ある日の出来事③-2 高2(挿絵有り)
「お父さん、お母さん。ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
時間は22時になるちょい前頃。
雪ちゃんを寝かしつけて完全に寝モードになったのを確認したあとに
、私はリビングに降りてきた。
決して雪ちゃんの寝顔を見つめ過ぎて遅くなった訳ではない。······多分。
リビングに来ると、お父さんとお母さんはまだ居てくれた。
良かった。一安心です。
でも葵は······いないね?
1階に降りてくる時に部屋にもいる気配がなかったから、そうするとお風呂かしら?
まぁ、あの子のお風呂も長いからもしかしたら話の途中で来るかもしれないけど、同席してても変な話をする訳じゃないからいいんだけどね。
「相談?」
「何かしら??」
お父さんとお母さんが首を傾げてる。
こんな時間にいきなり来て『相談』とも言われれば、そういう反応にもなるのかな?
それに内容だって流石に想像つかないだろうからね。
「進路の事でちょっとね······。」
「進路か···ちょっと待てな。」
そう言って飲みかけのお酒かな?をグビグビと飲むお父さん。
「そんな急いで飲まなくてもいいのに···。勿体ないでしょ?」
「いや、もうそんなに残ってなかったからいいんだよ。それにこのはの相談ってのは真面目な話が多いだろ?だから父さんとしてもキチンと聞きたいんだよ。まぁ、飲んじゃってる時点で少し酔いが入っちゃってるけどな······。」
「そうね〜。ビックリする話もあったりもしたけど、話が進路ともなれば真面目な話だもんね。お母さんとしてもしっかりと聞くわよ。で、進路についてらいしいけど、どうしたの?」
お母さんが促してくれたので、ソファーに腰掛けてから話し始めます。
私の今後について大切な事を。
「単刀直入に言うとね、私、大学に通いたいの。雪ちゃんがいるから去年までは卒業してから就職するつもりでいたんだけど、今はなりたい職業が出来て、その為には大学で資格を取らなくちゃいけないから。」
「大学ね〜〜···。」
「大学か······。因みに、そのなりたい職業ってのは何だ?」
お父さんが、あまり家では見せない真剣な顔をして聞いてくる。
きっとこれが仕事モードのお父さんの顔なのかな?なんて、思ってみたりもした。
「なりたい職業は『教師』なの。学校の先生で教科としては数学。その為に教員免許を取りたくて。」
「教師か······。」
「先生ねぇ〜。意外な職業が出てきたけど、何でまた先生になりたいと思ったの?このはが勉強を出来るのは知ってるけど、だからって教師ってのもねぇ?」
当然の疑問だよね。
今さっき、去年までは卒業したら働こうって思ってたと言った私が、大学に行きたいだもんね。
それも具体的に『教師になりたい』だし。
理由が知りたくなるのも分かるよ。
「切っ掛けは去年、クラスの友達に勉強を教えてって言われた事なの。で、それが評判でお昼休みを利用してクラスのみんなに数学を教えてて、たまに自習の教科が出た時も1時間フルで教えてたの。黒板に解説を書いたり個別に教えたりして、イメージとしては予備校とか塾の先生に近いのかな? 塾とか行ったことないからよくは分からないけど、取り敢えずそんな感じでやってたの。」
「凄いわねー···。そんな事をやってたなんて······。」
「このは······お前、そんな事をしてたのか。」
「うん。2学期からね。そうしてたらみんなの成績が上がって喜ばれて、『私の教え方が上手だね』とか『解説が解りやすい』とかって言われたの。そうしたら次はどうしたらもっと解りやすく上手に教えられるかな?なんて考えるようになって、いつしかそれを考えてる時やクラスのみんなに教えてる時間が楽しくなってる自分に気が付いたんだ······。それで教師って職業になりたいなって思ったの。」
「「·········」」
お父さんとお母さんが沈黙してる。
これはどういった反応なんだろ?駄目だったのかなー??
取り敢えず、私がそう思った経緯を話したんだけど理解し難いかな?
