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87◇花を摘むように

 



 オルレアちゃんを含む、囚われた聖者たちの救出作戦が正式に決定。

 俺とお姫さんを含む五組の聖者で四方から侵入し、敵の軍勢をぶっ殺しながら進み、オルレアちゃんたちを取り戻すという、シンプルな作戦だ。


 十二聖者『炎天』『霧雨』『日蝕』の三組が、それぞれ一方向ずつ担当。


 俺たち『雪白』と、『深黒』の片割れマイラ、元十二聖者『吹雪』の聖女ネモフィラは四人で一方向を担当する。

 これは『雪白』『深黒』が学生ということもあり、戦力バランスを考慮してのことだろう。


「むー。むーむー!」


 会議が終わり、出発の馬車を待っている時だった。 


 『日蝕』の聖騎士が声を上げる。

 元殺人鬼で、全身を拘束されている異端の聖騎士である。


 少女は俺を見て何か言いたげな顔をしている。


「……黙りなさい。みなさまの迷惑になります」


 パートナーである、金髪の眼鏡美人が冷たく言うのだが。


「む~~~~!」


 聖騎士ちゃんの方に黙る様子はない。


「いい加減になさい」


 聖女ちゃんの方が苛立たし気に目許を歪めたところで、俺は声を掛ける。


「まぁまぁ。どうやら私に用があるようですし、口枷くらい外してやってもいいのでは?」


「……アルベール殿、でしたね。三百年揺るがなかった十二形骸による支配を、立て続けに終わらせた謎の英雄」


「守護竜も巨人兵も、私一人で討伐したわけではありませんよ。アストランティア様や、他の仲間たちの力あってこそです」


「左様ですか。ところで、この者の口枷ですが……ご要望とあればお外しいたしますが、注意事項をお伝えしたく」


「それはありがたい。美女からの気遣いならば、決して聞き漏らしません」


 お姫さんが何か言いたげに俺を見ているのが横目にも分かった。


「この者を拘束しているのには理由があります。足を自由にすれば人を蹴り殺し踏み殺し、腕が自由に動けば殴り殺し絞め殺し、口を自由にすれば噛み殺す。監獄食を食す際に出された木製の匙で、看守を殺めたこともあります。言葉だけならばと、口を解放するのは危険です」


「なるほど、随分とやんちゃな聖騎士のようだ。構いませんよ、話してみたい」


「……承知いたしました」


 聖女ちゃんが躊躇いがちに口枷を外す。

 すると、聖騎士ちゃんはニッコリと俺に微笑んだ。


「君さ、沢山殺してるでしょ」


 開口一番、そんなことを言う。


「……そうだな」


 形骸種(キュリオン)も人間だ。討伐と言おうが還送と言おうが、殺しには変わりない。


「ひと目見てピンときたよ……! あはは、すっごいね。百や二百じゃない……一度の人生でそれだけ殺せるものなの?」


 随分と鋭い。


 俺は、都市一つ分の形骸種(キュリオン)を皆殺しにした過去がある。

 お姫さんと逢ってからの日々でも相当殺したが、数で言えば三百年の積み重ねの方がよっぽど多い。


 確かに、一度の人生で手にかけるには、多すぎる数と言えるだろう。


「必要なら、数は関係ないだろう」


「ははは、そうだね。人ってのは、何人殺してもいいものだ。形骸種(キュリオン)殺しなんて最初は退屈かと思ったけど、あいつらって物言わぬ骸骨じゃなくて喋るじゃん? それ知った時、超嬉しくてさ。ちゃんと嫌がったり抵抗したりするんだよね」


 なるほど、これは殺人鬼だ。

 しかも、快楽殺人者。


 周りの奴らがみんな不快げな顔になっているが、少女は気にもせず続ける。


「いい仕事だよね。殺せば殺すほど世の為になるなんて! 肉を切る感触が少し恋しいけど、まぁそこは許容範囲というか。天職かも」


「口枷を外してもらってまで話したかったことは、それかい?」


「いやいや、そんなわけないでしょ。君となら友達になれるかなーって思ったのさ」


「友達?」


「好きこそものの上手なれって言うじゃん? それだけ殺してるなら、君も――殺すのが大好きなんでしょう?」


「……なっ!? アルベールを貴女と一緒にしないでください!」


 お姫さんが怒りに叫ぶが、少女はまるでお姫さんの存在を認識していないかのように、まったく反応を示さない。

 そのまま俺を見ながら話しかけてくる。


「そもそもおかしな話だよね? 普通の人だって、花を摘んでヘラヘラ笑うじゃない? 毟って、耳に掛けて、カップルで笑顔になったりするじゃない? 一時(いっとき)の楽しさの為に、花の命が失われると知りながら、躊躇いもしないじゃない? なのに、対象を人に変えただけで騒ぐなんて身勝手だよ」


