ある日の撮影①-2 20歳高2(挿絵有り)
パシャパシャパシャ······
「いいよ〜このはちゃん! 笑顔を出すのが上手になったねー♪その調子〜〜♪」
パシャパシャパシャ!
凄い量のシャッターの切る音と共にフラッシュが光る中、栗田さんが私を褒めながらシャッターを切りまくってます。
着付けをして貰ってから始まった撮影会。
私は浴衣の他に下駄を履いて巾着を持って撮影場所に立つの。
浴衣を着るのが初めてなら下駄を履くのも当然初めてなわけで、これもやはり馴れないよね。
歩くのも普段見たく歩幅を出せるわけでもないので、小さくちょこちょこと歩かないと行けなくて、これで実際のお祭りに行くのは大変だな〜って思っちゃった。
慣れもあるんだろうけど、これなら普段着でお祭りに行った方が色んな意味でいいねって······。
さて、そんな撮影だけども基本は立ち姿で撮ってました。
正面や横姿。後ろ姿を撮ったりでポーズ的には前回より少ないのでその点は楽だったかな?
まぁ、浴衣や着物写真であれこれポーズをしてるのを見たことないような気がしなくもないけどね。
ロングヘアーの状態で一通りの浴衣を着て撮影して。
大変かな〜って思ってたけど、意外とスムーズに撮影が進んでいったのは良かったよね。
栗田さんも言ってたんだけど、私が表情をコントロール出来るようになったのがよかったんだってさ。
笑顔とかそういうのを、すんなりと出せるようになったから。
まぁこれも、私なりの笑顔とかの出し方を覚えたからなんだけどね。
浴衣を脱いで肌着状態になってから、髪の作り直しです。
私は椅子に座りながら新井さんにされるがままなんだけど、この髪の毛を弄って貰ってるのが結構斬新な気分だったりしてるんだ。
私は小さい時は短めな髪の毛だったからお母さんに髪を作ってもらうとかはなかったし、伸ばした後はストレートヘア一択だったからね。
美容院でも基本は毛先をカットくらいだから、今回みたいにやってもらうのは本当に珍しい事。
「このはちゃん、やっぱり綺麗な髪ね〜♪色も素敵だけど、癖もなくさらっさらね! これ······トリートメントとかは何を使ってるの?」
「う〜んと······、これは◯◯◯◯っていうやつですよ。色々と試した結果、このシリーズが1番しっくりと来たんで。」
そんな他愛もない事を話しながら手は進んでいき、そんなに時間もかからずに髪型も完成したよね。
お団子も私一人でも作れるけど、ここまで早くは作れない。
後頭部というのもあって、見にくいしやり辛いのがあるんだけどね。
「はい。おっけー♪これでまた浴衣を着て撮りましょう。そうすれば今日の撮影はおしまいね。」
「はい、了解です。」
荒井さんの合図で立ち上がり、浴衣を再び身に着けます。
さっきも思ったけど、これはやっぱり一人で着るには慣れるまでが大変だね。
綺麗に美しく見せるためには細かい部分の微調整が欠かせないから、これを着ながら又は来た後に調整となると難しいなと。
「新井さん、着付けがお上手ですね。」
「ん?ああ······これ? 学校で勉強したからね。私自身は和装をする機会はほとんどないけど、お仕事として役に立ってるから良かったと思ってるよ。まぁ······何が何処で役に立つかなんて、ほんと分からないものよね。」
私が褒め言葉を述べたら、そう返してくれた新井さん。
話の内容からいくと、勉強はしてても元々はこういう仕事をする予定はなかったって事なのかな?
