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ジェット・エルフィン/あの日のように

 書こうかどうしようか迷いましたが。

 せっかく話数を追加するなら、と思いました。

 年始振りの丘を登って。逸る気持ちを抑えながら扉を開ける。

 カウンターの中、ドアベルの音に顔を上げるテオ。

「ジェット! ダン!」

 嬉しそうなテオの声。

 いつもそこにいたクゥの姿がないことが、何だか妙に寂しくて。思わず見回す俺に、テオが笑う。

「ククルは二階だから。行ってやって」



 ダンと一緒に二階に上がって。元は兄貴たちの、今はクゥたちの部屋の扉を叩く。

「クゥ?」

 声をかけると、中からどうぞと言われて。

 ゆっくり扉を開けると、小さなベッドの傍らに座るクゥがこっちを見ていた。

「エト兄さん、ダン。来てくれたのね」

 微笑むクゥはまだ少し痩せてるけど元気そうで。

「クゥ!」

「ふぇっ?」

 思わず声を上げると、小さなベッドから抗議するような声がした。

「ふえぇぇ…」

 続く泣き声に、クゥが慌てて立ち上がる。

「す、すまん…」

「大丈夫よ。ほら、リゼル」

 クゥが抱き上げると、そのうち泣き声からふにゃふにゃした声に変わった。

「エト兄さんとダンよ」

 抱いたまま、クゥが顔を見せるように俺たちに向ける。

 クゥと同じ金茶の髪に紫色の瞳。

 本当にあどけない顔で、不思議そうに俺たちを見上げている。

 リゼル・エルフィン。

 今月生まれた、クゥとテオの娘。



 あんまりじっと見られてるから、出来心で目の前で小さく手を振ってみる。

 見えてないのかと思う程反応してもらえずで、ちょっと残念に思う。

 クゥも。こんなだったっけな。

 実際俺が初めてクゥに会ったのは、今のリゼルよりもう少し経ってからだったけど。抱いていいと言われても、潰してしまいそうで。ものすごく怖かった。

 だからしばらく眺めるだけだった。そのうち自分に向かって手を伸ばされて。近付けた指を握られて。

 帰り際に、ようやく抱くことができた。

 腕の中、あまりに頼りない小さく柔らかなその存在。

 守らないと、と、強く思った。

 皆に守られて生かされた俺だけど。誰も守れなかった俺だけど。

 そんな俺でも、この子を守ることができるなら。

 あのときつなぎとめてもらえたこの命にも、意味はあるのだと。

 あのとき生かされたからこそこうして出会えたということを。

 生きててよかった。

 初めてそう思えて。兄貴と義姉(ねえ)さんの前でボロボロ泣いて。

 それから少しだけ、前を向けるようになった。

 だからクゥは俺の恩人。

 俺が俺でいられたのは、あのときクゥがいたからなんだ。



 あれからも赤ん坊を抱く機会はあったし、去年レムがユースを産んでからは、本当に何度も抱かせてもらってるから。もう怖がったりはしない。

 クゥから手渡される小さな身体。怖くはないけど、緊張はする。

 ふにゃふにゃで頼りなくて。でもしっかり存在感があって。

 温かな身体に自然と笑みが浮かぶ。

 あの日のように泣いたりはしないけど。

 あの日のように改めて誓う。

 俺は今もこの先も。皆に守ってもらえたこの命で、誰かを守ることができたらと。

 俺を見上げる紫の瞳。伸ばされた手は、抱いているから握れなかった。

 俺の故郷の新しい家族。

 泣きもせずに抱かれてくれるのが嬉しかった。

 読んでいただいてありがとうございます!


 戸惑い気味のジェット。

 ダンもその場にいるはずなのに、ちっとも口を挟んできませんでしたね。


 これにて再びエンドマークをつけますね。

 ありがとうございました!

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