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24◇入学式と差別




 入学式当日の朝。


 宿の廊下で待っていると、お姫さんの部屋に繋がる扉がゆっくりと開いた。


 中から出てきたのは、純白の制服に身を包んだ我が(あるじ)


 三百年前の聖女サマが着ていた修道服に似ているが、色が違うし丈が短い。

 色はともかく、丈に関しては動きやすさ重視でそうなったのだろう。


 癒やしの魔法を持ち、教会で働く人材だったのが三百年前。

 だが今は封印都市で不死者殺しをする職業になっているのだ。


「どう、でしょうか……?」


 聖女の衣装に身を包んだお姫さんが、なんだかそわそわしている。


「似合ってるぜ。俺が天に送られるなら、お姫さんみたいな聖女に頼みたいくらいだ」


 こんな聖女に殺されるのなら、本望だろう。

 まぁ、目的を果たす前に死ぬわけにはいかないのだが。


「それは褒められているのでしょうか?」


「もちろん」


「では、ありがとうございます。貴方も似合っていますよ、我が騎士アルベール」


 俺は俺で、懐かしの聖騎士衣装に身を包んでいる。


 細かい部分で変更点もあるのかもしれないが、特に違和感はない。

 まぁ、聖騎士は三百年前から変わらず戦闘職だし、欠陥や改善点がない限りはそう変わらんか。


「お褒めに授かり光栄です、アストランティアサマ」


「よいのですよ。では、参りましょうか」


 お姫さんと共に宿の外へ出て馬車に乗り込む。


 学園の正門前に到着したら馬車を降り、係の者の指示にしたがって移動。


 どうやら、入学式とやらは屋外でやるそうだ。


 訓練場と思しき、だだっ(ぴろ)い空間に出る。

 地面が剥き出しで、数百人くらいなら余裕で収まりそうな規模だ。


 というか、これは実技試験が行われたのと同じ場所だ。

 あの時は幾つかのステージに分けるために地面に線が引かれていたが、それが消えているだけ。


 お姫さんはなんだか緊張した様子。


 と、そこで俺の視界に赤と青が映った。


「お。クフェアちゃん! リナムちゃん!」


 そう、同じ受験者であり、孤児院でばったり再会した聖女と聖騎士だ。

 向こうも俺に気づき、こちらに近づいてくる。


「あ、あんたも受かってたのね。よかったじゃない」


「おう。そっちもおめでとう」


 クフェアちゃんが「当たり前よ」と答え、リナムちゃんが「ありがとう、ございます」と微笑む。


「アルベール、その方たちが、先日の?」


「えぇ、アストランティアサマ。自分を育ててくれた施設への恩返しが為に戦うことを決意した、立派な少女たちです」


 俺の紹介に、クフェアちゃんが顔を赤くする。


「べ、別に、当然のことだし……」


「いいえ、とても立派な志ですよ。先日は我が騎士がお世話になったとのことで」


「そんな、私たちの方こそ、大事な家族をアルベールさんに助けて頂いて……」


 美少女三人が挨拶を交わしている様は、それだけで微笑ましい。


「……アルベールが、ご迷惑をおかけしませんでしたか?」


 おいお姫さん。どれだけ信用してないんだ。何もなかったと説明しただろう。


「別に……子供たちとも遊んでくれたし」


「アルベールさん、子供たちに大人気だったんですよ。あれからずっと、みんなまた逢いたいって言ってるんです」


「そう、ですか。休日でよければ、いくらでもお貸ししますので」


 お姫さん的には、街に出て女性を口説くよりも、子供たちの相手をする方が心配が少なくていいのだろう。


「あ、それなら次の休み、こいつ借りるわね。うちの子供たちと、約束があるのよ」


 あー、ガキに剣を教えるとかいうあれか。


「もしよかったら、アストランティア様もいかがですか? その、大したおもてなしも出来ないのですが」


 リナムちゃんが、控えめに提案する。


「い、いえ、わたしは……」


「よいではありませんか、アストランティアサマ。それに、リナム嬢もまた聖女、御学友との交流で見えてくるものもあるのでは?」


「……た、確かに、他の聖女のお話を窺える機会があれば、ありがたいことですが」


「私なんかの話でよければ、いくらでもっ」


「で、では、よろしくお願い致します」


 いいじゃないか。

 ぼっちのお姫さんに友達ができそうだ。


「それにしても、二人とも制服よく似合ってるな」


「ありがと……これ買う為に、かなり貯金したのよ」


「あ、あはは、高かったね……クフェアちゃん」


 クフェアちゃんが遠い目をし、リナムちゃんが苦笑する。



「ぷふっ。嫌だ、聞きましたか?」

「制服一式揃えるのに、貯金だなんだと貧乏人は大変ですね」

「まったく、女神様も困ったものです。あのような貧しき者に魔法をお与えになったところで、充分に使いこなせるわけもないというのに」

「死者を救済する誇り高き聖者を育成する場に、何故明日を生きるにも苦労する貧者が混ざっているのか。自らの生活もままならない者が、他者を救えるとは思えませんが」



 ……はぁ、せっかく穏やかな気分だったというのに。


「な、何よ。ばかにして……!」


 クフェアちゃんが拳を握り、小さく震えている。


「お姫さん、言い返していいか?」


 問題を起こすなと言われているが、こうも聞こえよがしに言われたんじゃ無視も出来ない。

 それに実技試験の日と違い、二人はもう友人だ。


「その必要はありません」


 何をするのかと思えば、陰口集団に向かって、お姫さんが進み出た。


「貴方達の方こそ、恥を知りなさい!」


 お姫さんの声が響き渡り、周囲の者達の視線が一挙に集まる。


「死者を救済することが誇り高き使命であるのは、何故だと!? それは人の生そのものが尊いからです! 尊い生を歪められた形骸種(キュリオン)たちを救済するからこそ、我々聖者の行いは(たっと)ばれる!」


 お姫さんの剣幕に、陰口集団は押されている。


「――だというのに、あろうことか聖者を目指す者たちが、懸命に今を生きる者を愚弄するとは! 彼女たちの尊さを理解できない者に、どうして聖者が務まりましょうか! 今を生きる人を大切にできない者に、かつて生きていた人を救う資格などある筈がないでしょう!」


 空間が震えるほどの大音声。


「はははっ」


 俺は思わず快哉を声を上げ、拍手してしまう。


 さすがは我が(あるじ)、最高じゃないか。



「――その通りですね」



 全員の視線が、お姫さんからその人物へと移った。


 白銀の長髪に、氷のように青い瞳、すらりとしていながら出るところは出た肉体。


 ひと目見て、お姫さんとの血縁を確信するほどに、似ているのに。

 まるで別の生き物のような、そんな雰囲気を纏っている。


 彼女の傍らには、金髪碧眼の女騎士が控えている。


「その者たちが救いようのない愚物であることは、貴女の言う通りです。ですが、人を救うにも才覚が必要である、というのもまた事実」


「……お姉、様」


「私にはありました、圧倒的な才覚が。ですから、私に任せるようにと言った筈です。だというのに、何故――貴女が聖女になっているのですか」



 無表情のまま、美しき聖女が我が(あるじ)に問う。




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[良い点] お姉さん、ここで現れましたか。 果たして内心はいかに…
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