でも、言ってることはよく分かるなーって思うよ。
私だって今のこの状況や生活がこうなるなんて、中学に入学した時なんて微塵にも思わなかった。
妊娠だって20歳以降に誰かと結婚して出来たらな〜······レベルだもの。
それがまさかの数カ月後に妊娠。
ほんと、何がどうなるかなんて誰にもわからないよ。
ーーーーーーーー
「はーい、このはちゃん。こっち向いて〜!」
パシャパシャ······。
「うん!やっぱり素敵だわー♪和装にうなじって魅力的よねぇ♪」
前々から思ってたけど、栗田さんってテンションが上がると面白いよねって思う。
人が変わるっていうのかそんな感じで、普段言わなさそうな事も口走ってる時もあるからね。
現に、今さっきだってそうだから。
「そんなにいいですか?」
「うん!いいよー♪ 昔から和装にすると髪をアップにしたりするのが多いんだけど、普通の人はどうしても襟足の髪の毛が見えるじゃない?それはそれで人によっては魅力的に見えたりもするんだろうけど、このはちゃんはほぼないというか目立たないじゃない? だから余計に綺麗なうなじが見えて写真映えするのよ!」
「あー······なるほど。私って髪が白いじゃないですか。それと身体の事もあってそういう産毛みたいなのは目立たないですし、あっても細いから余計に目立たないんですよね。ムダ毛的な物が生えてないのもありますけど······。」
「······なんだか聞いてて羨ましいわね、それ。」
パシャパシャパシャ。
時たま会話を挟みつつ、撮って着替えてまた撮っての繰り返し。
「そうでもないですよ?まぁ毛に関しては助かってる部分も大きいんですけど、肌の方は白い分、足とかをぶつけたりして痣を作ると大変なんですよ〜。」
「あ〜···分かるわ······それ。確かにこのはちゃんだと、人一倍苦労しそうよね。私だって痣を作ればそれなりに目立つからね······。」
栗田さんは察してくれたみたい。
そうなんだよね。
私ってば毛に関しては毛根自体が少ないみたいで、あまりムダ毛っていうのが生えてこないだよね。
あったとしても細くて色も髪の毛同様に白いから、目立ちにくいっていうのもあるし。
だから毛に関しては非常に助かってはいるんだけど、逆に痣は大変なんだ。
肌が白いだけに普通の人より凄く目立つからさ。
程度にもよるけど、あの赤くなってからの紫色。下手に足にでも作ろうもんなら、スカートを履くのを躊躇したくなるくらいだもん。
でも制服を着ないといけないから、そこは避けて通れないしね。
冬はタイツとかで誤魔化せても、さすがに夏場はねぇ······。
たから普段の生活、家でも学校でもぶつけないようにかなり気を使ってる。
特に学校の教室。
教室の中の机の間を通る時なんて特に。
私もだけど、みんなも机の脇に鞄をぶら下げてたりするから歩くのには狭いんだよね。
だから机の角とかにぶつけない様に気を付けて、あとは体育とかも。
いい面もあれば苦労もそれなりにあるから、この身体・特徴もどっこいどっこいだよね。
ーーーーーーーー
「お疲れ様でした。このはちゃん。」
「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございました。あ、頂きます。」
「はい。どうぞ。」
私は今、撮影を無事に終えて着替えた後に栗田さんと新井さんを交えてお茶をしてます。
お茶をしながら思う。
やはり着慣れた下着に洋服、これが1番いいなと。動きやすいのもあるし、身体も締め付けられるとかもないので楽なんだ。
逆に今回の浴衣は胸もキツイし、動くのも不便だなって感じたよ。
勿論それには慣れの問題もあるんだろうけどね。
そう思うと昔の女性はこういった和装で毎日を過ごしてたんだから、ある意味凄いなって思っちゃった。
「このはちゃん。今回の写真も見てみる?」
「あ、いいんですか?」
「うん。どのみちコピーもとるし、私も確認はするからね。じゃ、早速見ていきましょ!」
お茶をしながら談笑をしてる中で、新井さんが嬉しい申し出をしてくれたんだよね。
私としても凄く気にはしてたから、この申し出はとても嬉しいです。
早速パソコンに繋げて、写真を順に表示していく栗田さん。
「最初はロングヘアーの方ね。······うん!これはこれでとっても素敵ね!浴衣も色んなデザインや色があってさ、このはちゃんだと赤系の色がいいかな?って思ってたけど当たりね!!」
「そうですね〜。私もベースが白い浴衣なんかは見たことありますけど、それだと髪や肌色と被りますしね。あ! 私、このピンクの色のコレいいな〜。」
「うん、これ可愛いね。笑顔も優しい感じが出てて癒やされるって感じがするわ。」
「そうですね。私もそんな感じがします。」
私が見始めてから、気に入ったのが1つあったんだ。
それはピンク色の浴衣を着た写真だったんだけど、何だか惹かれたんだよね。
自分で自分の写真で?って思われるかもしれないけどさ······。
