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19◇聖女と聖騎士




 戦いの技術とは当然、勝つ為にある。


 故に勝利条件が異なれば、必要となる技術も異なるものだ。

 対人戦闘と、対魔獣戦闘では、訓練内容も変わってくる。


 もちろん、共通する部分もあるだろう。

 体力はあった方がいいから、そういった訓練はどこもやるだろうし。


 とにかく、俺の時代にはなかった戦い方が、現代の聖者の主流となっている。

 今と昔では、聖騎士に求められる戦闘スタイルが、やや異なるのだ。


 だから、楽しみだった。


 現代の聖騎士がどれだけやるのか、体験してみたかったのだ。

 お姫さんの家が抱える聖者もいるようなのだが、俺が屋敷で世話になっている間には逢えなかった。


 だからこれが、人の身を取り戻してからは初の対聖者戦となる。

 スケルトン時代に、結界内に入ってきた聖者を撃退したことはあったのだが、やはり前と今とでは俺の身体の感覚も違うし。


「……何を笑っている」


 寡黙な聖騎士に睨まれる。


「ん? あぁ、いや楽しみでな。ところで訊きたいんだが、学園の十二組の内、あんたらって何番目なんだ?」


「……なに?」


「だから、強さだよ。大体あるだろ、なんとなくの格付けみたいなもんがさ」


「それを聞いてどうする」


「いや、あんたらが一番だったりしたらがっかりじゃないか。試験受けただけで俺達が最強になっちまうんじゃ、この先が退屈だろ?」


「不敬に傲慢を重ねるか」


「好きなもんを勝手に重ねな。で、何番目よ?」


「……我々は無為に争うことはしない。だが、純粋な還送者数で言えば、我々は八番目となる」


 還送というのは、形骸種(キュリオン)の討伐のことだ。


 お姫さんは還すとか救済とか言っているし、俺は討伐とか殺すとか言っているので、人によって表現は違う。


 だが少なくとも、還送という表現を使う者は、形骸種(キュリオン)を人間扱いしている。

 魔物と割り切って討伐と口にする者もいるので、この寡黙騎士は優しいやつなんだろう。


 俺がゾンビたちに討伐という言葉を使うのは、転化した者たちはもう殺すしかないのだと意識するためなので、一概には言えないが。


「八位かぁ。まぁ、上に七組残るならいい方だな」


「……もういい。あとは、剣で語れ」


 聖騎士が剣を抜く。


 こいつの剣はデカかった。背中に背負った鞘から抜き放たれたのは、身の丈ほどの大剣。

 思わず笑ってしまうほどのインパクトだが、当然ギャグではない。


 使い手によるが、現代の聖者にはそれを可能とする者もいる。


「オージアス、格の違いを教えてやりなさい」


 金髪聖女ちゃんが言う。

 聖騎士の名前はオージアスというらしいが、明日まで覚えていられる自信がない。


「はっ」


 ふぅむ。少女とはいえ、後ろから勝利を信じた声を掛けられるのは、なんかいいな。


 俺はお姫さんをちらりと振り返る。

 さすがは察しのいいお姫さん、彼女は溜息を吐いた。


「我が騎士アルベール。貴方が約定を違えることはないと、わたしは確信しています」


 俺は彼女に誓いを立てた。

 お姫さんを護り、全ての敵を斬る騎士になると。


「もちろんですとも、アストランティアサマ」


 中々に人のやる気を引き出すのが上手ではないか。


 あの街から持ち出した、能力製の骨の剣を引き抜く。

 それを見た者たちが一様に顔を顰めたが、気にしない。


「……それでは――始め!」


 審判を務める教官の掛け声で、試験が開始。


 金髪聖女ちゃんが胸の前で手を組み合わせると、彼女の身体が輝きだし、その光がオージアスに向かう。


 それはやつの全身を包み込み、その瞬間――やつの強さが格段に上がったのが感覚的に分かった。


 直後、俺は転がるようにして向かって右に回避行動。


 俺が立っていた場所は、大剣により粉砕された。

 フィールドが大きく割れ、大剣の重さに陥没している。


「……随分大きく避けるではないか」


