と。
このはちゃんと卒アルを見て盛り上がってたのは覚えてる。
私の小さい時の姿を見て、可愛いねーと喜んでくれてたこのはちゃん。
そしていつかお泊りでどこかに出掛けようっていう約束をしたのも。
でもその後が記憶にないんだよね。
何となく眠くなってきたのは覚えてるんだけど······もしかして寝ちゃったのかな!?
そうしたら大変な事だ!
このはちゃんを招待したのに、この部屋の主である私が先に寝てしまうなんて······。
しかもこの状況を察するに、このはちゃんが私をベットに寝させてくれたんだなと思う。
だって、タオルケットがご丁寧に私に掛けられてあったからね。
ありがとうね、このはちゃん。
それとごめんなさい。先に寝てしまって。
私の目と鼻の先で寝てるこのはちゃんに、心の中でお礼を伝えた。
それにしても······と思う。
先程から私が身じろぎする度に、ふにふにと触れ合う柔らかいこれは何だろう?って。
部屋の中が薄暗いからはっきりとよくは分からない。
でも状況からして、このはちゃんである事には間違いない。
まあ、それ以外の誰かだったら即悲鳴で通報物だけどさ。
で、眼の前のこれだけど落ち着いてきて分かった。
これはこのはちゃんの胸だ。
間違いない。
だってそれなりに抱きついている私が間違える訳もないし、暗いけど位置関係でそれしかないんだよね。
理由は分からないけど、このはちゃんは私を抱く様な形で寝てしまったらしいの。
普通なら頭の位置を揃えて寝てそうなものだけど······まあ、ある意味ラッキーという事にしておこう。
すっかり目が覚めてしまった私だけど、そのまま寝たふりをしてくっついてることにした。
やり方的にどうなんだろう?とは思わなくはないけれど、一緒に寝てるんだからいいよねって1人納得して。
それにこのはちゃんから抱きしめてくれてるんだから、嫌って訳でもないと感じてるから。
(はぁ······すごく柔らかくて温かい。そして私よりも大きくて、トクン♪トクン♪って心臓の鼓動もなんとなく聞こえて凄く落ち着くよ。)
私は堪能する。このはちゃんを。
最初はきれいな人だなーって思ってたこのはちゃんだったけど、実際にママをしてると知ってからは急激に惹かれた。そしてさり気なく抱きついたりもした。
そして倒れてその時に身の回りのことをお話して、お母さんにして貰えなかった甘えたいという欲求をこのはちゃんに求めてたのを告白した。
実際にこのはちゃんもそれに応えてくれて、今日まで私は癒やされてきた。
でもいつからだろう······?
言い方は悪いけど、このはちゃんをお母さんの代わりと見てたのがいつの間にか、このはちゃんという1人の女性として見るようになった。
そして大好きになった。
より甘えたくもなったし、くっついていたい、いつも側にいたいと思うようになった。
恋愛感情?
愛?
女同士なのに??
でも、そんなのは関係ないんだ。
このはちゃんの事が大好きで愛してるのは間違いないのない、私の素直な気持ちだから······。
(あれ?今日はどうしたんだろ?私の勘違い?)
暫くくっついていて、ある事に気が付いた。
それはこのはちゃんがナイトブラをしていないという事に。
以前に買い物に行った時に、そういう物も大切だよと教えてもらったんだよね。
だから私もそれに習って買ったんだけど、その本人がしてないなんて······。
たまたま忘れたのか······でも、しっかり者のこのはちゃんの事だからそれは無いとは思うんだけどなー??
疑問は残るけど、でもいっか。
そのお陰でこの温もりや柔らさかを堪能できてるからさ。
今夜だけ特別な特権です♪
それにしても·····いい香りだなぁと、くっついていて改めて感じるこの香り。
1年生の時から私達女子の間で話題になった、このはちゃんの香り。
決して不快な香りではなくて、寧ろ凄くいい香りで凄くリラックス出来るそんな不思議な香りなんだよね。
最初はシャンプー類とか衣料洗剤の香りとかなのかな?って話になったんだけど、違うって結論になった。
衣料洗剤の方はある程度絞られて違うとなって、シャンプー類は誰かがこのはちゃんに何を使ってるの?と聞いてたから。
その結果、使ってる物は分かったけど同時にその製品の香りでは無い事も分かったんだ。
益々深まる謎。
あとは香水?そんな話にもなった。
まぁ、このはちゃんは私達より年上で大人だから使ってても何ら不思議はないんだけど、でも結局それも違った。
そしてとうとう謎は解けなくて今に至るんだけど、今この瞬間に私には分かったんだ。
この香りは、このはちゃんの体臭もしくはフェロモン??