「じゃあ、このはちゃん。これスマホに送ってあげるから持って帰っていいよ。」
「いいんですか?ありがとうございます♪」
「データーだしね。1つ2つくらい全然大丈夫よ。それより背景が後々加工できる様に白だから······何が合成してもっと素敵にしてみましょう!」
「では、それは私がやっときますので、栗田さんとこのはちゃんは続きを見ててください。」
「ありがとう。助かるわ。」
新井さんが何やらやってくれるというので、私は栗田さんと続きを見ることにしました。
先ほども栗田さんが言ってたけど、今回は赤やピンク系の浴衣がメイン。
いや、寧ろそれしかなかったかな。
そして正面や横、後ろ姿をなど基本は立ち姿メインで撮った写真が続き、その後に髪の毛をお団子にした状態での色んな角度から撮った写真が続いた。
いくつか見ていって今度は団子ヘアーの姿。
これも浴衣は先程のと変わらないのに、髪型1つ違うだけでかなり印象がち違ったよね。
「撮影してて感じてたけど、ロングヘアーも良かったけどお団子ヘアーもまた違っていいわね。」
「そうですね。髪型が違うだけでこうも変わるとは思いませんでした。」
「和装と、こういう髪型は昔からある組み合わせだから、やはりそれなりの理由があるってことよね。」
うん。
栗田さんのいう事、納得出来るだけのものがあるから分かるよ。
私も着物とかの和装は髪をアップにしてるイメージが強いからさ、やはりそれなりの支持される理由があるんだろうなってね。
「このはちゃん?」
「はい。なんでしょう?」
「今日浴衣を着てみて、振り袖の時の髪型とか少しイメージ出来た?」
「そうですね······。この前までは漠然としたイメージしかなかったですけど、これを期に少し出来ましたね。こういうのも悪くないなと。」
「そっか。それは良かった。正直に言うと、私も新井さんも悩んでるのよ。ストレートも勿論素敵だけど今回みたいにアップもいいし。アップもアップで見せ方は沢山あるし飾りの事もあるから悩んじゃって······。」
そっか〜。
栗田さん達、こんな早い時期から私の成人式の前撮りの事を考えてくれてるんだね。
前撮りについては語らなかったけど、ウェディングドレスの写真をお父さん達に見せた後日に、お母さんを連れて栗田さんのお店に行ったんだ。
そこで話をして正式にお願いをした。前撮りと当日の衣装の着付けを。
メインの振り袖は何とか決めたけど、髪型が中々イメージ出来なくってさ、カタログでモデルさんのは沢山あったからそれを見たりはしたんたけど、これがなかなかねぇ······。
で、見かねてこっちは「急ぐものではないから、じっくり考えてね?」って、栗田さんが言ってくれたんだよね。
「今日の撮影を通して、アップでもいいかな?って感じましたね。ほら、普段はロングヘアーがメインですら、こういう時はまた違った髪型っていうのも新鮮でいいかな?って······。」
「そうね。成人式は1回きりだし、こういった着物もそうそう着る機会は少ないからね。思い切って違う自分になるのも悪くないと私は思うわ。」
そうだね。
1回きりの成人式に和装。
プロの方にじっくりと髪型を作って貰う機会もそうそうないから、普段と違う自分っていうのもいいのかもしれない。
いろいろと為になる撮影だったなと思う私だった。
「あ!これとコレも良いわねー。実際にどれが採用されるかは分からないけど、でも間違いなく採用されるでしょう。」
アレコレと順に写真を見ていって、栗田さんのテンションがまた上がってるのを感じる。
自分で言うのもあれだけど、私自身も悪くはないと思ってはいるこの写真。
「そういえば、今回のコレはどこに掲載予定なんですか?」
以前のドレスは物が物だけに、掲載先は分かりやすかった。
ブライダル系の雑誌というと、真っ先に思い浮かぶのはあの雑誌で実際の掲載先もあの雑誌だったから。
でも、これは分からない。
ファッション系の雑誌というのは当たってたとしても、いくつか雑誌はあるからね。
私はどれも読んだことはないけど······。
「一応、◯◯◯◯◯っていう雑誌の7月号って聞いてるわ。」
「◯◯◯◯◯の7月号ですね?分かりました。」
メモをしとくのを忘れない。
掲載されるかは分からないけど、クラスのみんなに教えないといけないからさ。
前の時の雑誌が出た後に、みんなから「次があったら掲載先を教えてね!」って言われてるんだよ。
なんでも事前に予約でもいれて、買う気みたいでさ。
あの雑誌だって結局買えなかった子もいたみたいで、その子達はかなり凹んでたからねぇ。
「雑誌といえば······前のブライダルのあれ、完売したらしいわよ?」
「そんなんですか?それは良かったですね。」
うん。
完売できたなら、それはそれで良かったよねって思う。
今は雑誌なんかもネットに押されてあまり売れないと聞くし、そもそもの印刷部数も少ないと聞いた覚えがある。
