ある日の体育祭①-3 20歳高2(挿絵有り)
パン!!!
『さあ!始まりましたー!桜ヶ丘高校体育祭!! 第一種目目、クラス選抜100メートル走!! 最初は1年生男子だーー!がんばれー!!!』
私達の待機所の前にあるトラックの更に奥、簡単に言うと私達と対局の位置にある本部席テントからのスピーカーから出てくる実況。
実にノリノリな実況が語る、我が校の体育祭が始まった。
ちなみに実況等は放送委員が担当してるみたいです。
「とうとう始まったね〜。」
「だね。今年はどこが優勝するんだろうね?」
「やっぱり3年生かな?」
「だよねー······。でも、出来るなら勝ちたいよね。ハンバーガー······。」
「「「「それな!」」」」
そんな話をする私達。
体育祭。
それは恐らくどこの学校でも同じだとは思うんだけど、私達の高校も対抗戦です。
ただ違うのは体育祭の為だけのチームではなく、クラス対抗だという点。
私の通ってた小学校の時は運動会の為に作った1年生から6年生までの混合チームだったけど、1回だけ参加した中学の時はクラス対抗だったんだよなーと思い出したよ。
結果がどうだったか、そういうのはすっかり忘れちゃったけどね。
そしてこのクラス対抗、一部の競技を除いて採点種目になっていて、それで点数を競い最後に合計点で発表なんだよね。
中間発表とかはしないから、終わりまでどのクラスが勝ってるだとかが分からないんだけど、そこがある意味で楽しくて盛り上がるの。
ほら、途中で最下位とかって分かるとやる気を失くすじゃない?
そういうのがこの場合、分からないからさ。
そしてこの対抗戦、他のクラスはどうだか知らないけど私達のクラスはもの凄く張り切ってます。
その理由は先程の『ハンバーガー』なんだよね。
高橋先生がさ、「優勝出来たら昼ご飯としてハンバーガーを1人1個奢ってやる。」なんて冗談半分で言ったものだから、みんなやる気を出しちゃって······。
100円少しのバーガーに釣られてやる気を出すみんな······。
大丈夫かなー??
それに高橋先生もだよ?
いくら確率が 1/27 だといっても、このクラスの団結力を舐めちゃいけません。
この体育祭は3年生が有利だとは言われてるの。
それは身体的なものではなくて、団結力すなわちチームワーク的な所でね。
身体的には中学と違って、高校にもなれば1年でも3年でもそんなに変わらないじゃない?大体出来上がってるからさ。
身長の大小、太ってる痩せてる、運動が得意苦手······これは1年でも3年でも変わらないし、そうなると残るはチームワークなんだよね。
私達もそうだったけど、1年生は入学してまだ2ヶ月経たないからお互いの事を良く知らない。
逆に3年生はクラス替えをするといっても、2年も共に過ごしいればそれなりに相手の事が分かるじゃん?
その差が大きいんだよねー。
そして私達、2年3組。
クラス替えしても男子がほんの数名だけ入れ替わり、女子に至ってはみんな同じだからね!
だから、ぶっちゃけ仲が良いのよ!
新しく来た男の子も、もうすっかり馴染んでるからね。
そんな『バーガー』に釣られたみんなからお願いされて、選別も含めて対策もしたし、とっておきも用意してある。
まぁ、このとっておきは私的にはどうなんだろ??って感じなんだけど、みんなからはとっても大事なんだ!って力説されたんだよね。
だから私達、優勝は出来なくてもいい線は行くと思うんだよねー?