理由は寝る前に一緒にお風呂に入って洗いっこしたから。
その時のシャンプーとかボディソープとかは全部私が使ってる物を使ったからね。
それにお風呂からあがった時も香水とかを使うという事もなかったから。
それでいて尚この香りがするという事は、もうこれしか考えられない。
鼻をこのはちゃんの胸にくっつける。
本当にいい香り♡
体臭って言うと臭いだとか酸っぱいだとか嫌なイメージが思い出されるけど、このはちゃんの場合は全くそんな事はない。
皆が言うように、いい香りで凄く落ち着けてリラックス出来る、そんな不思議な匂いなんだよね。
疑問は解けた。
でもこれは私だけの秘密。
クラスの友達にも誰にも教えない。
私が1人で堪能するんだ♪
そして私はこの匂いも好き。
いつだったかは忘れたけど、最初に抱き締めて貰った時から······。
覚めた筈の目が、頭が、また眠くなってきた······。
匂いを嗅いだからか。
目の前にある柔らかな胸の感触なのか。
それとも私の身体と心を包みこんでくれる、この温もりのせいなのか。
きっと全部がそうなんだろうな。そう思う。
あと何時間寝ていられるのか分からないけど、可能な限りこの幸せな時間と空間を満喫したいよ······。
顔を少し上にあげた。
薄暗くてあまりよくは分からないけど、このはちゃんの顔がある。
やはり元が素敵だと、寝顔も凄く美しいなーと感じる。
そして位置が物凄く近いから、スゥスゥと寝息も感じる。
吐き出される吐息の温かさや風量。
私の顔にかかる吐息がくすぐったいけど不快感はなく、寧ろ嬉しくも感じてる。
いいよね···雪ちゃんは。
毎晩これを味わえるんだもの······。
もそもそと片腕を出して、このはちゃんの顔に触れた。
ドキドキ······
(お、起きないよね?)
起きたりしないよね?と内心ドキドキしながら、このはちゃんの頬を優しく触る。
(凄い···。すべすべだ······。)
手を握ったりハグはしたりしてるけど、こうして顔を直接触るのは何気に初めてで感動してる。その肌触りの良さに。
指を頬から唇へと滑らせて触る。
ここからいつもの、優しく居心地の良い声がするんだよね。そして私に幸せを、安らぎを与えてくれるの。
(ヤバ······。どうにかなっちゃいそう······。寝なくちゃ···。)
眠くなってきたから寝る前に······と、顔を見たのがマズかった。
そしてやり過ぎた。
手を退かそうと動いたらギュッとこのはちゃんが力を込めて······。
「!!!??」
私の頭はオーバーヒートを起こした······。
ーーーーーーー
「··········。」
「······おはよう♪茜ちゃん。」
「あ···お、おはよう···このはちゃん。」
目が覚めて開けたら眼の前に、このはちゃんの顔があった。
一瞬あれ?って思って返事が遅れたけど、なんとか返せたよ。
そうだ、そうだった。
一緒に寝たんだった······。
朝は弱くはない。寧ろ普通に起きられる方だけど、頭の回転という意味ではやはり動きは鈍いよね。
それでも目が覚めたから、あと数分もすれば普通になるけれど。
「ねぇ···このはちゃん。今日の雪ちゃんのお迎えって何時なの?」
気になってる事を聞いてみた。
少なくとも今ここにこのはちゃんがいるという事は、雪ちゃんは無事にお泊りが出来たという事だろうからね。
「えっとね、10時にお迎えだよ。だから9時半には出たいとおもってる。」
「9時半か······。今、何時なんだろ?」
「6時4分だよ。もう少し寝てたい?」
「······うん。出来たら7時前くらいまででいいかな?」
「いいよ。私もこうしててあげるから、ゆっくりしてて。」
「ありがと···。」
私はまた甘える事にした。
正直に言うとあと少し、ほんの少しで良いからこの温もりから離れたくなかったんだ。
エアコンが効いてるから室内は涼しい。
このはちゃんと一緒に寝るのを考えて、いつもよりは少し低めの設定にしたんだよね。
