ある日の後輩① 高2(挿絵有り)
「鈴宮さーーん。いるー?」
ある日のお昼休みの時間、みんなで休憩を楽しんでいた時に珍しく佐藤君から名前を呼ばれました。
「珍しいね。佐藤君がこのはちゃんを呼ぶなんて?」
「「「だねぇー。」」」」
「何かあったんかな?」
みんなが言うように佐藤君はもとより、男の子から呼ばれる事自体がそうそうないんだよね。
別に仲が悪いとかそういうじゃなくて、単に用がないからなんだけど。
それに基本的に休み時間は男女で別れて集まってるし、今はまだ勉強会をやってはないからね。
勉強会中なら男女関係なく呼ばれるけど、あとは······先生からの用事?
う〜ん······でも、佐藤君はクラス委員長じゃないしなぁ······。
どこがで捕まって伝言でも頼まれたかな??
ちなみにクラス委員長は、私と志保ちゃんになったんだ。
私が立候補した後に、結構な人数のみんなが手を挙げてさ。
そんなみんなに高橋先生も呆れてたんだけど、人数も多数だったから残りの枠はじゃんけんで決めてたんだよね。
で、勝負の結果、志保ちゃんが去年に引き続きクラス委員長になったんだ。
私としては経験のある志保ちゃんが一緒というのが、心強くて安心何だけどね。
そんなだから、用があれば私か志保ちゃんに連絡が来る筈だしな〜と不思議に思ってる。
「なーにー?佐藤君??高橋先生から何か伝言でも頼まれた?」
佐藤くんに呼ばれたので、返事を返して答えます。
「ああ、居てくれて良かった良かった。」
そう言いつつ廊下側の方からこちらに歩いてる佐藤君。
そして私達の側に来た佐藤君に女の子達が声をかけてます。
「どしたん?佐藤?」
「今さ、廊下に「鈴宮さんいますか?」って女の子が訪ねて来てて、取り敢えず確認だけでもと思ってさ。居てくれて良かったんだけど、どうする?」
「女の子?」
「そう。リボンの色から多分1年生かな?」
「このはちゃん、心当たりとかあるの?」
「うーーん···ないなぁ〜······。みんな知っての通り私って部活をやってないし、歳の事もあって1年生に知り合いはいないからね〜。」
そう。心当たりは全くないんだよね。
新入生が入学してからある程度の日数が経ったけど、私は部活をやってはいないから下級生とは関わりがないし、かといって休み時間又は登下校中とかに何か出来事があった訳でもない。
故に全くと言っていいほどに、心当たりがないんだよね。
「どうする?鈴宮さん?? 心当たりとかがないなら不在とかって言っとこうか?」
佐藤君が気を使ってくれたんだけど、それは悪いからいいかな。
何用かは分からないけど、何かあるからわざわざこんな最上階まで来てくれたんだろうし。
だからせめて話だけでも聞いてあげないと可哀想だよねって思う。
「心遣いありがとね、佐藤君。でも、いいよ。内容は分からないけど、話だけでも聞いてくるから。」
「分かったよ。廊下で待ってるみたいだから。」
「うん。ありがとね。」
佐藤君にお礼を伝えてからその1年生の子が待っているという、廊下へ行くことにします。
さてさて、一体なんだろうね?
ーーーーーーーーーーー
ガラガラガラ······
扉を開けて廊下へと出ます。
教室に対して北側にある廊下なので、直接日光は当たらない。
だけども、4月というのもあって多少は寒いけど冬程ではなくまあまあな感じだね。
それにお昼休みだから生徒も大勢いて、歩いてる子、廊下で立ち話をしてる子とかがいて、それなりに賑わってる。
そんな中に窓際でちょこんと気まずさそうにいる、女の子の集団がいた。
まぁ、下級生が上級生のクラスの階に居ると場違いみたいで気まずいのは分かるよ。現に結構注目されてるからね。
それに、リボンの色が緑色だからあの子達が佐藤君が言ってた子達で間違いなさそう。他には見当たらないから。
でも······複数人だったんだ。
佐藤君も特に言及してなかったから、私はてっきり1人だと思ってたんだよね。
私は近づいて行って、彼女たちに声をかけた。
「こんにちは。待たせちゃってごめんね。何か私に用事があるって聞いたんだけど、あなた達でよかったのかな?」
「あ!はい。私達です。お忙しい所、わざわざお呼びしてしまってすみませんでした。」
そういってペコリと頭を下げてくる下級生の女の子達。
「あ···あの、私は1年2組の新井理央といいます。こっちが同じく2組の平井梓と吉田あゆみです。」
「「よろしくお願いします。」」
改めて自己紹介をしてくれて。
真ん中にいるのが新井理央さんらしいです。
肩に掛かるくらいに髪の毛を伸ばしていて小柄で、ついこの間まで中学生だったっていう感じが残ってて可愛いね。
その新井さんのとなりにいる平井さんと吉田さんは、新井さんよりも背が高くて髪はどちらも短い。
なんとなくだけど2人共、何か運動をやってそうな感じするね。
「はい。こちらこそ、宜しくね。で、今日はどうしたのかな?」
自己紹介を頂いたので、早速本題を尋ねてみる。
今さっき自己紹介を貰って自分の記憶を探ってみたけど、私はこの3人の下級生の事を名前も含めてやっぱり知らないし面識もない。
まぁ、葵より1歳下だから面識がないのは仕方ないのだけどね。
「あの······私達、鈴宮先輩に一目惚れしてこの桜ヶ丘高校に入学したんです!」
「そうなんです!」
「だからそんな先輩を直に見たくて挨拶をしたくて、2人と一緒に来たんです。」
「そ、そうだったんだ······。それはありがとう??」
ちょっとというか、かなり意外な理由で驚いたよ。
まさか私に一目惚れってさー······あれ?
