ある日の夏休み①-4 20歳高2
ーー 茜ちゃん 視点 ーー
「凄いね、茜ちゃん。こんなに沢山······。」
「そんな事ないよ?寧ろこっちの都合で献立を作ったから、苦手なのがあったらゴメンね。」
このはちゃんがテーブルの上に並べられた、私も作ったおかずの品々を見ながら驚いたような感想をくれた。
それに対して私は、こちらの都合でご飯の品を作ってしまった事にお詫びを入れたんだ。
今回晩ご飯をご馳走するにあたって、このはちゃんの食べられない物を私はこのはちゃんに尋ねたんだ。
そしたらアレルギー的な物はないという回答を頂いて、正直ホッとしたんだよね。
だってこれがあった場合は、何に対してアレルギーかによって作るものがかなり制限されてしまうから。
小麦とか卵とか他にも色々とあるけれど、特にその2つだと作れる物もかなり変わってくるからね。
で、アレルギーが無いという事で何を作るかな?となった訳だけども、ここで私はここ最近の我が家のご飯事情を入れてしまったんだ。
我が家のご飯はこのはちゃんにも話したけど、私が作ってる。
お父さんは作れないし、作る時間もないからね。
で、ここ1週間くらいの我が家のご飯は洋・中華風な感じの物が続いてたんだ。
なのでこの辺りで和風系のご飯にしたくなってしまったんだ。
アレルギーの他になにか食べたいのがある?って尋ねればよかったのに、それをしないで私が食べたくなってしまった物系で選んでしまったから、このはちゃんに謝った訳です。
「じゃ、冷めないうちに頂きましょう。鈴宮さんもね。」
「はい。茜ちゃん、頂きます。」
「頂きます。」
「はい、どうぞ。お口に合えばいいんだけど······。」
ダイニングテーブルを挟んで私とお父さんは向かい合わせになる感じで座る。
これはいつもの我が家のご飯の時の光景。
そして今夜限定で私の隣にこのはちゃんが座ってるんだ。
そんなこのはちゃんを私はじ〜〜っと見つめている。
その心境はドッキドキである。
もう心臓の鼓動がドッキンドッキンって、体育祭の代表として出場したあの時よりも緊張してるのが分かるの。
その理由は私の作った晩ごはんが、このはちゃんのお口に合うかどうかという事······。
美味しいよ♪って言われたいけど、美味しくないって言われたらどうしようって、そんな事ばかりさっきから考えてしまってる。
このはちゃんは優しいから、そんな事は絶対に言わない事は分かってはいるけど、内心では思うかもしれないじゃん?
このはちゃんが最初にお味噌汁の入ったお椀をを手に取った。
お椀を口に運んで一口飲んで、今度は具を食べてまた一口飲んで。
ドキドキ······。
(どうなんだろう·····。お口にあったかな?)
お椀をテーブルに置くと、私の方を向いてニコって笑ってくれた。
「茜ちゃん······。とっても美味しいよ♪出汁も丁度よい感じに入っててお味噌も濃すぎもせず薄すぎもせず······私、このお味噌汁凄く好き。」
「ほんと!? やったー♪」
お父さんが目の前にいるのも忘れて、いつもの様に喜んでしまった。
そのくらい兎に角、嬉しかった。
お姉ちゃんが家を出る予定と何となく分かってきた6年生頃からお姉ちゃんに教わり始めて、中学生になってから本格的に1人で作るようになった。
その頑張ってきた今までの行いが報われた瞬間だった······。
「ほらほら。泣かないの······。また全くもう···。」
「だってだって······このはちゃんが···おいじいって言ってぐれたんだもん···。嬉しいに決まってるよぉ〜······。」
このはちゃんが時前のハンカチで、私の涙を拭いてくれてる。
そういうさり気無い優しさも好きなんだよー······。
「出汁もね、顆粒だけど少しは入れるようにしてるんだ。その方がやっぱり美味しいから······。」
「それで十分だと思うよ。私も顆粒出汁を使うし。まぁ、使う味噌とか具材によって味は変わるから、出汁を使う使わないもまたその都度変わったりもするしね。料理って奥が深いと思うよね。」
「うん。」
ちょっと落ち着いてきて、このはちゃんと味噌汁と出汁についての話をした。
この辺りは私もそうだねって共感できる部分があったから、すごく為になったよ。
「ねぇ、このはちゃん。他も色々と作ったから食べて?そして感想を聞かせて欲しいな??」
「うん。分かったよ。でも······茜ちゃんも一緒に食べようね?私の反応が気になるのは分かるけどさ、折角作ってくれたご飯が冷めちゃうのは勿体ないからね。」
「はーい。今度はちゃんと食べるよ。」
「ふふ。ならよし······だね。では、改めて頂きます。」
「頂きます。」
改めて『頂きます。』をして、今度は私も食べ始めます。
和系のご飯の場合は、私もお味噌汁から頂くんだよね。理由はよく分かってはないけれど、それがルーティーンになってるみたいでさ。
今夜の晩御飯は久々の和食系にしたんだよね。
ご飯と大根と油揚げのお味噌汁。
美味しそうなアジが売ってたので、お店で内蔵を取ってもらって切れ目を入れて塩を振って塩焼き。