それがよかったのか、こうしてくっついていても暑く感じることはなく、むしろ丁度よかったし。
それに寝ちゃうと気持ち良すぎて、時間があっという間に過ぎちゃうんだよ。
たから起きた状態でゆっくりとした時間を過ごしたかったんだ。
「このはちゃん。私の寝顔を見た?」
「うん。バッチリね!可愛かったから何も心配することはないよ。」
「良かった···。」
「あれ?照れないんだね??いつもなら照れるのに······。」
ご尤もな疑問だね。
「私もこのはちゃんの寝顔を見れたからね。だからお相子♪」
「そっか。」
きっとこれも、このはちゃんは分かってるんだろうな。
お相子と言ったのが本当は違う事に。
本当はお互いに裸を見て身体を洗われて拭かれて、そっちのインパクトに比べたら寝顔を見られたのは今更大した事はないんだ。
あっちの方がうんと恥ずかしかったからね。
それにこのはちゃんはこういう事で嘘はつかないから、『可愛かった。心配ない』と言えばそうなんだと安心できるのもあるんだよね。
「怒らないの?夜中に目が覚めてこっそり見たのに??」
「え?どこに怒る要素があるの?一緒にこうして過ごした時点で、それだけ私は茜ちゃんに心を許してるんだよ。茜ちゃんは心配し過ぎ。でもそこもまた、茜ちゃんの素敵な所だと私は思うけどね。」
「う······。」
折角頑張って抑えたのに、結局照れさせられてしまった。
ほんと、敵わないなぁ〜。
「で、どうだった?私の寝顔は??」
「このはちゃんの寝顔······見惚れちゃうくらい素敵でよか··った····!!!??」
(あ···あぁ·····ぁああぁあ······!)
「?? どうしたの?」
「ちょ···ちょちょ···お手洗い行ってくる!!」
バタン!
私は慌ててて部屋を飛び出し、廊下に出た。
「ヤバい、ヤバイよ······。どうしよう···思い出しちゃった······。」
朝日の入ってくる廊下で1人身もだえる。
顔を押さえて身体はクネクネ。他人が見たら絶対に変な人に思われるね。
そして鏡があったら間違いなく、私の顔は真っ赤になってるだろうなと思う。
取り敢えずトイレに入って落ち着く事にしたけど、どうにもならなかった。
長く部屋を空けると変に思われるから戻らないとだけど、このはちゃんを見る自信がないよ······。
ガチャ···
取り敢えず変に思われるのもイヤなので部屋に戻った。
まぁ···たぶん既に変に思われてるだろうけど···。
「あ、おかえり。」
「う···うん······。」
このはちゃんは私が慌てて出ていったベットを整えて待っててくれた。
ヤバ···やっぱり顔が見れない·····。
このはちゃんの言葉に返事を返すのが精一杯で、そのまま近づいて抱きついた。
そして勢いそのままに押して横になる。
そしてその胸に顔を埋める。
深呼吸で香りと柔らかさと温もりで癒やされる。
パサッとこのはちゃんが、タオルケットをかけてくれた。
「どうしたの?急に変だよ?」
このはちゃんが心配してくれてる。どうしよっか?
このまま落ち着いてから『何でもないよ。』と言う方法もあるけど、こんな状態を晒しといて『何でもないよ』は無理があるよね。
それに上手く誤魔化したとしても、鋭いこのはちゃんの事だから絶対に分かってしまうと思う。
それに···。
私はこのはちゃんに隠し事はしないと決めたからね。
だからやっぱり伝える。
それが1番スッキリしていいと思うんだ。
例え嫌われても······。
「あのね、このはちゃん。このままで聞いて。」
「うん。いいよ。」
優しい声。癒やされる。
そして頭を撫でてくれてる。
「さっきね、このはちゃんの寝顔の話で私、思い出したの······。」
「あ···やっぱり私、変だった?」
「違う違う。惚れ惚れするほど良かったよって、そうじゃないの。私、このはちゃんに···その···キスしちゃった······。ゴメンナサイ····。」
とうとう言ってしまった······。




