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〜13の決断と14の涙〜 -後編- (挿絵有り)

2024.04.08  加筆修正しました。

「結論から申し上げます。このはさんは妊娠しています。」


時が止まった。

先生の口からあり得ないと思っていた事が告げられ、確定した瞬間だった。


私はパニック中。お母さんも右に同じ。

2人して固まり、口だけをパクパクしてる様なそんな感じ。

そんな私達が理解して動き出すのを静かに見守っててくらる先生だけど、きっと先生も混乱してるんじゃないかなー?なんて、頭の片隅で一瞬思ったりもした。

そして混乱の中、必死に頭を働かせて言葉を出します。


「先生。私、保険の授業で習いました。赤ちゃんが出来るには男性が必要だって事。だけど私は、そういう行為はしてないです!」


「そうです、先生!私もこのはからその様な事をしたこともされたこともないと聞いています!何かの間違いではないですか!?」


お母さんも援護してくれてます。

必死に間違いではないか?と先生に詰め寄って、ある意味私以上に必死になってくれてる。

まぁ、でもそうだよね。

自分で言うのもあれだけど大事な娘が、それも13歳の中学生が妊娠なんて信じたくもないし、信じられないよね。

しかもそれが、相手が必ずいる物だけに······。



「落ち着いて下さい。鈴宮さん······。それを含めてこれから順に説明をしていきますね?」


と先生。

先生曰く、まず私の子宮に赤ちゃんがいるのは間違いない事実との事。 

これは超音波検診とかで検査した映像を見せてくれて説明してくれました。

今は3Dで赤ちゃんの様子が撮影?出来たりするらしいので、後でくれるとのこと。


次にこれは先生も謎らしいのだけど、私に性交渉の形跡がない事。

当然だよ。私、処女だもん。恥ずかしいけど······。

好きな男の子も特にいないし、そういう行為をした事もされた事もないって言ったし。


だから先生も困惑してるんだって。

ただそれなので内診については通常の内診より負担がないように配慮しました、と言ってくれました。

それは何となく感じてはいたよ?

内診の時に先生がそれっぽい言葉をかけつつ、診てくれたからね。


最後にこれが肝心で、まだ今ならぎりぎりで堕ろすことが出来るとの事。

ただし、もう中期に入ってしまってるので、実行するとなるとかなり肉体的にも精神的にも負担が大きくなるから、出来ればお勧めはしないって先生が言ってました。


「ただ、本当に時間に余裕がないので4日後の午前11時半、午前の最後に予約を入れときますので多少遅れても構いませんので来て下さい。そしてその時の返答しだいで直ぐに手術に入れるように手配します。」


と、仰ってくれました。

暗くなる私達。

あまりの展開に頭がついて行かなくて、何をどうしたらいいのだろうと考えてしまう。

取り敢えず堕ろすのか堕ろさないのか?

それを決めなくちゃいけない、ただそれだけを頭にいれた。



終わりに超音波の写真を貰ってまだはっきりとは分からないけど、ここが頭でここが胴体だねって説明をうけました。

お母さんは少し先生と話ししてくるとそのまま残り、私は受付のあるロビーへと向かった。


ぼ〜っとしながら待つこと暫くして、お母さんが戻ってきた。

私の隣に腰掛けて「はぁ······」と、ため息をついて······。


「大変な事になったわね······。このは、貴女大丈夫??」


「うん······。まぁ·····混乱はまだしてるよ?でも······ありえないけど、もしかしてって思ってた部分もあったから、少しだけマシ······。」


「そう······。」


お母さんもお母さんで、ダメージがかなり大きい模様です······。

まぁ、そうだよね。

さっきも思ったけど、娘が妊娠だもんね。

私も混乱とショックを受けてるのはあるけど、お腹の膨らみを見て少しは考えていたから、そのちょこっとの部分だけマシ······かな?


その後、会計をしてから帰りました。

お互いに口数も少なくてお母さんの状態が心配ではあったけど、行きよりもゆっくりの安全運転で我が家に戻った私達。

静まり返った我が家。

それもそうでお父さんは会社、葵は小学校に行ってるから家の中には誰もいないからね。

靴を脱いで部屋に戻ろうとした私に、お母さんが声をかけた。


「このは。お父さんには私から上手く話をしとくから、このははこっちの事を気にしないで自分の事良く考えて。」


「うん······。」


「お母さんの口から、堕ろす堕ろさないのかは言わないわ。ズルいかもしれないけど代わってあげられない以上、これはこのは自身で決めないといけない事だから·····。ただ···どんな選択をしても、お母さんはあなたの事を支えるから、期限まで1人で悩まないで相談に来なさいね? 何はどうあれ、私はこのはの事を信じてるから。」


