78◇片腕の巨人兵は約束を果たす
『片腕の巨人兵』討伐の報は、瞬く間に王国中を駆け巡った。
今回の件で話題に上がるのは、主に三組だ。
『毒炎の守護竜』討伐に続き、今回の作戦でも活躍した『色彩』――『深黒』の聖者マイラ&オルレアペア。
『天庭の祈祷師』討伐を果たし、今回の作戦にて聖騎士が戦死した十二聖者――『吹雪』の聖者セオフィラス&ネモフィラペア。
そして、『毒炎の守護竜』討伐補助に加え、今回の作戦では自ら十二形骸を討伐してみせた『色彩』――『雪白』の聖者アルベール&アストランティアペア。
『魔女の末裔』であるオルレアとアストランティア、『英雄の子孫』であるマイラ、『立て続けに聖騎士を失った悲劇の聖女』ネモフィラと、注目を集める理由も理解できる。
ぽっと出の聖騎士である俺が、巨人を討ったという情報も、それなりに衝撃だったようだが。
そう。前回、守護竜エクトル討伐の功績はオルレアちゃんに丸投げすることが出来たのだが。
今回はそうはいかなかった。
目撃者が多かったので、誤魔化しようがなかったというのもある。
それに、なんやかんやと今回は集団戦による勝利だった。
止めを刺したのは俺の剣だが、だからって強制的に十二聖者任命とはならないようだ。
というか、お姫さんの成長を待ちたいという俺の考えを、作戦に参加したみんなが汲んでくれた、という方が正しい。
国に報告を上げる際に、『「雪白」ペアの功績は素晴らしいが、かといって十二聖者に任命するのは時期尚早』的な感じで、上手いことまとめてくれたようなのだ。
とはいえ、さすがに学園内で褒められるだけで終わり……なんてことは許されず。
俺たちは王都に召集され、短期間で三体の十二形骸が還送されたことを祝う式典に参加することとなった。
実際は墓守も死んだのだが、これはしばらく伏せることに。
『骨骸の剣聖』である俺もそうだが、自分の街から抜け出していたなんて説明するわけにもいかないからだ。
墓守に関しては、折を見て討伐されたことにするのだろう。
ネモフィラちゃんが言うには、数年は誤魔化せるそうだ。
黄金郷を担当しているのは彼女の実家なので、そのあたりは調整できるとのこと。
お姫さんが充分に成長したあとなら、俺たちの功績ってことにされても問題はない。
成長した俺とお姫さんが、黄金郷に踏み入り、墓守を討伐したというシナリオが王国に提供されるわけだ。
まぁ、これはいつかの未来の話。
とりあえず、世間的には三体もの十二形骸がこの世を離れたという扱い。
三百年間止まっていた時代の針が、突如動き出したのだ。
国中の注目を集める事態となっており、式典にはごちゃごちゃと着飾ったお貴族サマたちが沢山参加していた。
宝石や華美なドレスを纏う美女たちは目に心地よかったが、身分差からあまり親しくなってはいけないというのが生殺しであった。
料理が美味かったのは、よかったことに数えていいだろう。
あとは、それなりの報奨金が出た他、卒業後の地位が保証された。
聖者にも階級……というより等級がある。
どの程度の形骸種ならば還送できるか、という基準だ。
特級、上級、一級、二級の順。特級の更に上に十二聖者がある。
学園最優秀の『色彩』は、卒業後すぐに最低でも一級資格を与えられる。
今回、作戦に参加した学生組は全員、卒業後すぐに特級資格が与えられることになった。
これは異例の事態だそうだ。
あとは、名前の覚えられない仰々しい勲章も貰ったが、それくらいだ。
王への謁見の際、お姫さんが異様に緊張していたのは、微笑ましかった。
俺が普段通り過ぎて「本当に不敬には気をつけてください」と真剣な顔で言われた時は、さすがに茶化せなかったが。
まぁ、王都観光の話はいいのだ。
重要なのは、そのあとの話。
◇
まずは、『片腕の巨人兵』フィリムの件。
「アルくーん、こっちだよ」
『炎天』の聖女カンプシスちゃんが手招きしている。
彼女は黄色を帯びた赤い髪を、彼女から見て右側でサイドテールに結んでいる美女だ。
