ある日の朝の出来事①-2 高2(挿絵有り)
ガラガラガラ······
「おはよ〜♪」
何時ものように教室の扉を開けて、中にいるクラスメイトの皆に朝の挨拶をします。
「このはちゃんおはよー!」
って、いつもは返ってくる挨拶が今朝は違ってなくて、代わりにみんなが一心不乱にスマホを弄くってる。
「あぁ!!見つからねぇーー!!」
「こっち取り扱いなしって出てるんだけどー!?」
「ちょっと、茜ちゃん! あなた何処で買ったのよー??」
······なにコレ??どういう状況なのかしら?
男女関係なしに飛び交う声。
売ってないだとか取り扱いがないだとか······。
何の事だかさっぱり分からないけど、取り敢えずいつもの朝とあまりの違いにポカ〜ンとなる私。
声をかけようとするにも、随分と真剣にそして必死な感じでポチポチとやってるものだから声もかけづらくって······。
取り敢えず鞄を机の脇にかけて、自分の席に座った所で声をかけられた。
「「このはちゃん、おはよ〜〜♪」」
「おはよう、茜ちゃん。志保ちゃん。」
声をかけてくれたのは茜ちゃんと志保ちゃんで、残りの皆はまだスマホ。
というか、私が来たのにも気付いてないっぽいよね?
「ねぇねぇ?茜ちゃんに志保ちゃん。これってどういう状況なの?皆してスマホって一体何があったの······?」
気になって仕方なかった事を、2人に聞いてみます。
すると「ああ、これはね······これが原因なんだよ」って、志保ちゃんが何やら雑誌を取り出して見せてくれた。
表紙には白いドレス姿の私?
「これってブライダル雑誌なんだけど、なんでこのはちゃんがウエディングドレス姿で載ってるのよ?! 私これを見つけたらパニックになったんだけど!?」
「そえそう!私達びっくりしちゃったんだからね!一体どういう事なの?説明して!!」
そう言いつつ詰め寄ってくる、志保ちゃんと茜ちゃん。
「ストップストップ! ちゃんと説明するから一先ず落ち着いて。ね?はい···深呼吸〜。吸って〜···吐いて〜···。」
すぅ~···はぁ~······と、2人に深呼吸をさせて落ち着かせる事にしました。
そうでもしないと説明も出来なさそうだったからね。
そして私は2人を宥めつつ、雑誌に目を通す。
まさか、表紙を飾るとは思わなかったな······。
栗田さんから雑誌に起用するような話は聞いてたけどさ······。
「えっと、これはね、「やったー!買えたよ!!」···あら?」
「私もー!」
「俺も俺も!GETだぜ!!」
経緯を話し始めようとしたタイミングで、みんなが動き出したの。
なにやらやってたスマホ操作が終ったらしいです。
「あ!このはちゃんだ!おはよー!」
「おはよー、このはちゃん。」
「鈴宮さん、おはよう。」
「おはよう、みんな。もうスマホは大丈夫かな?」
まだ操作をしてる子もいるけど、挨拶をがてら一応確認をしてみます。
「「「大丈夫だよー」」」
「俺もね!」
「そっか。なら良かったよ。」
「で、これはなんなのかな??このはちゃん!」
そう言いつつ、指で指してるのは机の上にある例の雑誌。
みんなして「そうそう、それなー」なんて言ってさ。
「ちょうど今、それを説明してくれる所だったんだよ。そしたら皆が復活したから中断されちゃってさー」
「それはごめんごめん。」
志保ちゃんがちょっとだけプンプンしながら、言ってます。
こんな志保ちゃんを見るのも珍しいなって思いながら、そんな皆のやりとりを眺めてます。
「ごめんね、このはちゃん。で、結局どういうことなの?これは??」
やっと戻ってきた、話の流れ。
改めて経緯を話そうと思った矢先···
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン······
「「「「 ········ 」」」」
「うそーー?!」
「何でこのタイミングなのよ〜!!」
何とも言えないタイミングで鳴ったチャイム。
そして、説明をお預けにされ残念がるみんな。
まぁ仕方ないね。
