三八二年 祈の十一日
ジェット、ウィルバート、ナリスの三人がライナスに着いたのは、既に辺りが暗くなってからだった。
「エト兄さん?」
「クゥ! 変わりないか?」
いつものように遠慮なく抱きしめて、ジェットが笑う。
「すぐ戻るから。テオと一緒に先にこれ読んでてくれ」
手紙を渡し、あとでな、と出ていくジェット。
「俺も宿に行くね」
ナリスもそう断って宿へと行った。ひとり残ったウィルバートがふっと微笑む。
「久し振り」
「…久し振り」
お久し振りですと言いかけて、ウィルバートが普段の口調であることに気付いてそう返した。
ククルを見るウィルバートの笑みが、喜ぶように深くなる。
「元気そうでよかった。テオも。久し振り」
「座れば? この時間なら朝に出て来たんだろ」
早朝にアルスレイムを出て、馬を替えながらライナスへ向かう。夜には着けるが、馬にも乗り手にも負担は大きい。
「すぐジェットが戻ってくるだろうし。話が終わってからにするよ」
「話?」
読めばわかると言い残し、ウィルバートも荷を置きに宿へと行った。
ククルとテオは顔を見合わせたあと、ジェットから渡された手紙を見る。
ギャレットの名で書かれた手紙には、ライナスでギルド員の訓練を行いたいとあった。
訓練教官として連ねられるゼクスたちの名、そしてその補佐として書かれたロイヴェインの名に、テオは首を傾げる。
「…ロイヴェインって…ヴェインさんのこと?」
独り言のような呟きには答えず、ククルはその名を見る。
これからはどっちも俺だと言ったその言葉通り、もうヴェインの名は使わないつもりなのかもしれない。
手紙を眺めるククルをちらりと見、テオは少しためらってから口を開いた。
「…ククル、もしかして―――」
カラン、とドアベルが言葉を遮る。
ジェットとウィルバートが、アレックを連れて戻ってきた。
ジェットから改めて手紙の内容の説明を受けたククルたち。
「一番大変なのは宿と食堂だから。こないだとはまた勝手が違うだろうし、無理はしなくていいんだけど」
心配そうに言われるが、もちろんククルに断るつもりはなく。
テオ、そしてアレックを見上げると、ふたりとも笑って頷いてくれた。
「どれだけできるかはわからないが、協力を惜しむつもりはない」
「ククル、こないだも楽しそうにしてたもんな。断るわけないって」
アレック、テオの順で顔を見て、次いで自分を見るジェットに。
「楽しみにしてるわね、エト兄さん」
ククルは頷き、満面の笑みを浮かべた。