化粧や鮮やかな飾りのついた爪、短いスカート丈など、他の聖女とは少し趣きの違う格好を好むようで、言うなれば派手な子だ。
年齢は二十歳くらいで、ばっちり俺の好みに入っている。
普通ならば、そんな女性との逢瀬は楽しくてならないのだが。
今日の俺は、そのような気分にはなれなかった。
「あぁ、今行くよ」
俺は、彼女の地元を訪れていた。
ちょうど、お姫さんも実家に呼び出しを食らったようなので、別行動することに。
向こうはオルレアちゃんとマイラもついているので、問題なかろう。
カンプシスちゃんの方も、地元に巨人兵討伐の件を伝えたかったようなので、便乗させてもらったのだ。
「それにしても、アルくんって不思議な子だねー」
「そうかい?」
小さな町だった。
ギリギリ、町民同士が全員の顔を記憶できるくらいの規模だ。
そんな具合なので、町の人間がカンプシスちゃんを見る度に群がってきて、目的地に到着するまでが大変だった。
俺を彼女の恋人と勘違いして突っかかってくる男の多いこと。
彼女も笑うだけで否定しないので、突破するのが面倒だった。
「うちはさ、巨人兵に救われた人の話とか残ってるし、なんならその子孫とかも町にいるから、気にするのも分かるけど。君は違うじゃん?」
あの日、フィリムが救った者たちは壁の外へと逃げ延び、バラバラになった。
その内、あいつの母と友人たちは、この町へ辿り着いたようなのだ。
「まぁ、巨人兵を殺したのは俺だからな、挨拶くらいはしておこうかと」
「貴女の息子さんの魂は、解放しましたよって? アルくん、君、いい人すぎ」
俺たちは村外れの広々とした土地へ到着。
墓地だ。
「いや、貴女の息子さんを殺したのは、俺ですって言うつもりだったんだが」
「それだと、一気に悪い人みたいだね」
「不死者殺しが善行か悪行か、俺には判断がつかないよ」
「善行だと信じないと、心が苦しいよ」
「かもな」
善悪ではなく、俺は聖騎士だから不死者を殺しているのだ。
苦しさは関係がない。
それをわざわざ言う必要もないので、適当な相槌を打つ。
「……よし、到着。ここが『善き魔女』ウルリーカさんの墓です」
古びた墓標だ。手入れはされているようだが、刻まれた字が掠れかけている。
俺はそこに屈み込み、しばらく墓標を眺めた。
――お前の母親は、ここでちゃんと、お前の帰りを待ってた。
俺の中にあるのはフィリムの『索敵領域』であって、魂ではない。
だが、やつの記憶を見た以上、これくらいの区切りはつけてやってもよいと、そう思ったのだ。
「きっとまだ待ってる。今度は、お前が約束を果たしてやれ」
天の国があるのなら、フィリムの母はそこで息子を待っていることだろう。
魔女の呪いから解放されたのだから、もう再会できる筈だ。
そこで、こっぴどく叱られるといい。
ウルリーカには、息子を叱る権利がある筈だ。
己を受け入れてくれた街の為に命を捧げた、誇り高き親不孝者めと。
「よし。気が済んだよ」
立ち上がる。
もう此処に用はない。
「もういいの?」
「あぁ。よかったら、オススメの飯屋を紹介してくれ。腹が減ってきたよ」
俺がわざとらしく腹をさすってアピールすると、彼女がからからと笑った。
「あはは、うん、いいところあるよ。うちのママの手料理とかどう?」
「親御さんへの挨拶は、段階を飛ばしすぎていないか?」
「ひどい、真剣なお付き合いじゃなかったのっ?」
俺の冗談に即座に乗ってくれるとは、中々にノリのいい子だ。
これがお姫さんなら、何かを想像して顔を真っ赤にしているところだろう。
それはそれで愛らしいのだが。
その日、巨人兵還送の報を聞いたトリスリミガンテ生還者の子孫たちが、俺とカンプシスちゃんに涙ながらに礼を言いに来た。
親から子へ当時の話が語り継がれ、それが数世代も続いていたという。
まるで我が事のように、巨人兵の解放を喜ぶ様は、とても不思議だったが。
何故だか悪い気はしなかった。
ちなみに、カンプシスちゃんの母君の料理は非常に美味だった。