「······うん。ありがとう······、お母さん。」


お母さんにお礼を伝えて、私は階段を上がり部屋に戻りました。  



部屋に戻るとカバンから例の写真を取り出して、ベットに横たわりながら写真を眺めます。

病院で先生からの頂いた超音波の写真。

先生には分かるみたいだけど、私にはまだどこがどうだなんて分からない、そんな写真。

でもこの子が私のお腹の中に、子宮の中でいて生きている。

まだ男か女か分からないけど、一生懸命に大きくなろうと頑張ってる。

自然とお腹を擦りながら、私は短い限られた時間の中で決断を決めないといけないのでした。


挿絵(By みてみん)




  ーーお母さん視点ーー


このはが部屋に戻るのを見送ったあと、私はリビングに戻り珈琲を入れて一息つく。

あまりの驚きの連続で疲れた······。でもそんな事は言っては駄目ね。あの子はもっともっと苦しんで悩んで悲しんで······。

それは昨夜の泣きぶりからでも、十分に分かるというもの。


私の娘、このはは私がきちんとした容姿で産んであげられなかった為に、幼かった頃はその容姿でよくからかわれていた。

それでも娘は捻くれることもなく、素直で優しくて我儘も言わない素敵な女の子に育ってくれた。

そんな良い娘なのに、まさかこんな事が起きるなんて······。

娘がそんなに悪い事をしたかしら?してないよね。

もし神様という者がいるなら、なんでこんな酷い仕打ちみたいなことするのか怒鳴ってやりたい!


珈琲を一口飲み、カップを置いて考える。

このはがどの様な選択をするかは分からないけど、私は娘の選択を尊重するつもり。


親の立場から言えば、堕ろしてと言うのが普通なのだろうか?

中学生という年齢。その後の高校や専門学校や大学。

学びたいという物があるなら進学はして欲しいと思うし、そのつもりで積立だってしてる。

ごく普通の恋愛とかを経験して欲しいというのもあるし、その先の仮に出来婚だったとしても本人がそれでいいならそれでいいとは思って入る。


だけど、産むとなれば話は違う。

まぁ、本音を言えば私としては産んで欲しいとは思う。

まだ混乱はしているけれど、このはの子供である以上は私の孫でもあるから。

でもそれは、中学生で母になる娘に膨大な苦労、苦痛、精神的な負担などをかけることにもなるし、また今後の青春時代や未来といった先ほど思った事を全て犠牲にする可能性が大きい。

それに産まれてきた子が大きくなった時、その出生を知ったら多いに傷つくのは目に見えて予想できる。  

誰とも分からない父親という存在の事や、若くして産んだ事で苦労した母親の事。


でも······、堕ろしたら堕ろしたらで娘の性格を思えば後々までそれを引きずることも安易に予想できるし。

いや、確実に引きずるわね、あの子は。

このはは、私が言うのもあれだけど性格も良くて優しいのよ。

そう、優しいの。

それがかえって足を引っ張り、このはの精神に多大なダメージを与えかねない······。


だから安易に堕ろしてとも言えないし、産んでとも言えないのよ······。

結局どちらを選んでも茨の道ね。

でも、私は母親として娘を全力で支えると改めて誓います。




次に考えるのは、病院で先生と2人で話した時の事。

2つ目の事だけども、娘がまだ処女だったのにはホッとしている。月並みの言葉だけど傷物にされなくて良かった、と。

でも、先生はその事と記憶がないと言う娘の話で事件性を疑った。

当然だよね。

子供が出来るのには当たり前だけど精子が必要で、一般的には性交渉を経て妊娠をする。

今回はその痕跡が全く見当たらなかったので、例えば人工受精みたいに器具を使い注入するか、もしくはは直接膣口にあてがい挿入をしないで注ぎ込むとか、そういった何か変則的な変態じみた事をしないとでも妊娠はしないだって。

そしてそれを行うには当然暴れる事が予想される訳で、そんな状況ではとてもじゃないが出来ない。

だから薬品か何かで眠らされた上で実行され、記憶がないのもその影響か又は余程のショックの為に一時的に記憶喪失状態になっているのではないかというのが先生の推測。

でも、それはあくまで現状での先生なりの憶測でしかなく、真相はやはり調査しないと分からない。


話を聞いていてそれを想像するだけで、吐き気を催し怒りがワナワナと湧いてきた。普通そこまでする??

でも、そうなると知能犯で相手は大人?