この時に塩で余分な水分や臭みを取るという一手間を加えると、更に美味しくなるんだよね。
あとは野菜炒めとポテトサラダ。
おかずなんかは余ってもアレンジがきくラインナップにしたんだ。
「お魚もいい塩加減でふんわりと焼けてるから美味しいね。これ、焼く前に塩を振って暫く置いといたりした?」
「うん。そうすると余計な水分が抜けたりもするし、臭みもとれるから······。」
「やっぱりね······。よく勉強してるね、茜ちゃん。」
「いやー······それほどでもないよ? えへへへへ♡」
ちょっとした美味しくする手間だけど、それをこのはちゃんがまた褒めてくれた。
嬉しいなー♪
「私は料理は分からないけど、鈴宮さんも料理はするのかな?」
「ええ。私もかれこれ6年ちょっとは家のご飯を担当してますね。」
「6年って······それはまた随分と長い期間だけど、何か家庭の事情かな?あ、ああ···話難ければ別にいいんたけど······。」
私達の会話を静かに聞いてたお父さんが、このはちゃんに尋ねてた。
今までの会話のやり取りを聞いてれば、このはちゃんも料理はするしそれなりの技術や知識があるらしいというのは、分かるもんね。
「家庭······というより、私自身の都合とかそういうのですね。私が料理とかを覚えたくてお母さんに教わるようになって、出来るようになってからはずっと晩ごはん作りを担当してるんです。」
「ほうほう······。それは非常に素敵な事だし、褒められる物だね。うちは娘がやらざるを得ない環境になって苦労をかけてしまってるけど、自ら進んで学ぶ、やりたいって言うのは良いことだし。親御さんもそれは嬉しいだろうね。」
お父さんがこのはちゃんをべた褒めしてる。
それを聞いてる私も自分の事のように嬉しくなってる。
「お父さん。このはちゃんは凄いんだよ。料理も家事も出来るしその上、勉強だって学年1位なんだからね!」
箸を動かしながら、私はこのはちゃんの凄さをお父さんに教えていく。
家事や勉強以外にも性格的な事とかみんなに好かれてるとか、勉強を私達に教えてくれてるとか。
とにかく私の知りうる限りの、このはちゃんの素敵な所をね。
このはちゃんが若干苦笑いしてるけど、こうなってしまった私は止まらない······。
「お陰で私も成績が上がったからねー。このはちゃんには本当に感謝しかないんだよ♪」
「それは茜ちゃんが一生懸命頑張った結果でしょ?私だけの力じゃないよ。でも、ありがとね。そう言ってくれると嬉しいよ。」
「ううん。、こっちこそ、いつもありがとうだよ。」
こんなのも、いつものやりとり。
でもそれもまた嬉しくて幸せなんだよね。
「野菜炒めも美味しいな〜♪塩コショウの加減が私好みで·····。ほんと、今まで頑張って来たんだね。」
「うん······。お父さんが外で頑張って来てくれてるからね。お家では私が頑張らないとさ。」
このはちゃんが褒めてくれた野菜炒め。
本日はお肉にキャベツと人参、ピーマンともやしを入れてあるの。
味付けは私の場合は、塩コショウに少々のダシを入れて。
ちなみにこれは、安くてお財布に優しいもやしを一袋入れているから作ると結構な量になるんだよね。
余る前提で作ってあるから、明日はこれを使って焼きそばにしてしまう予定です。
「素敵な娘さんですね。お父さん。」
「そうだね······。私にはもう1人家を出た長女がいるんだけど、その子に変わって家のことをやってくれる、私には勿体ないよく出来た娘だよ······。」
「お父さん······。」
「でも、そんな娘を変えてくれたのは、鈴宮さんのおかげかな?」
「私······ですか?」
「今までも茜は家の事をよくやってくれた。でも、それとは別にどことなく静かで寂しそうで······。理由は分かってはいるんだけども、私にはどうすることも出来なくてね。それが高校に入って特にここ半年位からは表情も明るくなって毎日ニコニコするようになって······。」
「··········。」
「何かいい出来事や出会いでも会ったのかな?とは思ったけど、年頃の子だし聞くに聞けなくてね。でも、今確信したよ。それは鈴宮さんだったんだね。娘を変えてくれてありがとう。」
「いえ···そんな事はないですよ。」
お父さんがこのはちゃんに頭を下げてお礼を伝えてる。
このはちゃんも突然の事であたふたとしてるけど、そんな光景を私はほけ〜って眺めちゃってる······。
「これからも友達として茜と仲良くしてくれると、茜の父として非常に嬉しく思います。ご承知だとは思いますが、我が家は妻を早くに亡くし長女も近場とはいえ家を出た身で、茜には寂しい思いをさせてしまってるので······。」
「大丈夫ですよ。私にとって茜ちゃんは友達以上に大切な子なんで、これからも······それこそ高校を卒業してもずっと仲良くしていきたいと思ってますから! それに家も近場ですから、茜ちゃんが遠くへお嫁さんに行かない限りは頻繁に会えますからね。ね?茜ちゃん??」
「うえぇっ!?」
何をいきなり言うのさ!このはちゃんは!?