『1年生の競技が終わりました!引き続き2年生の徒競走となります! いやー、選抜というだけあってどこのクラスも速かったですね!!』
『そうですね。どの回も大差なく接戦でしたから、非常に見応えがあり応援にも熱が入りますね!』
実況と解説の入っている放送を聞きながら、いよいよ始まるんだなと実感する。
「いよいよだねー。」
「そうだね。徒競走はえーと······影山君と佐藤君と渡辺君と······。」
志保ちゃんの言葉に私は改めてプログラム表と一緒に持って来てある、メンバー表を確認してみます。
徒競走は小学校とは違い、各クラス男女それぞれ5名ずつの選抜制なんだよね。そして当然得点種目。
故にクラスで100メートル走の早い子を選抜したよ。
4月の始めの頃の体育で、スポーツ測定みたいなのをするでしょ?
あの時の記録を体育の先生から改めて見せてもらって、そこから選ぶという徹底ぶりなんだよね。
だから、男女共に我がクラスのベスト5の人選です。
パンッ!!
『さあ!始まりましたー!2年生、第一走!ほぼ横並びのスタートだ!! お!?6、3、1組が抜け出して来たーー!! 6組が少しリードかぁぁ!??リードした!!6組だーー!6組が1着〜〜〜!2位は3組〜〜!!』
「「「あぁ〜〜〜!!」」」
「「惜しいなーー!」」
「残念ー。」
「くっそ〜·····。」
皆して悔しがります。
トラックの向こう側、本部席の前で走ってるからこの位置からだと遠すぎて、誰がどこのコースを走ってるかは分からないんだよね。
それにメンバー表も選んだんだ人選のみで、誰が何番目に走るとかは書かれてなくてこちらからは分からないからさ。
だから放送が頼りな部分もあるんだけど······。
「でもさでもさ、2位だから出だしとしては上々なんじゃないかな!?」
「そうだね!全体の2位だからねー!」
「うん!悪くないよ!」
彩ちゃんのその言葉に、みんなの気持ちがまた切り替わっていく。
残念がってたのがポジティブに。
まぁ、まだ最序盤で先はまだまだこれからだからね。
ちなみにこれは全組一斉に1レースを競い、男女でそれぞれ5レースずつ行うの。
だから詳しい点数は知らないけれど、1位と最下位ではかなりの点数差があると予想してる。
そして続いていくレース。
うちのクラスはベストメンバーを出しているから、かなりいい成績をとってるよ。
1位が1人に、2位が3人。3位が1人。
うん。上々。ってゆうか、みんな凄すぎです。
こんなにいい成績を取るなんて、思っても見なかったよね。
男子が終わって次は女子。
これもやり方は男子と一緒です。そして······。
「女子の方ってさ······あれだよな〜。」
「うん。まさかあの子が1番早いとは思わなかったよね·····。」
「「「ほんとほんと。」」」
「「「「諸貫さん!」」」」
「「「茜ちゃん!!」」」
ビックリだよね!
実はクラスで1番足の速い女の子は、茜ちゃんだったんだよね!
運動が好きな事は聞いてたけどさ、まさかの駆け足が速いとは······。
私達の誰もが思ってもみなくてさ、身長の小ささもあってギップがもの凄いのなんのって。
たから当然選ばれたよ。
しかも小さいから相手も速くないだろうと、油断するよねっていうのもあってさ。
「このはちゃん。どう思う?勝てるかな?」
美紅ちゃんが心配そうに私に聞いてくる。
美紅ちゃんと茜ちゃんは、比較的一緒にいて仲が良いからね。心配もするか。
