えんぴつくん(5)
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剣道だ、すなわち剣の道。まるでそこのところに造詣が深くないあたしは道場にて竹刀を大きく振りかぶって「やぁぁっ」と突っかかるのだけれど、相手にしてもらえない。ひどくえらくうまくやりすごされ、反対に面をかぶった頭頂部に竹刀を打ち下ろされるだけだ。「むうぅぅ」という不本意さに満ちた声が多大に漏れる。「少し休みましょう」と言われたのだけれど、なんか違う。なにかが違う。もう少しでコツを掴めそうな気がしてる。実際あたしは次の試合でえんぴつくんに面を決め、その防具を叩き割った。ほんとうに面で装備を叩き割ったのだ。あたしはそれはもう自慢げに胸を張り、「ざまあみろ」と笑ってやった。
そしたらえんぴつくんはあり得ないくらい喜んで、果てはばんざいまでして、ばんざいばんざいと諸手を上げて。「すごいですごいですごいです! ぼくから一本取るなんて!」とはしゃいでみせた。いや、そういう問題じゃあないと思う。たまたまだ偶然だ。えんぴつくんは油断しまくっていたのだ。だからあたしが一本取れたのもまぐれで。つーか「ぼくから一本取るなんて」という上から目線はほんと言ってなんなのか? 腹が立つぞ、ほんとうに。かまわないんだけどね。
えんぴつくんはとにかくあたしを喜ばせようとしているように見える。そんなの心外だと訴えると、「ぼくは本気です」と言い、「本気だったんですよ」と笑った。
「もしそうだったら、なにをくれる?」
「ちょっと待っていてください」
えんぴつくんは鞘におさまった刀を持って来た。「これを使ってください」ということらしい。
「これ、なに?」
「ぼくは退魔の家のニンゲンなんです」
「退魔だからって、これはなに?」
ですから、「異形」を殺すための刀です。
えんぴつくんは力強くそう言って。
あたしは少なからず慌てた。
「そんな大切な刀を、あたしに託すの?」
「だいじょうぶです。先輩はいままで恵まれていなかっただけです」
「そ、そうかなぁ?」
「いざとなればぼくが守りますから」
事あるごとに、えんぴつくんは鼻をつんとさせてくれる。
「ぼくは死にません。先輩を守ります。でも――」
「あたしにも戦えって言うんだね」
「いけませんか?」
「ううん。すっごいイケてる、あたしは戦いたいから」
あたしは刀を受け取った。
これからが勝負だ。
「ありがとう」
「ほんと、素敵なヒトにしか渡しません」
「だからこそ、ありがとう」
「やめてください。照れてしまいますから」




