ある日の体育祭①-5 20歳高2(挿絵有り)
桜ヶ丘高校の体育祭。
開催方式はクラス対抗戦で、全学年纏めての総合点で成績が決まるんだ。
ただ優勝したからって、特別何かがあるわけではない。
ただ全クラス中の中での優勝というインパクトはとても大きいみたいで、去年の覇者だった3年生のとあるクラスはもの凄く喜んでいたけどね。
まぁ高校での思い出として体育祭の優勝、それも3年生でってなれば最高の思い出にはなるよねとは思う。
かく言う私も小学生の時、数チームに別れて行われた運動会で6年間優勝経験はなしだったから······。
ほんの数チームての6年間でこれだから、数倍あるチーム数でチャンスは僅か3年。
喜ぶのもわかるよね。
ちなみに、優勝景品としては定番の賞状は頂けるみたいだけどね。(去年の様子から)
そしてその得点種目は多岐に渡っているんだ。
クラスから数人生徒を出す選抜物と全体競技物。
前者は徒競走や障害物競走、二人三脚やスウェーデンリレー等など。
男女それぞれ選出や女子だけの競技、男子のみの物とか色々とあったよ。
徒競走やリレーなんかは足の速い子をメインに選んだり出来たけど、他のはやりたいなっていう挙手制、あとは去年同種目に出場した子にお願いをしたりして。
全体競技物で得点に関わるのはクラス対抗リレーと大縄跳び。
クラス対抗リレーはプログラムの最後に各学年毎に行われるの。
各学年かなりのクラス数があってそれが一斉にスタートするから、まぁ盛り上がる!
しかも最終種目的な物もあるから気合も入るから、熱狂も凄いよ!
得点に絡まないのは私達のダンスとか男の子の催し物、あと部活対抗リレーかな。
特に部活対抗リレー。
これは同好会は入れないで運動部とそれ以外の文化部で分けて行うのだけど、運動部が特にガチンコ!
特に野球とサッカー、陸上、この3部がマジでやるから凄いのなんのって。
それにこれに勝つと部の予算が増えるとかで、顧問の先生や監督がこれまた気合が入ってるんだよ。
なので見てる側としては非常に白熱してるリレーを見ることが出来るので、とても楽しいし面白い。
そして、私も勿論出るよ。
私の出る種目は借り物競争。
去年は違ったんだけど、今年は去年出場した子が嫌がっちゃったんで私が代わりにね。
なんでも去年は、対象物で恥ずかしい思いをしたから辛いんだって。それに時間も意外と少なくて凄く焦るとか······。
まぁ、気持ちは分かるよ。
去年のを見てた限り変なのも多かったし、探し出せない人もいたからね。
ーーーーーーーーーー
『さぁ!始まりました!今体育祭の面白ろ競技の1つ借り物競争ーー!! ルールは簡単。本部前からスタートし、20メートル先にある箱の中から紙を引いてもらいます。そこに指定された物、又は人物を見つけ出して生徒側から平均台をクリアしてゴールするだけです!但し平均台は物を持って、人物の場合は手を繋いた状態でクリアしゴールすることが条件です。
尚、得点種目ですが順位は関係ありません。お題に対して如何に良い物を持ってきたか、そこをインタビューを通して先生方が判断するのでよろしくお願いします!!』
パンッ!!
実況による競技の説明が終わった後に、1年生から始まりました。
これは各クラス2名で競技時間は3分制限。
1年生の1番手が一斉にスタートして早速探しに行ってるのを見つめてるんだけど、一応見つけ出せなくても最低点は貰えるらしいです······。
「始まったね〜、このはちゃん。」
「うん。去年見てて思うけど、変なお題が出ない事を祈るよ。」
「このはちゃん······。それ、フラグって言うんだよ??」
「フラグ······??」
一緒に出場する美紅ちゃんとそんな会話をしている私。
ちなみに美紅ちゃんは去年借り物に出た2人のうちの1人なんだ。
「そういえば美紅ちゃんって、去年何を引いたんだっけ?」
なんだっけかな?って思い出そうとしても、さすがに細かすぎるので覚えてないんだよね。
「えっとねー······、たしか黄色い長い物······だったかな?」
「黄色い·····あぁ!そうだ。そうだったね!それでたしかバナナを······。」
「そうそう!あの時たまたまバナナを持って来てた男子がいたから助かったけどさ、終わった後によく考えたらリレーのバトンでも良いじゃんって思ったんだよね!全く······テンパってるとはいえ、バナナを持って走るとか恥ずかしいよね〜〜。」
「どんなシュチュエーションだよって思うよね。バナナ持って走るって······。」
2人で笑いながら去年の出来事を思い出してます。
今となっては良き思い出だけど、そんな競技なんだよねー。コレは。
借り物は生徒会と体育委員が、ノリで指定物を書いてるらしいんだよね。
だからしっかりと物や人物が指定されてるのは少ないらしいんだ。
逆に美紅ちゃんが去年引いたように、微妙に判断の困るような物が多いとかって話なんだよね。
『黄色い』は分かり易いけど、『長い』って基準が分からないじゃん?
