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プロローグ

 孤独だった私に差し出された温かな手。涙を流すことしか出来なかった私を時には優しく慰め時には厳しく叱咤し、その温かな手で支えてくれた。私はその手が好きだった。けれどそれは全て偽りだった。最初から最後まで何もかも全てが偽りだった。


 あの手は私を支えていたのではない。私を逃がさないように強く強く捕えていたのだ。私が不要と知ればあっさりと私を手放した。私を暗く冷たい森の中に手放したのだ。

 

月夜に光る白刃を首元に突き付けられながら私はその事実を知った。戸惑う私を見下ろし、一切の感情を捨てた表情で彼は全てを語った。

 

 私が不要になったこと。これまで私に語ったこと全て嘘だったこと。私が邪魔になったので、存在もろとも消えてもらうことになったということ。そして出会った当初から私を単なる道具程度にしか思っていなかったということ――――……


『国王陛下の命に従って貴女を支援しました。本日を以て、その役目を終了します。国の繁栄の為、どうかその命をささげて下さい』


 彼がこんなことを言うはずがない。彼がこんな冷酷なことを言うはずがない。私は何度もそう叫んだ。しかし微かな希望もあっさりと砕け落ちた。彼が地面に落としたのは、私が彼の誕生日にあげたお守りだった。彼のお守りを右足で踏みにじる姿は、私の心を奈落の底に突き落とすには十分だった。


 あの笑顔も、あの言葉も、あの優しい手も……何もかも最初から嘘だった。全てを失い泣き続ける私を彼は嘲笑っていたのだ。


『上手く処理をしておいてくれ。なるべく痕跡を残すな』


 彼は傍にいた刺客たちにそう吐き捨てると私の元から去って行った。人は絶望に陥ると涙よりも笑いが出てくると聞いたことがあったが、どうやらそれは本当のことらしい。


 私は笑った。大声で笑った。そんな私を刺客たちは不審な目で見ていた。

 馬鹿馬鹿しい。本当に馬鹿馬鹿しい。


 私は最初から騙されていたのだ。演技の上手な俳優に囲まれ、上手に利用されていたのだ。彼らにとって私は使い捨ての道具に過ぎなかった。


 何が神の愛娘だ。

 何が美しい神の眷属だ。


 私を優しい言葉で煽て、頬を赤く染める私を心の奥で嘲笑っていたのか。私から家族、友人、将来……全てを奪った癖にまた私から全てを奪おうというのか。


 彼の為に作ったお守りを拾い上げ私は咆哮した。

 憎い…!


 私を神の愛娘だと祀った神官たち、神の愛娘としての役目を全うするよう命じてきた国王陛下、騙されていることに気が付かずに悠々と毎日を過ごしてきた間抜けな自分、そしてあの人を……私は許さない。


 激しい騒音と眩い光が私と刺客のいる森を包み込んだ。真っ赤な炎が辺りに広がり巨大な地鳴りが森全体に響き渡る。刺客たちの表情は恐怖で歪み、私は全ての終焉を願った。


 あれ以来、私は神力が使えない。


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