「相変わらず、大したものだな。」
「そうね···。私のお腹から出てきた子とは思えないわ······。」
「何それ、お母さん?」
お母さんが何か変なことを言ってる。
「褒め言葉よ。私は葵タイプ······違うわね。葵が私タイプなの。だからやっぱりこのはは、お父さん似ね?」
「いや···俺より凄いよ。俺だって今の会社に入っ時、そこまで思った事はないからな。会社の規模やイメージ、業務内容とか給与面とかで面接を受けてた口だから······。」
「そうなんだー。なんか意外だよ?」
私もちょっと前に知ったけどあそこまで出世したのなら、それなりの思いとかあって入社したものかと思ってた。
それがまさか給与面とかで見てたとかって言われたらねぇ······。
「若い時なんて余程コレだ!!って仕事じゃなければ、意外とそんなものだぞ?特に今は給料が良いとか休日がしっかりしてるだとか、残業の有無、勤務地は近いのかとか。合わなければ直ぐに転職ってのも多いからなー······。」
遠い目をしながらそう話すお父さん。
きっとお父さんの会社でもそういう新人さんが多いいんだろうなって、想像してしまった。
「で、このは。 その教師になりたいっていうの、父さんはいいと思うぞ?」
「ほんと!?」
「ああ。そもそも仕事、職業に対して明確にこれになりたい!やりたい!!って思える事自体が稀だと思うしな。」
「確かにねぇ···。私も何となくで就職した口だから、やりたいって職に出会えるのっていいと思うわよ。」
「それにこのはは、先生っぽい事をして実際にクラスメイトの成績をあげたっていう実績もある。それを受けたクラスメイトからの評判も良くて、このは自身もその先を考えたりしてやり甲斐や楽しさを見出したんだろ? それって仕事をするのに凄く大事な事で、同時に向いてるんだと思うよ。」
「···お父さん······。」
「勿論、教師は教師で教える以外にも沢山の仕事があるし、責任もある。まぁ、それはどんな仕事だろうとみんな同じだし、だったらやり甲斐があって楽しい、幸せ。そう思える仕事の方が大変でもモチベーションが保てるだろ?」
「そうだね。それは分かる。教師ってただ勉強を教えるだけじゃない事も。クラスを持てばクラス運営を考えなくちゃいけないし、生徒間のトラブルがあれば対処しなくちゃいけない。進路に対して適切にサポートしなくちゃいけないし······。とにかく大変なのは多少なりとも理解してるつもりだよ。その上でやりたいなって思う。」
そう。
とにかく教師は大変なお仕事。
ただ勉強を教えるなら塾とか予備校の先生でもいい。
けど、学校の先生はそれ以外にも沢山の仕事があり、トラブルが起きれば対処もしなくてはいけない。また、そのトラブルを未然に起きないように見てもいないといけないしね。
特にいじめや暴力といった問題は、度々報道等で取り上げられる程の深い問題だしね。
そういった事もあると理解したうえでの、私の選択。
「だから、父さんは賛成だ。大変だろうが頑張って教師を目指せ!······母さんは?」
「私も賛成よ。折角なりたいって職が見つかったんだもの。それを応援してあげるのが親ってものでしょ?それに葵もだけど、大学に行ってもいいように蓄えもしてあるから大丈夫よ。心配しないでね。」
「だそうだ。それにさっき言ってた就職するつもりだったってのも、雪の事を考えてなんだろ?」
「あ、分かる??」
「そりゃ〜分かるさ。このはが雪を妊娠してから何年になるって。その間のこのはの頑張りを見てればすぐにわかるよ。雪の事を第1優先に考えて行動してるって。」
あらら。
お父さんにもろバレしてたみたい。そんなに分かりやすかったのかな?私。
「このはが決めた事だから雪の事を第1優先でも構わないが、この進路の事は自分の気持ちを第1優先にしろ。仮に定年まで働くって考えた時に絶対にいいから。」
「うん。」
今の会社を20数年働いてるお父さんが言うのだから、そう思う理由があるんだろうね。
それはまた今度の機会にでも聞いてみようかな。
「それにさ···。」
「ん?」
「このはは、しっかり者で勉強も出来て子供もいて、つい忘れがちになるけどついこの前までは19歳だったんだぞ?世間の19歳っていったら大学や専門学校とかに行く者もいるが、休みの日っていったら友達と夜中まで遊んだり出掛けたり、バカやって、彼氏彼女に浮かれたり······まぁそんなもんだ。要は身体だけデカイ子供って奴だな。」