でも私、この3人とは面識もないんだけどな〜??何かあったっけ?
「あの······こう言っては失礼だけど、私は3人とは面識はないと思うのだけど······もしかしてあったりする?」
念の為に確認をしてみます。もしどこかで会ってたら失礼だもんね。
「はい。先輩とは面識はないです。今が初対面ですね!」
そうはっきりと伝えてくる新井さん。
やっぱりなかったかー······。
じゃあ、一体何処で私の事を知ったんだろう?と謎に思う。
1番可能性としてありそうなのが、学校帰りに制服のまま雪ちゃんとスーパーとかに買い物に行って、そこで見かけたとかかな?
「私達が鈴宮先輩を知ったのは、お正月のテレビなんです。かくれんぼの。」
「ああ!あれねー。」
手をポンッと打って、納得です。
あの番組は学生達には人気らしいから、この3人が見ててもなんらおかしくはないし、おまけに放送日が冬休み中だったからね。
「あの番組好きなんでいつも見てるんですけど、そしたら鈴宮先輩が映ってて驚いちゃって······。」
「高校生でこんなに綺麗な人がいるんだーって、驚いたのと一目惚れしちゃったのと。」
「それで私達、鈴宮先輩に逢いたくてこの高校を受けたって次第です。なので、今こうして直にお会い出来て感動です!」
おぉ···。それはそれはまた何ともな理由で受験したんだね······。
まぁ·····、私も家から近いからって理由だけで受験した口だから人の事は言えないけどね。
そんな風に考えてると、私の後ろから声がした。
「このはちゃーん、どうしたの?」
「後輩ちゃん、何だって??」
やって来たのは茜ちゃんを始めとしたクラスのみんなだった。
ちょっとどうしたの?とか、心配そうな言葉をかけてくれるけど、声の感じは興味深々的な感じが入ってるね。
野次馬だね、君たち······。
「みんな······廊下まで来ちゃってどうしたの?」
「いや〜、なんか話が長そうだから気になってつい来ちゃったんだ。」
「不味い話だった?」
「いや。そうでもないよ。彼女たちね、私をテレビで見て逢いたくてこの学校に入学したんだってさ。ビックリしちゃたよ。」
今さっき教えてくれた事を皆に説明しました。
「なるほど! かくれんぼの放送でこのはちゃんの良さに気付くなんて見込みがあるね!」
「そだねー♪」
「「「うんうん」」」
「そうなんですか?! 先輩!?」
「そだよー。私達だってこのはちゃんのいい所に気づくのにそこそこ時間がかかったのに、貴女達はあの放送でここを決めたくらいでしょ?それは凄いよ!」
「ほんとほんと。このはちゃんと同じ学校がいいなんて、あの短い時間の中でよく決断したなって感心しちゃうよ。」
「「「ねーー♪」」」
「·········」
なんか皆が盛り上がってるけど、この受験に対して私は何にも言えないからなぁ······。
それにその会話の内容は一体何なんだろう?
見込みがあるとかなんとかとか、うーん······私にはさっぱりだ。
「このはちゃんってね、良いところは容姿だけじゃないんだよ?中だってとっても素敵なんだから!とっても優しくて面倒見が良くて、いい香りがして温かくて······一緒にいるとね、すっごく癒やされて落ち着くの!」
そう言って私に抱きつく茜ちゃん。
「おおー! いいなぁ〜先輩······」
「羨ましいです······」
「うん······」
そんな茜ちゃんを見て、羨ましそうにする1年生たち。
そんな顔をしても駄目なものはダメですよ?
「はいはい。ほら茜ちゃんも離れて?」
「はーい♪」
意外と素直に離れた茜ちゃん。
······もしかしてだけど、1年生の前で自慢したかったのかな?
私は抱きつけるんだぞー!仲が良いんだよー的な??