「うーん······。組み合わせ次第だろうけど、私はいけると思うよ?それに多分、周りの人は速いとは思ってないだろうからさ······。」
「そうだよね。私達から見ても意外だったし······1位いけるかな?いや、1位なって欲しいね。」
「だね。だから応援してようね!」
そんな話をしつつ応援のする私達。
私達はクラスで速い人選をしたけれど、他のクラスがそうしたどうかは分からないんだよね。
普通に考えるとやってみたい、出てみたい競技を立候補制とかで決めて、残った競技をまだ出てない子とかでクジとかじゃんけんとか、どーしても決まらない場合は先生が決めたりするのかな?なんて、思ったりもしてる。
そうするとこの100メートル走も、必ずしも足の早い子が出てくるとは限らないよね。
しかも茜ちゃんは学年で1番小さい方だから、放送でも言ってた様にあまり速いとは思われてなさげだしさ。
だから、ある意味そこがまた狙い目。
『次のレースの紹介です。内側1レーンから、1組、2組、3組、4組と順に全クラス並んでおります。。おおっと! 3組の選手がとても小さくて可愛いですね! 他の選手と比べてかなりの身長差がありますが大丈夫でしょうか!?』
実況の放送が聞こえる。
3組の小さい······茜ちゃんだ。
「美紅ちゃん。早速、茜ちゃんの登場だよ。」
「うん。ヤバい······ドキドキするよ。」
「第1レースでしかも小さいって心配されてるから、こっからでも分かりやすいね。」
「そだね。茜には悪いけど小さいってのでわかり易いのはあるよね。おまけに油断もされてるっぽいし······。頑張れ茜ー!!」
応援にも熱が入る。
トラックの内側から1レーン2レーンとなってるから、私達から見ると手前から3番目。故に分かり易い。
そしてなんと言っても、我がクラスの最初の女の子だからね。
どうしてもみんなから、今レース1番の期待がかかってしまう。
パンッ!!
『スタートしましたぁぁ!! 走者の皆さん、素晴らしい出だしだぁぁー! 横並び!ほぼ横並びのスタートで······あ! 3組が少し抜け出して来た! 速い!速いです!! あの小さかった選手が抜け出して現在1位!! 後を追う後続!追いつけるか!?逃げ切るか――!?』
私達は立ってテント前辺りで応援している。
もちろん他の子の時もそうして応援してるんだけど、茜ちゃんだからか他の子よりも熱が入っちゃうよ。
そして······。
『1着は3組ー! やりましたー!!』
「「「「「やったーーー!!!」」」」」
「「「うおぉぉぉぉ〜〜!!」」」
ぴょんぴょんと飛び跳ねたり、お互いにハイタッチしたり抱きついたりとお祭り騒ぎ状態な私達。
特に女の子達のはしゃぎ様は凄いよね。
先程男子の部では渡辺君が1位を取った時も喜んでたけど、こちらは同性でしかもみんなの可愛がってる茜ちゃんだから。
当然私も、もの凄く喜んてるよ♪
「やったね!このはちゃん!」
「うんうん!頑張ったよ、茜ちゃんは。あの中で1位を取るなんてさ······。凄いよね!」
みんなと交互にハイタッチをしながら喜び、感心します。
私の足の速さはごく普通だから、ほんとに凄いなと思ってしまう。
1位を取ることもだけど、そもそもの足が速いという時点でもうね。
「さて、次は誰が来るのかな?」
小さく呟く私。
女子1人目のレースが終わり、引き続き残りの2走者目の子が登場します。
まだ始まったばかりだけど、幸先がよいから残る子にも期待が持てます。
がんばれ!みんな!!
