表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/312

三八二年 動の十八日

 朝食を出し終え、仕込みも一段落したククルは、ひとりカウンター席でクライヴのレシピを見ていた。

 ジェットたちは朝早くに町を発った。

 ようやく顔を見せたナリスは、いつも通りの笑顔で夜食の礼を言ってくれた。昨日のぎこちなさは消えており、安心して送り出すことができた。

 ―――皆に話してくると、ジェットは言った。

 辛い記憶を何度も話さなければならないことは、今のジェットにとっても辛いことなのだろうが。

 それでも笑って、ジェットは旅立った。

(エト兄さんは強いわね…)

 英雄ではないとジェットは言うが、英雄として生きてきたことに変わりはない。

 願わくば皆がそれをわかってくれるようにと、心から願う。

 手元のレシピに視線を落とす。

 ここに父がいたなら。何と言ってジェットを送り出しただろうか。

 深く、息をつく。

 急に静けさが増したような気がして、ククルは無意識に己の身体を抱くように腕を組んだ。

 もうここには誰もいないのだと。主張するように静寂が広がっていく。

(…私、ひとり…?)

 ひやりとしたものが胸の内に流れ込みかけた、そのとき。

「ククル?」

 ドアベルの音と共に入ってきたテオが、己自身を抱え込むククルに声をかけた。

 はっと顔を上げ、ククルが振り返る。

「テオ…?」

「……どうかした?」

 眉を寄せて問う声に懸念の響きを感じ取り、何でもないと首を振る。

「そうだテオ。これ、作ってみようと思って」

 広げたレシピを指差して、微笑むククル。

「エト兄さんが食べられるって印もついてるし、次に来てくれたときに出せるように挑戦してみようかなって」

 入口で立ったままのテオが、ふっと息を吐き、表情を和らげる。

「見せて?」

 普段通りの声音で返し、テオはククルの隣へ行った。



「じゃあテオ、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

 裏口の鍵がかけられたことを確認して、テオはその場から離れる。目と鼻の先の宿の裏口、その前で立ち止まる。

 昼間のククルの様子が気になっていた。

 明かりの消えた店の前で泣いていた、あの日のことが思い出される。

 色々あったが、クライヴたちが亡くなってからまだ季節ひとつ分しか過ぎていない。ときに思い出し、沈む気持ちになるのは当然かもしれないが。

(…何ていうか…らしくない…?)

 今までも悲しんだり落ち込んだりするククルを見てきている。しかしあのククルの姿は、自分の見たことのない姿なのだ。

 何となく、不安を感じる。

 ジェットや両親に相談したほうがいいのかもしれないが、自分でも漠然としかわからないことを上手く説明できる気もせず、中途半端に口にすることでククルの耳に入り、彼女が気に病むことは避けたかった。

(…しばらく様子を見るか)

 あまり長時間ひとりにしないようにしようと決め、テオは扉に手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
それはもっと気に掛けるべき案件なのだよ……………。 むしろ気に掛けるからこそレギュラーキャラクターでいられるのだ!
[良い点]  なんだかんだといっても、テオはやっぱり、  ククルのことをよく見てますよね。  いつでも傍にいる強みかな。   [一言]  あのときのことを、誰が嗅ぎ回っているのか?  目的は?  …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