ジェット・エルフィン/共に酒を ①
中央に戻ると何もかも終わってた。
ギャレットさんに事務長室に呼ばれ、そこで事の顚末を聞く。
やっぱりというのか、クゥが狙われた。
ゼクスさんのおかげで何もなかったらしいが、本当にクゥに申し訳ない。
そこで捕まえた六人から、ふたりの名が出た。
クゥを引き渡す予定だったという場所でそのふたりを捕まえ、そいつらからひとりの名が出た。
そのひとりから、さらに出た名。そいつが今回の首謀者で、ギャレットさんの部下だった。
「まぁ、人望があるとは思ってなかったけれど」
そう言って苦笑するギャレットさん。
言葉の割に落胆してるのがわかる。部下に裏切られたんだから、当然といえば当然か。
今回これ程早く片が付いたのは、ミルドレッドの支部長ミランさんのおかげだと聞いた。
クゥが襲われたその日に引き渡し先のふたりを捕まえ、次の日には聞き出した名をギャレットさんに伝えてくれた。
動き出しが早かったから襲撃失敗を悟られないうちに見張りをつけることができ、あとは尻尾を出した時点で捕まえればいいだけだったらしい。
ミランさんとはもちろん面識がある。けどどうしてそこまで手を貸してくれたんだろう?
「ミランのパーティーは先発隊だった。直前に怪我を負った彼だけが参加できず、結果として生き残ったんだ」
疑問が顔に出てたらしい。ギャレットさんが教えてくれた。
「何があったのかと上層部に怒鳴り込みに行こうとする彼を止めて、協力をお願いした、というわけだ」
ああ見えて熱い男なんだよと、ギャレットさんは笑う。
もしかしなくても、ミランさんがミルドレッドの支部長なのは…。
ギャレットさんを見ても、微笑むだけで。
本当に、この人はどこまで見据えて動いていたんだろう?
ギャレットさんがいなければ、この結果も、英雄としての俺の存在も、きっとなかった。
ただ、親父の弟子だったというだけで。
ただ、幼い頃から知ってるというだけで。
どうしてここまで、この人は。
「…ギャレットさん」
呟く俺に、ギャレットさんは首を振る。
「私に礼を言うつもりならまだ早い。先に報告を済ませるべきだろう?」
諭すようなその声に、俺は続く言葉を呑み込んだ。
「ジェットには明日からそれなりに休みをあげるから、今回お世話になった人たちにちゃんと報告しておいで」
それってつまり、また出資者たちのところを回れってことだよな。
俺が話しに行った出資者の人たち。もちろん怒る人もいた。でも思ってたよりも多くの人にあっさり受け入れてもらえて。
一緒になって説得に回ってくれた人や、伝えておくから先を急げと任されてくれた人。そんな人たちが、何人もいて。
挙げ句に『英雄だからではなく、ジェットだから協力してるんだ』なんて言われたら、泣くだろ普通?
本当に、本当に。
俺は人に恵まれてるんだと、そう思った。
確かに、受け入れてくれた人にも、そうでない人にも。俺には事の顚末を語る義務がある。
…休みじゃないとは、思うけど。
心の声は伝わったらしい。仕方なさそうに笑って、もちろん、とギャレットさんがつけ加える。
「まずはライナスで。今までジェットを支えてくれた町の人たちに感謝を伝えてくるといい。何なら報奨金もつけるから、宴会でも開いてこい」
俺がイルヴィナでしか酒を飲まないことを知っていて、ギャレットさんはそんなことを言う。
「そろそろお前も、ほかの酒の味も覚えるべきだしな」
「ならギャレットさんが教えてくださいよ」
俺はギャレットさんに礼が言いたい。
鎮魂じゃない、祝いの酒を飲むのなら。今までずっと俺を支えてくれた、ギャレットさんと飲みたいんだ。
ギャレットさんは仕方なさそうに笑って首を振った。
俺の意図を間違うような人じゃない。
断られたか、とちょっと落ち込む。
そんな俺に、早まるなと笑って。
「事後処理が多すぎて今は動けない。だからジェット、言っただろう? 私に礼を言うのは皆に報告してからだと」
俺を見るギャレットさんの眼が、ふっと和らぐ。
「実の三十六日、イルヴィナで。楽しみにしているよ」