高校を卒業してもって言うのは私もそういたいし嬉しく思うけどさ、お嫁さんとか遠くへとかって······そんなの分からないよー·····。
顔が赤くなって、気恥ずかしくてご飯をパクパクと食べる。
「あはははは······。照れてる照れてる♪でもそういう所も茜ちゃんは可愛いよ♡」
「うんうん······。こういう姿が見れる様になっただけでも、父さんも大満足さ! 鈴宮さん。改めて娘を、茜を宜しくお願いします。」
「はい。お任せ下さい。」
私を無視して勝手に仲良く(?)なる、お父さんとこのはちゃん。
でも、私のお父さんと初めて会うという目的には大成功なんじゃないかなと思う。
女の子という同性だから、男の子を連れて来るよりはハードルは軽いとは思ってたけど、ここまで上手く行くとは思ってもみなかったからね。
ちなみにだけど、お姉ちゃんが男の人を紹介で家に連れて来た時は、今みたいな感じではなかった。
当日まだ小学生で小さかった私だけど紹介がてらその場に同席したんだけどさ、お父さんの雰囲気が上手くは言えないけど、ちょっと機嫌悪いというか何と言うか······。
小さいながら居心地悪いな〜って感じたんだよね。
そういうのを経験したから、今日の結果には大満足だよ。
まぁ、私の心臓にダメージをくらったのもあったけどね·····。
「それにしても······残念だったなー。」
「何が残念なの?お父さん??」
「???」
「いやな······。これで鈴宮さんが男の子だったら、茜をお嫁にあげてもいいと思えたのになーと思ったんだけどな。女の子だからそれは叶わんし······。いやはや残念···。」
ブボッ!!
げほげほげほ·······。
「ちょっ·····茜ちゃん!?大丈夫???」
このはちゃんがティッシュを差し出してくれて、背中を擦ってくる。
けほけほ······。
「う···うん······。あり··がとう····。ごめんね。」
このはちゃんにお礼を伝えて、落ち着くのを待つ。
全く何をいきなり言うのさ!このお父さんは!!
「ちょっと、お父さん!? いきなり変な事を言わないでくれる!? このはちゃんに失礼でしょ!!」
「そ、そうだね。鈴宮さん。突然失礼なことを言って申し訳なかっです。すみませんでした。」
「いえいえ。そんな事はないですから、大丈夫ですよ。それにそれだけ私の事を良く思って頂けるのでしたら、私としても嬉しいですしね♪」
「···は、はい·····。」
お父さんの突然の失礼な発言にも動じる事なく対処していくこのはちゃん。
咽た私の世話もしてくれたし、ホント凄いな······。
それに最後は、このはちゃんのあの必殺の笑みが出てたしさ。
その笑みを見たお父さんが、いい年して見惚れてるよ······。
駄目だよ!お父さん!!
このはちゃんのあの笑みは、今は···今夜限りは私の物なんだからね!
まぁでも、一回だけは許してあげる。
このはちゃんの事を気に入ってくれたからね。
「でも···これは茜ちゃんにも言ったんですけど、私達は同性同士だったから良かったんですよ。異性だった出会いそのものがそもそも無かったですからね。」
「そうだね。だから私は今のこれで大満足してるよ、このはちゃん♪」
んふふふ♪
確かに私もお父さんと同じ様に、このはちゃんが男の子だったらなって思ったよ。
それで彼氏彼女の関係になれたら、どんなに良かっただろうって。
でもそれは、このはちゃんが話してくれた様に出会いそのものが無かっただろうし、そもそもそのこのはちゃんは今のこのはちゃんとは別のこのはちゃんだろうからね。
何を言ってるのか難しいけど、要は今の優しいこのはちゃんが私は好きなんだ。
同性だから気軽に触れ合えるし、甘えられるから。
「よかったね。茜。」
「うん!」