何センチからが長いのか、個人の捉え方次第で長いとも短いともとられるし、そもそもそこまで考える時間も足りないからね。
普通に考えればバナナって長いとは言わないし、リレー用のバトンだって微妙だけど。
だけどあの状況下だと、とにかく何かを持って行かないとってなるんだってさ。
ーーーーーーーー
1年生の2組目が終わりで、いよいよ私達の番だね。
私が先にスタートして、美紅ちゃんは2組目。
ここはゴール順は関係ないから、クラスの2人の中で自由に決めて下さいなんだってさ。
「じゃ、行ってくるねー。美紅ちゃん。」
「頑張ってねー!このはちゃん!!」
美紅ちゃんに手を振って見送られて、スタートラインに並びます。
横を見ると男の子だったり女の子だったりと性別はごちゃ混ぜ。
これは採点の仕組み上、ゴール順位は関係ないから選抜ではあるけれど男女の仕分けとかはされてないんだよね。
そして誰もが不安そうな顔をしてる。
リレーなんかの緊張とは違って、これは変なのを引かない様にって意味合いが強いんだろうな〜と思う。
現に前を行った1年生でも、やはりというか変なのを引いた子がいたからね。
見てる側としては面白いけど、それをやってる本人は恥ずかしいとかそういうのが強そうだけど······。
「位置について。よーい···スターート!!」
パンッ!!
号砲と共に一斉に走り出す私達。
20メートル先の長テーブルの上に箱が2つ置いてあって、その中から紙を取るらしいです。
私が選んたのは右の箱。
私の前に1人女の子が引いて、続いて私が引く。
取り出してその場で開いて確認して。
「これは······。」
取り出した白い紙。そこに書いてあったのは·········。
ーー 茜ちゃん 視点 ーー
「いよいよだね、面白くてちょっと恥ずかしい借り物競争。茜、心配??」
志保ちゃんがそう聞いてくる。
「心配というか、その······変なのを引かなければいいなとは思ってるよ。」
「だよねー。応援する側としては変なお題の方が点が良いとは聞くけど、実際は分からないからね。」
「うん。」
そうなんだよ。この借り物競争。
点数は先生判断らしいのだけど、変なというか選びにくいのは点が高いらしいと言う噂。
逆に言うと簡単な物、たとえば『カラーコーン』とか『生徒会長』といったその物ズバリ指定されてる物や、簡単なお題は点が低いらしいんだって。
探して見つけてきやすいのはあるけれど、点を競う点では不利。
でもそういうのは少ないと聞く。
「このはちゃんも美紅も、変なのを引かなければいいけど······。」
あぁ、心配だよ······。
心配しながらも、内容次第で私を連れて行ってくれないかな?なんて、思ってみたりもしてる。
「ほら、次だよ?さてさて、先に行くのはこのはちゃんか美紅ちゃんか······お!? このはちゃんっぽいね!」
「あ!ホントだ!!」
「このはちゃん先かー。」
「やっぱり遠目でも目立つね〜。このはちゃんは。」
「「「だね!」」」
「「うんうん。」」
皆で納得する。
それもそのはずで、このはちゃんだけはこの位置からでもよく分かるんだ。目立つとも言うけれど。
この位置だと男女の違いは分かっても、それが誰とは分からない。
距離が少しあり過ぎて、顔までは分からないからね。
でもこのはちゃんは、その綺麗な髪だけで直ぐに分かるんだよ♪
周りが黒髪の中の唯一の銀髪だから。
世界でもこのはちゃんと雪ちゃんぐらいしかいない、とっても綺麗な髪色だからね。
テントの前、トラックラインギリギリまで近づいて応援をする。
頑張って!このはちゃん!!
