ある日の休日⑧-1 20歳高2(挿絵有り)
「ここ······かな?」
私は道路の脇に車を停車させて、ハザードランプを付ける。
そして側に立ってる建物、この場合は住宅なんだけどもそれを眺めて確認します。
家の周りに屏があって、青色の屋根で2階建ての家。
事前に聞いていた情報と合致するね。
後はインターフォンの所に表札があるよって言ってたから、それを確認して。
······うん、ここであってる。間違いないようです。
車を停められるようなスペースもあると言ってたから······ああ、ここだね。
確認後、そこに改めて車を移動して駐車させてもらってからインターフォンです。
ピンポーン♪
ボタンを押せば聞き慣れた音がして、そこから暫く待ちます。
カメラ付きのインターフォンだから、中から見れば直ぐに私だと気づく筈だけど······。
『はーい。』
インターフォンから返事があった。うん、今朝も元気そうだ。
いつもの明るい声にホッとする私。
「おはよー♪茜ちゃん。」
『うん!来てくれてありがとうね!直ぐに向かうから待っててー。』
「大丈夫だよ。慌てないでゆっくりでいいからね。」
そう伝えて通信が終わる。
大丈夫かなー?ってちょっと心配にもなる。
茜ちゃんは私の事になると張り切る所があるから、今頃家の中でバタバタやってないかと心配にもなるんだよね。
だから念を押したんだけど、果たして効果があるのか······。
待っている間、私はインターフォンの横にある郵便ポストについてる表札を改めて見た。そこに書かれている文字は『諸貫』。
先程の声の主は茜ちゃん。
そう、つまりここは茜ちゃんのご自宅なんです。
この前、体育祭のちょっと前の時に茜ちゃんにお願いされて、今日の振替休日の日に一緒にお出掛けする事になったんだ。
今日は平日で日中は雪ちゃんも幼稚園に行ってるから、タイミングもバッチリだしね。
で、住所を予め聞いておいたから調べた上で車でお迎えに来たんだ。
それでビックリしたこともあったよ。
なんと茜ちゃんの自宅は、私の家から近かった。
近いと言っても車なら近いという訳で、自転車ならやっぱりそれなりの時間はかかるんだけどさ。
でも私はもう既に持ってはいるけれど、茜ちゃんも来年辺りには免許を取りに行ってその後は車にも乗るようになるから、そう考えるとこの距離は凄くいいなと思う。
お互いに行き来して遊んだりとかするのに、車ですぐの距離だというのはすごく気楽でお互いに行き来しやすいからね。
それに茜ちゃんの家は私の隣街だったんだよね。
私の住んでる地区は市の端っこの方なんだけど、茜ちゃんはその隣の市で地区としては隣接してる場所だった。
なのでこの地区のメイン通りは、私も普段の買い物やお出かけの時に通る場所で知ってる場所。
ただ一歩踏み込ん住宅地は全然分からないけどね。
なので、一度地図で調べた上でナビに案内してもらい来たんだけどさ······。
『目的地周辺です。』
周辺です、じゃ困るんだよ〜。毎度の事たけど最後まで案内してーって思うよね?
それでも茜ちゃん家は私の所と違って、昔からある住宅地の中の家でわかり易くってよかったけどさ。
昔からあるっていうと、家の敷地内とかその周辺に畑とか納屋とかそういうのがあったりだとか、住宅自体も日本風というか昭和風というか、そういうお家が多いい所。
で茜ちゃんのお家は事前に聞いてた特徴と、今風なデザインの家というのでわかり易いのもあったけどね。
それが似たような住宅が並んでる所だと、表札がないと分らないしね。
茜ちゃんが出てくるまでに今一度、家を眺める。
大きくて立派なお家。
きっと茜ちゃんのお父さんは頑張ったんだろうなって思う。
ここで明るくて楽しい幸せな家族生活を夢見て。
それが残念なことになっちゃって、さぞ辛かっただろうなとも無念だったろうとも。
そしてそれは茜ちゃんにも言える事で······。
以前に『寂しい』って話してくれたけど、この広さのお家で1人っていうのは間違いなく寂しいよね。
私は雪ちゃんがいて家族がいて、廊下を歩いててもテレビやネット動画の音声や葵が笑ってる声が聞こえたりもする。
リビングが明るくて、場合によっては他の部屋からも明るさが扉の隙間から漏れてて。
夜中にお手洗いに行くのに暗い廊下を歩いていても、寝静まってるとはいえ人の気配を感じたりはしてるもの。
そんな光景が茜ちゃんには無いんだもんね。
家の中が暗くて静まり返ってて、茜ちゃんのお父さんの仕事次第では夜も1人になることがあるみたいだし。
となると、晩御飯だって1人で食べることもあるよね?
