三八二年 祈の二十四日
「クゥ〜!」
衆目の中いつものように抱きついてくるジェット。
ほかのギルド員の前でこんな調子でいいのだろうかと苦笑しながら、ククルは宥めるように背を叩く。
「恥ずかしいから、ね」
「俺は恥ずかしくない」
きっぱり言い切りながらも、仕方なさそうにククルを離して頭を撫でる。
「始まりの日の式典に出ないとだけど、それ終わったら即戻るからな」
「待ってるわね」
そう微笑み、隣のダリューンを見上げる。
「ダンも。待ってるわ」
「ああ。世話になる」
既に天涯孤独のダリューンには中央以外に帰る地はなく、長めの休みが取れたときにはジェットと一緒にライナスに来ていた。
「ここのほうが楽しそうだし、俺も来ようかな…」
「たまには顔見せに帰れって」
ぼそりと呟くナリスにそう笑って、ジェットはテオを見る。
「アレック兄さんに頼んでおいたから、ちゃんと身体休めるんだぞ?」
「わかってるよ。心配かけてごめんな」
頷くテオの頭も撫でて、ジェットは町を振り返った。
「じゃ、皆に礼言ってから行くかな。ウィル、俺たち別行動でいいんだよな?」
少し離れて立っていたウィルバートが、その声に近付く。
「夜にゴードンで合流で大丈夫です。ジェットにしかしない話もあるでしょうから、あとで話していたことを教えてください」
「ないと思うけど、わかったよ。じゃあクゥ、テオ、また年明けにな!」
ふたりに手を振り、ゼクスや訓練生たちにはあとでと言いおき、ジェットたちは丘を降りていった。
それを見送ってから、ウィルバートが向き直る。
「色々とありがとうございました。おかげでいい成果が出たと思います」
「よかったです。ウィルもお疲れ様でした」
微笑むククルにウィルバートがもう一歩近付く。
「次はもう少し話せると嬉しいんだけど」
「ウィル。仕事中だろ」
声をひそめて、瞳を細めて。
そんなウィルバートの様子に苦笑を見せて、テオがぼやいた。
ウィルバートが離れると、待っていたのか訓練生たちが駆けてきた。
「ありがとうございました!」
声を揃えてそう言って頭を下げる彼らに慌てるククル。
「こ、こちらこそありがとうございました。たくさん食べてもらえて嬉しかったです」
その返答に顔を背けてこっそり笑うテオを肘で小突く。笑いながらごめんと謝り、テオは訓練生たちを見回した。
「素人の俺と一緒にやってくれてありがとう。楽しかった」
訓練生たちはぽかんとテオを凝視し、次に顔を見合わせて。
「何が素人だよ」
「そうそう。もうギルド入れって」
口々にそんなことを言いながら拳を前に出す。
「またな」
「こっちに来たら寄るから」
そんな彼らと拳を合わせるテオ。
「俺は絶対来れるからな」
いいだろ、と笑うリックがほかの四人にもみくちゃにされる。程々にな、と笑ってから、ディアレスが手を差し出した。
「ありがとう、テオ、ククルさん」
ふたりと順番に握手をしてから頭を下げる。
「ディー?」
「道を踏み外しておいて、今のほうがいいっていうのもおかしいけど。でも俺は、ふたりに出会えて本当によかった」
顔を上げたディアレス。藍色の瞳に迷いはなかった。
「俺からふたりに返せることは何もないけど、代わりにギルド員として誰かを助けていけたらなって思ってる」
頷くふたりに笑みを見せて。
「テオ。…ククル。また、いつか」
少し照れくさそうに、ディアレスが告げた。
最後にゼクスたちがやってきた。
「次は遊びに来るだけのつもりだったんだがなぁ」
「当分は仕方ない。来られるだけでもいいだろう」
メイルとノーザンが、また年が明けたらと笑う。
セドラムはそのうちディアレスと来ると言ってくれた。
ゼクスはありがとうと礼を言い、次の日程はギルド経由で連絡すると告げた。
そして、一歩うしろでその様子を見ていたロイヴェインは。
「また、来るよ」
その場に立ったまま、呟き、笑った。




