三八二年 実の四十四日
身支度を整える手を止め、ククルは溜息をつく。
昨日、戻ってきたテオたちにロイヴェインのことを聞かれ、急に帰ったとだけ答えた。嘘ではないのだが、何故と聞かれても何も答えられなかった。
何があったのかは、話せない。
自分がされたことに対しての怒りも悲しみも、もちろんあるのだが。それ以上に、最初に見たロイヴェインの表情が引っかかっていた。
自分は彼に何か傷つけるようなことをしたのだろうか?
しかしだからといってあれはあまりにもひどい仕打ちだと思うのだが、自分以上に追い詰められたあの顔を見てしまうと、どうしても怒りよりも先に心配が勝ってしまう。
今まで、彼のあんな顔は見たことがなかった。
普段はどこか飄々として。ゼクスたちといるときは少し幼く、からかうときは意地の悪い笑みを見せて。
そして昨日は、本当に心配そうな顔をして、自分を見守ってくれていた。
それなのに。
じわりと滲んだ涙を拭う。
どうして。それしか言葉が出てこない。
誰に聞けるわけもなく、ただ胸の中で繰り返す。
唯一答えを知るだろう本人も、今はここにいないのだから。
朝食の準備をしながら、テオはちらりとククルを見やる。
昨日から様子がおかしいことはわかっていた。
両親の事故現場に行ったせいでまた何か思い詰めているのかとも思い、いつもより気にして見ていたのだが。どちらかというと、何か気掛かりなことがあって考え込んでいるように見える。
(ヴェインさんと、何かあった…?)
困らせるようなことをする人には思えない。しかし、昨日の帰り方は明らかに不自然だった。町とミルドレッドの道中にいた自分たちが、帰ったはずの彼とすれ違っていないのだから。
ククルにそれとなく聞いてもわからないと返されて、それ以上聞けなかった。
(…これ以上気にするようなこと、増えてほしくないんだけどな)
もうあんな姿は見たくない。
心中嘆息し、テオは作業を進めた。