でも茜ちゃんだと、あながちないとは言い切れないからなぁ······。
「で、新井さん達はそれだけで今日、会いに来たの?」
挨拶だけならこれで終わりかな?とは思うんだけど、まだ何かありしうな気がするんだよね。
まぁ、それだけでこの階まで来たのも大した物だなとも思うけどね。
「あと、1つだけお願いしたいことがありまして······。」
「そうなんです。」
「はい。」
「なんだろう?私に出来ること?」
「実は鈴宮先輩に憧れてる子は私達以外にも1年生の間では沢山いるんです!」
「そうなんです!それこそ男女関係なく沢山で······。」
「テレビで知ったのは一部の生徒だけなんですけど、あとは入学してから直接先輩を見て憧れたってのが大半なんです!」
おぉ······。それはまた嬉しいけど照れちゃうね。
私としては意識とかは何もしてないんだけどさ。
「やっぱりこのはちゃんは凄いねー。」
「うんうん。」
「入学してまだ少しなのに、もう1年生も虜か〜。さっすがこのはちゃん。」
「ちょっ······ちょっと、その言い方止めてよ〜〜。」
彩ちゃんが何か誤解されるような言い方で話してくる。
私は別に狙ってそんな事をしてるつもりはないのに、何がさすがなのか······全く、恥ずかしいったらありゃしないよ······。
「で、ですね! 私達女子の間で鈴宮先輩の事を先輩なんですけど先輩じゃなくて、『お姉様』って呼びたいって声が沢山あって······その、許可を頂けないかと思いまして······。」
「1個上の先輩ですけど、私達と比べてもとっても大人びてて綺麗で美しくて格好良くて、先輩というより『お姉様』って言葉がしっくりくるよねって意見がいっぱいあるんです!」
「それで私達もそう呼びたいなって思ってまして······。お願いします。そうお呼びする許可をください!」
「「「お願いします!」」」
3人に頭を下げられちゃった。
まぁ······お姉様呼びなんて今更感はあるから別に構わないんたけどね。
ほら、葵の友達の千紗ちゃんなんかは『お姉様』って私の事を呼んでるからね。
「まぁ、別に構わないよ。『お姉様』って実際にそう呼んでくる子もいるからね。」
「ありがとうございます!」
「やった!このはお姉様オッケーだって!!」
「うん!やったね♪嬉しいな!」
キャッキャッと飛び跳ねて喜んでる、新井さん達。
余程嬉しいみたいだね。
これだけ喜んで貰えるなら、私としても良かったのかな?
「鈴宮先輩!これからもよろしくお願いします!!」
「貴重なお昼休みに時間を作ってくれて、ありがとうございました!」
「お会いできて、とても嬉しかったです!」
その後、下級生の女の子3人は改めてお礼をして言って教室へ帰って行きました。
見送りながら一緒にいたみんなが、やけに静かになったなって思って振り向いたの。
「どうしたの?みんな?」
どうしたんだろ?って思い声をかけてみたんだけど······。
「「「「このはお姉様〜〜♡」」」」
「え!?? なになに?!?!」
「キャーー!言っちゃった!」
「言っちゃったね〜♪」
「ちょー恥ずかしいんだけど!!」
「うん!分かる分かる。凄く顔が照れるよ。」
みんなが私をお姉様呼びして、キャーキャーと喜んで照れて楽しそうにしてる。
なんなのよ、もう〜······。
「みんな? さっきの会話を真に受けたの?」
「うん?まぁ、ないとは言いけれないけどさ······前々から、それこそ1年生の頃から『お姉様』って呼んでみたいのはあったんだよ?このはちゃんって偶に同い年に見えない時とか、そういう雰囲気を醸し出してたりしてた時とかもあったりしてたからさ。」
「「「「そうそう!!」」」」
彩ちゃんがそう言って、みんながそれに同意して頷いてる。
あ、茜ちゃんはそうでもない顔をしてるね。
「そうなんだ······で、どうだった?『お姉様』呼びは?」
「私は元々そういう感じは持ってなかったから、イマイチかな?『このはちゃん』の方が私はいいな♪」
そう言うのは茜ちゃん。
まぁ茜ちゃんは私に対してお姉様っていうより、お母さん的な甘えたい気持ちを持ってるから違うんだろうね。
「私も何か違うかなー?」
「私もだよ! 言ってみたいのはあったけど、いざ言ってみると何かしっくり来なかったな?」
「あー、分かる分かる。 なんだろうね? 『このはちゃん』に慣れちゃったのと、『ちゃん』の方が浸しみとか友達感を感じるからかな? やっぱり今までのままが1番いいかな。」
みんなもいざ言ってはみたものの、やはり何か違ったっぽいみたい。
言い慣れた呼び方を変えるの、意外と大変だったりもするからね。
私だってクラスのみんなを『ちゃん』付けで呼んでるけど、これを呼び捨てにしてって言われても多分無理だと思うし。
「「「「こ〜のはちゃん♪」」」」
「······なーに?」
「うん。これがやっぱり1番いいな♪」
「そうだね!しっくりくるよ。」
「「うんうん!」」
「はい。それは良かった。さて、もう用も済んだしお昼休みも終りに近いから戻ろっか?」
「「「「はーーい。」」」」
ドタバタしたお昼休みも、もう終りに近い。
下級生の間でそういう事があると知ったお昼休みだったけど、クラスのみんなは私の事をいつも通りに呼んでくれるので良かったです。




