29話
「君が駄々を捏ねだしたらどうしようかと思って、準備してたのに。意外とあっさり諦めたね」
少し残念そうに呟くフレッドの足元には、盾やら剣やら物騒なものが並んでいる。こいつはこの物騒なものを使って、一体俺をどうするつもりだったのだろう。
俺は自室の片隅にあるソファに横たわると、天井を見上げた。相変わらず冷たく、無機質な天井が俺を見下ろしていた。
「アヤを困らせるわけにはいかないだろ」
正直なところ、行かせたくはなかった。ここで別れたら、きっともう会えない。それを分かっていたから。
彼女は神の愛娘だ。再び神殿で、王国の為にその力を尽くすのだろう。王国騎士団の人間である俺は、神殿を出入りすることは出来ない。一日の大半を神殿で過ごす彼女とは、もう二度と会えないと言っても過言ではないと思う。
だからと言って彼女を無理にでも止めれば、ただ困らせるだけだ。一方的に自分の気持ちだけを押し付けて、彼女を困らせるだけ。俺は、そんなことを望んでいない。
「本気だったんだね」
「何度もそう言ったはずだ」
俺がそう答えると、フレッドは苦笑いを浮かべた。そして椅子から立ち上がり、思い立ったように手を叩いた。
「今度、君に紹介するよ!君が気に入りそうな女の子をさ!」
「……今はいい。色々と整理したいことがある」
整理したいことがある、と自分で言っておきながら、ふと思った。俺は一体何を整理しようとしているのだろう。
心の整理……だろうか。
アヤと共にいた時間は短かったけれど、色々なことがあった。ダンサーと嘘をついて罪悪感に苛まれたり、村の祭りに参加したり、王都では彼女と共に城下町を散策し、仮面舞踏会に参加した。一緒にホールの中心で踊った彼女の笑顔は輝いていた。きっと、あの笑顔を忘れることはないだろう。
二度と、忘れることはないだろう。
いや、きっと忘れられない……。
そうか、俺は失恋をしたのか。そこまで考えて、頭を抱えた。どうやら、心の整理はすぐには終わらなさそうだ。
「ルイ、よく頑張ったね」
不意にフレッドから声を掛けられ、上半身を起こした。そして、椅子に腰を下ろしているフレッドを睨み付けた。
「お前は……俺の保護者か?」
「幼馴染で親友に決まってるでしょ」
親友、か。
幼馴染とは何度も言われてきたが、親友と言われたのは初めてかもしれない。
「さあ、どうだか」
「何それ、疑ってるの?」
「お前の言葉の大半は嘘で出来てるからな」
口元に笑みを浮かべてフレッドを見やる。すると、フレッドは嘲笑うようにニヤリと口角を上げた。
「嘘をついて女性を口説こうとした君に言われたくないよ」
「フレッド、お前……!」
すかさず立ち上がろうとしたが、少し宙を睨んだ後、再びソファに腰を下ろした。そして、頭を抱えた。フレッドの言い分も一理ある。
そんな俺を見て、フレッドが肩を震わせて笑った。
今が辛くとも、時間がきっと癒してくれるだろう。俺は彼女の未来を願っている。
短い…。