「おやオージアスセンパイ、口を開いてどうした? 剣で語るのでは?」


 とはいえ、嬉しい誤算だったのは間違いない。


 普通の人間との戦いならば、見た目から運動能力をある程度推測することが可能だ。

 だが、俺があの街で彷徨っている間に、外で生まれた新魔法があれば別。


 あの光の正体は、『身体強化』と『身体防護』だ。

 むきむき男ならば更に腕力が増し、俊足の者は神速に。


 元々の性能が高いほど、強化の恩恵を強く受けることができる。

 これが『身体強化』だ。


 オージアスは聖女のサポートを受けることで、身の丈ほどの大剣を持ちながら高速で動くことができるようになった。


 強化倍率に関しては事前の目視では測れないので、若干大げさに避けることになってしまったのだ。


「口の減らない男だ」


「一つしかないのに、減ってたまるかよ」


 強化に関しては今ので分かった。


 次は――防御だ。


 俺は正面からやつに向かって駆け出す。


「……加護なしで、中々の速さ」


 加護というのは、聖女のサポート魔法のことだ。


「男が俺を褒めるな」


「ふっ。だが――」


 オージアスが剣を腰溜めに構え、瞬間、横に振るう。


 ゴウッと風が巻き上がる音と共に、刃を持つ鉄の塊が空間を薙いだ。

 巨木を一太刀で真っ二つにできるであろう威力。


 仮に当たらなくても、回避するためには俺は速度を殺す必要が出てくる。

 そして聖女の加護を得た状態ならば、薙いだ刃を引き戻し、硬直した俺に斬撃を見舞うことも可能。


 そういう計算だろう。


 ――お前みたいな力と速さがあれば、俺でも普通はそう考える。


 だからこそ、止まらなければ裏をかけるのだ。


 俺は極端な前傾姿勢をとることで横薙ぎの一閃を回避。

 迫る人間が急に四足獣の動きをとれば、必要な剣の軌道も変わるのは当然。


 そこに対応できなかったオージアスの一撃が空振り、俺は更なる接近を果たす。


「ほうら」


 やつが剣を引き戻すよりも、俺がやつの首に斬撃を叩き込む方が早かった。


「――――」


「な――っ」


 オージアスと金髪聖女ちゃんが瞠目する。


「ふむ、こうなるのか」


 俺の剣は弾かれた。


 わかっていたことなのだが、自分の目でしっかりと確かめたかったのだ。

 満足したので、俺はすぐさま後退。

 脂汗を掻きながら剣を引き戻すオージアスに、笑いかける。


「俺の剣の声は聞こえたかい?」


 剣で語れというオージアスの要求には、応えられただろうか。


 それにしても、三百年の時の流れというものを感じる。


 女神様がくれた新たなる魔法。二つの加護。


 『身体防護』は、敵の攻撃を拒絶する。

 これがあるからこそ、聖者は封印都市で活動できるのだ。


 つまり、形骸種(キュリオン)に噛まれずに済むので、感染しない。

 ミイラ取りがミイラにならない為の魔法、ということだ。


 噛まれないだけでなく、聖女の技量次第で防げるダメージ量も変わる。

 聖騎士の強さだけでなく、聖女の実力もかなり重要。


 これが現代の聖者の戦い方だ。


「……先程の言葉を、一部訂正しよう」


「ん?」


「貴殿は不敬を働いたが――傲慢ではなかったようだ」


 むかつく相手に対しても公正。

 やはり良いやつのようだ。


 むかつくやつの方が、倒すとスッキリするので楽なのだが。


「だから、男が俺を褒めるな」


 さて、真面目な善人オージアスパイセンには悪いが、一人で戦うと抜かした以上、聖女の加護を突破して勝たねば。

 どの手でいくかな。




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― 新着の感想 ―
[一言] 女体化するんで褒めていっすか?
[良い点] あるはそもそも今まで討伐隊出されて凌いだんだから加護に対する対処法は持ってるんですよね。
[一言] もし加護を含めたらアルって現代でどのくらい強いんだろう?
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