ある日の出来事④-2 20歳高2(挿絵有り)
「このはちゃん······大丈夫かな?」
「何が?」
「この状況······。何か言われるかなー?って思ってさ······。」
「ん〜···まぁ、最初は驚かれて騒がれると思うよ?でも大丈夫だよ。それはいつもの事だし、直ぐにみんなも慣れるからね。それに私が守ってあげるから安心して?」
「うん。」
「それに······ないとは思うけど、もし陰で何か言われるようなら直ぐに私に伝えてね?対処するから。」
「うん。重ね重ねありがとうね、このはちゃん。」
私達は今、昇降口で上履きに履き替えてる最中です。
そしてここから5階にある教室まで上がらないと行けないんだけど、相変わらずみんなからの不満は大きい。
私は多少の運動にもなるから、気にはしてないけどね。
因みに隣にいる茜ちゃんも、然程気にはしていない模様です。
まぁ彼女は運動が好きだからね、このくらいは大した事はないんでしょう。
そんな茜ちゃん。
上履きを履いてからはいつもの手繋ぎになったんだけど、何かを心配してる模様なんだよね。
『この状況』と言った、言葉の意味するもの。
それはこの手繋ぎではないよ。
これは私達にとって学校内ではもう普通の事だからさ。
茜ちゃんは勿論、クラスのみんなも代わり番こで手を繋いだりしてるから、今更何かを言われることはないのです。
では他に何が?となると、それは一緒に登校したという事に対してなんだ。
今更だけど私は1人で登校して、ほぼ最後に教室に入る。
だから当然茜ちゃんは私より先に登校して来てるんたけど、それが今日は一緒で。
たまたまそこで出合って教室に来たと言えば、みんなもそれで納得はするだろうけど、今後もとなるとその説明では無理があるからね。
だから言うつもりではいるけど、その時のみんなの反応に危惧してるみたいなんだよね。
だけど、大丈夫。
先程茜ちゃんにも言ったけど、最初は驚かれるし騒がしくはなる。
もうこれはある意味私達のクラスの名物的なものになってるし、私が原因なのも理解はしてる。
それにみんな良い子だから、理解もしてくれるよ。
そもそも家の位置なんてどうにもならない事だし、それに今回の登校は私が誘ったという事にするつもりだから。
だから茜ちゃんが、何かを言われるような心配はないと思う。
でももし何かを言われるようなら、私も茜ちゃんを全力で守るつもりでいるからね!
「じゃ、いくよ?」
「うん。」
教室の扉の前で確認をする。
私は至って普通だけど、茜ちゃんはやっぱり緊張してるね。
大丈夫なんだからと言い聞かせてはきたけど、やはり完全にはムリだったかな?
(大丈夫。守るからね。)
今一度そう思い、扉を開ける。
ガラガラガラ······
「おはよー♪」
「「「「おっはよ〜〜♪」」」」
「「このはちゃん、おはよー!」」
「「「おはよう〜、鈴宮さん!」」」
私がいつも通りに教室に入ります。
そして一斉に返事を返してくれるクラスメイト達。
いつもと同じ、変わらない朝の光景です。
そして······今朝はここにもう1つ加わります。
「···お、おはよう〜。」
「おはよーって···あかね?」
「おっはよ〜······あれ?珍しいね。茜が遅いなんて?」
「どうしたのさ?寝坊でもしたの?珍しい······。」
みんなが口々に珍しがってるけど、それは分かるな。
私も今回の事を知らなければ、みんなと同じ反応をしてたと思うから。
そのくらい茜ちゃんは、朝はきちんと来てるからね。遅刻はまずしないし、あるとすれば風邪とかで休むくらいだからさ。
「あのね、茜ちゃんとは今日から一緒に登校する事になったんだよ。だからこれからは、私と一緒に来る事が多くなるかな。」
「あれ、そうなんだ?」
「意外だねー?どうしたの?」
みんなが珍しがって疑問に感じてる所に、早速私は答えを出したんだ。
でも意外とみんなの反応は普通だったんだよね。
あれ······?おかしいな??
もっと『えぇーー!!』とかって反応が来るかと思ってたけどな······。
「茜ちゃんの家と学校までの間に、私の家があるのが分かってさ、じゃあ折角だし一緒に行こうって誘ったんだよ。」
「「「あぁ!なるほど!!」」」
「私らでもあったよねー。中学の時とかさ。」
「あったあった!家まで行くか、途中で合流かの違いはあったけどね。」
「そうだったんだ。こういうのってみんなも経験済みなんだね。」
なるほどね〜。それでこれといって反応がなかった訳なんだね。
私も中学校を1年間通ってた時は自転車だったけど、誰かと待ち合わせしたとかそういうのはなかったからね。
ただ通う道すがら他の同級生と会って挨拶をしつつ、そのまま行くというはあったけど。
「じゃあ、よかったね〜茜。朝からこのはちゃんと一緒なら、朝の憂鬱がなくなるね?寧ろ毎朝が楽しみか?」
「やだ〜〜···、美紅ったら〜。そんなことないよぉ〜······。」
美紅ちゃんが茜ちゃんをからかい半分でいじって、それに照れてる茜ちゃん。
うん。これなら特に問題はなさそうだね。
みんなの様子を見て、そう感じた私だった。
ーー志保ちゃん 視点ーー
「「「「「············」」」」」
これは何だろうか??