握りしめた拳をさらにギュッとする。

警察に相談なさいますか?と聞かれたけれども、一先ずは保留にしてもらった。

旦那の意見も聞かなくちゃいけないけれども、それよりまずこれ以上事を大きくしたくないのが本音。

娘が落ち着くまでは、ちょっと静かにして欲しいなと。

先生も後々警察に行くかもしれないことを想定して、データーと書類等は用意しときますと仰ってくださいましたしね。


とりあえず、今夜旦那に話ししないとね。




  ーーーーーーーー



夜。


リビングでお酒を飲んでる旦那に声をかける。

本当は飲む前に話をしたかったのだけど、この人は一缶は必ず飲むので止められなかったのよね。

仕事のリフレッシュも兼ねてるから駄目とも言えないし、それに一缶で酔っ払う訳では無いから······。


「このはの事で話があるのだけど、良いかしら?」


「このは? 体調不良の件か?」


そう切り出し旦那の対面に座り、昨夜から今日の出来事を話します。

その後は予想通り大変だった。


「このはにね、赤ちゃんが出来たらしいの。もう中期ですって。」


と言えば、持っていたお酒を床にぶち撒けるわ、事件性の事を話せば今にも怒鳴りだしそうな旦那を鎮めるのに苦労した。

必死に必死に宥めた。

卑怯だけど、2階にはこのはもいて聞こえるからって、あの子の精神に負担がかかるからって、このはの存在を持ち出してしまったけどね。


「私は娘の選択を尊重したいと思ってるの。産みたいと言えば全力でサポートするつもりだから。······だから、出来たら貴方にもそうして貰えたら嬉しいかな。」


私は旦那に話した。

本来あったであろうこのはの未来、このはの優しさとそれ故の堕ろした場合の精神的なリスク、様々な事を懸案して私なりに結論を出したこと。


暫く黙り込み考え込んだあと「わかった」と、一応の承諾を得てホッとした私。

今夜はこれで一先ず話を終わりにします。 

まだまだ考えなくては行けない事はあるけれど、混乱してる中ではこれが精一杯。

また明日、旦那と相談をしなくては。そう思った。


そして、娘は······このはは、どのような選択をするのだろうか······。





  ーーこのは視点ーー



月日が経ち再びの病院が明日に迫った前日の夜、私はリビングで両親と向き合います。

実はここ数日、お父さんとは顔を合わせてなかったんだよね。

お母さんや事情の知らない葵は部屋に来て一緒に遊んだりはしてたんだけど、お父さんとは何となく顔を合わせ辛くて。


なんでだろうね?

これが発覚する前まではごく普通に会話もしてたのに、急に会えなくなったんだ。

怒られるとかそういう感じとかではなくて、うーん······なんだろう??

妊娠して男の人のあれを変に意識してしまったからかな??




「お父さん、お母さん、私、決めました。」


そう話始めると、両親が緊張する気配がしてきました。堕ろすと思ってるのかな?

親の立場から思えば、誰とも分からない男の子供を産んで欲しくないっていうのがあるかもしれないよね。

それが普通だと私も思うし······。


椅子から立ち上がり横にズレて少し後ろに下がります。

そして·····手を床につけて土下座をした。



「赤ちゃんを、産ませて下さい!!」


はっきりと声に出し、想いを告げます。


「どうしてこうなったのかは分からない。悪い娘でごめんなさい。でもこのお腹の子には罪はないし、そして今この瞬間も私のお腹の中で一生懸命生きて大きくなろうとしてるんだよ。その子を堕ろすなんて事は私には出来ない!!」


「それに、子育てするのもすごく大変だって聞いた。私はまだまだ子供だし、学校の事もあるし、なによりこの子を育てる経済力がない。産んだ所でお父さんとお母さんに経済的な負担をかけちゃうのも理解してます。それでも、それでも······。」



そう、想いだけでは子育ては出来ない。

お金が、収入がないと生活もできないし、子供の為に何もしてあげられない。

そして私にはそれが全くない。何年かすれば仕事にも行けるだろうけど、少なくともあと2年はアルバイトも出来ずに無収入だ。



「お願いします!お願いします!! 学校を辞めても後悔はしません!お父さんとお母さんには迷惑をかけるけど、全力で頑張るから!我がままを言ってるのは百も千も承知してます!それでも······だから······産ませて下さい······。お願いします。」


頭を下げて必死に想いを両親に伝えます。

もう何を言ってるのか自分でも分からない程、涙を流しながら······。

ここで堕ろせと言われたら、私は一生後悔し多分もう生きていけない······。

赤ちゃんを認識してたった4日。

そう、たった4日にも関わらずそれぼど私はお腹の子に愛しさを、愛情というものを抱いてしまったから。

もう産み育てるという選択肢以外は考えられない!!


「この子の為に。」

「この子と一緒に私は生きて行きたいんです!!」



泣きながら。

頭を下げて。

必死にお願いをする。


無力で経済力もない、ただの13歳の中学生の私だけど。



「お父さん。お母さん。どうか私に、この子と一緒に歩む道を下さい。」



―― 13の冬、私は決断した ――

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