それに近所にお姉さんが住んでるとは言ってたけど、基本は向こうでの生活だろうし······。
ましてや小さな赤ちゃんがいるのに、ちょこちょこお邪魔するのも悪いだろうなって茜ちゃんの性格なら思いそうだもんね。
ガチャっと玄関が開く音がして、茜ちゃんが出てきた。
鍵を締めて、こちらに手を振りながら歩いてくる茜ちゃん。
白いカーディガンを着てて中は白系のシャツかな?それと黒色のスカート。
うん。似合ってる似合ってる♪かわいいね。
シンプルな色の組み合わせだけど、茜ちゃんの小さな身長と合わさってとっても可愛く見える。
また、活発で元気そうな女の子にも見えるね。
ああ······。
これって、最初に私が茜ちゃんに対して抱いた印象と同じだ。
今でこそ甘えん坊で可愛いって印象の茜ちゃんだけど、出会ってから1年生の2学期くらいまでは、小さくて活発な女の子ってイメージを持ってたんだよね。
懐かしいなぁ······。
「このはちゃん、おま『ギュッ!』···あっ!」
笑顔で手を振りながら私の前に来た茜ちゃん。
多分、「おまたせ!」って言おうとしたんだろうけど、それを遮ってギュッとした。
私から······。
「·········。」
「······このはちゃん······。」
雪ちゃんを除いて、私から誰かにハグをするのはこれが初かな?
······いや、そうでもないか。
でもそういう事にしておこう。少なくとも気分的にはそういう感じだから。
茜ちゃんが私の胸元でモゴモゴと何やら言ってるけど、それを無視して私は抱きしめる。
他人の家の玄関先で何してんのって言われそうだけど、幸いにして周りには誰もいないから大丈夫。
それにもう通勤時間帯は過ぎてるし、昔からある住宅地区だから歩いてる人や車もないからね。
諦めて、私の腰に腕を回す茜ちゃん。
こうして私がここでハグをしてしまったのには理由があるの。
元々はする気はなかったんだけど、このお家を見て茜ちゃんの境遇を改めて思い出して。
つまりは先程の思った事の延長だね。
幼い頃、それこそ物心がついてきて直ぐくらいにお母さんを亡くした茜ちゃん。
茜ちゃん自身の記憶にお母さんはほぼなく、自分との写真も殆どない。
お姉さんと一緒に、お婆さんやおばさんが面倒を観てくれたらしいけど、甘えることが出来ずに寂しい想いをしてた。
つまり生活面ではそんなに不自由はしなかったけど、精神的な面ではずっと引きずってて···。
そしてそのお姉さんも近所とはいえ結婚をし、家を出てしまったと。
それをこの広いお家を見て、改めて茜ちゃんの置かれた境遇というものを考えさせられたんだよね。
『寂しい』とは言ってたけど、それは言葉以上にきっと寂しくて辛かっただろうと。
だけど、今まで我慢して健気に頑張ってきた茜ちゃん。
そんな事を考えて思ってたら、いつの間にか抱きしめてた。
胸の中に収まる、この小さい女の子を守ってあげたいなと。
生活面は恐らく問題ないのだろうから、精神的な面を私が支えてあげたいなと。
この娘を支えてくれる、幸せにしてくれるそんな男の人が出来るまでは私が代わりに。
出来たとしても変わらずにお友達として、付き合って行きたいなと思う。
私の身勝手な想いでお節介かもしれないけど、それでもね······。
「ごめんね、茜ちゃん。急に抱きしめちゃって······。ビックリしたよね?」
そう言いながら、茜ちゃんを私から離します。
「うん······ビックリはしたけど、嬉しかったし大丈夫だよ。でも······このはちゃんはどうかしたの? 珍しくない??」
「ん?うーん·····なんとなく?」
いつもと違う雰囲気とかそういうのを感じ取ったのか、心配そうな表情で尋ねてくる茜ちゃん。
そんな彼女に心配はかけまいと、はぐらかす事にした私。
いつかは話すこともあるかもしれないけれど、今は私の胸の内にしまって置く事にした。
ーーーーーーーー
「じゃ、気を取り直して行こっか!ね、茜ちゃん?」
「うん!楽しみだなー♪」
非常に嬉しそうにワクワク♪といった感じの茜ちゃん。
るんるん♪と今にも鼻歌まで歌い出しそうなそんなテンションで、それを見てる私もつい嬉しくなっちゃうけどさ。
車のロックを解錠して、茜ちゃんには助手席に乗ってもらいます。
これも初だね。家族以外の誰かを私の車のそれも助手席に乗せるというのは。
そしてシートベルトを締めて忘れ物の有無を確認してからの出発です。
「今日はどこに連れ行ってくれるの?」
「んーとね、◯◯市にあるショッピングモールに行こうと思ってるんだ。あそこもかなり大きいモールみたいでさ、お店も沢山あるみたいなんだよね。」
「そうなんだー。私そっちの方は行ったことないから、初めてかな。」
「私もだよ。まあ、車のがないと行きづらいのはあるよね。良くも悪くも車の中心の場所だから。」
今日行こうとしてるショッピングモールは、普段行くイ◯ンのモールの近くというか先にある、これまた別のモールなんだよね。
時間にしては、ここからだと車で1時間少しくらい掛かるのかな?
