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21◇姉妹仲とご褒美

 



 俺たちの実技試験は終わったので、ステージを離れ、観戦中の他の受験者たちに混ざる。

 お姫さんはまだ動揺しているようだったので、落ち着くのを待った。


「も、申し訳ございません。まさかお姉様が、このような手段をとるとは思わず……」


 再び口を開いたかと思えば、そんなことか。


「いや、楽しかったぜ。聖者ってのは面白いな」


 まぁ、封印都市では味方同士なので、授業や訓練でなければ戦う機会はそうないのかもしれないが。


 この三百年の大半を一人で過ごしてきた身からすると、やりごたえのある敵というのは嬉しい存在だった。


 女性の存在と同じくらい、俺は強くなることが好きなのだ。


「あ、その、言いそびれてしまいましたが、先程の戦い、見事でした」


「お、(あるじ)にお褒めいただけるとは、嬉しいね」


 やはり男に褒められるより、こちらの方がよっぽど嬉しいものだ。


「オージアス殿が言っていたように、聖者の戦いを知る意図があったのですね」


「まぁなぁ。一応骨時代にも、お姫さんとこの聖者と戦ったことはあるけどよ、この身体になってからは初めてだからな。ちゃんと知っておきたかったんだ」


「『金色(こんじき)』相手にそれが出来る技量……やはりアル殿を選んで正解でした」


 そうは言うが、彼女の顔はまだ暗い。


「……あー、お姉さんの件、訊いてもいいか?」


「は、はい……」


 お姫さんの、一つ年上の姉。


 名はオルレアちゃんと言うらしい。


 幼い頃は、姉妹仲も良好だったようだ。

 妹をいじめようとする者がいれば、守ってくれるような。


 だが姉の方に聖女としての圧倒的な才覚があると判明してからは、修行に取り組む時間が増えて交流も希薄になっていった。


 お姫さんも聖女になるための修行を始めたが、姉とは別々だったようだ。


 そしてある時、姉に自分も聖女になりたいと告げると、猛反対された。

 いわく『貴女には向いていません』とのこと。


 優しかった姉に突き離されたように感じたお姫さんだったが、自分の定めた目標に向かって努力を続けた。

 そして、なんやかんやあって俺を勧誘するに至った、という経緯らしい。


「お姉様は、何故、わたしが聖女になることをお止めになるのでしょう」


 お姫さんは本気で分からないようだが、今の話を聞くと答えは一つに思える。


「それは、お姫さんのことを心配してるんじゃないか?」


「心配?」


「まぁ、聖者なんてのは、天寿を全うするより戦死するやつの方が多そうだし」


 聖女の加護も魔法の範疇なので、術者の精神や魔力がものを言う。

 それら次第で加護は解けるし、解けた状態で噛まれれば転化してしまう。


 自分の妹を戦場送りにしたい、という姉は稀だろう。

 俺だって、お姫さんを危険に晒すようなことはしたくない。


 だが同時に、覚悟を決めた者に過保護に接するのも違うだろう。

 俺はパートナーとして、彼女の聖騎士として、聖女を守るだけだ。


「で、ですがお姉様は……」


「聖女は自分がやるから、お姫さんには普通に暮らしてほしい、とかじゃないのか?」


 その発想がそもそもなかったのか、お姫さんが呆然としている。


 というか、家の連中は誰も言ってやらなかったのだろうか。

 雇い主の家庭事情に口出しするのは恐れ多い、とか?

 もしくは、余計なことを言うなとお姉さんに口止めされていた、というのもありえる。


 いや、そもそも詳しい事情を知らない者が大半か。

 俺のように、事情を聞いた上で思ったことをズバズバ言うやつの方が珍しいのだろう。


「…………で、ですがっ、わたしは、自分自身で聖女になることを決めたのです」


 オルレアちゃんにはオルレアちゃんの、お姫さんにはお姫さんの想いがある。

 どちらが正しいかを論じるつもりはないし、そんなものはそもそもないのかもしれない。


「あぁ、だから今度逢った時に、それを伝えてやりな」


「は、はいっ」


 やるべきことが見えたからか、彼女の顔に生気が戻った。


 やはり、落ち込んでいる姿よりも元気な姿を見ていたいものだ。


「しかし、お姫さんの姉かぁ……」


 俺は頭の中で、想像してみる。

 白銀の髪に青い瞳。お姫さんの姉ってことなら、顔も大層整っていることだろう。


「な、なんなのですか」


「美人なんだろうなぁ」


 とはいえ、お姫さんの一つ上ならば、まだ十六か。

 残念ながら、ぎりぎり小娘判定だ。


「…………」


 見れば、お姫さんの視線が氷のように凍てついている。

 初めて見る目だ。


「いやいや、もちろん私が忠誠を尽くすのは、アストランティアサマだけですとも」


「我が騎士アルベール」


「あ、はい」


「お姉様に淫らな目を向けるようなことがあれば――呪いますよ?」


「失礼ながら、既に呪われております」


 お姫さんがふっと笑う。

 だがすぐに表情を引き締めた。


「それと、お姉様の聖騎士も女性ですが、こちらにもお気をつけください」


「わかったわかった。気をつけますよ」


「いえ、そうではなく。彼女は――」


 と、そこで実技試験が全員分終了したようだ。


 結果発表は後日ということで、この日はここで解散らしい。


 俺たちも他の受験者も、学校をあとにする。


 お姫さんは聖女の半数以上が貴族と言っていたが、受験者の服装を見ると、確かに貴族の方が多いようだった。


 金持ちと庶民じゃ着ているものも違うので、パッ見で分かってしまうのだ。

 中にはボロボロの服を着ている娘もいて、周囲のお嬢様たちにクスクス笑われている。


 呑気なお嬢様たちだなぁ。


 俺は他の受験者たちの戦いも一部観ていた。

 あんたたちが笑ってるその聖女と聖騎士は、実技試験でかなりいい戦いをしていたぞ。


 社交界にボロボロの服で現れたのなら場違いと笑うのも分かるが、俺たちは聖者になりに来ているのだ。

 実力以外の何が必要だというのか。


 モヤモヤするが、お姫さんから離れるわけにもいかない。

 それに、明確に攻撃されているわけでもないので、助けるというのも難しい。

 大声上げて「やめなさい」と言っても意味ないだろうし。


 合格して、彼女たちがお姫さんの同級生になることがあれば、話しかけよう。


 そういえば、お姫さんならばこういう時、嘲笑を向けるお嬢様たちを咎めそうなものだが。

 そう思いお姫さんを見ると、真剣な表情で考え事をしている。


 なるほど、周囲の声が聞こえていないのか。


 俺たちはそのまま迎えの馬車に乗り込み、宿へ向かう。

 考え事の邪魔をしちゃ悪いので俺も静かにしていたのだが……。


「我が騎士アルベール」


「ん? なんでしょうか、アストランティアサマ」


「先程の戦い、実に見事でした」


「? お褒めの言葉なら、もう頂きましたが」


「は、はい。ですが、それとは別に褒美をとらせます」


 お、マジか。


 ちょっとしたお小遣いが貰えたりするのなら、ありがたい臨時収入になる。

 だが何故か、お姫さんの顔が赤い。 


「わ、わたしに何か、してほしいことなどはありますか?」


 え?

 ご褒美ってそういう感じ?




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