ーーーーーーーー
「おーい!」
「だだいまーー!」
「「「おかえり〜〜♪」」」
「「「「お疲れ様ー!」」」」
徒競走に出た10人のクラスメイトが帰ってきた。
トラックの向こうでは3年生が競技を行っているけれど、私達はそれを見ることはなく戻って来たみんなを労います。
特に1位を取った渡辺君は、男の子達からワチャワチャとされてる。
そして女の子はというと······。
「このはちゃーーん!」
ドン!なんて効果音がつきそうな勢いで、茜ちゃんが私に抱きついてきた。
ついトトっと後退しそうになったけど、踏ん張って耐えた私。
そのくらい勢いが良かったんだ。
私の腰に腕を回してご満悦に浸る茜ちゃん。
ふふふふ·······。
全く······この子は抱きつくのが本当に好きね♪
そう思ってるけど、私としても嬉しいからむしろ良いのだけどね。
ついでに手が動いてしまうのはもう癖なので仕方がないです。
そしてその当人である茜ちゃんもご満悦な感じ。
「頑張ったね!茜ちゃん。1位なんて凄いじゃない!!」
「ありがと♪······途中からは必死だったけど、何とか結果が出て良かったよ。見てくれた?」
「勿論だよ。第1レースだったから、こっちからでも良く分かったし、皆で応援したよ。」
茜ちゃんを労いつつそんな話を少しして。
「ほら、茜ちゃん。すぐそこにも待ってる子がいるよ?」
そう言いながら抱きついてる茜ちゃんを離して、クルッと身体の向きを替えてあげた。
その先にいるのは、美紅ちゃん。茜ちゃんとの仲良しさん。
「あ、美紅ぅ〜♪」
そう名前を呼びながら、美紅ちゃんに再びくっついて。
本当に無邪気というかなんというか······。
去年の今頃とは全然違う、多分こっちの茜ちゃんが本来の性格なんだろうなと感じてしまう。
「さっちゃーん。おいで〜〜♪」
「はーい♪」
茜ちゃんと同じく出場したさっちゃんを呼んで、同じく抱きっ!
そして、ポンポンなでなでの攻撃!!
「あ〜〜······幸せ〜〜♡頑張って良かったー♪」
ご満悦なさっちゃん。
実に幸せそうだよね。
少し年上とはいえ、同級生の私にくっつくのがそんなにも良いものなのかと毎回思うのだけど、返ってくる答えはみんなが『良い!』の一言。
「お疲れ様。頑張ってくれてありがとね♪」
そう伝えてさっちゃんを離して、次は······。
「咲夜ちゃんと陽子ちゃんと、瑞穂ちゃーん!」
「「「はーーい♪」」」
残りの3人を呼んで、順に茜ちゃんやさっちゃんと同じ事をします。
抱きしめて、なでなでして労って。
これが私が行うお仕事。
というか、みんなにお願いされた事なんだよね、コレ。
そして今回の作戦の一部でもあるの。
1つは競技に対しての物。
先程の徒競走に足の速い子を選抜した様に、対策や作戦が取れるものは考えて検討した。
ただ普段の体育とかでもやらない競技もあるから、そういのは作戦の立てようもないんだけどね。
2つ目がみんな、主に女の子達にお願いされた事。
選抜物の競技が終わったら、労って〜だってさ。
それがあると思うと、いつもより力が出る気がする!なんて言うからさ。
まぁ、いつもの事なんで私もいいよって受けたんだけどね。
「やり方は、このはちゃんにお任せします!」
って言ってたけど、みんなが何を望んでるのかはもう理解してるので、先程のアレになったの。
だからもう、茜ちゃんを含む5人は嬉しいって顔をしてるよ。
全く······そんな顔をされたら断われないじゃんね。
みんなに甘々な私なのでした。
ちなみに男の子にもしない訳にはいかないので、こちらは手を取って「お疲れ様♪」って言ってあげることにしたよ。
これも勉強会の時と似たような物だけどね。
それでも喜んでくれてるから、ま、いっか。
あと最後の1つ。
入場口へのスタンバイの確認と促し。
これは私と志保ちゃんの、どちらかと言うとクラス委員長としての仕事かな?
厳密には別にしなくてもいいんだけどさ、みんなが応援したり会話をしてたりで次の出場のスタンバイを忘れてる子がいるといけないからね。
メンバー表とプログラムの進行状態を照らし合わせながら、教えてあげてるの。
ちなにみ体育委員の子達は、準備や競技のサポートなんかでずっと向こうに行っちゃってるからお昼休みくらいしかこちらには戻ってこれないみたい。
今日1番大変なのは、体育委員さんかもしれないね······。
「次の障害物競走は、武田君と吉田君と〜······。」
出だしの競技は素晴らしいとしか言いようのない、最高のスタートだった。
この調子でこのあとも行けるといいな♪と思いながら、まだまだ競技は続くのでした。




