三八二年 祈の二十一日
訓練も三日目を終えた。
訓練生たちには疲労の色が見えるが、少し顔付きが変わってきた。訓練自体が徐々に長くなっているにも拘わらず、夕食後にも話す余裕ができ、ディアレスを含めた六人で話す姿が見られるようになった。
ロイヴェインによる追加の訓練には 、昨日からリックも参加しているらしい。明日こそ自分たちも加わると、残る四人の訓練生が息巻いている。
昨日の追加訓練後、リックにどうしてもと頼まれて夜食を出した。昨日は訓練を受けたふたりだけだったのだが、今日は見事に全員揃っていた。
「今日は見逃すけど、明日からは食べさせていいか確認取るからね?」
ひとり遅れて夕食を取るロイヴェインが、カウンター席から振り返って告げる。ちゃんと教官をしているその様子を微笑ましく思いながら、ククルはいい返事を返す六人に夜食を運んだ。
賑やかに食事が進む、その最中。不意にドアベルが鳴る。
「お、やってるな」
入るなり店内を見回して笑い、ククルを見る。
「クゥ、ただいま」
予定より一日早く、ジェットがライナスに到着した。
「ふたりともいいって言うから、馬飛ばしてきた」
宿に顔を出したあと、夕食を食べに戻ってきたジェットたち。ジェットはもちろん、ダンもナリスも疲れた表情をしていないのはさすがというべきだろう。
「リック、訓練はどうだ?」
「キツいけど楽しいよ」
突然の英雄の登場に畏まる四人とは対象的に、すっかり気の抜けた表情のリック。四人程ではないが、ディアレスも少し緊張気味に見える。
「たった五日なんだ、無理せず長い目で見ればいい。来る前とあとと。自分で少しでも変わったと思えれば上出来だって」
リックへではなく四人に向けてそう言ってから、ジェットはディアレスを見やる。
「久し振りだな。調子はどうだ?」
「こうしていられるのもジェットさんたちのおかげです。本当に―――」
「礼はもう聞いたって。ゼクスさんがほめてたし、俺も訓練見せてもらうの楽しみにしてるんだからな?」
ディアレスの言葉を遮って笑う、その声に。
「見るだけじゃなく、参加すれば?」
店内を向くようにうしろ向きに座ったロイヴェインが割り込む。
「これ以上のお手本はいないんだからさ」
「ロイ、お前なぁ…」
軽口に苦笑し、ジェットがぼやいた。
食事を終えたジェットは再び宿へと向かった。
セドラムの謝罪を受けたあと、食堂から戻っていたロイヴェイン、ウィルバートも合流してゼクスたちと話す。
今日までの様子を共有し、これからの予定を再確認する。思っていたよりも順調そうなその様子に、さすがはゼクスたちだと独りごちるジェット。
ゼクスは厳しい割には相手を乗せるのが上手い。今回もさほど乗り気でなかっただろう四人をいい方向に進ませたようだ。
かつての自分を思い出し、いいように誘導されてたなと改めて思っていると、目が合ったゼクスにニヤリと笑われる。
「明日からお前も加われ」
「俺、見学のつもりなんだけど?」
ゼクスにまで同じことを言われ、げんなりして返す。
「お前が出んでどうする。儂らには剣の扱いを教えることはできんのだぞ?」
元ギルド員であっても、今のゼクスたちに剣を持つことは許されない。
呆れたように尤もな理由を告げられては、もちろん拒否できるわけもなく。
人使いの荒い、と内心ぼやきながら、ジェットは仕方なく頷いた。
話を終えて部屋から出たのは、それからしばらくの後。
「ロイとは仲良くやってるのか?」
一緒に部屋から出たウィルバートにそう聞くと、返事をしないまま視線を逸らされた。
「…ウィル?」
「仕事はちゃんとやってますよ」
当たり前のことを言うウィルバート。
先日の様子を思い出し、ジェットは苦笑した。