突然のありえない光景を見た、私を含むクラス皆が固まっている。
中には手に持ったパンやおにぎりといった物を、ポロリと落としている子もいるくらいだし······。
今までこんな事はなかった。
殆どメンバーが変わることなく進級した、私達2年3組。
特に女子に至っては誰一人として変わらず、同じクラスになれたのは非常に嬉しい事だったけど······。
それが今日の今。
一体何が起きた!??
――数分前――
キーンコーンカーンコーン······。
4時間目の授業の終わりをお知らせしてくれるベル音。
と、同時にみんなのお待ちかねのお昼休みの開始を意味するベル音でもあるんだよね。
そしてざわざわとしてくる教室内。
先程まで授業をしてくれてた先生も、そんな雰囲気を感じ取ってか授業を早めに切り上げてくれたんだよね。
もしくは先生自身も早くお昼休みに入りたかっただけなのかもしれないけど······。
そして私達は集まる。このはちゃんのいる席を中心として。
近場にいる女子はそのままで、やや遠い席の子はこのはちゃん近くの男子の席をかりて座り、代わりに男子には私達の席を貸すというシステムなんだ。
これをもう半年近くやってきてるから、もう特に言わなくても動いていくれるから楽チンだよね。
皆が揃ったところで食べ始めます。
この時期以降は、あまりお弁当を持参って子は少ないと思う。
食中毒が怖いからっていうのが1番の理由なんだけどね。
勿論保冷剤を使うとかやり方は色々とあるけれど、そういうのをするとまた荷物にもなるから、皆やりたがらないみたい。
なので食べるのは専らパンだったりおにぎりだったりとか、傷まなさそうな物とか荷物にならなさそうな物を持ってきてるよね。
「そう言えばさー·······。」
「ん?どしたん?」
「高橋先生のハンバーガー、いつ食べられるんだろうね?」
「あ〜······そうだねぇ····いつだろ?先生のお財布事情次第って所じゃないかな??」
「やっぱそうなるか······。 先生もまさか優勝するとは思ってもなかっただろうから······。」
そんな話をするのは、先日の体育祭に際して高橋先生が言った言葉。
『優勝したらハンバーガーを奢ってやる』
そんな感じの事を言ったんだよね〜。
何の為に言ったのか。
ただ単にジョークのつもりだったのか、私達のやる気を出す為だったのか······。
結果的に私達は優勝をしてしまった訳だけどね。
バーガー1個は安いけど、私達皆のとなればそれなりの金額もいくだろうから、出す側としては大変だよね。
同情はしないけど!
そんな時だった。事が起きたのは。
「はい、茜ちゃん。あ〜〜ん。」
「あーん」 パクっ。
「美味しい?」
「うん♪普通の市販のパンの筈なのに、不思議と美味しいね。」
「「「「「············」」」」」
何!?何が起きたの!!?
このはちゃんがいきなり茜ちゃんに禁断の『あーん』をやったんですけど!?
しかも、茜ちゃんもそれを顔を赤くして食べてるし······。
「じゃ、このはちゃんも······はい、あ〜ん?」
「はい。」 パクっ。
もぐもぐ···「うん、美味しねー♪」
「「「「「···········」」」」」
今度はさっきの逆で、茜ちゃんがこのはちゃんにやってあげてる。
なにコレ?
一体何がおきたの!?
あまりの光景に混乱し、固まる私達一堂。
「ちょ···ちょっと、ちょっとお!? 何やってるのよ!?茜にこのはちゃんは!!!」
「え!?」
「そうだよ!『あーん』だなんて、恋人同士でやるものじゃい!?」
「恋人同士でって······そんなぁ〜♡」
「そこ!照れる所が違うしっ!!」
「ねぇねぇ!私にもやって〜♡」
1番に復活したのは美紅ちゃんで、茜ちゃんとこのはちゃんに突っ込んでた。
それで茜ちゃんと漫才みたいなやり取りを始めたり、皆は皆で口々に言いたい事をいい放題だよ。
主に「私にもやって〜」って声が多いけどさ。
なんなんだろう?このカオス具合は······。
「はいはーい!皆、落ち着いて〜〜。」
私は気合を入れ直して、皆を落ち着かせる事にした。
普段こういうのはこのはちゃんがやってたりしてるけど、今回は元凶の1人だから駄目だ。
私がしっかりしないと!!