「また続きはお昼休みでいいかな?その時なら他のみんなも聞けるだろうし?」
「うん······聞きたいのは山々だけど、時間だしね。お昼休みにお願いね?」
「おっけい!」
そういう訳でこの雑誌の経緯については、お昼休みにって事になりました。
ガラガラガラ······
「席につけ〜。出席をとるぞー。」
高橋先生がやって来て本日の学校が始まります。
さてさて、本日もどうなるやら···。
ーーーーーーーーーー
お昼休み。
私にはごく普通のお昼休みなんだけど、みんなにとっては違ったみたい。
今か今かとそわそわしてて、お昼間になったらいつもより素早く机を集めてきてさ、「さあ!食べるよ!」だって。
そんな盛り上がる皆の中で、志保ちゃんと茜ちゃんは比較的落ち着いてたね。
特に志保ちゃんは休み時間になる度に、雑誌を開いて私の所を眺めてるの。
他の子も来て、「これいいよねー?」「私は断然こっちだなー。」とかって盛り上がってさ。
他の子は他の子でまたスマホを弄りだす子も相変わらずいてさ、さすがに志保ちゃんに聞いたんだよね。
そしたら、
「あの子達はね、この雑誌をネットで買おうと頑張って探してるんだよ。」
って教えてくれたんだ。
ウエディングなんてまだ先じゃない?って思ったりもしたけど、そしたら私のウエディングドレス姿を見たいから買うんだよって教えてくれてさ。
自分用の情報じゃなくて、私の写真が目当てなんだ〜なんて思った。
嬉しいやら恥ずかしいやら······でも、やっぱり嬉しいかな♪
「あれ?じゃあ、志保ちゃんは持ってるけど茜ちゃんはもう買ったんだ?」
「うん。私は朝にたまたま入ったコンビニで見かけてさ、店内にあったの全部買い占めてきたよ。」
「買い占めたって······それはまた凄いね。因みに何冊?」
「3冊♪」
満面の笑顔でドヤってくる志保ちゃん。
素敵な笑顔だけど、そんな3冊もいるのだろうかと思ってしまった。
「私は志保ちゃんが見せてくれた時に、真っ先にネットで購入したんだ。皆がキャーキャー言ってる時だったから、直ぐに買えたよ♪因みに私も3冊ね♪」
「あぁ、なるほど······。だから私が教室に入って来た時に2人共私の所に来れたんだね。」
「「そうそう。」」
「そうそう」なーんて言ってるけど、ほんと2人共凄いよ。
志保ちゃんもそうだけど、茜ちゃんも負けず劣らず3冊ってさ······。
しかも最後なんて『てへっ☆』って付きそうな感じて、可愛く言っちゃっても〜。
さすが茜ちゃんだな〜って感心するのと同時に、朝の変な光景の謎が解けたのでちょっとほっとした。
つまり、志保ちゃんと茜ちゃんはもう購入済みだからOKで、残りのみんなはあの時ネットで雑誌を探してたという事だったみたい。
まぁその原因が私だったみたいだけどね······。
「それにさ、たぶんだけどこの手の雑誌って発行部数が少ないと思うんだよね。漫画雑誌やコミックと違って買う人が限定されるから。だから売りきれても増刷しない可能性もあるから買った者勝ちだよね。」
そんな事を笑顔で言う志保ちゃん。
勝者の笑顔ってやつかな?凄くいい笑顔してるよ。
それを聞きつつ頷いてる茜ちゃんも、もちろんなんだけどね。
そんな休み時間のやりとりもあっての、お昼ごはん。
素早く机を寄せ集めて皆で「頂きます」をする。
この机集めも本当に早かったなーと思うよ。
場所は大体決まってるから該当する男の子もすぐに移動してくれて、使わせてもらってるの。
当然男の子達にも私達の机を貸してはいるけれど、誰も文句は言わないよ。汚したままにしなければだけどね。
それと私達女の子はほぼ皆で食べてる。
これも1年生の時からの続きかな。
男の子も大半は教室に残って食べてて、これは私達の教室が5階ってのが影響してて、他の場所に行くのが手間というのが大きいみたい。
だから弁当なんかも家かコンビニとかで買ったりした物を広げて食べるし、購買まで買いに行く人は今となってはいないみたい。
「で、このはちゃん。改めてなんでこのはちゃんが、このブライダル雑誌にドレス姿で載ってる訳?」