あはははって、苦笑いする私。
お父さんから見ると、そういう風に見えてるんだね(笑)
「その点、このは真面目でフラフラと遊んだりもせず、ずっと雪の事を優先して行動して。ちっとも子供っぽくない子供だったんだからな? 親としては凄いなって思ってもいたけど、心配もしてた。 それにな、もっと俺や母さんに頼ったっていいんだぞ?『雪ちゃんをおねがいします』って言って、友達と出掛けたっていいし。」
「そうね〜······。このはは小さい時からしっかりしてたし、雪ちゃんを妊娠してからは更にそれに磨きがかかったからね。しっかり頑張らなくちゃってのは分かるけど、もう少し私達に甘えてもいいのよ?今更だけど······。」
「ありがとう。お父さん、お母さん······。まぁ、今更直ぐには無理だけど、努力はするよ?」
「ああ。それでいいよ。」
そうは言ったものの、恐らく無理だろう。
予定によってはお願いをする事も今まで通りあると思うけど、お父さん達が期待する様な事はまずしないと思う。
だって、私が雪ちゃんと一緒にいたいのだから。
雪ちゃんが私と一緒にいたいと思ってくれてる内は、私は雪ちゃんと一緒に過ごす。
友達と出掛けるにしても、雪ちゃんがいる時は一緒に。
それが出来ないなら無理して出かけないつもりだし。
それくらいの想いは持ってる。
雪ちゃんを愛してるから。
そんなこんなで話を色々として。
お父さんとお母さんには敵わないなーって改めて思ったりもした。
成人はしてるけど、まだ学生なんだから生活費の事は気にするなとか言われてさ。
それと子供はいるけど、それは突然の妊娠で元々は私が望んだ物ではなかったし、S◯Xして子供を作ったのなら私にも責任があるけど、そうではないから生活面もいままで通りでいいよって。
私自身もそれなりには収入があるから、雪ちゃんのことに関しては自分でお金を出してはいるけどね。
ほんと、頭が下がる思いだよ。
それとね、肝心の大学についても聞かれたよ。
「このはの事だから、大学についてももうある程度決めてるの?」って。
「うん。◯◯大学。ここなら家からでも通えるしいいかな?って考えてるの。まだ時間はあるから他も調べてみるつもりだけどね。」
「流石ね〜。」
そうお母さんに感心されちゃった。
でも、自分の事だから事前に調べるのは大事な事だよね。
それも時間の余裕があるうちにさ。
私が取得したい教員免許は4年制の大学でしか取れないし、それを取得できる学部や学科がある所でないといけない。
おまけに私としては自宅から通える大学にしたいから、尚更事前に調べとかないとね。
あとは先輩でもある先生にも、意見を貰えたらいいなと思ってるけど···。
「お風呂上がったよ〜〜って···お姉ちゃん?珍しいね?こんな時間にリビングにいるなんて。どうしたの??」
話しが一段落ついた頃に葵がやって来て、リビングの入口から顔をひょっこりと出した。
パジャマ姿な所を見るに、やっぱりお風呂に入ってたみたいだね。
「今ね、お父さん達に進路の相談をしてたんだよ。話自体は、丁度終わったトコなんだけどね。」
そんな葵に手をピラピラと振って応える。
「そうなんだー。」
「そうだ、葵。ちょっとそこに、このはの隣に座りなさい。」
「ん?なーに??」
お父さんに言われて隣にやって来る葵。
私も少し横にズレてスペースを空けます。
「今な、このはから進路について相談を受けてな。葵の方はどうなってる?ぼちぼち話とか葵自身で考えとかは出て来てるのか?」
「う···進路か······。」
お父さんの質問に対して返答に詰まる葵。
この感じだとこれと言って、具体的な考えはまだないのかな?
それはそれでもいいとは思うし、急ぐものでもないからね。
クラスのみんなにも伝えたけど、まだ時間はあるからじっくり考えて欲しいなとは思う。
さてさて。葵はどう答えるんだろ?
お姉ちゃんとしても葵の進路には興味はあるし、手助け出来る範囲なら勉強とかも見てあげるから······。
頑張れ!葵!!
無事、お父さんを乗り切って!!
いつも当作品を読んで頂きありがとうございます。
お陰様で連載も100話を突破しました。
まだまだ未熟でありながらも、ここまで連載を出来て驚いているのもありまた、嬉しくも思ってます。
次回、100話突破記念としてちょっとした特別編をお届けしたいと思ってます。
お楽しみにして頂けたら嬉しいです。
引き続き当作品を宜しくお願い致します。