そんな状況下で完売なら凄いよね。
「良かったですねって······そんな簡単な話じゃないのよ?このはちゃん?」
「え? そう···なんですか??」
「うん。そもそもブライダル雑誌なんて、そんなに売れる物じゃないのよ。名前の通り購買層が限定されてるから。 結婚を考えてるカップルだとか、その手の業界の人とか······。それが完売なんてしたもんだから出版社もかなり驚いてるのよ。それに、表紙を含めてこのはちゃんがかなり掲載されてたでしょ?あの女性は誰だ!?って、一部で騒いでるらしくて······。」
それは···中々凄い事になってるみたいだね······。
「一部じゃ100年に一度レベルの逸材だ!なんて言われてるらしいけど、このはちゃんは心配しなくても大丈夫よ。仮に私のとこに問い合わせが来ても個人情報を話すつもりはこれっぽっちもないし、ここで止めるからね。」
「はい。」
そこまで言われてるのが事実なら確かに凄いけど······まぁ、いざとなればモデルは辞めるけどね。
それにそうでないにしても·····やってもあとほんの数年、場合によっては高校の卒業のタイミングで辞めるかもしれない。
「そうだ。それともう1つあってね。前にも聞いたけどもう夏になるし、水着の依頼が来たらどうする?この感じだと100%依頼が来そうな感じがするんだけどさ······。」
「あ〜······それは考えたんですけど、私は無しでお願いします。申し訳ないんですけど······。」
「あー···いいのいいの。気にしないで。前にも言ったけど、受ける受けないはこのはちゃんの自由だからね。それに私がモデルに誘ったんだから、私がきちんと話はつけるからそこは大丈夫。心配しないで。」
栗田さんにも伝えたけど、私は水着撮影は受けないことにした。
理由としてはまず、雪ちゃんのママであること。
露出が多いものを着て撮って、その事で将来雪ちゃんが何かを言われたりすることがあるとイヤだなって思ったの。
あとは、教員を目指そうと決めたのもある。
駄目って訳ではないだろうけど、それでも先生が昔水着モデルをやってました、なんて言われて周囲に迷惑をかけたりするのもあれかなと思ってね。
だから諸々を勘定してやったとしても、ほんの数年のつもり。
それも基本は露出の少ない普通の洋服とかかな?と思ってる。
まぁ······撮影そのものは楽しんでやってはいるんだけどね。
「出来たよー! このはちゃん見て!」
「はい。ありがとうございます。どれどれ······おぉ!! いいですね〜♪」
「うん!いいじゃない♪新井さん。」
「いえいえ······。モデルさんが素敵だからこそですよ。」
新井さんがしてくれた事。
それは撮った写真を確認してた時に、私が気に入った写真をプレゼントついでに加工してあげるというものだったんだ。
撮影の時は私の背景を白にしてるからね。
これには色々と理由があるらしいんだけど、今回は省略ね。
で、それをそのままっていうのも味気ないからって、背景をつけてくれてたんだよね。
どういう感じにしてくれるのか楽しみだったけど、これはこれでかなり素敵。
しかも想像してたものとは全然違ったけど、とってもいいよ。
「夜·····ですか?」
「そう。明るいのも最初に考えたんだけどね、和装だから日本の夜の風景に合うかなって考えたの。このはちゃんの髪色も夜景のほうがより引き立ちそうだったから、それも考慮してみたんだけど······正解だったわ!!」
「そうですね。私もこれ、凄くいいと思います。」
見せてくれた写真。
夜の空と遠くに見える山。手前には湖っぽいのがあってそこに佇む女性って感じで。
アクセントに浴衣と同じで色の桜?の花も添えてあって。
「これ、いいわね。何処かに飾りたいくらいよ。」
栗田さんがそんな事を言ってくれた。
「私は別に構わないですよ?好きに飾って頂いても。」
「ありがと。じゃ、考えてみるわね。」
栗田さんの事だから悪いようにはしないと思ってる。
それに飾るといったら店内か、もしくはお店の外から見える位置に展示だろうからね。
よく写真屋さんで見かける、あの展示スタイル。
そうして私の今回の撮影は無事に終わった。
お土産的なのもいくつか頂いて(洗わないとだけどね)、これはまた前撮りの時と本番の時に使うことにしたよ。
それに、なんだかんだで撮影は楽しく感じる。
これは栗田さんや新井さんの力がとっても大きいのだけど、そこにも感謝だよね。
そう思いながら帰路につく私でした―――。
いつもご愛読頂き、ありがとうございます。
今回は夏用の浴衣の撮影という事なんですが、イラストは浴衣というより着物って感じになってしまいましたがご了承ください。
イラスト的には、ここら辺が限界なんです。
引き続き今後とも宜しくお願いします。
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宜しくお願いします。