「「「そうそうそう!」」」
「何で何で?」
「凄いビックリしたんだからねー?!」
志保ちゃんに改めて問われて、それに付随するようにみんなからも口々に言われたよ。
私はみんなをクルッと見渡してから、そっと静かに始まりから説明を始めたんだ。
「きっかけはね、3学期の時に学校側から今年の学校案内用のポスターのモデルをやってくれないか?って頼まれた事なんだ。で、それを受けたんだけど、その時のカメラマンさんと仲良くなって今度はこっちでもモデルをやらない?って誘われてね。アルバイト的な感じでやることにしたの。」
「「「「「おぉ〜〜!」」」」」
「すごーーい!!」
「モデルさん来たー!!」
「このはちゃんにうってつけのお仕事だね!」
みんなが何だか凄く盛り上がってる。
キャーキャー言っちゃってそんなにいいものなのだろうか?と、私は思ってるんだけどね。
だってそんなにモデルというのに憧れとかは持ってなかったからさ。
「それでこのはちゃんは、ウエディングドレスの撮影をしたんだ?」
志保ちゃんにそう聞かれて。
「そうなんだ。本来は普通に洋服の撮影だったらしいんだけどね、なんか向こう······えーと、クライアントさんの方から変更があって急遽ドレスの撮影でもいいかな?って言われたんだ。で、私もそれを了承して撮ったって訳。」
「へぇ〜···そういう事があるんだ······。」
「私もその辺の事情はよく分からないんだけどね。でもまぁ、撮影に関してはそんな感じだよ。雑誌については使われるような事は聞いてたけど、まさか表紙とは思わなかったし······。」
大雑把だけど全体の流れを話て、概ね納得してくれたみたいです。
さっきみんなに話した様に、私としても本格的にモデルをやるわけでもなく、タイミングや撮影場所とかの都合がつけば程度で少しだけやるつもりだからね。
あんまり詳しいことは分からないです。
「ねぇ、このはちゃん?」
「ん?何かな?」
茜ちゃんが真剣な面持ちで尋ねてきた。なんだろ?
「いくら撮影とはいえ、ウエディングドレスなんて着ちゃってよかったの?その······以前に結婚する気はないとかって言ってたけど、それでも気が変わったりする事もあるかもしれないじゃん?」
「あ〜···たしかに、それはあるかも?」
「そうだよね?もしその時があれば感動が薄くなっちゃう?」
茜ちゃんの心配に合わせて、みんなも気を使ってくれた。
そしてこれは葵にも心配されたなって思い出した。
でも大丈夫だよ。ありがとう。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね。私のその想いはきっと変わらないって誓えるから、心配はないよ。それにね、モデル写真とはいえ、きちんとしたウエディングドレス姿を両親に見せることが出来たから、これはこれで良かったと思ってるんだ。」
そう。
これは紛れもない私の本心。
私は自分で誓った事、特に雪ちゃんを産むと決心してからの事については破ることなくやり抜いてると思ってる。
そして破るつもりもない。
だから結婚もする気もないし、ウエディングドレスも着ることはない筈だった。
それが何の因果か着ることになったわけだけども、逆にドレス姿を見せられたから良かったと思ってるんだ。
お父さん達のあの喜びようを見れば一目瞭然だし、私だって雪ちゃんのウエディングドレス姿は見たいって、まだまだ先の事なのにそう思ってはいるからね。
そうして色々と話しながらお昼休みは進んでいく。
今日のお昼休みは私のウエディングドレス姿で盛り上がりながら······。
「そーいえば、さっきこのはちゃんが言ってた学校のポスター?それってどうなったんだろうね?」
「確かに······。後から撮ったドレス姿が雑誌になってるんだから、ポスターなんてもう出来てるだろうに見かけないよね?」
「「「うんうん!」」」
「「見かけないねーー···。」」
「どうなったんだろうね??」
新しい事案が発生した。