『続いて2年生1組目です。ここの注目選手は······3組の鈴宮さんですね!! この桜ヶ丘高校で知らない人は少ないと思われる、銀髪の綺麗な女子生徒! そして去年、学校かくれんぼを我が校に引き当ててくれた方!! あの時はとても楽しかったよ!!ここで改めてお礼を言わせてください。ありがとうございました!! さあ!!間もなくスタートです!!』
パンッ!!!
『各選手、一斉にスタートしました!まずは箱からお題の書かれた紙を引いて行きます!これが運命の分かれ道!楽なお題を引くか、難しいのを引くかは神様しか分からない!!』
「とうとう始まったねー。」
「だねぇ。このはちゃんは何を引くのかな?」
「意外と簡単そうな物を引いたりして?」
「いや、逆に難題を引くんじゃない??しかもこのはちゃんは、そういうのを必ずしも見つけてきそうな感じがするよ?」
皆であれこれと何を引くか予想しあってるけど、私としては正直どちらでも構わない。
簡単でも難しくても、無事見つけてゴールさえしてくれれば!
『各選手、紙を引いて中を確認して······。あぁ、やっぱり皆さんここで一瞬フリーズしますね。変なお題だったのでしょうか!?』
『そして、それぞれ散って行きます! クラスの方へ走っていく人、違う所へ行く人、割合的にはクラスの方へ行く選手が多いかーー!?』
「このはちゃんも紙を引いたみたいだよ?」
「あ、キョロキョロしてる?」
何だろう何だろう???
すっごく気になる!
「あ!こっち見てるよ!?」
「あ、本当だ!もしかしてこっちに来るかな??」
「去年、美紅もこっちに来たよねー?」
「あー、来た来た!たしかバナナ持って行ったんだよ!」
「バナナって······(笑)」
もう皆でワイワイのキャーキャーで凄く賑やか。
隣のクラスとかも賑やかで、やっぱりこの借り物競争は見てる分には面白いんだよね。
見てる分には······。
「あ!? あれれ??」
こっちの方を見てたこのはちゃんが、プイッと顔をそむけて本部席の方に行っちゃった······。
こっちにないと判断した?なんだろ?
この競技はコレだ!!ってその物ズバリ書いてある場合もあれば、そうではない曖昧な表記なのもあるらしいから······もしかして、それ??
『あと2分少しでーす。各選手頑張ってください! おっと、注目してる鈴宮さん、本部席に来て何やら探しております。ここからでは何を話してるのかは分かりませんが、見つかるといい······あ、走って何処かへ行ってしまいました。方向的には体育館方面っぽいてすが、果たして間に合うでしょうか!?』
「何だ何だ??マジで鈴宮さん何を引いたんだ?」
「分からないよ〜〜。でも、少なくともここにはないって判断したんでしょ?」
校庭から離れて行くこのはちゃんを眺めながら、混乱しているうちのクラス。
見渡してみれば、各選手共にこのグランド内で探してるよね。
生徒の待機席で探してる人もいれば、道具をなんかが置いてある場所で探す人。
大体がこのどちらかなのに、1人グランド外ってのが可哀想だよ······。
『残り1分と少しです!! 9選手中数名はゴール又はトラックを走っておりますが、残りの方は間に合うでしょうか!?』
そんな実況を聞きつつ焦る私達。
だってまだこのはちゃんが戻ってこないんだもん!
「このはちゃん何処行ったの!?間に合わなくなっちゃうよ!」
ハラハラしながら見守る私達。
もう向こうでは6人ぐらいがゴールしてるし。
そんな時だった。
「あ!!このはちゃん戻って来た!!」
「うそ!?マジ!?あ、ほんとだー!!!」
「「「「おおぉぉーー!!」」」」
「急げ急げー!あと1分よーー!!」
「「がんばれーー!!」」
このはちゃんの姿に気がついて、息を吹き返す私達。
でも途中で気がついたの。誰か連れてるって。
「ねえ?誰か連れてるよ!?って、あれ男!!?」
「うそ!? マジっすか!??」
そして実況も気づいたらしい。
『グランドから離れた鈴宮さんが戻ってきました!! そこに誰か随伴してますが、それがお題の人なのでしょうか!!? あー!!随伴してるのは何と!高橋先生です!!鈴宮さん、高橋先生を連れて来たーーー!!!』
「「「「「 キャーーー!!!!! 」」」」」
ものすっごく女子生徒から悲鳴じみた歓声があがる。
私達くらいの女の子は、こういうの好きだもんね。
私はあまり興味ないけど。このはちゃん以外は······。
そして、それはこっちでも。
「何で高橋先生を連れてるわけ??」
「知らねーよ、そんなの!つーか、先生どこ行ってたんだよ!?」
「そうよね!大人しく本部にいれば、このはちゃんが探し回らずに済んだのに······。」
こっちはこっちで、高橋先生に文句を言ってる。
まぁ、気持ちは私も分かるけどね!
