三八二年 実の四日
ジェットたちが町を発つ日が来た。
「誕生日当日までいられなくてごめんな」
残念そうに呟くジェットに、ククルは首を振る。
先に渡しておくからと、昨日のうちに誕生日のプレゼントをもらった。
ジェットの贈った小物入れの中に、ナリスとリックからの砂糖菓子や飴が詰められていた。ダリューンは毎年あちこちで珍しい茶葉を探してきてくれる。
間違いなく忙しかったであろうジェットたちが、自分の為に準備してくれていたこと。
それだけで、とても嬉しかった。
「今一緒にいられるだけで十分。ありがとう、エト兄さん」
「クゥ〜!」
ぎゅっとククルを抱きしめ、名残惜しそうに続ける。
「報告終わらせたあとも、北の調査が残ってるから当分来れそうにないんだよな…」
「えっ」
初耳なのか、うしろでナリスが声を上げた。
「いつでもここで待ってるから」
慰めるように背を叩き、ククルは微笑む。
「ねぇエト兄さん。お願いがあるの」
「お願い?」
そう、と頷く。
「エト兄さんは今年もイルヴィナへ行くんでしょう? 私は行けないから、代わりに伝えて」
ジェットから離れ、まっすぐ目を見る。
「あの日、エト兄さんを守ってくれてありがとうございます。どうぞ安らかに」
少し驚いたように自分を見返すジェットに、瞳を細めて。
「私がエト兄さんと会えたのは、あの日エト兄さんを守ってくれた人たちのおかげだもの。…当日私は、ここから祈るから」
「クゥ…」
手を伸ばし、再びククルを抱きしめて。
深い息をつき、ジェットはありがとうと呟いた。