「…………」


「私も君も、普通だよね? 束の間の満足の為に、命を摘んでいる。それって悪いことじゃないよ。だって、みんなやってる」


 殺人鬼も人間なので、それらしい理屈をこねることがある。

 正しさに理屈があるように、過ちにも理屈はあるのだ。


 俺は少女に微笑みかけた。


「花のたとえは、実に見事だな。だって、花は逆らえない」


「……は?」


「君は、自分より弱い相手だけを殺している。そうじゃないと、楽しめないもんな」


「……」


「暴力を正当化する奴が生き残る方法は、それだけだ。誰でもいいと口にしながら、自分が勝てそうな相手を頑張って選んでる。下手に強い奴を襲ったら、負けるかもしれないから」


「もしかして、喧嘩売ってる?」


「いいや、気になるだけだ。君は、自分が花の側に回った時、一時の楽しさの為に消費されることを嫌がったりはしないよな? それを否定したら、君自身を否定することになる」


「私は花じゃない」


「捕まって死刑になりかけたのに?」


「ふっ――」


 少女が笑った――のではない。


 口の中に隠していた何かを、俺に向かって吹きつけたのだ。


 それは小さな木片で、綺麗に俺の右目へと迫っていた。

 だが、届かない。


 俺が右手の指で挟んで止めたからだ。


「無理だよ。君じゃ、百年あっても俺は殺せない」


「……アルベールくんだっけ。名前、覚えるよ。私はラナンキュラス。いつか君を殺すから」


 どうやら友達候補から殺害対象に変わってしまったようだ。


「よろしく、ラナちゃん。その時までに、君が死んでいないといいな。殺人鬼でも、美少女が死ぬのは悔やまれる」


「は、はは。ほんと楽しみだね」


「いい加減になさい」


 聖女ちゃんがラナンキュラスの膝を踏みつけ、彼女を地面に倒す。

 そのまま口枷を嵌めるが、ラナンキュラスは逆らわずにずっと俺を見て笑っていた。


「失礼いたしました、アルベール殿」


「構いませんよ。それより、貴女の名前を伺っていませんでしたね」


「……カレンデュラと申します」


「よろしくお願いします、カレンデュラ様。それと、不要とは思いますが、ラナンキュラス嬢にはお気をつけください」


 この子は聖者という仕事を、楽しい遊びとしか思っていない。

 自分の聖女が貴族子女だろうと、何かの気まぐれで牙を剥きかねないのだ。


「承知しております。この者には『天聖剣』の所持を許さず、結界内でも刃を潰した剣を使用させますので、ご安心を」


「なるほど……」


 能力持ちの形骸種(キュリオン)から、能力を一つだけ奪ってストックできる剣――『天聖剣』。

 十二聖者にだけ貸し与えられる装備だが、ラナンキュラスはその所持を許されていないという。


 『身体強化』と『身体防護』の加護があるとはいえ、刃を落とした切れ味のない剣のみで戦わねばならないのは大変だろう。

 というより、そこまで戦力を調整しても、十二聖者を名乗れるレベルに強いということか。


 仲間にしておくには不安だが、戦力的には頼もしい。

 特に、こういう少数精鋭で大群に突っ込む時は。


 やがて迎えが到着し、突入ポイントごとにそれぞれ別の馬車に乗り込む。


「カンプシスちゃん、イリスレヴィ先輩、リコリスちゃん、カレンデュラ様、ラナンキュラスちゃん、どうか無事で」


「……君も武運をな、アルベール殿」


 一人だけ省かれた『炎天』の聖騎士グレンが苦笑いしながら、馬車に乗り込む。

 俺も、お姫さん、マイラ、ネモフィラと共に馬車に乗る。


「お姫さん、さっきは俺の為に怒ってくれてありがとな」


「……誇り高き我が騎士を愚弄することは許せません」


 お姫さんはまだ頬を膨らませている。


「あの者、アルベール殿を侮辱したばかりか、アストランティア様まで無視するとは……状況が状況でなければ斬っているところでした……!」


 マイラも憤慨しているが、(あるじ)の危機に仲間割れしている状況ではないと我慢したようだ。


「我慢出来て偉いぞ、マイラ。今大事なのは、オルレアちゃんたちを助けることだからな」


「はっ、承知しております……!」


「私も、微力ながらお手伝いさせて頂きますね?」


 ネモフィラがふんわりと微笑む。

 彼女の笑顔は随分と印象が変わった。


「あぁ、よろしく頼むよ」


 ともかく、作戦参加者たちとの顔合わせは済んだ。


 あとは突入するだけである。




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― 新着の感想 ―
[一言] 内輪揉めしまくってんな聖騎士。 そりゃ三百年も解決せん訳だわ。
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