こちら側に私達の席があるように本部側にも椅子が置いてあって、主に来賓の方や先生達が座る為の席になってるんだよね。
だから、これといって出番のない先生方は椅子に座ってたりもしてるんだけど·······。
「ほら!先生!!キビキビと走る! 時間がないんだから!」
「待ってくれよー。最近走ってないからキツイんだってば······。」
『高橋先生を連れて来た鈴宮さん! 対象が人物の場合は手を繋いでトラックを走らないといけませんが、この観衆の前で出来るの······あーー!!繋いだ!!繋ぎました!!すごーーい!!!!』
「このはちゃーーん!がんばってーー!!」
「「「「あと少しだよーー!!」」」」
「「「ガンバー!!」」」
「ほら、先生? みんなもああ言ってますし、頑張りますよ! みんなのハンバーガーが、かかってるんですから!!」
「ハァ···ハァ······。おう······。」
「もう······しょうがないですね!ほら、引っ張りますから走りますよ!」
『凄いです!!鈴宮さん、高橋先生を完全に尻に敷いています!
そして鈴宮さんに引っ張られる高橋先生!まぁ、あの距離を走ってくれば仕方がないのか!?』
『頑張れー!あと少しだー!!あ!ゴールです!ゴールしました!!そして時間も終了でーーす!!』
「「「「「············」」」」」
「す···凄いね、このはちゃん。」
「うん。高橋先生を完全に尻に敷いてたよ?」
「何あれ?普段の優しいほんわかしてるこのはちゃんと、全然違うんだけど······。」
皆揃ってポカーンと、このはちゃんと高橋先生を眺めてた。
最初、高橋先生を連れて来た時はあんなにもブーブーと文句を言ってたのに、その後のこのはちゃんの言葉と動き?仕草??それを見ちゃったら先程までの気分が吹っ飛んじゃったよね。
だって、ここからだと少しだけ会話が聞こえたんだよ。
トラックを半周走るのにこの当たりがスタートになるから、その時にちょこっとだけね。
『キビキビ走る!』とか『バーガーがかかってる』とか何とか。
ヒーヒーと言ってる先生、まあこれは体力的な関係なんだろうけど、それでも担任の先生に対してビシッと強い口調で物を言っちゃうんだからね。
「ああいうのって、かかあ天下って言うんだっけ?」
「何それ?聞いたことないんだけど??」
「それよりも、あのこのはちゃんの状態だよ!何となく前に怒ってた時に似てない?」
「「「あ!!」」」
「そういえば似てるかも!?」
「ハッキリとビシッと言う感じは似てるね!オーラも何か感じない?逆らったら危険!みたいな?!」
もう高橋先生の事は放っといて、このはちゃんについて語る皆。
確かに皆が言うように、普段のこのはちゃんとは違った。
優しくてほんわかしてて、安らぎを与えてくれるこのはちゃん。
でも今のこのはちゃんは、そんな気配はなくビシッとして強く強引に引っ張っていってくれる感じ······。
うん!
これはこれで凄く格好いいです!!
「でも、もしこのはちゃんが結婚してたら、あんな一面を男に見せてる可能性もあったんだよね······。」
志保ちゃんが呟いたその一言に「あぁ······」となる私達。
私が、私達が知らないこのはちゃんの新しい一面。
その特定の相手ってのがいないと言う事実が、私としては堪らなく嬉しいのだけど、そう思ってしまうのはこのはちゃんに失礼だよね、きっと······。
嬉しいような悲しいような不思議な感情になった、このはちゃんの借り物競争なのでした――――。