「皆、落ち着いたかな?」
改めて問いかけて確認してみると、なんとか落ち着いたみたいだね。
全く、とんでもないお昼休みだよ······。
そんな想いを抱きながら、やることをやらねば!!
さあ!尋問の開始だーー!!
「で、このはちゃん。これは一体どういう事なのかしら??」
私は腕を組んで犯人を問い詰める刑事の様な真似をして、このはちゃんに問い詰める。
冷静に考えると私ってこんな事をやる子じゃないのに、なんかテンションが変だって感じる······。
「私って雪ちゃんがいるでしょ?小さい時、この場合は離乳食とかそういう時期から『あーん』ってご飯を食べさせてたんだけど、そのノリでというか癖というか、ついやっちゃったんだよね? いや〜ごめんごめん!」
このはちゃんが手を合わせて、ごめんねって謝ってる。
「いや、まぁ······そういうのなら仕方ないかな···? にしても、離乳食かぁ〜。リアルだねぇ······。」
「だよね〜。高校生ママさんだもんねー。」
「このはちゃん見てると、私もいつかは子供欲しいなって思うよ······。」
「あー、それなぁ···。」
結局このはちゃんの説明を、すんなりと受け入れた我が面々。
なんの疑問も持ってないみたいだけど、このはちゃんだとそんなものなのかな?と思ってしまえるのだから、凄いというか不思議というか······。
「で?茜ちゃんは、またどうして??」
もう一人の元凶の茜ちゃんにも聞いてみた。
「え?私?? うーん······『あーん』って、されたら食べる物でしょ?だからかな?」
「うん···まぁ······それはそうなんだけど、恥ずかしいなら断ってもいいんだよ?」
「えぇ〜〜!?それはヤだよー。それに私がこのはちゃんを好きなのは知ってるでしょ?そんな私が、断る訳ないじゃん!!」
言い切ったよ、この子は。
茜ちゃんがこのはちゃんを好きなのは本人がもう既に語ってはいるけれとど、仮に言ってなかったとしても態度でモロバレしてるんだけどね。
わかり易過ぎるから。
そしてそれは私達は女子のみならず、男子も気付いてるし分かってる周知のことだけど。
それにしても······、何だか茜ちゃん変わったかな?と感じる。
以前はこういう事に関してはモジモジした上で、恐る恐るというかそんな感じで行動したり話したりだとかしてた様な感じがしたけど······。
それが今回見てた限りだと『あーん』に対して、速攻で躊躇なく食べに言ってたよね?
それにさっきの会話。
私の「断ってもいいんだよ?」に対して、「好き」ってハッキリと断言してたし、かなり強気というか敵対心?そんな口調で「断る訳ないじゃん!!」って言ってたからね。
そう考えるとさっき『変わったかな?』と思ったけど、これは間違いなく変わってるね。
そう思える。
何が茜ちゃんをそう変えたのかは分からないけど······。
「はい。そういう事で理由は分かりました。で、このはちゃん?」
「何かな??」
私は聞かなくてはいけない。
皆の代表、代弁者として。
さっき聞いた理由とかそういうのは、どちらかと言うとあまり重要性はなくて、こっちが本命。
だって······こんな光景を見せられたらねぇ·······?
「その『あーん』を私達にも、してくれないかしら?」
「これを?」
「うん。ぶっちゃけ凄く羨ましいの!」
「お願い!このはちゃん!私達にもして!!」
「「「「お願いします!!!」」」」
皆して頭を下げた。
ある程度の差はあれど、私達皆がこのはちゃんを好きなのは間違いないし、ここで断られたら泣く自信はある。
「う〜〜ん···そうだねぇ······。」
顎に手を当てて考え込むこのはちゃん。
このはちゃんって、こういう仕草とかも様になるんだよねーなんて、ちょっと違う事を思ってしまった私。
「じゃあ、月曜日と木曜日でどう? で、食べ物だけどみんなの分となると私のもなくなっちゃうし食べきれないから、みんなのそれぞれのお弁当を私が一品だけ『あーん』してあげる。で、どうかな?」
「······うん、私はそれでもいいよ。」
「私も〜!」
「同じくいいでーす。して貰えるだけでも嬉しいもん!」
そんな感じで落ち着いた、今回のこの騒動。
最初は何が起きたのか分からずパニクったけど、結果的には私達にとっても楽しみが幸せな時間がまた1つ増えた瞬間だった。
とりあえず次回?の第1回目は、明後日かー······。
体調不良とかで学校を休まないようにしなくちゃだね!!
そんな事を思いながら、このはちゃんの虜になってる私達なのだった······。