その辺りを逆算して開店時間辺りに着くようにしてるから、雪ちゃんのお迎えまでたっぷりと楽しんでくるつもりなんだ。
ただ先程茜ちゃんにも言ったように、車がないと行きづらいんだよね。どこもかしこも。
電車だと直には行けないから最寄り駅でバスになると思うんだけど、ここにシャトルバスがあるかは分らないから。
ただ地方だと車移動が前提だから、駐車場が広いというのはありがたいんたけどね。
車での移動中、茜ちゃんに音楽を選んでもらってかけることにした。
とは言っても、ほぼ雪ちゃん向けのDVDとかそういうのしかなかったんたけどね。
それでも「これ、懐かしいなー。」なんて言って、それを再生してたけどね。
「このはちゃんて、車の免許持ってたんだね?」
「あれ?知らなかった?言ってなかったっけ??」
「うん、たぶんね······。」
不意に聞かれた車の免許。
私の歳の事は知ってるから車の事もてっきり知ってるものだと思ってたけど、そうでもなかったのかとちょっとだけ驚いた。
よくよく思い出してみれば、前にみんなとカラオケに行った時は車で来たけど、1番に来て最初に帰っちゃったよね。
それと、みんなで買い物に行った時も電車とバスを使ったし。
お父さんのミニバンを借りればあの時はみんなを乗せられたけど、私がお迎えで先に帰るという事情もあったからなぁ······。
改めて思い返すと、直接運転をしてる所を見せた事はないから知らなくても当然かってなるね。
「ねね、このはちゃん。免許取るのって大変なの?」
話の流れで免許の取得の話題になった。
「うーん······。人によりけりじゃないかな?実技が苦手な人もいれば学科が苦手な人もいるみたいだしさ。でも、みんなが取得してるからそんなには難しくないと思うよ?教官も丁寧に教えてくれるからね。」
「そうなんだ······。私って来年になれば18歳になるから取りに行けるじゃない?だからどうなのかなーって思って。ちなみにこのはちゃんは、どこの教習所に通ったの?」
「◯◯教習所だよ。ここはアクセス的に楽だったからね。」
私の家の地区からだと、この教習所ともう一つある教習所が選択肢には入るの。
どっちも距離的には対して変わらないんたけど、教習所周辺の道路事情を考慮して私はこっちに決めたんだ。
「同じ市内の方の教習所だね。私の家からでもそこがいいのかな?」
「そうだねぇ······。茜ちゃんも私と一緒でどっちに行っても然程変わらないかな?ちなみに、どちらも基本的な料金は変わらないよ。合宿っていって、短時間コースだとまた違うみたいだけどね。あと、送迎サービスもあってさ、家の前までとかまで送り迎えしてくれるから通うには楽だよ。」
「それはいいね。 毎回お姉ちゃんに送迎とかしてもらうのは出来ないし、自転車はもっと無理だし······。」
「だね。」
私の家から車での約20分。距離にして10キロ少し。
茜ちゃんの家からも、ほぼ似たような距離かな?
この距離を自転車で通うというのは、流石に無理があるよ。
「そういえば、茜ちゃんは誕生日っていつ?」
「えっとねー、9月の15日だよ?」
「9月か〜。じゃあ、来年は夏休みくらいから通うと丁度よいかもね。」
「そうなの?なんで??」
「えっとね······。」
私は茜ちゃんに、免許の習得についての流れを教えてあげたんだ。
教習所に通って普通のコースを受ける場合のね。私もそれだったから。
2段階の仕組み。途中にある仮免許証の試験及びその時に18歳になってる事が条件だという事。
「そういう感じだから、夏休み入った辺りで通い出せばば全体的にスムーズに行くと思うよ?」
「なるほど〜。さすが経験者だよね、このはちゃんは。」
そんな感じで理解してくれたらしい茜ちゃんたけど、私にはそれよりも重要な事があった。
それは茜ちゃんの誕生日を聞けたこと。
いやね、前々から聞こうとはしてたんだよ?
誕生日プレゼントをあげたいなって思ってたから。
でも普通に聞いたんじゃ、プレゼントをくれるのかな?とかって思われちゃうかもしれないじゃない?
私としては1回目はサプライズ的な感じであげたいなって考えてたから、さり気なく聞けるタイミングを伺ってたんだけど今まで中々なくてね······。
それがまさか、このタイミングで聞けるとは思わなかった。
話の内容は何故か免許の話になったけど、それと誕生日を上手く絡めて聞くことが出来たしね。
多分······多分だけど、自然な流れで聞けたから感づかれてはないと思いたい。
今も運転をしながら、茜ちゃんと他愛もない話をしてる。
表情も態度もごく普通に。
でも内心は、誕生日プレゼント何にしようかなーって考えてたりもしたけど。
9月か······。
まだ3ヶ月はあるから、ゆっくり吟味出来るし探せるね。
そう思いながら、私達のお出かけは始まったのでした。




